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第190話:白いドレスの女2

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 最上級と思われる紅茶の香りを楽しんでいると、王妃様から質問を受けた。

「タニヤマ様、先ほどは意表を突かれてしまいましたが、初めから狙っておられたのでしょうか?」

 仕方がないので、適当にごまかそう。


「いえいえそうではございません。実は私の世界に有名な歌姫がおりまして、王妃様がその方と瓜二つなのでつい声をかけてしまいました」

「どのような方ですか?」


 もう少し持ち上げておこう。

「誰もが認める絶世の美女です。妖精と呼ばれておりました」

「まあ、妖精ですか・・・」


 なんとなく嬉しそうなので、畳みかけよう。

「献上品は不要と伺ったのですが、今日のお招きに対する感謝の印としてささやかですが、気持ちばかりの品を持参しました。もしよろしければお受け取りいただけませんでしょうか」


 王妃様は困った様な顔をしながら嬉しそうな声でこたえた。

「あらあらかえって気を遣わせてしまったようですね。ですが、せっかく持って来ていただいたならば、是非拝見させてくださいな」


 俺はテーブルの上にお土産を並べた。シャンプー、リンス、焼き菓子の詰め合わせ、そして四十年物のワイン。王妃様は手を打って喜んだ。

「まあ素晴らしい。一つ一つ説明して頂けますか?」


 シャンプーとリンスについて木田が説明すると、王妃の目が輝いた。

「素晴らしいですわ。木田様と浅野様がお作りになられたのですね。汚れが落ちるだけでなく、髪の毛の滑りが良くなり、絡むことがなくなるとは、是非試してみたいですわ」

 王妃は執事を呼ぶと小声で何か囁いた。なんだろ?


 焼き菓子の詰め合わせと四十年物のワインは俺が説明した。王妃様は再び目を輝かせると、執事を呼んだ。何か確認したみたい。執事の返事を聞いて、王妃様は俺たちに提案した。

「お行儀が悪いのですが、この菓子とワインをこの場でいただいてもよろしいでしょうか?」


 もちろん俺たちが異を唱えることはない。王妃様の後ろに立つ侍女が取り皿とフォークとナイフを用意した。トングで順番に王妃様にサーブしていく。王妃様はクッキーは手で摘まんで、それ以外の菓子は少しづつ切り取って全種類味わった。凄い笑顔だ。


「私は感激しております。この菓子を作った職人を今すぐ我が宮の菓子部門の長に迎えたいと思います。ご紹介いただけませんか?」

 いきなりのスカウトには驚いたが、俺は首を振ってこたえた。


「恐れ入ります。これを作ったのは我らの仲間です。三代続く有名料理店の一人娘で、自分の代になってからのことを既にあれこれ考えております。なので、魔王討伐が終わり次第、帰還することとなるでしょう」


 王妃があまりにも残念そうな顔をしたので、フォローしておく。

「ご安心ください。王女様と話し合って、料理と菓子のレシピを王家に献上するよう手配しております。いずれはこのような菓子も自由に作れるようになると思いますよ」


 王妃が満面の笑顔で喜ぶと、ワイングラスが王妃の目の前に置かれた。いつの間にか開栓したワインを執事が静かに注ぐ。王妃は優雅にグラスを空に掲げると色を見、口元に下ろして香りを嗅ぎ、一口味わった。


 王妃は陶然とした顔で神に感謝の言葉を捧げると、残りを飲み干した。そして静かに空のグラスを置いた。

「素晴らしいですわ。これまで頂いた中で最高のワインかもしれません。さぞかし貴重な品物と思うのですが、六本も頂いてよろしいのでしょうか?」


 俺が笑顔で頷いた。

「どうぞご遠慮なく。湖の女神の力をお借りして熟成させたワインでございます。今後とも我らの活動にご支援いただければと思います」

 王妃は笑顔で頷くと、慰問の話になった。


「毎週、孤児院を訪問されているとのことですが、何をなさっているのでしょうか?」

 王妃の質問に浅野がこたえた。

「子供たちに私の国の歌を教えています」


 王妃は興味深そうな顔をした。

「素敵ですわ。一体どのような歌なのでしょう?もしよろしければ、この場で歌っていただけませんか?」


 浅野はまったく動じることなくその場で立ち上がると、軽く一礼した。あらかじめ決まっていたかのような自然な動きだった。

「それでは、僕が孤児院で指導している歌を五曲披露します。もし興が乗らず、止めたい場合はご遠慮なく手を上げてくださいませ」


 王妃が頷いたので、浅野は静かに歌いだした。伴奏も無いのに、震えることも無い落ち着いた歌声だった。女みたいな顔をしているが(女だが)結構度胸があるんだなと改めて感心した。曲は、竹田の子守歌・七つの子・ふるさと・上を向いて歩こう・カントリーロードだった。


 王妃は手を上げることなく目を瞑って浅野の歌に聞き入った。歌い終わった浅野が一礼すると、王妃は顔を紅潮させ立ち上がって拍手した。


「素晴らしい、素晴らしいですわ。歌を聞いてこれほど感激したのは初めてです。赤子にも伝わるほど分かりやすいのに、なぜこれほどまでに心に深く染み入るのでしょうか。浅野様、お願いです。我が宮専属の歌い手になっていただけませんか?」


 スカウトの第二弾が来るとは思わなかった。困った顔の浅野を横目で見ながら俺は話した。

「申し訳ございません。事情がありまして、浅野は我々の中で最も帰還を望んでおります。その代わりと言っては何ですが、王女様からの依頼により、楽師ギルドにご協力頂いて採譜を行っております。いずれは誰でも歌えるようになるでしょう」


 王妃は感心したように頷いた。

「美食と良き音楽は外交の武器となり、王家繁栄の礎となりますわ。あの子なりに手は打ってあるという事ですね。かしこまりました」


 ここで執事が何事か王妃に耳打ちすると、王妃様は立ったままとんでもないことを言いだした。

「浅野様、木田様、真にご無礼とは承知の上でお願いがございます。このシャンプーとリンスの使い方を今ご教授頂けませんでしょうか。勝手ながら湯殿の準備をさせていただきました。お二人の着替えも用意してございます」


 浅野と木田は顔を見合わせて頷いた。予測していたみたい。木田に促されて二人から預かった荷物を出すと、浅野が返事した。

「かしこまりました。着替えは持参しましたので、ご安心くださいませ」


 王妃はぞっとするほど美しい笑みを浮かべると俺の顔を見た。

「申し訳ございませんが、しばらく浅野様と木田様をお借りしますわ。代わりの部屋をご用意しますので、しばらくお待ちを願います」


 王妃は浅野・木田と一緒に侍女たちを従えて意気揚々と東屋を出て行った。俺たちは呆然としたまま見送ることしかできなかった。


浅野君たちは王妃様といきなり裸の付き合いになってしまうようです。

メモ帳で執筆するのをあきらめてWord Padに移行しました。

日本はクロアチアに勝てませんでした。PK戦に持ち込めば勝ち、と考えている相手の術中にはまった感じ。前半が終わった時点で、2点目を取って勝負を決めるのか、一点差を守り切って勝つのか、決め切れていなかったような気がします。

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