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第189話:白いドレスの女1

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 少し遅れて食堂に行くと、今日のお昼ご飯はバケットを使ったサンドイッチだった。八十センチほどのバケットの真ん中に切れ目を入れ、ベーコン・スモークチキン・ローストポーク・オムレツ・ポテトサラダ・レタス・オニオンスライス・トマトスライス・キャベツの千切り・ピクルスなどを目いっぱい詰め込んでから八等分してある。


 もちろん俺は端っこを二つオーダーした。仕上げはマスタード・ケチャップ・マヨネーズなどをたっぷりかけていただききますなのだ。女の子も大口を開けて食べているのがご愛敬。小山を見かけたので、27日に試作機を飛ばすことを伝えると、目を輝かせた。


「嬉しい。私も見に行きたい」

 反対する理由は無いのでОkすると、大喜びした。なぜか隣にいた平井まで喜んでいる。どうやらこいつもついてくるようだ。


 デザートはザクロのジェラートだった。食べ始めは何を使っているのか分からなかったが、酸味と甘みのバランスが絶妙でおいしかった。紅茶を飲みながらのんびりしていると、浅野がデザイン画を持ってきた。


 ジン三種類&養命ワインのラベルとクッキー用の焼き印のデザインだった。既に文字の監修は終わっているらしい。ジンも養命ワインも大小の木の実や葉っぱ類のイラストが入っていた。クッキー用の焼き印は女神の涙で使ったのを簡素化したデザインだった。これなら焼きごてを作るのも簡単かも。念のため聞いておこう。


「ありがとうな。養命ワインはこれに修道院の名前を入れてもらうけどいいかな?」

 浅野は笑顔でこたえた。

「もちろん!」


「これを元に江宮に焼きごてを作って貰うけどいいかな?」

 浅野が再び笑顔で頷いたので、俺はデザイン画を持って、食堂から会議室に行った。「厨房リニューアル準備室」の看板(紙だけど)の代わりに「大凧製作委員会」の看板が上がっていた。気合が入っているな。


 ノックして中に入ると、江宮が頭に白いタオルを巻いて竹を割っていた。職人指数が高いというか、こいつは千堂と並んでこういう恰好が似合うんだよな。焼き印のデザイン画を渡して、鉄で焼きごてを作るように頼んだ。事情を説明すると二つ返事で受けてくれた。


「朝頼んでいたやつができたぞ」

 江宮が黒い小箱を渡してくれた。赤と青紫のダイヤがぴったり収まる小箱を作ってもらったのだ。


 ラウンジに行ってアイテムボックスの中の碁石を塗装していると、浅野と木田がやってきた。少し緊張しているみたい。二人から荷物を預かるように頼まれた。

「何が入っているの?」

「秘密。見ちゃ駄目よ、絶対。私達が言うまで預かっていて」

 木田に睨まれたら頷くことしかできない。


 次に来たのは楽丸だ。緊張というよりも、気合が入っていた。楽丸の槍を預かり、アイテムボックスに収納した。最後に羽河と一緒に先生がやってきた。羽河は見送りに来たようだ。洋子も見送りに来てくれた。


 七時きっかりに王妃殿から迎えの馬車がやってきた。俺たちは集まった奴らに見送られながら馬車に乗り込んだ。エレナさんも付いてきたかったみたいだが、王妃殿から断られたみたい。


 迎えに来た護衛の騎士はもちろん近衛なのだけれど、いつもとは隊が違うみたいで、知らない顔ばかりだった。プライドが高そうというか、ちょっとよそよそしい感じ。


 馬車が走り始めてすぐに俺は異変に気がついた。誰かいる。馬車の隅をじっと見つめると、黒い影が揺らいだ。現れたのは小山だった。

「心配だからついてきた」


 ついてきたと言われてもなあ。隠形の術を使って忍び込んでいたそうだ。今更引き返すわけにもいかないので、危ないことはしないことを条件に、小山の好きにさせることにした。大丈夫かな?


 王宮の門をくぐって馬車は進む。王妃殿は王女様の白鳥宮の先、つまり中心に近い所にあるそうだ。高い塀に挟まれたひときわ立派な門をくぐると、見事なイングリッシュ・ガーデン風の庭の向こうに四階建ての真っ青な建物が見えた。東西の端から端まで五十メートルはあるだろう。噴水は無かった。


 先生は笑顔で告げた。

「着きましたよ。ここが王妃殿、通称青の宮殿です」

 確かに建物の青がそのまま空の青につながっているように見える。壮大なスケールを誇る建物だった。


 白の大理石で作られた白鳥宮も美しかったが、青の宮殿はそれに勝る威容と豪華さに満ちていた。分かりやすく言えば、物凄くお金がかかっているという感じ。ちょっとした飾りで付いている小さな彫刻一個でも百万円するとか・・・。


 馬車は正面の玄関を素通りして右に曲がり、建物の角から左に曲がった。驚いたことに、奥行きというか南北は七十メートルあるみたい。ひょっとすると五十メートル×七十メートルの建物なのか?オフィスビルみたいだ。


 先生が微笑みながら説明してくれた。

「建物の中心部は吹き抜けになっていて、中庭があります。今日は王妃様の私的なお茶会なので、正面玄関ではなく通用口を使うのでしょう」


 通用口とはいえ、宿舎の玄関よりはるかに大きく重厚で豪華だった。まあ比べるのが間違っているのだろうけど。数人の侍女を従えた執事さんが待っていた。先生が最初に降りて挨拶を済ませてから俺たちも馬車を降りた。


 執事は見事な銀髪をオールバックに決めた初老の男性だった。威圧感はないが、立ち居振る舞いすべてにおいて一分の隙も無い感じ。まずは挨拶からだな。ひっくり返りそうな声を抑えながら相手の目を見て話しかける。


「お世話になります。タニヤマタカシです。今日はよろしくお願いします」

 俺に続いて浅野、木田、楽丸の順に名乗ってから中に案内された。執事さんの名前は聞いたけど覚えられなかった。先生に続いて歩いていくと、到着したのは三十メートル四方の中庭の中心部に立つ白い東屋あずまやだった。


 東屋の屋根は五十センチ四方の格子状になっていて、薔薇ばらつたや葉で覆われた緑のカーテンになっていた。真っ白な横長のテーブルを挟んだ三人掛けの椅子の真ん中に幅広の白い帽子をかぶった女性が座っている。後ろには数人の侍女が並んでいた。


 俺たちは一人づつ名乗ってから、執事さんの指示に従い女性の向かいの席に木田・浅野・楽丸が、木田の隣の直角の席に先生が、楽丸の隣の直角の席に俺が座った。俺と先生が向かい合うポジションだ。


 俺たちが着席すると、白いドレスの女性は優雅に帽子を取り、前を向いたまま後ろに立った執事に手渡した。きれいなノールックパスだった。大理石のような純白の肌、優雅に波打つ金髪、北国の神秘の湖を思わせる透き通った青い目。


 目の白い部分が上下にも見える四白眼(殺人者の目とも呼ばれるそうだが本当?)だが、顔の造りがフランス人形みたいに完璧なので、違和感はない。羽河の言う通り絶世の美女だった。王女様の髪と目の色はお母さま譲りなのだな。ちょっと違うのだけれど、全盛期のスティーヴィー・ニックスみたいだったので、つい言ってしまった。


「許可無い発言で恐縮ですが、王女様に妹子様がいらっしゃったとは存じ上げませんでした。王妃様はいずこにおられますでしょうか?」

 俺以外の全員が凍り付いた。女性は一瞬あっけにとられたが、次の瞬間には吹き出してしまった。しばらく笑った後、笑顔で話し始めた。


「勇者様は魔物退治だけでなく、女子おなごを喜ばせる術にもけてらっしゃるのですね。タニヤマ様、私はあの子の母でございます。率直さは美徳ですが、時と場合を選びますわ」


 俺はその場で立ち上がって丁重にあやまった。ここで先生が取りなしてくれた。

「王妃様、メアリー・ナイ・スイープでございます。王妃様があまりにもお若く美しいので、王女様の妹と勘違いされたのでしょう。タニヤマ様の正直さに免じて何卒お許しくださいませ」


 先生もすかさずノッてくれた。助かるぜ。それにしても王女の妹と勘違いした俺を率直と判断されるとは、王妃もなかなかボケとツッコミが分かっているみたいだな。王妃は俺に着席を促すと、にこやかに話し始めた。


「メアリー・ナイ・スイープ、侍女長として王宮で仕えただけでなく、魔法学校では我が子がお世話になりましたね。あなたの忠誠と献身に免じて、先ほどの言葉は聞かなかった事にいたしましょう」


 王妃はいったん言葉を切ってから話を再開した。

「初めまして。カタリナ・ファー・オードリーでございます。本日は急な招きにも関わらずお越しいただき、誠に感謝しております。皆様は魔王討伐のための鍛錬に勤しみながら、定期的に孤児院を慰問されているとのこと。その労をねぎらうために、お招きした次第です。ですので、今日は無礼講。お気楽にお話しくださいませ」


 なんといっても貴族社会の頂点に立つ人なので、もっと堅苦しいかと思ったが、そうでもないみたい。話し方も普通だし・・・。礼儀作法や敬語に詳しくない俺たちに気を使ってくれているのだろう。ホッとした空気が流れた所でメイドさんが紅茶を配ってくれた。


王妃様は少しお茶目です。名前はキャサリンではありません。

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