第187話:久々の湖沼地帯4
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三平がキスを釣りまくって満足したので、帰ることにした。大きいのを百匹以上釣ったそうだ。それ以外にも平野に頼まれて小エビを取ったらしい。いずれはどっちも天ぷらだな。楽しみ楽しみ。帰り道で江宮を捕まえ、歩きながら大凧の話をした。やはり人を乗せられるような巨大な凧を作って飛ばすのは相当難しいらしい。
「正直俺で作れるかどうかわからん。大きさ・構造・重量・揚力・強度のバランスをいろいろ計算してみる」
つまり人を乗せるためには相応の揚力が必要で、そのためには凧を大きくしなければならない。大きな凧を作るには骨組みも太くしなければならなくなり、当然重量も増える。すると搭載可能な重量が減ってしまうのだ。
江宮は難しそうな顔をしていたが、俺は実は何とかなるだろうと楽観している。この世界にはチート、つまり魔法があるからだ。多分、おそらく、きっと抜け道はあるはずだ。話しているうちに馬車を止めた場所に着いた。
妖怪たちはここで召喚を解くのだが、なぜか全員浅野の所に集まっていた。砂かけ婆が浅野に優しい声で話しかけている。
「つらいことがあったらわしらが力になるぞな」
子泣き爺が力強く言い切った。
「そうじゃ、妖怪の世界には義理も人情もある」
猫娘と河童が大きく頷いていた。俺は猫娘を呼んだ。
「何よ?」
猫娘はお土産のキスを口に咥えながら聞いた。気にせずに俺はアイテムボックスの中から商業ギルドに頼んで入手した袋を出して渡した。
「良かったら使ってくれ。黒の森で頑張ってくれたお礼だ」
猫娘は袋の中を見て飛び上がって喜んだ。
「ありがとう。そろそろ新しい服が欲しかったのよ。助かるわ」
猫娘は笑顔で還っていった。でも、どうやって持って帰ったんだ。
ぎりぎりまでロボとの別れを惜しんでいた浅野が馬車に乗った所で、出発した。馬車の中で冬梅と相談する。
「大蝦蟇か・・・」
冬梅は考え込んでいる。鬼太郎ベースだと難しいのかも。交信しているのだろうか。
洋子と初音と一条はそれぞれのダイヤモンドを見せあいしてニマニマ笑っている。台座もチェーンもなくて石だけだが、それでも嬉しいみたい。まあ、夢はあるよな。いつも通りアイテムボックスの中で碁石の塗装を始める。夕日が窓から差し込むころ、宿舎に着いた。
ラウンジでは雑貨ギルドのニエットさんが待っていた。
「お待たせしました。出来ました?」
ニエットさんは笑顔で頷いた。今日は契約書も何もないので、そのままラウンジで先日発注した物、舟形(ふながた、手漕ぎ舟の形をした和食の食器)五十個を受け取った。
注文した通りの形にちゃんとできていた。お代は相殺という事で問題なし。
「これは何に使うのでしょうか?」
俺は笑顔でこたえた。
「俺の世界では魚を生で食べる料理があります。それに使います」
「なんですとー」
ニエットさんは立ち上がって驚いていた。寄生虫や食中毒の問題があるので、この世界では魚の生食は基本的にありえないそうだ。
とりあえず、受け取って代わりに碁石を納品した。
「助かります。この調子なら間に合いそうです」
ジンのボトルはウイスキーの十年物・二十年物・五十年物用のボトルを流用する予定だが、足りなくなるかもしれないので各五十本注文した。ニエットさんは笑顔で帰っていった。
そのまま厨房に行って焼き台を倉庫に置き、アサリと蛤とカキを平野に渡した。三平からはジャイアントロブスター、マグロ、キス、小エビ、その他の魚を受け取ったそうだ。そして今日のスペシャルとして舟形を渡した。
「なんとかマグロに間にあったな」
「ありがとう、たにやん。やっぱりこれがあると見栄えが違うよ」
平野は万歳して喜んでくれた。
ちなみに厨房は平野の不在中も特に問題は無かったそうだ。器械も問題なく動いたらしい。そろそろ晩御飯の時間なので、食堂に行くと、いつも通り先生が夕日を背にして一人で晩酌していた。挨拶に行くと先生は立ち上がって丁寧に礼を取った。
「先生、どうかしましたか?」
慌てて聞くと、先生は静かに聞いた。
「本日の昼食の際、私にだけ蟻の唐揚げと蟻酸ドレッシングのサラダが供されました。タニタマ様の差配ですね」
俺は「はい」と言いながら頷いた。先生は両手を組むと真顔でこたえた。
「タカシ、あなたに感謝を」
まるで中世の伝説の騎士のようだった。眼が真剣すぎて怖かった。
今日のメニューはオーク肉を使った酢豚だった。柑橘系の華やかな酢の香りが食欲をそそる逸品だった。昼間あれだけたっぷり肉を食ったのに、お替りが出来たのはお酢の魔法のお陰だろうか。デザートは蒸しプリンだった。安定のデザートだな。てっぺんに乗ったキャラメルの仄かな苦みと香ばしさが素敵だ。
部屋に戻ると窓枠にお供えを並べた。今日は、お好み焼き・酢豚・蒸しプリンだ。目を瞑り手を合わせてると、「美味し!」の声と共にペタン・ペタン・ペタンという音が聞こえた。
ついでに訪問のことも伝えておく。
「今週、水を頂きに参りますので、よろしくお願いします」
即座に返事が返ってきた。
「良かろう」
目を開けると目の前に女神様がいたが、そんなの予想済みだ。何度も同じ手は食わないぜ。俺が驚かなかったことが不満なのか、少し機嫌が悪そうな女神様に木っくんのことを聞いてみる。
「この木はトレントの長老から預かったのですが、女神の森で育てて頂けませんでしょうか?」
女神は首を振った。
「断る。そなたが預かったのだ。そなたが育てよ。それにわが森で育てたら黒の森に帰ることはできなくなるぞ」
俺と一緒にいるといろいろ危ないことがあるのではないかと考えて相談したのだが、思い通りにはいかないようだ。女神の森なら安全なのにな。仕方ない。あきらめよう。月明かりの中で木っくんは笑っているように見えた。
大凧は難易度が高そうです。