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第179話:ジンと娯楽ギルド

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 7月24日、月曜日。今日の目覚めは爽やかだった。なんといっても女神様の機嫌を損ねずに済んだことが大きい。ヴィーナスの出自のことを説明しなくて正解だったかも。王妃様の浅野に対するアプローチが心配だが、何とかなりそうな予感。根拠のない楽観かもかーも。


 朝のランニングが終わったらそのまま志摩の所に行って碁石を回収した。三万三千個あった。砂が少なくなったので補充する。今日は娯楽ギルドのギルド長と面談し、事務所の視察に行くので、志摩はなんとなく気合が入っているみたい。


 ラウンジに戻ったら羽河が待っていた。日曜日の湖行きは全員参加するらしい。平野の道具だけではなくチェンバロも運搬して欲しいそうだ。とりあえずカウンターに行って、日曜日の馬車を一台増やすように伯爵宛ての手紙を頼んだ。


 今日の朝ごはんは海鮮じゃなくて川鮮のドリアだった。ジャイアントロブスター・マッドクラブ・キングメタルクラブ・キラーフィッシュ・鯰などの魚介類と野菜がたっぷり入ったドリアだった。


 所々焦げ目が付いたチーズのコクもあってうま味たっぷりなのにさっぱりしている。さらにハーブの香りで後口も爽やかな一皿だった。食後、今日のお弁当とお土産を受け取り、歌の指導に持っていくチェンバロを収納した。


 ラウンジに行こうとしたら利根川に呼び止められた。ジンの見本ができたとのこと。薬草や木の実の組み合わせを変えることで三種類できたそうだ。色は普通のジンのように透明だった。


 工藤・平野と一緒に味わってみた。あえていえば、ギ〇ビー風・ゴー〇ン風・ビー〇イーター風だろうか。まず思ったのは、利根川はこの世界における「ねず(ジュニパーベリー=ヒノキ科の針葉樹)」の実を確定したみたいで、三種類ともベースとなる香りが共通していた。


 出来栄えとしては最初の二つはまずまずだったが、最後のだけはいまいちだった。なんとなく変な苦みがある。

 利根川によると三種類とも最後の蒸留の段階で薬草&木の実を原液の中に入れてそのまま蒸留したのだが、三番目は薬草が少し焦げたような感じになり、それが味に影響したかもしれないとのこと。


 もしかすると薬草を直接浸すのではなく、蒸留機の途中に薬草を入れる籠を追加して、アルコールの蒸気が薬草を通過するようにしたら良いかもしれない。この点は今後改善することにした。


 梅酒のように薬草を漬けて熟成すれば成分を抽出できると思われるので、三番目は俺が薬草&木の実と蒸留液を預かって熟成することにした。

 ジンは、ウイスキーやブランデーと違って長期間の熟成は不要なので、即戦力の商売になるかもしれない。改めて商業ギルドにライセンスも考えようという事になった。


 ついでに俺が木や灌木等から集めた木の皮・木の実・果実類を平野と利根川に見てもらった。果実や木の実だけで木苺のようなベリー類を中心に二十種類くらいあったが、果実は不要だった。利根川は全種類持っているみたい。


 木の実はジンに使えるものがいくつかあった。また、木の皮の中には桂皮ニッキに近いものがあった。ジンに使える木の実と桂皮だけとっておくことにした。


 平野は果実の中から使えそうなものだけ十種類受け取ってくれた。菜園で育ててみるそうだ。必ずしも甘い物だけでは無かったが、調味料や香辛料として使うことを考えているようだ。使えないものは全部堆肥フォルダに入れた。


 ラウンジに戻ると、羽河・水野・利根川・小山が揃っていた。佐藤は蒸留が忙しくてお留守番のようだ。木田と浅野とベルさんがお茶を飲んでいたので、先に出ることと、チェンバロはデリバリーしておくことを伝えた。孤児院に指導に行くメンバーは前回と同じようだ。お世話係はエレナさんとメリーさんが付いてくるみたい。


 迎えの馬車では伯爵が待っていた。商業ギルドに行く前に西の教会に寄って欲しいと頼むと快諾してくれた。馬車は近衛で用意したので、帰りも心配ないとのこと。助かったぜ。


 馬車の中で俺は碁石の塗装と乾燥に従事した。工藤はギルド長候補がどんな人か気になるみたいで、伯爵を質問攻めにしている。伯爵によるとギルド長は武勇よりも知略に優れた将軍だったようで、変幻自在の戦術で圧倒的多数の敵軍を何度も打ち破ったらしい。その功績を評価されて引退前に将軍に冠されたそうだ。


 武勇伝は話半分にしても、本人としてはこの仕事に相当乗り気みたいで、給料はいらないと宣言しているみたい。まあそういう訳にはいかないが、やる気があるのは良いことだと思う。


 商業ギルドに行く前に西の教会に寄ってチェンバロを設置した。シスターに浅野達はいつもの時間に来ることを伝えておく。

 商業ギルドは王都のど真ん中、王宮の正門前の大広場と東大通を挟んだ反対側にある。Tの字の形になった交差点の角に立つ、五階建ての黄色いビルだった。


 玄関の両脇に立つ守衛の間を顔パスで通過した伯爵に続いて中に入った。寄木細工の木の床の奥には長いカウンターがあって各種の窓口になっているみたい。俺たちは右手の小部屋に案内されたのだが、なんとそれはエレベーターだった。


 ドアボーイみたいなのがうやうやしく二重になった引き戸を閉め、ロックをかけた。「二階にまいります」と声をかけると扉横のボタンみたいなのを押す。一瞬の浮遊感の後、ガコンという音と共にわずかに床が振動した。


 伯爵は小声で呟いた。

「この昇降機は王都でも限られた建物にしかございませぬ。素晴らしい仕組みとは思うのですが、あの落っこちるような感覚がどうにも慣れませんな」


 再びガコンという音と共に振動は止まり、ドアボーイが扉を開けると衝立や観葉植物で適当に仕分けられたラウンジだった。床はふかふかの絨毯になっている。俺たちは奥の個室に案内された。既にギルド長は商業ギルドのジョージさんと一緒にお待ちとのことだ。


 ノックと共に伯爵が声掛けしながら入室した。続けて俺たちも入る。十二畳ほどの部屋の中、二人の男がソファから立ち上がった。まず声を上げたのはジョージさんだ。

「本日はお越しいただきありがとうございます。この度娯楽ギルドのギルド長をお願いする予定のフォーン・ダン・キャノン将軍を紹介します」


 俺たちはジョージさんの隣の男に注目した。「ダン」という爵称で明らかなように侯爵様(正式には侯爵様の次男)なのだが、一言でいえば地味!身長は百七十センチ位で中肉中背。髪はくすんだ金髪でオールバック。顔も特に特徴が無い。どこにでもいる初老の男性と言う感じだった。鬼神をも操る智謀の主にはとても見えない。


 などとはおくびも見せずに無難に挨拶を交わし、ローテーブルを挟んでソファに着席した。伯爵は将軍の隣に、ジョージさんは俺たちと将軍の仲立ちという事で議長席(お誕生日席)に座った。


 俺たちは娯楽ギルドの株主、フォーンさんは雇われ社長という関係になるだろう。まずは俺たちが娯楽ギルドを立ち上げた経緯を説明し、その上で今後の方向性を打ち合わせた。


 話してみて俺たちはフォーンさんに対する認識を改めた。羊の皮を被った狼、という表現がぴったりするような切れ者だった。


 フォーンさんは「この世界には(健全な)娯楽が少なすぎる」「囲碁・将棋を手始めに娯楽を振興してこの国の主力産業にする」という俺たちの目論見に全面的に賛同してくれた。


 現在は半ば非合法で行われていて闇社会の資金源になっている賭博を合法的なものにしたいのだと熱く語るフォーンさんの見識は間違っていないと思うのだが、いきなりカジノはハードルが高いような気がする。


 正直、フォーンさんの熱量が高すぎて、伯爵とジョージさんが一歩身を引いているのが感じられた。最後に給与等の条件を再度打ち合わせた。給与は最後までもめたが、無給という訳にはいかないと当初の予定通りで確定させた。


 その後、二台の馬車に分かれて娯楽ギルドの予定地に行った。場所は俺が見当を付けたビルで当たりだった。南大通り沿い、冒険者ギルドの隣の隣の隣のビルだった。中に入ると内装や家具の配置も終わっていた。


 一階は事務所と応接、二階はギルド長の部屋・会議室・資料室など。狭いけれど顧問(工藤)の部屋もありました。地下室もあり、そこは倉庫兼作業スペースとして使うみたい。雑貨ギルドから納品されたと思われる囲碁・将棋の見本が山積みになっていた。


 引き上げる前の雑談で判明したが、フォーンさんは囲碁・将棋の製品化のブレーンになってくれたユニックさんの親戚にあたるそうだ。世間は狭いなと思ったのだった。フォーンさんと伯爵は用事があるそうなので、俺たちだけで馬車に乗って西の教会に向かったのだった。

ジンも娯楽ギルドもうまくいきそうな感じです。

ギリシア神話によると、ヴィーナス(アフロディーテ)はクロノスによって切り落とされたウラヌスの男性器にまとわりついた泡から生まれたそうです。説明しなくて良かったね。

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