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第177話:黒の森28

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 宿舎に着くとラウンジでは商業ギルドのジョージさんが待っていた。江宮に声をかけて厨房リニューアル準備室に移動する。トレントの植木鉢を持ったままだが仕方ないだろう。


 ジョージさんは植木鉢をちらりと見たが、何も聞かないでくれた。まあ言っても信じないと思うけど。江宮に続いて部屋の中に入ったジョージさんは、壁際にずらりと並んだ冷蔵庫や冷凍庫などの機器や什器を見て仰天していた。


「これは何ですか?」

「見ての通り厨房用の機器一式です」

 銀色に輝き、幅・背の高さ・奥行きなどが揃ったことで、いかにもプロ用の設備という存在感オーラに満ちている。


「基本的な機能は変わりませんが、容量・冷却力・耐久性を向上させています。そのためかなり高額の商品となると思います。飲食店や宿が対象ですね」

 ジョージさんは俺の目を見て言った。

「是非我がギルドで販売させてください」


 俺は首を振ってこたえた。

「当分商品化は考えていません」

「どうしてですか?」

 理由は江宮から答えてもらった。


「なんせ初めて作ったので、使っていく中でいろいろと不具合が出てくると思います。それをある程度改善してからということでどうでしょうか?」

 ジョージさんは深くため息をついてからこたえた。

「了解しました。時期がまいりましたらすぐにお声がけをお願いします」


 江宮は平野と打ち合わせがあると言って出て行った。ジョージさんは鞄の中から袋を取りだした。

「先日ご依頼を受けました女児用のワンピース三点です。お気に召せばよろしいのですが」


 色は赤・青・白で、赤と青は水玉になっていた。生地は上質、襟元のデザインがちょいとクラシカルな感じだが、昭和ぽくってあの娘に似合いそうな感じがした。

「ありがとうございます。お代はお幾らですか?」


「一枚小銀貨一枚ですが、相殺させて頂きます」

 ということで、署名だけで済んでしまった。交際費みたいなものだから、これぐらいいいよね?


 ついでに明日の娯楽ギルドの事務所の視察とギルド長との顔合わせについて打ち合わせた。明日の午前中に商業ギルドで待ち合わせという事しか決まっていなかったのだ。

 とりあえず、明日の四時半に迎えの馬車が来てくれるそうだ。チェンバロの運搬の問題で教会に立ち寄って欲しいと頼んだら問題とないとのことで一安心。


 ジョージさんは最後に厨房用の機器をもう一度見渡してから笑顔で帰っていった。見送りがてらラウンジに行くと、丁度三平が帰ってきた。今日も駄目だったみたい。俺は三平に声をかけた。


「来週は休みだから日曜日にみんなで湖に行こうと思うんだ。一緒に行かないか?」

 三平は手を叩いて喜んだ。

「いいの?やたっ!」

 本当に喜んでいるみたいなので、良かったと思う。


 俺はカウンターに行って窓口にいたエレナさんに頼んで、木工ギルド宛ての注文書を作って貰った。内容はずばり、簡易宿舎!まあ、寝る所だけだがテントよりはましだろう。パーティ単位で泊まれるように、三段ベッドを二列配置することにした。予備と合せて七個発注した。

 

 ちょっと早いけど、食堂に行こうとしたら、一番手前の会議室のドアが少し開いている。気になったのでノックすると、木田と浅野がいた。ワイドパンツの手直しをしているみたいだが、見たことの無い上着を羽織っている。


 浅野によると、せっかくワイドパンツを作るなら、上着もそれに合わせて作ろうという話になって、ジャケットとインナーを製作中なのだそうだ。確かにブラジャーを作るなら、ブラウス無しでインナー+ジャケットもありなのかな。


 男物を手直ししているので、ジャケット作成はそれほど手間ではないとのこと。パンツと合せて左前になっているが、ウエストを絞り襟・袖の角が微妙に丸みを帯びているところがフェミニンな感じがする。


 インナーの色は灰・青・紺・黒・赤を考えているそうだ。俺はつい言ってしまった。

「どうせなら無地だけじゃなくて、ボーダーも作った方が良いと思うぞ」

 木田の目が吊り上がった。


「どうしてあんたがそこに気がつくのよ!」

 なぜだか分からないが逃げることしかできなかった。とりあえずラウンジに行くと、ジョージさんと入れ替わりみたいに雑貨ギルドのニエットさんがやって来た。


「ニエットさん早いですね。もう出来たんですか?」

 ニエットさんは、笑顔でこたえた。

「昨日の件は流石に無理です。今日はワインボトルを持ってまいりました」


 丁度在庫があったらしいが、今朝頼んだのに夕方納品とは素晴らしい。受け取りにサインしたが、お代はこれも相殺してくれるそうだ。


 何かお礼をしなければと思って殺人蟻を渡そうとしたら丁重に断られた。やはり相当の珍味のようだ。今日の分の碁石を三万個預けると、ニエットさんは驚いてたが笑顔で受け取って帰っていった。


 俺は早速利根川のところに行った。

「合言葉を言え。爆走戦隊?」

「ターボレンジャー!」

 今日のネタは比較的新しかったと思う。


 相変わらず利根川は採取した薬草の分類と鑑定で忙しいようだ。とりあえず佐藤にワインボトルを百本渡した。

「出来れば明後日までに五十本、四十年物をボトリングしてラベルを貼っておいてくれ」


 利根川は黙って頷いた。このまま引き上げてもいいのだが、試しに聞いてみよう。

「ちょっとこいつを見てくれないか?」

 テーブルの上に転がしたのは昨日作ったダイヤモンドの出来損ないだ。


 あれから数十回トライしているのだがまだ満足いくものは一個も出来ていない。ひびが入ったり歪になったり濁ったり、一目見ただけで駄目なものばかりだが、中には「もう少し!」的なものもあるのだ。


 利根川に見せたのは比較的ましな奴だが・・・。利根川は手に持っていた薬草を投げ捨てると「キャー!」と叫びながら石ころに飛びついた。

「ダイヤ?ダイヤモンドなの?頂戴!」


 佐藤が水を一杯飲ませて少し落ち着いた利根川の鑑定によると、ぎりぎりダイヤモンド?もどきだそうだ。二カラット位あるので大きさ的には十分なのだが、それ以外が全然ダメらしい。しかたが無い・・・、回収しようとしたら利根川が俺の手を止めた。


「待って、私が全部貰う」

「どうして?」

 利根川の見立てでは宝石としての価値はほぼないが、魔力を溜める充電式の乾電池として使えるそうなのだ。一回しか使えないが、魔力不足を補うことができるらしい。非常時の備えとしては良いかも。


 どうせなら見栄えの良いものをということで、利根川はブリリアントカットなど、カットの見本を渡してくれた。満足いくものが出来たら一個頂戴、ということらしい。しっかりしているな。

打ち合わせがいろいろです。サラリーマンみたい。

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