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第171話:黒の森22

 一息入れてから、トロールが脱出したトンネルを埋め、飛び道具を回収してから出発した。落とし穴を掘るときに採取した土の残りが役に立った。置いてきたオーガの死体は既に誰かに食い散らかされていたので、ナパームの残りをかけて焼却処分にした。


 死体をそのままほったらかしにするとアンデッドになる可能性があるので、こういった処理は必須らしい。円形劇場の結界は自動で修復したようなので、トロールが暴れたあとは明日きれいにしよう。


 円形劇場から先はいつも通り道路の拡張を続けていると、みんなあきれたような目で俺を見ている。好きでやっているからいいじゃないか。付き合ってもらっている志摩には悪いような気がするが。


 お陰で道幅は神殿跡<途中から3メートル>円形劇場跡<6メートル>女神の泉<8メートル>集会所跡<8メートル>広場となった。


 トロールがいなければ、神殿<4メートル>円形劇場、になっていたけれど、どうしようもないだろう。広場に出るなり、みんなは地面に倒れ込んだ。立ち上がるまでやけに時間がかかるなと思っていたら、レベルが28から48に一気に上がったそうだ。


 多分、殺人蟻とトロールの討伐が効いているんだろうな。ここまで急激なレベルアップは珍しいらしく、イリアさんも伯爵も驚いていた。俺には関係ないけど。帰りの馬車の中では洋子が横にぴったりくっついて座っていた。怒鳴られるかと思っていたが、黙って左腕を抱きしめていた。


 思わず謝ろうとしたら、「何も言わないで」と言われてしまい、無言のまま冒険者ギルドに着いた。いつも通り、裏口から解体場に入る。イントレさんは今日も機嫌が良さそうだった。


「今日の獲物は何だ。サイレントグリーン、殺人蜂、お化けカズラ、緑の牙、なんでも引き取るぞ」

「まずはこれを見てください」


 俺はアイテムボックスの中から畳一枚ほどの氷の塊を出した。中には蟻が氷漬けになっている。

 イントレさんが吠えた。

「なんだこりゃ!殺人蟻キラーアントじゃねえか。王都への持ち込みは禁止だぞ!」


 殺人蟻はその繁殖力や危険性から生体では持ち込み禁止になっているのだ。俺は笑顔でこたえた。

「大丈夫です。氷漬けにしています。もう死んでますよ」

 イントレさんはおっかなびっくりで氷に触ってみてようやく納得してくれた。


「こいつは驚いた。お前たち無事か?」

 俺は静かにこたえた。

「全員無事です。なんとか逃げることができたました」


 イントレさんは安堵のため息を漏らした。

「無事で何より。それにしても殺人蟻に出っくわすとはついてないな」

 俺は笑顔で頷いた。


「これで幾らになりますか?」

 イントレさんは少し考えてから返事した。

「牙と蟻酸ぎさんと外殻が武器屋に売れるな。肉も鮮度が良ければ珍味で売れるぞ。こいつは潰れてないし、氷漬けだから肉も問題ないな。四十匹で金貨二枚だ」


 一匹当たり小銀貨五枚か。悪くないな。十五万匹で計算すると・・・やめよう。とりあえず、お化けカズラの消化液を一壺・殺人蜂を百匹・サイレントグリーンを百匹出した。


 お化けカズラの消化液が手に入ったことでご機嫌のイントレさんから相変わらず読めない書付を貰って解体場を後にした。表に回って玄関から中に入ると、すぐさまサンドラさんから声がかかった。


 カウンターに行って書付を渡す。サンドラさんは眉をひそめた。

「あんたら殺人蟻とあったのかい。どうだった?皆無事かい?」

「お陰様で全員無事です。蟻は氷漬けにしました」


 サンドラさんは感心した顔で大きく頷いた。

「あいつらの弱点を良く分っているじゃないか。夏場は蟻が一番活動的な時期だからね。くれぐれも用心しな」


 今日は全部で金貨九枚だそうだ。いつも通り、エールと串焼きとパンを先輩方全員に振舞った。残りは口座に入れるように頼んでから、気になっていることを聞いた。

「バラシーさんは大丈夫ですか?」


 サンドラさんは笑顔でこたえた。

「大丈夫、あんたらが来たら解体場から連絡が入るようになっているから。今頃はギルド長の部屋で紅茶でも飲んでるだろ」


 なんだそれ?全然解決してないじゃないの。俺は手裏剣を頼んだ時に鍛冶ギルドから貰ったポーチの残り六個を取りだした。

「すみません。お騒がせしたお詫びです。窓口の皆様で分けてください」


 ポーチを差し出すとサンドラさんは少しだけ感心したような顔をした。

「ちょっと地味だけど上物じゃないか。造りもしっかりしているし、人数もあっている。タニヤマ、あんたなかなかやるねえ」


 好感度が少し上がったみたい。もう一歩だ。俺は自分のおやつ用にとっていた魔物モンスタークッキーを一袋出した。

「少しですが皆さんで召し上がってください」


 サンドラさんは袋を開けて中からクッキーを一つ出し、しげしげと見てから聞いた。

「何だいこりゃ?魔よけかい?」

「お菓子です。魔物や動物の形をしています」


 サンドラさんは情け容赦なく口に放り込むと目を丸くした。

「驚いた。普通にうまいじゃないか。何か変なものは入ってないだろうね?」

「女神様に誓ってそういうことはありません」


 サンドラさんは笑顔で受け取ってくれたので、いつものように地図と魔物のメモを書いた。殺人蟻とたまたま出会ったのですぐに退却したと説明して、テーブルに戻った。


 俺たちは無事に帰還したことを祝って乾杯した。回りの耳があるので、差し支えない事だけ話した。俺は利根川に聞いた。

「ナパームを放り込んだ後の『│地獄の業火ヘルファイアー』って、ただのファイアーボールだろ」


 利根川は笑顔で頷いた。

「そうよ。悪い?」

 あっさり認められてしまった。何も言えなくなった。イリアさんが珍しく微笑んでいた。

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