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第17話:水面渡り2

 今日のお昼は、なんとパスタだった。麺は幅約一センチ弱の幅広麺、具はソーセージと野菜、ソースはトマトソースみたいなので黒胡椒とニンニクが効いててうまかった。お替りをする奴もいたほどだ。


 昼からは練兵場で訓練なのだが、練兵場には行かない奴も出てきた。まず、野田と伊藤の二人は王宮の楽器庫に行くらしい。必要に応じて楽器の貸し出しもしてくれるそうだ。


 平野は厨房の見学を頼んだみたい。三平は川に釣りに行くそうだ。三平には藤原もついていくみたい。ただし藤原は馬車には乗らず騎乗していくようだ。ティマーである上に騎乗のスキルも持っているから当然か。


 昨日のうちに手配したみたいで、馬車が七台とまっていた。それ以外に馬に乗った騎士が六人待っていた。騎兵は三平と藤原の護衛だろう。王都の外に行くのだから護衛は必須だろうな。水野は俺と同じく練兵場に行くようだ。


 練兵場につくと各魔法・各武術に合わせた専任の教官みたいなのがいてグループ(剣士とか水魔法とか)ごとに指導してくれた。

 確かに魔法はイメージなのだが、基礎があってのオリジナルということらしい。ただまあヒデの「黄金バット」はどう指導すれば良いのか分からないみたいで、もっぱら俺とフリーバッティングの真似事をして遊んだ。

 

 石ころを拾って集めるのが面倒になってきたので、土魔法の練習をかねて志摩にボール大の石をたくさん作って貰った。重さと硬さは全然違うが。ヒデの注文がちょっと細かかった(縫い目を入れてくれとか)が、慣れたらあっという間に百個作ってくれた。いやこれ魔法って本当に便利だな。


 レベルが上がったのか、アイテムボックスに百個とも収納することができた。取り出すときも一個づつ手のひらに出すことができる。地獄の千本ノック(笑)の時は超便利だった。また、収納するときも距離が近ければ視認するだけで格納することができる。かってボールを一個づつ拾って、籠の中に放り込んでいた手間はなんだったのか。じっと手を見る、なんちゃって。


 俺と同じくアイテムボックス持ちの佐藤と情報交換したら、佐藤のアイテムボックスの大きさは感覚では縦横高さ約二メートル位の立方体だそうだ。俺も自分なりに感覚を探ってみたら、縦横高さとも約一メートル位だった。ちょっと負けた気分。でも今後も面白い使い方を発見したら互いに教えあうことにした。


 武闘組の訓練は時間を前半と後半に分けて、前半は型の練習、後半は昨日やった手合わせ、すなわち試合形式の練習だった。中休みの間に壁際の日陰に置いてある大きなかめから柄杓ひしゃくですくって水を飲んだ。水野が昨日進言して、置くようになったらしい。助かるぜ。手合わせは昨日と組み合わせを変えて行った。


 全体として思ったのは個人としての強さとはまた別に、職業クラス同士の相性があるということだ。その中でも特に目立ったのは職業クラスが忍者の小山だった。スピードがあり、次に何をやってくるか分からないというのがこれほどやりにくいのかと驚いた。対人に限っては誰と対しても負けない強さ(勝つわけではない)みたいなのを感じた。


 宿舎に帰ると馬車が二台止まっていて、一台からピアノのような楽器を数人がかりで下ろしている。事務方の美男子イケメンにテキパキ指示を出している野田の横ではもっさりしたギターのような楽器を抱えた伊藤がボケッと突っ立つっていた。どうやら楽器は借りられたようだ。指示が終わったらしい野田に話を聞いてみた。


「あれはピアノなの?」

「ピアノじゃないね。むしろチェンバロに近いかな。四オクターブ位出せるみたいだよ」

「チェンバロってピアノのお父さんみたいな楽器だっけ」

「そうそう。良く知ってるね。たにやん、クラシック好きなの?」

「いやいや、クイズ番組で覚えただけ。伊藤が持っているのは何?」

「リュートというか西洋の琵琶びわといったら分かるかな?でも、この世界のは鳴りが良くて結構大きな音も出るんだよ。私も一本借りてきた」


 なんかもうとび色の目がキラキラしていてさ、凄くまぶしかった。

「もしかして自分の部屋に入れるの?」

「もちろんさ。これで二十四時間弾きまくりだよだーよ!」


 少しは回りの迷惑も考えてください。げんなりした顔の伊藤を見て少し同情した。おそらく野田を口説こうと思って同行したのだろうが、ハイテンションの野田に引き回されて何もできなかったのだろう。

 チェンバロもどきは渡り廊下まで運ばれて、そこで一度分解して部屋の中に運び込むようだ。


 晩御飯は驚ろいたことが二つあった。まずはメインメニューの魚のムニエルだが、なんとその魚を釣り上げたのが三平だったことだ。

 近くの川で釣り始めたら入れ食い状態で、見かけがあじに似た魚を百匹近く釣ったらしい。流石は太公望と言ったところか。でも、なぜか厨房で見学したはずの平野の顔がさえなかったのが気になった。


 二つ目は食事中リュートの弾き語りがついていたことだ。演じたのはなんと伊藤だった。魅惑の声持ちの吟遊詩人ということで凄く期待したのだが、微妙だった。

 スキルのせいで感動するのだが、同時に歌が下手で心もこもっていないことがわかってしまうのだ。なんだか無理やり感動させられているようで、素直に拍手できない感じ。


 そういえば、とヒデが言った。何回かクラスでカラオケした時、伊藤は決して歌わなかったと。飲み物を用意したり、拍手したりで盛り上げ役に徹して決して自分ではマイクを取らなかったと。

 つまりはこういうことだったのね。でもリュートの弾き語りに挑戦したのは、そういう自分を変えたかったのではないかと考えよう。がんばれ、伊藤。


 野田のリュートを聞きたかったが、部屋に引きこもって出てこないので、あきらめた。いくら名演奏でもずっと弾き続けたら騒音になってしまうのでは?と心配になったが、どうやら防音の結界を張って貰ったようで、物音ひとつ聞こえないそうだ。魔法ってこういうことにも使えるのね。ちょっと感心した。


 食後、デッキに涼みに行ったら、花山がいた。デッキではなく、今朝メアリー先生と話していた男子風呂の裏にいた。壁のすぐ横の畳一枚位のスペースが砂場になっていて、ふちには四角い縁石がぐるりと埋め込まれている。何をしているかというと、ただひたすら歩いていた。


 東側の縁石に立つ→西に向かって歩く→西側の縁石に着く→ほうきで足跡を消す→最初に戻る。以上を延々と繰り返している。砂場の傍らには、お世話係と思しき茶色い髪の少女がタオルを持って控えていた。熱心だな。


 それにしても花山は何やってるの?デッキには小山もいて花山を見つめていた。こいつかな?

「なあ、小山。花山は何をやっているんだ?」

「うーん、水面みなも渡りの練習?足跡を付けずに歩くことが目標」

 小山は小首をかしげながら返事した。


「花山がどうしても水面みなも渡りを会得えとくしたいといったから、練習方法を考えたの」

「物理的に無理だろ」

「でも足跡無しで歩けるようになったら、多分できる」

「それはそうかもしれないけど・・・」


「正直私も本当にやるとは思わなかった。だから・・」

「だから何?」

「できるかもしれない」

「そうなの?」

「できると思わなければ何もできない。それに・・」

「それに?」

「ここは魔法の世界だから」

 小山は心からの笑顔を見せた。俺は何も言えなくなった。でも、この数日後さらに驚くべき光景を見ることになる。

花山君は何を目指しているのでしょうか?

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