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第167話:黒の森18

 7月22日、風曜日。外に出ると、雲一つない空が広がっていた。まさに夏日。今日も暑くなりそうだ。道路では南からの風を受けて先生が凧揚げをしていた。江宮が描いた「龍」の凧だった。


 真っ青な空を背景に龍の文字が躍るさまを見ていると、ここが異世界であることを忘れてしまいそうだった。先生は俺に気がつくと笑顔で話しかけた。

「凧揚げは良いものですね。風を感じ、風向きを予想し、集中していると些事を忘れてしまいます」


 風が無い時も風魔法の良い訓練になるそうだ。弱めの風を一定の強さで出し続けなければならないので、放出する魔力を一定に保つ練習に最適らしい。流石は先生だな。俺は感心しながら走った。


 今日の朝ごはんはしょうゆラーメンだった。しょっつるを使っているので、正式にはしょっつるラーメンかもしれないが、そんなことどうでもいいくらいうまかった。具は青菜に煮卵、チャーシュー、小エビの天ぷらが乗っていた。蕎麦っぽくて面白かった。今日のカットフルーツもうまかった。


 食後ラウンジでのんびりしていると志摩に呼ばれた。昨晩作った碁石を回収して欲しいそうだ。部屋に入ると碁石が山積みになっていた。全部収納すると、一万五千個あった。ということは、あの呪文を五十回唱えたということか。


 これはちょっと凄いかも。礼を言ってから砂を補充した。ラウンジに戻ってカウンターで雑貨ギルドに「塗料の追加希望」の連絡をするように頼んだ。


 朝の講義はミドガルト語の朗読だった。やっぱりこれを聞くと気持ちが落ち着くのはなぜだろうか。気になったので、浅野と木田と楽丸の顔を伺うと、木田と楽丸は顔が少し強張っていたが、浅野はいつも通りだった。昨日の話を聞いているはずなのに、案外こいつは大物かもしれない。


 お昼のお弁当を受け取ってから迎えの馬車が来るまでの間、アイテムボックス内で碁石の塗装を行った。白黒合せて合計一万六千個の碁石が完成した。一セットで黒181個・白180個の合計361個必要なので、まだ三十セット分にも届かない・・・。先は長いな。


 時間になったので玄関に行くと馬車は七台来ていた。今日も三平は元気よく出発していった。迷ったけれど太郎は置いていくことにした。顎を肩に乗せ背中(?)を撫でて留守番を命じてから馬車に乗る。


 蟻対策を考えているうちに、広場に着いた。頭を切り替えて、いつも通り準備する。昨日の最後はガーディアンだったので、今日の先鋒は月に向かって撃てからとなる。


 冬梅に送り犬を召喚して貰う。藤原と志摩も先頭にやってきた。ポッポちゃんで上空から監視し、送り犬とピンキーが警戒すれば索敵で後れを取ることはまずないだろう。ロボは浅野の傍に控えている。伯爵との打ち合わせからヒデが帰ってきた。


「今日の目的地は円形劇場から四百メートル位南にある神殿跡だ。途中何が出てくるか分からねえから用心しろってさ」

 俺たちは気勢を上げて出発した。


 既に集会所跡までの道は幅八メートルになっているので、そこまでは何もすることはない。のんびり歩いていると、平井がやってきた。

「どうした?」

「炎の剣なんだけど、戦神の斧みたいに必殺技が出ないのよ」


 いろいろ決め台詞キーワードを試してみたけど、全部不発だったらしい。

「何かヒントは無い?」

 俺は何の気なしにこたえた。

「尾上を見習ったらいいんじゃないか?」


 平井は一瞬嫌そうな顔をしたが、炎の大剣を抜き左の大きな木に向かって構えた。この辺の素直さがこいつの良い所だな。平井はそのままキーワードを唱えた。

「燃えよ剣!」


 炎の大剣は一瞬で赤く染まった。平井がそのまま振り下ろすと真っ赤な炎が木に向かって飛んだ。慌てて、木田に頼んで消化して貰った。危うく森林火災を起こすところだったぜ。


 平井は呆然としていたが、「良かったな」と声をかけると、我に返った。ぴょんぴょんジャンプして喜んでいる。勢いあまってそのまま俺に抱きついてきた。

「タカシ、ありがとう」


 離れ際に小さな声でささやくと、平井は一条の所に走って行った。後ろで洋子が鬼のような顔で睨んでいたが、俺は知らない顔で手を振った。友達にアドバイスしただけだ。何も悪いことしてないよね。


 道路拡張は集会所跡からスタートした。そのまま女神の泉を経由して円形劇場跡まで到着した。集会所跡も女神の泉も円形劇場跡も誰もいなかった。魔物も角兎が道路を横切ったぐらいだ。


 円形劇場跡から先鋒はクレイモアに代わり、道路の新規開拓がはじまった。リーダーは斥候の江宮に任せて俺は木こりに専念する。今日はなぜか何も魔物が出てこなかった。藤原によると既に半分まで進んでいるそうだ。


 あまりの順調さにこのまま何も出ずに・・・と考えていたが、甘かったようだ。俺たちは知らぬ間に罠にはまっていた。いや、罠の中に入り込んでしまったと言うべきか。突然俺たちは殺人蟻キラーアントの群れに囲まれていた。


 ロボが大きな声で吠えまくるが、蟻たちはギチギチギチギチという耳障りな鳴き声を上げながら地面を真っ黒い海にかえ、怒涛の勢いで押し寄せてくる。羽河が叫んだ。

「志摩君、足元の地面を固めて!佐藤君、結界で囲って!」


 十秒もたたないうちに最初の突撃を食らった。殺人蟻は体長は五十センチ位。色は真っ黒。逆三角形の顔には赤い目と長い触角。横幅が十センチ位ありそうなでかい口には、不釣り合いなほど立派な牙が生えている。噛まれたら骨まで折られそうな感じだ。


 ピンキー&ポッポちゃんによると、半径五十メートル以内は黒い絨毯に覆われているそうだ。

「あいつらどうやって湧いてきたんだ」

 江宮があきれたように呟いた。俺は自分の予想を話した。


「蟻って地下に巣を作るじゃないか。多分ここは蟻の巣の真上なんだよ。巣にもぐって入口を土で塞いだら、匂いもしない。俺たちは木こりしながら歩いてくるから、どこにいるかなんて振動ですぐわかる。俺たちが巣の真ん中の真上に来るまで待っていたんじゃないかな」


 突撃位では結界はどうもならないが、後ろから新手がどんどん押し寄せて来るので、先に来た蟻を下敷きにして黒い壁がどんどん高くなっていく。もちろん、火魔法・水魔法・風魔法を駆使して結界の回りの蟻を排除するがキリがない。俺は叫んだ。


「夜神、青い稲妻を頼む!」

「まかしとき!」

 夜神は呪文を唱えると鞭を振るった。蟻たちが青い光に染まっていく。最後のキーワードと共に白い光が爆発した。蟻たちの動きが止まった。

「やったか?」


 結界を解こうとした佐藤を藤原が止めた。

「待って!まだ終わっていない」

 十を数えた頃から蟻はもぞもぞ動き出し、三十数える頃には元通りになってしまった。なんて頑丈な奴らだ。

 

「で、どうするの?」

 羽河が冷静に聞いてきたので、俺たちは作戦を話し合った。

1.利根川提案A:ナパーム&火魔法による焦土作戦

2.利根川提案B:フマ〇ラー散布による害虫駆除

3.志摩提案:土魔法で地割れを作って蟻をまるごと落とし込む

4.木田提案:風魔法による大嵐


 検討の結果は以下の通り。

1:殲滅できる可能性は高いが、大規模森林火災になって脱出困難になる可能性がある。

2:フ〇キラーの量が足りない。

3:実績がない。うまくいっても自分たちも地割れに巻き込まれる可能性がある。

4:ダークスパイダーで実績あり。試す価値あり


 結論として木田のアイディアを試すことになった。天井も含め佐藤の結界を二重にして木田が呪文を唱えだす。出し惜しみはしないということで、木田は全魔力を投じた。

「呼べよ風、吹けよ嵐!」


 最後のキーワードと共に結界の外を風神が荒れ狂った。大きな木が何本か根元から折れた。ガラスに金属をこすりつけたような鋭い金属音を上げて結界がきしんでいる。前回の約五割増し位のパワーを感じた。風が収まると、回りの木は葉っぱを全部むしり取られて丸裸になっているが・・・、黒い絨毯は健在だった。


「あいつら地上高は低いし足は六本あるし地面にへばりつくのは得意だよな」

「それだけじゃないわ。隣同士で足を絡めているみたい」

 台風一過、不死身の蟻が復活した。

蟻さん強い。うーん、負けそう。

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