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第164話:黒の森15

 戦闘に参加した全員にポーションを配り、先鋒を炎の剣からガーディアンに代えて出発したが、何事もなく目的地に着いた。幅四メートルほどの敷石の内側は高さ十メートルほどの円形の建物になっていた。


 高さ三メートル・幅四メートルほどのトンネルのような入口があった。二十メートルほど歩くと天井は無くなり、建物の内部の全景が見えた。西側と北側と南側にも同様の入口があるようだ。


 劇場の直径は七十メートル位で中心は直径二十メートル・高さ五十センチほどの円形の舞台になっている。舞台をぐるりと囲む円形の通路の外側はすり鉢状の観客席になっている。舞台を中心に東西南北に通路が伸びており、それぞれの入口につながっている。


 かなり狭いけど舞台をグラウンドに見立てれば、野球場に近いような感じもする建物だった。なんかちょっと懐かしい。ヒデも同じことを感じたのか、キャッチボールがしたいと呟いた。


 志摩が感激したように話しかけてきた。

「ギリシアの円形劇場みたいだな」

音響設備ピーエー無しでもコンサートや演劇ができるかもしれん」

「試してみようか?」


 志摩は早速浅野に声をかけた。

「舞台に立ってなんか歌ってくれないか?」

 浅野がなかなかうんと言わないので、俺からも頼んだ。

「一曲でいいんだ。好きなのでいいから歌ってくれない?」


 浅野はようやく頷いてくれた。志摩は北側の、江宮は南側のそれぞれの観客席の最上段に上ってスタンバイしている。浅野は舞台の中央に立つと、両手をお祈りのように合わせ、目を瞑ってから歌いだした。


 てっきりアニメか歌謡曲かと思っていた俺の予想は外れた。オペラのアリア(独唱)、それも即興だった。即興だから当然歌詞なんてない。ずっと「Ah~」だけ。当然アカペラ(伴奏無し)なのだが、浅野が歌いだすと空気が一変した。


 神々しいというか、荘厳というか、辺り一面を浄化するような七色の光が浅野の回りで踊っているように見えた。それはまるで地上の虹のようで、うまいというレベルを超えた圧倒的な歌唱だった。浅野って凄いかも。


 そう思ったのは俺たちだけではなかったようで、イリアさん・伯爵・護衛の騎士を含めて全員が熱烈に拍手していた。俺は思わず聞いた。

「浅野ってクラシックも詳しいのか?」


 浅野は照れながら答えた。

「いや、全然」

「そんな風には見えなかったぞ?」

「『マリア〇が見てる』を思いだしてさ、こういうの一回やってみたかったんだ」


 俺は脱力しながら思い出した。そういえばイタリア旅行編にそういうシーンがあった様な気がする。まあいいか。それに幾ら好きなシーンとはいえ、ぶっつけ本番で再現してしまうなんてやっぱり才能あるかも。


 感動を胸に志摩と江宮に確認したら、最上段でも問題なく浅野の歌は聞こえたそうだ。音響的にも設計された劇場のみたい。とりあえず観客席にターフを張り、トイレを通路に設置して昼食にした。お昼ご飯はベーコンレタスバーガーだった。


 肉厚で表面をカリカリに揚げたようなベーコン+シャキシャキのレタス+チーズ+味の濃いトマトにマヨネーズ&マスタードが合体して、シンプルだけど食べ応えがあった。デザートはポンカンのジェラートで、適度な酸味と香りのよさが和のオレンジと言った感じだった。


 帰りも今まで通り道路拡張を続けた。その結果、道幅は円形劇場跡<4メートル>女神の泉<6メートル>集会所跡<8メートル>広場となった。流石に道路の幅が8メートルになると、十分すぎるような気がする。広場に出たとたん、みんながうずくまった。


 レベルが28に上がったそうだ。ダークスパイダーは何匹倒したのか分からないが、相当数、おそらく百匹以上を討伐したと思う。その他にもメガセンチピートを一匹、オーガを十二匹倒したので、十分な成果ではなかろうか。


 オーガの首が十二個とメガセンチピートがあるので、今日も冒険者ギルドに行くことにする。帰りの馬車の中では昨日と同じように伐採した木や灌木を処理した。そうこうしているうちに冒険者ギルドに着いた。解体場に入るとイントレさんが待っていた。

「待ってたぜ!」


 特に約束はしていなかったはずだが・・・。

「昨日持ち込んだお化けカズラの消化液とサイレントグリーン、なんとかしてくれ!」

 薬師ギルドに見せた所、消化液は最高品質・サイレントグリーンはまだ生きているということで、金貨何枚かかっても良いから入手してくれと依頼されたそうだ。


 俺は利根川を呼んで相談した。

「蛭は百匹もあればいいわ。消化液もとりあえず一壺あればいいから、値崩れしないように少しづつ売ったら?」


 俺は少し考えてから提案した。

「分かりました。こっちでもいろいろ使い途はあるので、渡せる分だけ出します」

 イントレさんは大喜びした。


「ありがてえ!幾つ出してくれるんだ?」

「お化けカズラの消化液は十壺、サイレントグリーンは百匹出しましょう」

 イントレさんは喜色満面で叫んだ。

「助かった!おい、壺と籠を持って来い。それと薬師ギルドに使いを出せ」


 昨日と同じ要領で消化液を壺に入れ、サイレントグリーンを虫専用の籠に入れた。ついでにオーガの首十二個とメガセンチピートを一匹、緑の牙のトゲトゲ十二枚分を査定に出した。

「オーガは討伐報酬の他に魔石・角・牙が売れるな。メガセンチピートの外殻・牙・緑の牙の棘は鎧や武具の素材になるぞ」


 相変わらず読めない書付を貰って、表玄関に回った。冒険者ギルドの扉を開けてカウンターを見ると、サンドラさんが背の高い女の子と一緒に立っていた。女の子の肩には青い猫が乗っていた。


「凄い!」

 俺の隣で藤原が叫ぶと、カウンターに向かって走り出した。なぜだか分からないが俺の頭で警報が鳴った。俺は急いで藤原の後を追った。


「青い猫なんて初めて見ました!」

 目を輝かせた藤原の言葉に長くウェーブのかかった金髪と緑の目の女の子は自慢そうに笑った。

「ブルーベルベットというの、珍しいでしょう?」


 なんでもギルド長のペットで、冒険者ギルドを自分の縄張りのように思っているのだそうだ。特にこの女の子に懐いているらしい。サンドラさんはあからさまに藤原を警戒しながら紹介してくれた。

「この子はバラシー、期待の新人さ。よろしく頼むよ」


「こっちこそよろしくお願いします」

 藤原は元気よくお辞儀した。勢いが良すぎて髪の毛の間からピンク色の何かが見えた。あれは・・・見えてはいけないものでは?バラシーさんの肩の猫が悲鳴を上げて飛んで逃げた。


 女の子もそれが見えたのだろう。藤原の頭を見ながら聞いた。

「それは?」

 藤原は頭を上げると髪の毛を掻き分けた。文字通りショッキングピンクの蜘蛛は藤原の頭の上で軽くジャンプすると、前足を二本上げ左右に振って挨拶した。

「ピンクスパイダーのピンキーです。可愛いでしょ」


 バラシーさんはピンキーと藤原の顔を交互に見てからゆっくりと後ろに倒れた。サンドラさんが支えようとして一緒に倒れた。バラシーさんは「蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛蜘蛛蜘蛛蜘蛛・・・」とうわごとのように呟いている。


 サンドラさんは駆け付けた職員にバラシーさんを任せながら怒声を上げた。

「何考えているんだい。そいつはダークスパイダーの変異種だろ。なんであんたの頭の上に乗っかっているんだ?」


 ざわついていた食堂が一瞬で静まりかえった。仕方なく俺が説明した。藤原がティムしたこと、名前はピンキーでダークスパイダーの変異種であること、敵対しない限り人間は絶対に襲わないこと・・・。藤原はピンキーを手のひらに乗せて無邪気に遊んでいる。サンドラさんは大きなため息をつくと肩を落とした。


「ダークスパイダーをティムするなんて、ありえないね。見るのも聞くのも生まれて初めてだけど、見たままを信じるしかないさね。あんた達、本当に変わっているというか、正直まったく理解できないよ!」


 藤原はピンキーを頭の上に戻すと、改めてサンドラさんに挨拶した。

「ピンキーともども、今後ともよろしくお願いします」

 サンドラさんは強張った顔と硬い声でこたえた。

「あんたを信じるしかないけど、こっちこそお手柔らかに頼むよ」

ピンキーの冒険者ギルドデビューが無事(?)終わりました。藤原さんの新しい伝説が生まれました。

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