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第163話:黒の森14

 俺はここで平井を呼んだ。

「こいつを誰かの背中に乗せてやって欲しい」

 俺と平井を除く全員がずっこけた。どうして?大事な事だろ?


 リーダーの犬はゆっくりと立ち上がると聞いた。

「それだけか?」

「それだけだ」


 俺の返事を聞くと、リーダーの犬は後ろを振り向いて誰かを呼んだ。後ろからとことこ現れたのは真っ白な犬だった。どうもリーダーの子供のようだ。身体は一回り小さいが、それでも体長は三メートル位ある。


 目の前に座った白い犬を見て平井は目をキラキラさせながら叫んだ。

「いいの?」

 リーダーの犬が一声叫ぶと十数匹の犬が集まって宴が始まった。俺が頷くと平井は「やった~」と叫びながら白い犬に飛びついた。


 リーダーの犬は首を振りながら独り言のように唸った。

「人間の考えている事は分からねえ」

 そう言っているように聞こえた。平井が背中によじ登ると、白い犬は立ち上がってゆっくり歩き始めた。平井は満面の笑顔で喜んでいる。


 小型の馬くらいの高さはあるし、鞍も何もないので危なそうに思ったが、白い犬はなるべく揺れないように気を使っているみたい。俺たちの回りをぐるりと歩いてくれた。平井はみんなに手を振って喜んでいた。


 一周すると満足したのか、平井は自分から降りた。そのまま白い犬の首を抱きしめてお礼を言った。

「ありがとう、レオ。あんたって優しいのね」


 白い犬はきょとんとした顔で平井を見た。リーダーの犬は興味深そうな顔をすると、改まった口調で聞いてきた。

「俺の息子に名を贈るというのか。そのレオという名にはどういう云われがあるのだ?」

 俺はついこたえてしまった。


「俺たちの世界でパンジャの森の王となった伝説の白い獅々(しし)だ。人は彼のことをジャング〇大帝と呼んだ」

 リーダーの犬は両眼を大きく開けて叫んだ。

「森の王だと?大帝だと?・・・まさか、そんな・・・」


 森の王と言う言葉は思ったより衝撃があったようだ。俺は心の中で手塚先生に深く謝罪した。なぜか俺の後ろで浅野が歌いだした。

「あ、あーあー ひびけ・・・」

 皆も浅野に続けて歌いだした。三分の一くらい歌っていた。どうしてみんな知っているんだ?


 リーダーの犬は聞いた。

「それは何の歌だ?」

 俺は仕方なくこたえた。

「ジャン〇ル大帝レオを称える歌だ」


 リーダーの犬は呆然としていた。

「なんと歌まであるのか!」

 浅野の歌はエンディングテーマの「レ〇のうた」に代わった。今度は半分くらい歌っていた。


「信じられん。二曲もあるのか」

「レオの名前は俺の国ではみんな知っている」

 なんとなく誤解がどんどん進んでいるような気がするが、まあいいだろう。俺たちは感激に身を震わせている犬たちに改めて礼を言ってから開拓を再開した。


 先鋒はクレイモアから炎の剣に代わった。平井はヘルハウンドに乗れたので上機嫌で交代してくれた。警戒は小山にまかせて木を切っていると、送り犬が渋い顔で戻ってきた。藤原が言うには、「オーガが待ち伏せしている」のだそうだ。


 俺たちは早速打ち合わせてシフトを決めた。先頭は盾役二人(花山・青井)、その後ろに剣士(平井・一条・尾上)と槍士(楽丸・工藤)、その左右に弓士(江宮&鷹町・藤原&ヒデ)を配したオーソドックスな配置だ。


 ヒデは弓ではないが、大型手裏剣が使えるので鷹町と共に弓部隊に配置した。魔法使い部隊の防御には俺と太郎の他に羽河と夜神を置いた。二人とも鞭が使えるので、大丈夫だろう。最後尾の守りは千堂にまかせた。本人は前線で戦いたかったみたいだけど、オーガとでは体格差がありすぎるだろ。


 五十メートル程進んだ所で、前方正面にオーガの集団を発見した。三匹以上いるみたいだ。距離は約五十メートル。十分弓の距離だ。江宮が右、藤原が左で弓を構えた。なぜかオーガが笑ったような気がした。すると浅野が右手を振り下ろして号令をかけた。

はなて!」


 右にいた江宮は体を正面から右に四十五度回して弓を射た。同じく左にいた藤原も左に向きを変えて弓を射た。それぞれ距離三十メートルの位置で隠れて近寄っていたオーガに命中した。


 弓が放たれると同時に花山が豪快な咆哮を上げた。味方の俺たちでさえ足元がぐらつくような雄たけびはオーガに対して十分な挑発になった。三隊に分かれていたオーガは花山めがけて押し寄せてきた。


 正面のオーガは本来であれば左右が奇襲した後に殲滅部隊として突っ込んで来るつもりだったんだろうが、咆哮を聞いて挑発されたら動かざるを得ない。しかし、正面から全力で走ってくるのは絶好のまとになるだけだ。


 楽丸と工藤の槍がほぼ同時に放たれ、六匹のオーガのうち、左右の二匹が胸を貫かれて倒れた。右翼も鷹町の大型手裏剣が、左翼もヒデの大型手裏剣が放たれそれぞれ一匹を仕留めた。


 残るオーガは正面が四匹、右が一匹、左が一匹。既に六匹倒され数は半減したものの、接近して肉弾戦に持ち込めば勝てると思っているのだろう。オーガは必至の勢いで攻め込んでくる。


 間近で見るオーガは赤銅色の肌に腰巻を付け、一メートルほどの太い棍棒を振りかざしている。縮れた赤黒い髪の間からは二本のねじ曲がった角が天を目がけてそびえている。大きく見開かれた目は血のように紅く染まり、唇の左右には黄色くて鋭い牙が見え、その姿はまさしく鬼そのものだった。


 身長は軽く二メートルを上回り、体重も百キロを超えるだろう。走ってきた勢いが乗った棍棒の初撃を花山も青井もなんとかこらえた。まさか人間が自分たちの一撃を受け止めるとは思っていなかったのだろうか、驚いた顔をしたオーガ二匹の脇腹を左右から楽丸と工藤の槍が突き刺した。これで残り四匹。


 左右の二匹は江宮とヒデが応戦している。仕留める必要はない。正面の戦いが決着するまでの時間稼ぎをすれば良いのだ。正面に残った二匹に一条と平井が襲い掛かる。オーガのパワーは凄いが、一条と平井のスピードは次元が違った。オーガ二匹は棍棒を振り上げると同時にそれぞれ首をはねられた。


 バックアップで残った尾上は何もする必要が無かったので、右の応援に行った。江宮にうまく攻撃の芯を外され、イライラしていたオーガは、振り返った所を一刀両断された。左のオーガは楽丸が向かってくる気配を感じ、振り返るかどうか迷った隙に黄金バットのフルスイングをこめかみに受けて昏倒した。


 戦闘が始まってから終了するまで十分もかかっていないような気がする。オーガと初めて戦ったのに、被害ゼロで十二匹を殲滅したのは凄いことかもしれない。伯爵はもちろん手放しで喜んでくれた。


「お見事の一言に尽きます!」

 イリアさんも褒めてくれた。

「オーガと初めて対峙して、臆することなく戦えるとはさすがは勇者様でございます。それと浅野様、見事な号令でした」


 攻撃の指示を出した浅野が褒められていた。確かにあのタイミングがジャストだったような気がする。俺は思わず浅野に聞いた。

「良くあのタイミングが分かったな」


 浅野は照れながら答えてくれた。

「平井さんとレオを見ていたら、ものの〇姫を思い出してさ。ちょっと、エボシ様の真似をしたくなったんだ」


 なんだか力が抜けてしまった。確かにあの白いのはレオにしちゃ大きすぎるよな。大きさ的にはもののけに出てくる山犬の方が近いかも。平井もサンに見立てることもできるし・・・。


 オーガの肉は臭くて食えないそうなので、首だけ切ってアイテムボックスに収納した。太郎が欲しそうな顔をしていたので、胴体も別のフォルダに収納した。投擲した手裏剣と槍は一度アイテムボックスに収納し洗浄してから返したが、投擲用の槍は今週いっぱいは俺に預かっておいて欲しいそうだ。確かに持ち歩くのは邪魔だな。

アニメ「ジャングル大帝」のオープニングテーマ「ジャングル大帝のテーマ」は作詞:石郷岡豪・作曲:冨田勲・歌:平野忠彦、エンディングテーマ「レオのうた」は作詞:辻真先・作曲:冨田勲・歌:弘田三枝子。しみじみ名作です。

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