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第162話:黒の森13

 佐藤と木田と藤原にマジックポーションを渡してから西に向けて出発した。先鋒は月に向かって撃てに代わった。ヒデが初音と一緒に先頭に立った。初日にゴブリンを追い払ってから出番が無いので、腕がムズムズしているんだろう。


 ヒデの気持ちを考えたら何か出て来て欲しいが、強いのがきたら困るなあと思いながら木こりをやっていると、送り犬が帰ってきた。藤原の顔を見ると、真剣な顔をしていた。

「来るよ。送り犬もピンキーも警戒している。多分虫」


 初音も太郎も何か感じているようだ。

「地面を這う音が聞こえるわ」

 太郎も臨戦態勢を取っている。ヒデも黄金バットを手にした。


 三十メートルほど先の木の陰から姿を現したのは、黒い大百足メガセンチピードだった。全長は十メートル位あるだろうか。太郎より一回りでかいような感じ。五十センチほどの頭部の先は数十の節が連結した胴部につながっている。一つの節の長さは三十センチくらいだろうか。


 身体の幅は一メートル弱、頭部には長い触角と大きな鎌のような牙が左右に一本づつ、節の一つ一つに足が左右に生えている。漢字通りの百本はないようだが、虫嫌いなら卒倒必死のまさしく魔物だった。


 どうするか考える前にヒデが動いた。一歩前に出て咆哮を上げる。止める暇がなかった。黄金バットを上段に構えたヒデめがけて大百足が真っすぐに突っ込んでくる。ヒデがにやりと笑うのが見えた。


 口を大きく開けた大百足がヒデに襲い掛かる寸前、ヒデは左足を九十度引いてバットを構え直した。勢いのついた百足は方向を変えられずにヒデの胴があった所に突っ込もうとした瞬間、一条が右から回り込んで頭と胴体のつなぎ目を切り落とした。


 胴体と泣き別れになった頭がそのまま飛んでくると、ヒデはフルスイング!ガキンという金属が金属を叩いた音が響くとセンター方向に飛んで木に当たり、下にボトリと落ちた。

「ホームラン!」


 初音が勢いよく右手を挙げてぐるぐると回した。胴体は左の方に曲がりながら飛んでいき、地面に落ちるとビタンビタンと波打つようにのたうち回った。ヒデは手を振りながらベース(?)を一周して、頭を回収してきてくれた。


 複眼の目にギザギザの歯、大きな鎌のような牙、大百足の頭は想像以上にグロテスクだった。売り物になるかどうかわからないが、とりあえずアイテムボックスに収納した。胴体も動いてはいるが死亡判定になるらしくて、そのまま収納できた。

 

 久々にホームランを打ててご機嫌なヒデは機嫌よく最後尾に戻った。ヒデがおとりになって一条が仕留めるというパターンはうちのパーティの十八番おはこになりつつあるな。勇者がおとり役で良いのか疑問は残るが。


 先鋒はクレイモアに代わってさらに先に進む。藤原のポッポちゃん情報によると、半分くらい進んだそうだ。蜘蛛に百足と苦手な昆虫系を二つもクリアしたので、このまま目的地に辿り着けばと思っていたが甘かったようだ。


 百メートルも進まないうちに江宮が止めた。送り犬も戻ってきた。藤原が送り犬に聞いた所、でかい犬に囲まれているそうだ。またか。いつものパターンだな。まあ開拓しながら真っすぐ進んでいるから仕方ないか。太郎を足元に呼んだ。


 皮膚に針がちくちく刺さるような剥き出しの殺気に包まれて俺たちは足を止めた。前方の茂みがガサガサ揺れると、犬が、巨大な犬が悠然と歩いてくる。犬と言ったが、頭の先から尻尾の先まで四メートル位あって、ライオンや虎を倍にしたような大きさがあった。


 色は当然のごとく闇より暗い真っ黒。炎が燃えているような真紅の瞳。地獄の猟犬ことヘルハウンドの登場だ。獰猛に白い牙をひけらかしながら、十メートル位手前で止まると地鳴りのように吠えた。


 俺は送り犬に通訳を頼んだ。送り犬は喋れないので、間に藤原が入ることになる。以下、日本語に訳しました。


「俺のシマに入って挨拶も無しとはどういう料簡だ?ああ?」

「挨拶が遅れたのは謝る。俺たちは日本からやってきたタニヤマ組のもんだ」

「タニャマ組?知らねえなあ。一体何しに来たんだ?」

「訳があってな、この先の野外劇場跡に用があるんだ。ちょいと通してくれねえか?」


「断る。よそ者に好き勝手させるほど俺たちは甘くねえぜ」

「頼む。そこをなんとかしてくれねえか」

「そういえばお前たち、猫共に土産を持ってきたそうだな」

「挨拶代わりにあんた達にも持って来てるぜ」

「何でそれを早く言わねえんだ。さっさと出しやがれ」


 という訳で解体済みのオークの肉を三匹分とマッドクラブを五杯出しました。森の中ではまず見ることの無いマッドクラブに、回りを取り囲んだヘルハウンドからどよめきのような吠え声が上がった。


 しかし、リーダーらしい犬は動じなかった。

「これっぽっちじゃ腹の足しにもならねえなあ。俺たちをなめてんのか?」

 仕方がないので緑の牙の捕食葉の皮を剥いて十枚出した。再び、回りの犬たちからどよめきが上がった。


「ほほう、ちゃんと牙を外しているか。少しはお前ら気が利くじゃねえか」

 良く分らないが、皮を剥いたのが高評価だったようだ。食べやすいから?リーダーは口の端から涎を少したらしながらも吠えた。

「だが足りねえ!足りねえ!何かが足りねえ!」


 仕方がないので、今朝平野から分けて貰った特別なもの、薄いピンク色をした岩塩の塊を見せた。ぎりぎり片手で持てる位の大きさだ。持ち運びがしやすいように持ち手が付いた籠に入れている。


 見ただけで分かったのだろう。リーダーの犬は叫び声を上げるのをやめて、尻尾をピンと立てた。回りの犬たちは大騒ぎだ。俺は冷静に話しかけた。

「あんたならこれがどれほど価値があるか分かるだろう?」


 リーダーの犬は目を爛々と輝かせながらこたえた。

「何が望みだ?」

 俺は静かにこたえた。


「この先この森で俺たちが何をやってもほっておいて欲しい」

「分かった。俺らに害をなさねえ限りは黙認してやろう。それだけか?」

「もう一つ、大事な頼みがある」

猫の次は犬でした。大事な頼みってなんでしょうか?

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