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第158話:黒の森9

 後ろで話を聞いていたイリアさんが聞いてきた。

「タニヤマ様、先ほどはどうして頼みごとを断ったのですか?」

 俺は考えながら返事した。


「アイテムボックスで商売というか生きる糧を稼いでいる人もいると思うんですよ。リュックサックの一つぐらい全然余裕なんですが、それやってしまうと他の人の商売の邪魔になるような気がして」

 イリアさんが頷いたので、おそらく正解だったような気がする。


 ターフを張った休憩所に戻ると女の子達から白い目で見られた。なぜだ?俺たちは無実だ。不可抗力だ。四人組の後に続いたのか人が増えてきた。利根川の薬草採取も終わったので、帰ることにした。


 帰り道も道路拡張にいそしんだ結果、噴水(女神の泉)と集会所の間は四メートル、集会所と広場の間の道幅は六メートルになった。広場に出たとたん、みんながうずくまった。


 レベルが27に上がったそうだ。サイレントグリーンは仮死状態なので反映されないが、昨日のクレイジーモスキート約千匹と今日のキラービー約千匹、お化けカズラ約三十本、緑の牙約六十本、オーク十一匹、十分な成果ではなかろうか。


 落ち着いた所で利根川に蛭と蜂と食肉植物について聞くと、自分たちで採取した薬草の鑑定や分類がまだ終わっていないので、とりあえずそのまま持っていてくれと言われた。


 帰りの馬車の中では伐採した木や灌木を処理して、原木と果実は種類ごとにまとめておいた。ついでに原木はいつでも使えるように乾燥にかけておく。使い途のない枝葉と根っこと草は粉砕してから堆肥フォルダに移動した。


 次に回収した矢と手裏剣をきれいにしておく。鷹町の手裏剣にはちゃんと「三年三組 鷹町」と几帳面な字で書いてあった。流石、羽河がいなかったら委員長になっていた女だ。


 そうこうしているうちに冒険者ギルドに着いた。今日はオークを討伐したので、寄ってみたのだ。いつものように裏口から解体場に向かう。中に入るとイントレさんと若い衆がオークを解体していた。


「タニヤマ、久しぶりだな。元気してたか?」

 イントレさんは顔を上げて挨拶してくれた。

「なんとかやってます。今日はオークとちょっと変わったのを持ってきました」


 イントレさんは解体を若い衆に任せると、空いているテーブルを指さした。

「黒の森で開拓しているってのは本当か?」

 俺はオークを三匹づつ積み上げた。利根川が穴だらけにした三匹と木田が上下二分割にした三匹だ。傷が少ない五体はとりあえずキープしておく。

「ただ道を作っているだけです。今週いっぱいあそこなんで、道があった方が何かと便利だと思って」


 イントレさんは腕を組むとヤレヤレとばかりに首を振った。

「便利とかそういう問題じゃないんだ。お前さん達は魔物退治より数段難しいことを軍の支援無しでやっているんだ。そのことを少しは自覚した方がいいぜ」

 なぜか伯爵が隣で大きく頷いていた。


「それにだ、あそこに道を作るってことは黒の森、ひいてはあそこにいる魔物全部を敵に回すってことだぜ。それが分かっているのか?ああ?」

 俺はまじめな顔で反論した。

「喧嘩を売るなんてこれっぽちも考えてないです。それに邪魔されない限り戦わないですし。現にヘルキャットとは交渉で決着しました」


 イントレさんの頭の上に?の文字が見えるようだった。しばらく考えていたが、理解するのをあきらめたみたい。

「まあいい、今日は傷物だな。血抜きは出来ているから、上下半分の方はいつも通り一匹銀貨一枚だ。しかしこっちの穴だらけの方の肉は商売にならねえ。魔石代と討伐報酬で一匹小銀貨五枚だ。他にはないのか?」


 オークのように害獣認定された魔物は討伐するだけで報酬が貰えるのだ。もちろん自己申告だけではだめで、丸ごと持ち込むか証拠物として右耳だけ切り取って提出しなければならない。

 俺は続けてサイレントグリーン(巨大蛭)と殺人蜂キラービーと緑の牙を一個づつ出した。


 イントレさんは喜んだ。

「良いじゃないか。こっちの緑はまだ生きているみたいだな。蜂は薬でやったのか?どっちも潰れていないから引き取ってやるぜ。何匹ある?」


 俺は利根川を見ながらこたえた。

「どっちも百匹あります」

 利根川は頷いたので大丈夫だろう。


 イントレさんは素直に驚いた。

「無傷で百匹か・・・。やるなお前ら。初めてとはとても思えん。虫専門のやつらでもこれだけの数を無傷で集めるのは大変だぞ」


 虫専用の特殊なかごに一匹づつ数えながら入れた。サイレントグリーンはもぞもぞと動き始めているみたい。サイレントグリーンは体液が、キラービーは毒と針が売り物になるそうだ。


「緑の牙が無傷で手に入るのは久しぶりだ。こいつの牙は武器屋に売れるんだが、それよりこの捕虫葉の肉が掘り出し物なんだ」

 緑色の表皮を剥くとピンク色の身が現れるのだが、野菜と肉の中間というべき不思議な肉質らしい。肉食の植物と言うあり得ない生体故か、脂がのっているのにさっぱりしているという、極上のステーキになるそうだ。とりあえず五本分、十枚出した。


 ほくほく顔のイントレさんに試しに聞いてみた。

「お化けカズラの消化液は売り物になりますか?」

 イントレさんは驚いた顔で俺を見た。

「まさか?今ここに持って来ているのか?量はどの位だ?」


 俺は暢気にこたえた。

「壺一個分まるごとありますよ」

 利根川が顔をしかめているが、相場を知りたかったのだ。


 イントレさんは唸った。

「ちょっと信じられねえが、緑の牙を持ち込んでいるなら本当なんだろうな。おい、毒物保存用の蓋つき壺を持ってこい。一番でかいやつだ。それとマスクを忘れるな」

 お化けカズラの消化液は毒物扱いになるらしい。確かにあの匂いは厄介だな。


 俺は蓋つき壺をアイテムボックスに入れ、消化液を移した。丁度一個分入った。蓋をしてからイントレさんの目の前に置き、入口近くまで退避する。イントレさんはマスクを付けてから蓋を開けた。量を確かめてから、小さなガラスのコップに半分ほど汲んで蓋をしめた。


 横にあったオークの屑肉を器に入れ、ガラスのコップの中身を全部注ぐ。イントレさんが手を振って呼んだので、近寄って見ると肉はほとんど解けていた。キャラメルのような強くて甘い匂いが解体場に満ちていた。


「この匂いといい、肉の溶け方といい、間違いないな。おい、今すぐ薬師ギルドに連絡しろ。お化けカズラの消化液が一壺手に入ったってな。品質は極上と言っておけ。奴ら飛んでくるぞ」


 お化けカズラの消化液は大変貴重な素材なのだそうだ。討伐が難しいだけでなく、こぼさずに確保することや運搬することが困難なので、ほとんど手に入らないらしい。

「もしまた手に入ったらすぐに持って来い。鮮度が何より大事だからな」


 イントレさんは少し落ち着いたのか、低い声で続けた。

「あんまり無茶をすんじゃねえぞ。あそこはCランクの冒険者でも難儀する森だ。危ないと思ったらとっとと逃げろよ。分かったな?」

 いつも通り読めない書付を貰った。俺たちは礼を言って表に回った。

お化けカズラの消化液を使って何を作るのでしょうか?胃薬?化粧品?

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