第157話:黒の森8
食肉植物のゾーンを抜けるのに思ったより時間がかかってしまった。先を急ごうとしたら、あと五十メートル位で目的地(藤原からの報告)という所で難敵にぶつかった。オークの群れだ。十頭以上いるみたい。
どうしようか。ポーションは配布したけど、剣士も槍士も盾役もみんなお疲れ気味だ。ここで立ち上がったのは魔法使いと弓士だ。利根川、江宮、鷹町、藤原、木田の五人が前線に立った。江宮以外は全員少女という布陣を見てオークたちは侮ったのだろう。
俺達が逃げないので、オークたちは全員笑いながらゆっくりと歩いてくる。勝利を確信しているようだ。中には既に涎を垂らしている奴や、下半身を屹立させた奴すらいる。
利根川と木田は静かに詠唱を始めた。江宮の一射目。右端のオークの左目に的中。藤原の一射目。左端のオークの右目に的中。江宮の二射目。右端のオークの右目に的中。藤原の二射目。左端のオークの左目に的中。右端と左端のオークは歩きながら崩れ落ちた。
両端の異変を感じた真ん中のオークは、ひときわ大きな咆哮を上げると両手で顔を覆って突進した。一呼吸おいて残りのオークも突撃する。顔を太い腕で隠し足元を見ながら進行方向の検討をつけているんだろう。でも前が見えなくて大丈夫なのか?
江宮の三射目。真ん中のオークの左胸に的中。藤原の三射目。真ん中の左のオークの左胸に的中。それぞれ前のめりに倒れる。しかし、残り七頭はためらいもなく走り続ける。
利根川の詠唱が終わった。「ファイヤーバルカン!」の叫び声と共に、杖の先から百本以上の赤い矢印が右側のオークに向かって飛んだ。三頭のオークは体中穴だらけになって倒れた。穴からは灰色の煙が薄く上がっている。
木田の詠唱が終わった。「ローリングブレード!」の叫ぶ声と共に水色の巨大な鎌状の刃が左側のオークに向かって回転しながら飛んだ。三頭のオークはまとめて腹で上下真っ二つになり、赤い血と緑や青色の臓物を景気よく地面にぶちまけた。誰もが一瞬気を抜いた。
最後の一頭は真ん中のオークの後ろを遅れ気味に走っていたので、運よく被害を免れた。接近戦に持ち込めれば負けないと確信しているのだろう。やけくそでそのまま突っ込んでくる。
江宮と藤原が体を沈めると、後ろには鷹町が立っていた。右手に持つのは大型の十字手裏剣。左の腰の前に構えた手裏剣を右足を軸にして投げた。右手の四本の指を内縁に引っ掛け、スナップの効いた流れるようなサイドスローだった。
鋭い回転のかかった手裏剣は少しづつ浮かび上がりながらオークに向かって一直線!オークは避けることも出来ずに首に直撃した。オークが最後に見た景色は、首が切断されて真上を向いた時に見た抜けるように透き通った青空だった。
とりあえず片付けが大変だった。地面にばらまかれた三匹分の臓物は、好きなだけロボと猫娘に食ってもらい、残りは堆肥フォルダに入れた。オークの死体は全て収納した。全部で十一体分、大量だな。とりあえず血抜きだけしておく。手裏剣と矢も回収した。
その後も道路開拓しながら無事に噴水跡に辿り着いた。直径五十メートルほどの円形の石畳の真ん中に直径五メートル位の円形の池の跡が残っている。とりあえず端の方にトイレと休憩所をセットしてから、昼食を配った。
今日のお昼ご飯は、焼きそばパンとゆで卵を潰してマヨネーズで和えた卵サンドパンだった。しょっつるを使った焼きそばが、ソース味の焼きそばとはまた違う懐かしさで涙が出るほどうまかった。
デザートのレモングラスのジェラートも甘すぎず、適度な酸味と渋みが口の中の脂っこさを拭い取ってくれた。食後、志摩と一緒に噴水の跡に行ってみた。
直径五メートル・高さ一メートル位の円形の縁石で囲まれた池の中央には浮島のように直径一メートルほどの台座があって、台座の中央には竜と思しき彫刻があった。竜の回りには小さな穴が十センチ間隔で円形に囲んでいる。かってはここから水が吹きだしていたのだろう。
池の底は所々底のタイルが剥げたりぼっこりと穴が開いているが、思ったよりきれいだったので、志摩に聞いてみた。
「これ、修理できるかな?」
志摩は少し考えてからこたえた。
「噴水は無理だが、穴を塞ぐくらいなら・・・。こないだの砂あるか?百キロほどあればなんとかなるかも」
俺は黙って池の中に砂を出した。志摩も砂を材料にして、穴の開いた箇所を補修していった。一度強化をかけた後に、江宮を呼んでもう一度強化をかけてもらった。これで大丈夫だろう。
俺は女神様から貰った水で池を満たした。十五トンくらい使ったと思う。水が明るい光を反射してきらきら光るさまがきれいだったので、思わず目を閉じて祈ってしまった。
「女神様の威光がこの地を満たしますように」
なぜだか「よかろう」という声が聞こえたような気がした。ちょっと怖かった。すると、後ろから突然声をかけられた。
「あそこのトイレはあんたたちのかい?」
振り返ると、この世界では珍しい黒髪の女だった。厨房に勤めている給仕のラウラさん以来だ。大きな目、褐色の瞳、ショートカット、年は二十歳くらいだろうか。女の後ろにはその仲間が三人いた。
一人は小柄だが、もう一人はでかかった。身長は百八十五センチ位ありそう。でかいからなのか、背負子をかついでおり、背負子には夏なのにフードを目深にかぶった女(?)が後ろ向きで乗っていた。小柄な女は体に不釣り合いなほど大きなリュックを背負っている。女四人の冒険者パーティみたい。
「そうだけど」
黒髪の女は顔を綻ばせると両手を合わせて頼みごとをしてきた。
「少しの間でいいから貸しておくれよ。訳ありなんだ。あそこの騎士に頼んだけど、全然相手にしてくれないんだぜ」
俺は気軽に頷いた。
「良いですよ」
四人と一緒に女性用のトイレの前まで行って、騎士に事情を説明し、洋子に案内を頼んだ。すると、池から志摩と江宮が呼んでいる。何かあったのか?急いで戻ると、二人は黙って中央の噴水部分を指さした。
何故だか分からないが、きれいな水がちょろちょろと竜の口から流れている。
「修理したのか?」
志摩は首を振った。
「俺は何もしていない。穴をふさいで掃除しただけだ」
江宮も首を振った。
「俺も強化をかけただけだ」
気がついたら水が出ていたらしい。俺たち三人はしばらく無言で噴水を見つめた。結局、「修理したのがきっかけで水が出るようになったんじゃないか」ということになったが、本当の所はどうなのだろうか?まさか女神様?
するとさっきの四人組が戻ってきた。フードの女の子が着替えていたみたいだ。
「タニヤマさんだっけ、ありがとうね。助かったよ」
黒髪の女がはじけるような笑顔で礼を言った。薬草採取に来たところ、道があったので、ここまで来たのだそうだ。
いつもは取れない希少な野草がたくさん取れたと言ってたいそう喜んでいたが、急に真顔になって頼んできた。
「あのトイレはあんたがアイテムボックスに入れて運んで来たんだろ。だったら、あたしたちの荷物をちょいと運んでくれないかい?」
俺は即座に答えた。
「あいにくですがお断りします。運び屋はやっていないので」
黒髪の女は残念そうな顔をしながらも頷いた。横からでかい女が聞いた。
「ところでその泉の水は使っても良いの?」
泉?まあ水が出ているから泉なのか?俺はつい、言ってしまった。
「これは女神の泉です。この水を使う時は女神様に感謝してから使ってください。中に入ることは禁止です」
女たちはびっくりするような歓声を上げて喜んだ。口々に女神様に感謝の言葉を捧げている。でかい女は羞恥心が無いのか、素っ裸になると食器を手桶代わりにして水浴びを始めた。慌てて退散したが、オッパイはでかかった。メロンみたいだった。G?
これもラッキースケベの一種でしょうか?