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第148話:ほの暗き地下室で7

 同じく7月18日の深夜、王宮の地下では、とある会合が開かれていた。出席者は、エリザベート・ファー・オードリー王女、レボルバー・ダン・ラスカル侯爵(宰相)、ラルフ・エル・ローエン伯爵(近衛師団長)、イリア・ペンネローブ神官長、メアリー・ナイ・スイープ侍女長の五人。いずれも勇者召喚に深く関わる人間ばかりである。


 皆の席の前にはワイングラスが置かれていた。今回は何か趣向があるようだ。王女に促されてメアリー侍女長は、首から下を布で隠したワインをそれぞれのグラスに注いだ。全員のグラスがワインで満たされたことを確認してから王女は話し始めた。


「皆の者、よく聞け。昨日、召喚者のレベルが25に上がった。勇者の育成が順調に進んでいることを祝って今日は特別なワインを用意した。まずは乾杯じゃ」

 伯爵の音頭で乾杯した。王女以外の四人は一様に驚いた。


「このワインは素晴らしいですな」

 伯爵は手放しでほめた。

「陛下が即位された際の晩餐の席で振舞われたワインと同等と思われます」

 宰相は具体的に褒めた。


「さようか、私は即位の式にはおらなんだが、さぞかし盛況であったろうな。さて、このワインは先日、ある方から頂いたものだ」

 王女は言いながら、ワインの袋をあけた。


 宰相はボトルのラベルに注目しながら聞いた。

「これはまた優美なボトルですな。ラベルもまた美しい。産地はどこでございますか?」

 王女はラベルを指さしながらこたえた。


「この図柄は湖の女神様を模したものだ。ここまで言えば分かろう」

 イリアは驚きながら尋ねた。

「もしかするとタニヤマ様でしょうか?」


 王女は頷いた。

「さよう、いつぞや晩餐に招かれた際に頂いたワインだが、ボトルとラベルを新調されたのだろう。三十六本頂いた」


 伯爵はさらに驚いた。

「それだけの本数を手配されるとは、タニヤマ様は火酒だけでなく、ワイン作りにも長けてらっしゃるのですな」


「それだけではないぞ。型の良いマッドクラブを三十六杯、ほぼ無傷のストーンクラブの成体を一杯送られてきた。マッドクラブは極上の蒸し加減であった。おそらく活きたまま調理したのであろう」


「宴会が出来ますな」

 冗談のつもりで言った伯爵の言葉に王女は頷いた。

「宴席の担当者がマッドクラブを見て二百人規模の宴会が出来ると言っておったわ。また、ストーンクラブは国賓を招待した晩餐会のメインになるとも」


 宰相は憎々し気な顔で吐き捨てた。

「今更王女様に取り入ろうとは片腹痛い」

 王女は宰相の言葉を軽く笑い飛ばした。

「毎回年末に贈り物の手配できりきり舞いするお主には言われたくないのではないかな」


 黙り込んだ宰相をほっておいて王女は続けた。

「商業ギルドから報告が五つ上がって来たぞ。一つ、ゴミのリサイクル事業の試験運用が始まった。二つ、菜種の採集が始まった。三つ、火酒の試験的な蒸留が始まった。四つ、さとう大根の植え付けが始まった。四つ、娯楽ギルドの立ち上げが決まった。五つ、魔法科学ギルドの創設が決まった」


 イリアは感嘆していた。メアリー侍女長は自分の関わったプロジェクトの事業化が始まった事に感無量のようだった。王女は続けて言った。


「さとう大根の植え付けに関しては、堆肥なる物を無償で提供してくれたそうだ」

 商売の匂いを感じて復活した宰相が聞いた。

「堆肥とは何ですか?」


 王女は笑顔でこたえた。

「土の力を回復する魔法の土だそうだ。土の魔法使いの見立てによると、荒れ地の痩せた土でもこれを混ぜることによって耕作に適した土に戻るそうだ」


「お高いのでは?」

 魔法と聞いて、宰相は心配そうに聞いた。

 王女は笑顔でこたえた。

「案ずるな、今回は無償で提供してくれたそうだ。次からは分からんがな。まあ最悪、製造方法だけでも教えてはくれるだろう」


 イリアが聞いた。

「魔法科学ギルドとは何でしょうか?」

 王女はすました顔でこたえた。

「ドライヤーをはじめとする、魔法を魔法使いでない者が利用できる便利な機械を製造・販売するそうだ。ただまあ私にも良く分らん」


 伯爵は再び驚いていた。

「レベルアップしながらそれだけの事業に関わられているとは驚きですな」

 王女は深く頷いた。

「まったくだ。娯楽ギルドに関しては立ち上げ後すぐにカップ戦の準備が始まる。王家も会場と護衛を手配する約束になっているので、どの程度の規模になるか考えねばならん。また、ファッションショーの準備も必要じゃ。またお知恵を拝借することになるだろう」


 王女は皆の顔を見渡すと告げた。

「私も時々忘れそうになるが、彼らの本業は魔王の討伐じゃ。明日からは黒の森での修練が始まる。魔物の種類や数が増えるだけでなく、予期せぬ事態も頻発するじゃろう。神官長と伯爵、よろしく頼むぞ」

「御意」


「それにしても・・・」

 と王女が言いかけると侍女長が続けた。

「此度の召喚者はまっこと規格外、でしょうか?」


 王女は笑いながらこたえた。

「私の言葉を横からさらうとは誠に不敬であるが、まあよい許そう。鍛錬以外の活動については、侍女長が滞りなく支援せよ」

「御意」

主人公のプレゼント作戦は少しは効果があるようです。

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