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第145話:女神の森5ー2

 女神様は少し不満げな顔で言った。

「褒美がそれだけではやりがいが無いぞ。他に欲しい物はないのか?

 俺は幾つか候補を出した。

「菜種、蜂蜜、薬酒の原料となる木の実や薬草などはありませんか?」


 女神は笑顔でこたえた。

「無い!」

 途端に妖精さん達が女神様の耳元に飛んで来てブンブン音を立てている。


 女神は再度告げた。

「我は今日は機嫌が良い。他に何か欲しいものは無いか?」

 間違えたとは言いたくないようだ。俺は再度、お願いした。

「菜種、蜂蜜、薬酒の原料となる木の実や薬草などはありませんか?」


 女神は笑顔でこたえた。

「あるぞ。妖精どもよ、タニヤマを案内せよ」

 妖精さん達が飛んできて俺の回りを一周回ると、こっちに来いとばかりに空中に矢印を作った。俺は小山と一緒に丁寧に一礼すると、妖精さんの後を追った。


 湖の縁に沿って南に歩き、炭酸水の泉の手前で左に、方角としては真南に曲がった。しばらくすると大きな木の前で妖精さん達が群れている。なんとなくだがそうした方がいいような気がして、空の壺を出した。


 妖精さん達は集団で壺を持ち上げると木の中ほどまで持ち上げていく。そこには大きなうろがあり、黄金色に輝く液体が溢れてきた。数回、同じようなことを繰り返すと、十リットルは入る壺は蜂蜜で一杯になった。


 喜んでいると、いつの間にか別の一隊が二十種類ほどの木の実や薬草を山のように集めてくれた。ありがたく全部頂く。最後はさらに南に案内してくれた。川の音が聞こえてくる。川と森の間には土手があり、河原が結界の境界になっているようだ。川沿いの土手には黒い実を付けた菜種が一面に生えていた。


 妖精さん達が一気に刈ってくれるので、俺はアイテムボックスに収納するだけだ。幅五メートル、長さ二百メートルと考えると千平方メートル分か・・・。菜種の黒い種は全部で約二トンあった。


 蜂蜜・薬草・菜種と欲しいものが全部そろったので、感謝の気持ちを込めて持っていた梅酒を全部献上した。妖精さん達は狂喜乱舞して、あっと言う間に全部飲み干してしまった。帰ってから利根川に頼んで補充しておこう。


 最後に女神様に再度お礼を言う。何か言いたそうな顔をしていたので、非常用の苺大福を十個とカルピスを献上した。

「タニヤマ、分かっているではないか」


 女神様は嬉しそうに十個まとめて一口で召し上がった。

「褒美をやったので、スタンプはクリアした。次は二十個貯まってから来るが良い」

 となるとその次はおそらく四十個だな。俺は少し安心した。こんな危ないポーションを十個ごとに貰っていたら、命の危険があると思う。


 帰路、湖を背にしてしばらく歩くと小山が大きく息を吐いた。

「何度来ても慣れない。緊張する」

「そうか?」


 俺は歩きながら小山に相談した。

「なあ、小山」

「断る」


 話す前から断られてしまった。戦神の斧を押し付けようと思ったのに。小山は前を向いたまま続けた。

「忍者にあれは重すぎる」

 物理的な重さだけの問題でないことは分かる。とりあえず、帰ってから羽河に相談しよう。


 竹のエリアに入ると、既にフルバックさんたちは退出した後だった。二十メートル×五メートル位の広さで竹が根元からきれいに伐採されていたので、うまくいったのだろう。俺たちは教会目指して馬車を走らせた。


 製材所の前にはスカジーさんがぽつねんと立っていた。馬車を止めて話を聞くと、俺たちを待っていたそうだ。フルバックさんの伝言は「竹の伐採はうまくいった。当面は週に百本程度で伐採する。協力に感謝する」とのことだった。


 うまくいったならなにより、と告げてスカジーさんにさよならした。小山と二人だけだし、良い時間になっていたので、お昼は馬車の中で食べた。

 今日のお昼ご飯は、フィッシュバーガーだった。具は魚のフライとチーズと糸のように細いキャベツの千切りで、味付けはマスタード入りのタルタルソースとケチャップだった。文句なしにうまい。魚は最初鯰かと思ったが、なんか違う。


「ウォーターシャークだね」

 小山がぽつりとつぶやいた。流石は忍者。味覚も敏感なんだな。

 帰り道も南の大通り経由でいったのだけれど、冒険者ギルドから北に三軒目のビルの前に大きな荷馬車が止まって、荷物を搬入をしていた。あそこが娯楽ギルドなのだろうか。


 娯楽ギルドが入る予定(?)のビルから少し北側には、ド派手なピンク色のビルがあった。あれは確か娼館だったっけ。


 教会に着くと、子供たちが庭一杯を使って元気に遊んでいた。凧あげ(歌舞伎絵より女神様イラストが人気だった)が真ん中、両端にシャボン玉と竹トンボ、そして風車を持った子供があちこち走り回っている。


 凧あげしている子供の傍には木田がついていた。風魔法を使っているみたい。一人だけやじろべえに集中している子供がいた。何が面白いのだろうか。


 護衛の皆様にお昼と飲みカルピスを配ってから利根川に聞くと、シャボン玉も歌の指導も石鹸作りも全部うまくいったそうだ。シスターの中に初級の土魔法を使える人がいたので、材料の組み合わせや配分を念入りに教えたとのこと。


 ただし、一つ問題が発生した。一回限りではなく、繰り返し使える魔法陣はかなり高価な物らしく、「石鹸作り」のようなオリジナルの魔法陣は、それこそ家一軒買えるほどの金額で取引されるらしい。当然受け取りを拒否されたとのこと。


 微笑みながら子供たちを見守っている院長先生の所に行くと、後ろから浅野がついてきた。とりあえず話しかけてみる。

「みんな喜んでくれたようですね」


 院長先生は丁寧に礼を取ると返答した。

「子供たちが心から喜ぶ顔を久し振りに見ることが出来ました。本当にありがとうございます」

「いえいえ、たまには人間、娯楽が必要です」

「楽しまさせていただいただけでなく、おもちゃは全て頂けるとのことで重ねて御礼申し上げます」


 うーん、結構ガードが堅そうだな。

「いえいえ、歌を理解してもらうために作ったので、気にしないでください」

「その上、あのように上質な石鹸を頂いてよろしいのでしょうか?」

「石鹸作りの試作のために作ったものです。遠慮なくお受け取りください」

「ありがとうございます」


 院長先生は笑顔で先手を取った。

「でも、流石に魔法陣は頂けないですわ。あれは名だたる貴族の家宝となるような立派な魔法陣です」


 ここで浅野が割り込んできた。

「あの魔法陣は清潔で健康的な暮らしのために作ったものです。決して貴族様のために作ったものではありません。是非ここで使ってください」


「しかし」と言いかけた院長先生に浅野は話しかけた。

「大事なものほど、必要な時に必要な場所で使うべきです。それでも、もったいないと仰るならば、市中から廃油を回収して石鹸を作り、適切な値段で販売してください。石鹸が普及する程、病気になる人は確実に減ります。油だって、そのまま捨ててしまえば地下水が汚染されます」


 院長先生は浅野の言葉を聞いて言葉を失ったが、数秒後再起動した。

「そこまで考えておいでとは・・・。社会に対する奉仕を失念しておりました。恥ずかしい限りです。浅野様の言葉を聞いて目の前の壁が取り払われた気持ちです。深く感謝します」


 院長先生は後ろのシスターたちと一緒に膝まづいて祈り始めた。毎回このパターンだな。とりあえず、魔法陣を受け取ってくれたので良しとしよう。

女神様からいろいろ頂きました。

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