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第142話:太郎君お泊り

評価とブックマークありがとうございます。

 明日の朝にまた来るというジョージさんをラウンジで見送ってから、カウンターで特大のマジックボックスを借りた。今日仕留めたストーンクラブを入れ、王女様に贈るように手配する。喜んでくれるといいな。


 浅野達が明日の孤児院の指導の打ち合わせをしていたので、明日も中抜けすることを伝えておく。丁度隣のテーブルで江宮と志摩が厨房のリニューアルの打ち合わせをしていたので、昨日砂浜で精選した砂の見本を見せた。

 

「これちょっと凄くないか?」

 江宮が感激していた。

「おお、なんかしらんけど、魔力の通りも良いぞ」

 志摩も好印象だった。


 二人とも欲しいと言うので、後で部屋に届けることにした。最後に食堂に行った。まずは平野にお土産を渡す。既に三平からジャイアントロブスターとキラーフィッシュと小エビとキスを受け取っているそうだ。


 俺から渡したのは、ウオーターシャーク・アサリ・蛤・蜆・鰻・鯰・鯉だ。平野は特に鰻・蛤・蜆を喜んでくれた。明日以降の夕食に期待しよう。ウオーターシャークは肉だけあればいいというので、アイテムボックスに一度戻し、肉とそれ以外に分け、肉だけを渡した。ついでに、明日のためのお願いをしておく。


「明日また女神の森に行くんだ。お供えとお土産を用意してくれないか?」

平野は笑顔でこたえた。

「分かった。まかせて」


 念のため、堆肥のことも聞いてみよう。

「菜園の調子はどうだ?」

「暑いし雨が降らないからいまいち元気がないね」

「堆肥とかいる?」


 平野は俺の両肩を掴むと真剣な顔で言った。

「いる。頂戴!」

 俺はコクコク頷くことしかできなかった。


 そのまま平野に手を引かれて菜園まで連行された。畑の植物は一部を除き、どれも元気なさそうに見えた。とりあえず畑の空いている区画に適当に堆肥を積み上げる。堆肥独特の匂いにげんなりしたが、平野は大喜びしていた。


 食堂に戻ると既に先生が座っていた。角切りのベーコンと塩を振ったピーマンを炭で焙ったものとウイスキーのロックが置いてある。なんか男らしいな。ハムのCMみたいだ。そのまま雑談していると、野田の演奏が始まった。今日の晩御飯の始まりだ。


 野田の一曲目は映画「太陽が一杯」のテーマ曲だった。明るい哀愁とでもいうのだろうか、夏の夕暮れに聞くにはぴったりの曲だった。しみじみ聞いていると、二曲目は「ゴッドファーザー」のテーマだった。今日は映画音楽の特集みたい。


 しかし、平野が出したのはセンチメンタルな哀愁を吹っ飛ばすパワフルなメニューだった。昨日食べた鶏のから揚げと並ぶ国民的なメニュー、餃子だ。発祥の地である中国では水餃子または蒸し餃子が一般的だが、日本で餃子と言えば焼き餃子だ。


 当然、平野のメニューも焼き餃子だが、希望者には揚げ餃子を付けてくれるという嬉しいオプションが付いていた。シュウマイを揚げた物もおいしいが、揚げ餃子のパリパリした皮もうまいよね。

 

 もちろん俺は揚げ餃子を付けてもらった。たれはしょっつるを酢で割り、さらに酸味の強い柑橘系の果汁を加えた物だった、酸味・うま味・香りの三重奏で、餃子のうまさを存分に引き出している。


 餃子はひき肉と野菜のみじん切りとハーブを皮で包んで焼いているだけなのだが、挽きたてのひき肉が本当に肉々しくて涙が出るほどおいしかった。先生も凄い笑顔でエールとの無限ループに入っている。


 デザートは白玉団子だった。シロップで煮たフルーツと餡子が添えられている。中華を和で締めるという心憎いメニューだった。


 部屋に戻る途中、江宮の部屋に寄った。

「さっきの砂を持ってきたぞ」

「待ってた」


 江宮は砂を手のひらに広げて頷いた。

「砂の粒が小さくて大きさがきれいに揃っている。これは使えるぞ」

 強化で何か型を作るときの素材にピッタリだそうだ。十キロほど渡した。


 次に志摩の部屋に寄った。志摩は改めて手の平で感触を確かめた。

「いいなこれ。魔力の通りが抜群だ」

「何に使うんだ?」


 志摩の言う通り、百キロほど砂を床の上に出すと、志摩は杖を出して気取った声で告げた。

「クリエイト・ゴーレム」


 キラキラの光が砂の山に振りかかると、砂はあっと言う間に人型に変身した。簡単だが顔もあるし、指もある。見たことも無いような精緻なゴーレムだった。

「魔法の練習用に最適だ。ありがとうよ」

 土魔法使いの志摩にとっては最高に相性が良い素材みたいだった。


 今日のお供えは、冷やし中華・餃子・白玉団子だ。窓を開けると、小山の予報通り、静かに雨が降っている。出窓にお供えを並べ、手を合わせて目を瞑ると「美味し!」という声とともにペタン、ペタンという不吉な音が聞こえた。気になるので、明日女神様に聞いてみよう。


 食器を片付けて寝ようとしたが、何かの視線を感じる。

「いるのか?」

 闇に向かって声をかけると、窓の下からニュツと黒い頭が伸びてきた。二つの目が赤く光っている。太郎だ。予想していたので、今日は驚かなかった。


 なんとなくそんな感じがしたので、尋ねた。

「雨に濡れるのが嫌なのか?」

 頷いたような気がするので、聞いてみた。


「それなら今日は俺の部屋に泊まっていくか?」

 幸い今日は洋子は女子会で来る予定が無かったのだ。太郎はしゅるしゅると窓枠を通って中に入り、床の上でとぐろを巻いた。黒い体が雨に濡れて光っている。


 俺は 湯上りに使ったタオルで太郎を拭いてやりながら話しかけた。

「今日は特別だからな。羽河には内緒だぞ。誰かに見られたら大騒ぎになるから、ベッドの下で大人しくしてろよ」


 太郎が頷いたような気がするので、顎の下を撫でてやった。頭と違ってこっちは大丈夫みたい。噛まれることは無かった。太郎は安心したように体を預けてきたが、太郎の頭はとてもとても重かった。足が痺れそうだ。

太郎君が懐いています。

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