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第141話:商業ギルドと打ち合わせ

 宿舎に着いてラウンジに入るとテーブルでジョージさんが待っていた。お待たせしたことを詫びてから羽河と一緒に会議室に案内した。


 まずは、娯楽ギルドの契約書と定款の正本、ゴムの契約書の正本、冷蔵庫・冷凍庫・製氷機・加湿器・食器乾燥機の別紙の正本、汎用的なデザイン提供の契約書の雛形を預かり、そのまま羽河に渡す。羽河は確認と署名のために一時退席した。


 ジョージさんは改めてお礼を言った。

「娯楽ギルドのギルド長が決まってほっとしております。略歴もありがとうございました。助かりました」


 俺は気になっていたことを聞いた。

「ところで、娯楽ギルドの本部の住所はどこになりましたか?」

「冒険者ギルドの近く、南大通り沿いのビルの一階と二階を確保しました。什器の運び込みと内装は来週中に完了の予定です」

「準備万端ですね。顔合わせはいつにしましょうか?」


 ジョージさんは質問で返した。

「いつがよろしいですか?」

「お休みの日で問題なければ来週末、24日の午前でよろしいですか?」

「月曜日ですな。かしこまりました。調整いたします」

「私も週明けに伯爵に相談します。変更希望の場合は連絡します」


 丁度羽河が書類とレシピを持って帰ってきたので、今の内容を共有しておく。

「委細承知です。書類は全て問題ありませんでした。署名もしてあります。娯楽ギルドの契約書はどうしましょうか?」


 ジョージさんは笑顔でこたえた。

「娯楽ギルドの契約書は三部ともうちで預かり、軍の署名を頂いてからこちらに一部お持ちしますので、ご安心ください」


「それでは、ゴム・冷蔵庫・冷凍庫・製氷機・加湿器・食器乾燥機は契約成立ということでお願いします。デザインに関する汎用的な契約書は正本の作成をお願いします」

羽河の宣言とお願いにジョージさんは笑顔でこたえた。

「承知しました」


「ゴムのレシピは今お渡しします。機器五台については既にお渡しした見本で原型は納品済みという事でよろしいでしょうか?」

「問題ありません。汎用的なデザインの契約書の正本は次回にお持ちします」

 羽河がゴムのレシピを渡すと、交代でジョージさんと握手した。金貨千百五十枚分の契約の成立だ。


 俺はついでに見積もりのことを話した。

「遊戯盤の見積もりですが、初回ロット千以上で光闇と戦陣が小銀貨三枚、大逆転が小銀貨一枚となりました。追加注文数は最低百とのことです」


 ジョージさんはうんうんと頷くと笑顔を見せた。

「妥当な額だと思いますぞ。光闇は石の削りだし、戦陣は駒の彩色で手間がかかりますからな。納期はいかがですか?」

「ロット千で一か月は欲しいそうです。千以上の場合は応相談と」


 ジョージさんは腕組みして数秒考えてから発言した。

「発売日は九月一日を目指すべきでしょう。発売日にカップ戦の告知をするということでどうでしょうか?」


 俺と羽河は顔を見合わせてから同意した。ギルド設立から発売日までは営業とカップ戦の準備だな。「営業と言えば・・・」とジョージさんが話しかけたので、聞いた。

「特注盤ですか?」

 羽河が聞いた。なんだよそれ・・・。


「そうです。光闇と戦陣も派手さが足りませんからな。貴族からは様々な注文が来ると思いますぞ」

「盤を脚付きにしてくれとか、盤の厚みを増してくれ、という奴ですか?」

 俺はじいさんの家にあったでかい碁盤(厚みが三十センチほどあった)を連想した。


 ジョージさんは首を振った。

「もちろんそれもありますが、それよりは盤面全体に家紋を入れてくれとか、光闇の石をルビーとサファイアにしてくれとか、戦陣の駒に金銀宝石を入れてくれとか、いろいろあると思いますぞ」


 俺は碁盤の上にルビーの赤とサファイアの青が並ぶ情景を想像して絶句した。思考停止した俺達を見てジョージさんが笑った。


「成金然としたものもあれば格調を重んじるものもあります。貴族は何より名誉を重んじるもの。遊戯盤といえど、家格に相応しい華美を求めるのは当然のこととご理解ください。その代わり、定価などあってないようなもの。注文内容によっては金貨十枚を超えるものも出てくると思いますぞ」


 結構高めの価格設定だと思っていたが、定価の銀貨一枚は普及版みたいな扱いで、本当の商売は特注盤の方なのかもしれない。囲碁や将棋とはまた異なる世界が広がっていくことを実感したのだった。


「実は個人的にはカップ戦に大いに期待しておるのです。もともとこのような遊戯盤は生活に余裕がある貴族や商家のものです。それを僅か銀貨一枚という低価格で発売し、その上高額賞金が出るトーナメント戦を開催するという画期的な販売戦略。既存の遊戯に対する大いになる挑戦です。遊戯が庶民の物になるのではないでしょうか」


 俺はジョージさんの熱意に圧倒されていた。なんとなく日本人的な感覚で銀貨一枚という設定にしたのだが、それが戦略的低価格と見なされるとは思わなかった。どうでもいいことだがついでに言っておこう。


「実は光闇は別の遊び方も出来るようになっていまして、そのための取説も用意しています」

「一つの遊戯盤で二種類の遊び方が出来るのですな。素晴らしい。二種類の駒しかないので、そのようなことができるのですな」


 素直に感心してくれたので、良しとしよう。まあ、将棋も挟み将棋ができるのだが、面倒なのでほっておこう。これで今日の仕事は終わりかと思ったら甘かった。ジョージさんが言いにくそうに話しだした。


「実はてん菜の種を取るために直径五十メートルほどの小さな荘園を確保したのですが、数年ほったらかしていたために土が荒れております。このままでは植え付けができないのですが、何か良い方法はないでしょうか?」


 とりあえず聞いてみた。

「普通はどうされるんですか?」

「耕して石や木の根っこを除き、一~ニ年雑草の生えるままにします。畑として使うのはその後ですな」


 俺は堆肥のことを思い出した。

「それでは試験的に堆肥を提供しましょう。耕した後、土に混ぜて使用してください。うまくいけばそのまま植え付けできると思いますよ」


 ジョージさんは堆肥のことを理解できなかったようだが、現状を改善するものと受け取ったようだ。

「ありがとうございます。明日荷馬車を手配します。一台で良いですか?」

「いや、四~五台は必要かと」

「ありがとうございます。お代はいかほどでしょうか?」

「今回はあくまで試験運用と考えますので、無料で結構です」

 ジョージさんは立ち上がって深々と礼を取った。


「効かないかもしれませんよ」

 俺の正直だけど冷たい言葉にもジョージさんは動揺しなかった。

「根拠は全くないのですが、私の商売人としての勘が『大丈夫だ』と言っております」


 仕方ないので付け加えた。

「菜種の場合は耕しただけでも良いかもしれません。必要な場合は後で堆肥を追加しても良いかと思います」


 ジョージさんは座りながら顔を綻ばせた。

「助かります。実は菜種用に手配した荘園も同じような状態なのです」

 俺は笑顔で提案した。

「一つだけ条件があります。菜種を刈った後の茎、油を搾った後の搾りかすはすべて捨てずに私の所に持って来てください」


 ジョージさんは不思議そうな顔をした。

「何に使うのですか?焚き付けですか?」

「違います。再利用するのですよ」


 ジョージさんは何も聞かずに頷いた。

 直径百メートル未満の荘園は麦では採算が取れないらしく、王都近郊でも放置されている所が多いそうだ。堆肥によって簡単に再利用できるのであれば、油や砂糖のような商品性の高い植物の栽培に活かせるかもしれないそうだ。

凄く派手な碁盤や目がちかちかする様な将棋の駒ができるかもしれません。

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