第140話:再びの湖沼地帯
出発まで時間があるので、先生の所に行き、前回と同じく俺は一度教会に行ってから女神の森に行くこと、女神の森で竹伐採の任命式を行うことを説明した。先生は俺が女神に代わって第三者への結界の一部への立ち入りを許諾することに驚いた。通常ありえないそうだ。
食堂でお弁当を受け取ってラウンジに戻ると迎えの馬車がやってきた。先頭の馬車から降りてきた伯爵に挨拶してから、魔法科学ギルドのことを話した。いつにもまして油ぎった銀髪が朝日にギラギラと眩しかった。
「娯楽ギルドに続いて新しいギルドの設立にかかわるとは素晴らしいご活躍ですな」
伯爵は素直に驚いてくれた。
「もしも鍛冶ギルドが興味ありそうならば、出資の話をつなぎますがどう思います?」
伯爵は両手を打ち合わせると首を縦に振った。
「新しいギルドは新しい利権に関わるチャンスです。商売人ならば無理やりにでも首を突っ込む所ですぞ」
軍も出来れば関わりたい所ではあるが、来年の総合演習の準備でそれどころではないらしい。バーニンさんには伯爵から連絡してくれることになった。伝言の内容は木工ギルドに話したのと同じにした。機密厳守であることを改めて念押しした。
みんなも乗車したので、俺も二台目の馬車に乗った。今日は全員で湖沼地帯に遠征だ。当然のごとく三平も俺達の班についてきている。平野からお買い物メモを押し付けられたようで、三平は頭を抱えていた。オーダーの種類が多すぎるみたい。
ちらっと見たら十種類位あった。太公望の竿は高機能だが、流石に狙った魚を狙い通りに釣るのは出来ないようだ。
「無理だよー」
到着する前から落ち込んでいる三平を励ましているうちに湖沼地帯に着いた。いつも通りロボも参上している。今日はトイレを設置するとともに、馬車を二台平行に並べて間にターフを張った。馬車の護衛組の休憩に使ってもらおう。
まずは冬梅に河童と一反木綿を召喚して貰った。地上は河童が、空からも藤原が監視するので、万全ではなかろうか。最初の水路にはジャイアントロブスターが一杯いた。三平が釣るのを見ているだけでは退屈なので、三平から竿を借りて皆で試してみたがやはり釣れなかった。
唯一の例外はヒデだった。ザリガニ釣りのキングが小学生の時の自慢だったらしいが、本当だったようだ。三十匹以上釣ったところで移動した。三平は一匹一匹仮死状態にしてから自分のアイテムボックスに収納していた。え?仮死状態ならアイテムボックス入るの?びっくりだな。
第二の水路にはキラーフィッシュが群れをなして泳いでいた。三平が竿を投じると入れ食い状態になり、三十センチ位のサイズを百匹くらい釣り上げた。釣り師の面目を見せた所で、夜神に交代した。何かひらめいたらしい。
夜神が鞭の先端を水の中に投じ、何やら呪文を唱えると、バチッという大きな音と共に青い火花が水中を走った。数秒後、大きな鰻や鯰や鯉が水面が見えなくなるほど浮いてくる。すかさず河童が水路に飛び込み、片っ端から放って貰い回収した。
夜神の馬鹿魔力あってこその技だな。ちなみに、電気でこれをやると多分違法です。念のため。何より危ないし。へたすると感電するよ。それでも電気鞭、いろいろ使いでがあるかもと思いながら湖を目指す。
湖に到着したが、特に何の感慨も無かった。砂浜の直前の草地に男女のトイレを設置すると共に、中間の位置にターフとロープと竹の棒で休憩スペースを作った。江宮と志摩が慣れた手つきで設置してくれた。キャンプ愛好家?
俺達が最後、ここに来たのは理由がある。ずばり、ウオーターシャーク狙いだ。三平が吊り上げた所を仕留めればほぼノーリスクで経験値が稼げると考えたのだ。エサはさっき釣り上げたジャイアントロブスターだ。水の中に放り込むと仮死状態が解けるようで、おいしそうな生餌の出来上がり!
時折、外道(大鯰、ストーンクラブ×2、ジャイアントタートルなど)を釣り上げたが、交代で休憩しながらウオーターシャークを釣り続けた。やはりジャイアントタートルはリリースした。
ウオーターシャークも五メートル以下はリリースしたので、仕留めたのは八匹だった。平井は念願のジャイアントタートルに乗ってリアル浦島太郎が出来たので(もう少しで溺れる所だったが)、ご機嫌だった。
ちなみにお昼ご飯はタコスだった。皮がまだパリッとしている所がアイテムボックスの力(時間停止能力)という感じがする。イタリアンなのにメキシコ料理までカバーするとは、改めて平野のレパートリーの広さを思い知らされた。
さらに驚いたのは飲み物だった。なんとカルピスだった。甘酸っぱい味が故郷の夏を思い出させてくれた。きっと平野は「自分が欲しいものを作っただけ」と言うんだろうな。
デザートはグレープフルーツのジェラートだった。爽やかな酸味とささやかな甘みの後から感じる独特の苦さが、甘いだけじゃない大人のデザートだった。
妖怪軍団と貝掘りをしたり(今回は、蛤も蜆も取れた)、なんだか充実の一日だった。三平も平野の宿題は終わったみたいで、のんびりとキスを釣っていた。藤原は一反木綿を馬に見立てて騎射の練習に励んでいた。さらに途中から鷹をティムして、空中からの映像を利用しながらの連携を試していた。単独では最強の狩人だな。
一条と木田もあきることなく昨日の特訓(?)を続けていた。きっとイメージだけは出来上がっているのだろうな。いつか完成するといいな。
俺は、砂を適量(十トンくらい)アイテムボックスに入れると洗浄&乾燥し、ほぼ同じ大きさ(直径0.3~0.5ミリ位)に揃えた砂粒を選別した。出来上がりは七トン位になった。多分これもいつか役に立つと思う。
ターフを片付けて帰ろうとしたら、その時が来た。皆倒れるように、座り込んでいる。レベルアップの反動だ。俺だけボケッと突っ立ているのも間抜けだが、皆に合わせて座り込むのも嫌だし、どうしたらいいのさ?
昨日のレイジングブルとワイルドボアの分もあるのだろうか、今回はレベル22からレベル25にアップしたそうだ。三十人で分け合っていることを考えたら、脅威のレベルアップではなかろうか。
今日も冒険者ギルドに買取して貰いに行った。ウオーターシャーク七匹とストーンクラブ一匹と大鯰で金貨二百五十枚にもなった。水系の魔物のインフレ率、高すぎると思う。イントレさんは久々に持ち込まれた傷の無いストーンクラブに大興奮だった。殻も防具の上質な素材として売れるそうだ。
サンドラさんにメモを渡し、俺達の奢りで盛り上がっている酒場を見渡すと、大型手裏剣を持っているのが一人、ブーメランを持っているのが一人いた。ちょっとづつ広まっているのかもしれない。
宿舎に戻るために馬車に乗ると、頭の中でアイテムボックスが点滅していた。チェックすると「堆肥が出来ました」というメッセージが流れた。フォルダを調べると、重さ六トンだって・・・。こいつもいつかどこかで役に立つはずだ、多分。
本日は大漁なり、なんちゃって。