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第135話:再びの草原3

 午後からはクレイモア御一行と一緒に狩りをした。再度一反木綿を召喚してもらったのだけれど、藤原のライディングはさらに進化していた。なんせ、一反木綿にはもう跨っていない。進行方向の前後に平行に足を置いてサーフィンのように二本足で立っていた。


 スカイサーフィンとでもいうのだろうか。空気抵抗がどうなっているか知らないが、一反木綿をサーフボード代わりに直立したまま自由自在に飛行し、さらに自分の身長より大きい長弓を引くのだ。時速八十キロ余りで飛びながら放たれる矢の威力は凄まじく、レイジングブル二匹を急所への一撃で仕留めていた。


 最後には空中でジャンプ&宙返りし、反転して戻ってきた一反木綿に着地するというサーカスまがいの離れ業を披露してくれた。これは興行としてお金が取れるレベルだと思います。


 もしも敵に回ったら・・・。たぶん誰も勝てそうにない気がする。

 例えばの話だが、高さ百メートルの真上から弓を射られたらどう防御するのか・・・。重力があるから上から撃つ分には威力は落ちないが、下から射る場合、百メートルの高さまで矢はおそらく届かない。届いても威力は無い。完全なアウトレンジだ。


 不意打ちやだまし討ちに等しい有利不利の差があると思う。護衛に付いてきた騎士も絶句していた。あまりの迫力に回りは一歩引いていたが、ぶれない人間がいた。平井だ。


「ユミちゃんばかりずるい!」

 平井もキングタートルに乗り降りした時に一反木綿に乗っているのだが、キングタートルの印象が強すぎて覚えていないそうなのだ。

 

 平井はサーフィンが好きな訳ではないようで、ごく普通にまたがってくれた。一反木綿には宙返りや背面は禁止、危なくない程度に楽しませてやってくれと耳打ちしたので、安心して見ていることができた。


 それでも遊園地のジェットコースター程度のスリルは味わえたと思う。まあ、レール無しでの空中散歩が楽しめるかどうかは本人次第だが、平井は満足したようだ。

「ゆかり、どうだった?」


 ちょっとどきどきしながら聞きました。後ろから洋子が足をゲシゲシ蹴ってくるのは無視しています。痛いけど。

「面白かった。一反木綿最高!」


 平井は最高の笑顔で今日のお楽しみに取っていた梅酒ゼリーを一反木綿に献上した。

「ウマイ!お前、いい奴」

 一反木綿は笑顔で還っていった。


 なんだか藤原の独り舞台で終わったような感じだが、それ以外でも遭遇したゴブリンの群れをヒデが咆哮で退散させたり、江宮が射程距離百メートルを超える超長距離狙撃を披露してくれた。


 気が付いたら日が西に傾いている。赤いボールがピコピコ鳴ったので馬車に戻った。先に戻っていたガーディアンの連中から殺気の残滓が感じられたので聞いてみると、オーク三匹と遭遇したそうだ。


 花山が咆哮で挑発し、盾で防御している所を楽丸と千堂が左右から攻めて仕留めたそうだ。ストーンクラブの時と同じパターンだな。それ以外は角兎を数頭しとめたのことだった。


 江宮が射たワイルドボアをはじめ、レイジングブル三頭、オーク三頭があるので、冒険者ギルドに行くことにした。今日はギルドの酒場で何か食べてみたいと言われたので、一品だけと条件を出したが、なぜ俺に聞くんだ?


 馬車に揺られながらアイテムボックスを操作して、レイジングブル二頭とワイルドボアも解体する。角兎とオークは羽河が持ったマジックボックスの中に入っているので、そのまま納品しよう。


 冒険者ギルドに着くと、いつも通り裏口から解体場に入った。今日はイントレさんが椅子から立ち上がって笑顔で迎えてくれた。髭だらけの顔の中で光る水色の目も柔らかい。回りには部下と思しき若い衆が四~五人、思い思いの格好で休んでいた。


「よう、坊主たち。おおっと、今日の引率は伯爵じゃなくて炎獄か。まあいい、昨日木工ギルドがテーブルと長椅子を持ってきたぞ。お前たちが手配したそうだな。遠慮なく貰っておくぞ。まずは礼を言っておく。ありがとうな」


 解体場には真新しいテーブルが四個と長椅子が八個並んでいた。木工ギルドは約束通り、昨日納品してくれたようだ。天板のサイズを縦二メートル・横四メートルにしたので、二個並べると四メートル四方の正方形、四個並べると四メートル×八メートルの長方形になる。


 別に俺達が壊した訳ではないのだが、なんとなく責任を感じて木工ギルドに発注していたのだ。とにかく頑丈に作ってくれと頼んだので、武骨だが実用的に出来てるみたい。それより炎獄ってイリアさんのこと?どういう意味なのだろうか?


 イリアさんが氷の様に冷たい声を出した。

「その二つ名はやめてくれと何度も言ったはずですが・・・」

 イントレさんは頭をガリガリ掻くと素直にあやまった。

「すまんすまん。そうだったな。その分買取をはずむから勘弁してくれ」


 まずはレイジングブル三頭だ。用意して貰ったパットに仕分けした肉を並べていく。毛皮・角・蹄など食べられない部分は床に置いた。血はでかい壺に入れた。

 平野には一頭分のヒレ・サーロイン・ロース・赤身・肝臓・腎臓・ラードを持って帰れば十分だろう。ついでに内臓を幾つか太郎用に持って帰ることにした。何に使うのか分からないけれど、欲しがったので利根川に尻尾一本と角と睾丸を一頭分渡した。


 イントレさんは眼をむいて驚いた。

「こいつはレイジングブルの特上、それも二~三頭分あるな。一発で仕留めているから肉がきれいだ。血抜きも完璧で仕分けも見事、掃除もちゃんとしてある。てめえら、これが本当の仕事だ。目をかっぽじってよく見ておけ」


 部下の皆様から尊敬のまなざしを頂きました。次にマッドボアを出した。これも急所のみ攻撃して仕留めていることを絶賛してくれた。重さ二トンを超える巨体なので、肉もたっぷりある。ロースだけおみやげに持って帰ることにした。


 最後にオーク三頭を羽河がマジックボックスから出した。こっちも状態が良いと褒めてくれた。ほぼ一撃で仕留めてすぐにマジックボックスに入れたからだろう。角兎はおみやげに持って帰るそうだ。


 イントレさんは紙に乱暴に書きつけると、イリアさんに見せた。イリアさんは一瞬考えてから俺に渡してくれた。相変わらず俺には読めないが、納得の金額だったようだ。

「狩りも解体も見事なもんだ。新鮮だから血まで売り物になるぞ。肉屋でそのまま客に売れるレベルだ」


 褒められたのでマッドクラブを一杯出した。

「ありがとうございます。これは皆さんで召し上がってください」

 ついでにウイスキーを熟成するときに余った原酒をボトル一本分ほど水で倍に割って出すと、さらに熱い歓声が沸き上がった。


「こいつは良い具合に蒸してあるな。坊主、分かっているじゃないか。次は引率無しで来な。男同士でとことん飲み明かそうぜ」

 顔中をくしゃくしゃにして喜んでいるイントレさんに手を振って引き上げた。


 表に回って冒険者ギルドの玄関前に立つと中の喧騒がもれてきた。今日で三回目になるだろうか。少し余裕が出来たので、扉の前で迷っている風のイリアさんの右腕に左腕を絡めて強引に入った。抵抗したらあきらめようと思っていたが、イリアさんは腕を組みなおすと素直についてきた。

イリアさんを連れて冒険者ギルドへ入場です。どうなることやら。

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