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第134話:再びの草原2

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 俺たちは藤原に誘導されて北に移動した。百メートルほど移動した所で、初音が皆を止めた。

「いるわ。多分レイジングブル。大物よ」


 俺達が戦闘準備にかかったのを確認したのか、藤原は一気に降下すると、何かに弓を射かけた。ブモーという咆哮と共に真っ黒い何かが暴れ始めた。藤原は地上ぎりぎりでひらひら左右に移動しながら、こっちに誘導しようとしている。


 レイジングブルは何度も藤原に突撃をかけるのだが、その度に寸前でかわされて空振りを繰り返す。まるで闘牛を見ているようだった。文字通り蝶のように舞い蜂のように刺している。怒りのボルテージが最大になったレイジングブルが俺達の目前に現れた時には、既に左目は矢で潰されていた。


 ここまでくればいつも通りの配置を取るだけだ。洋子と冬梅は後方に待機し初音はその護衛、俺とヒデは正面に立ち気勢を上げ、一条は右から回り込んでチャンスをうかがう。頭に血が上ったレイジングブルは俺達を見つけると、一気に突っ込んできた。


 さあぶつかると思った寸前、右から飛び込んできた一条の銀刃が一閃、哀れレイジングブルの首は胴から切り離され宙を飛び、俺達の目の前に落ちた。口から血の混じった泡を吹き、血走った目が虚空を睨んでいる。

 胴体は首の無いまま数歩走ったが、電池が切れたみたいに足が止まるとばったり倒れた。血がどくどくと断面から噴き出して草原を真っ赤に染めていく。


 何度やってもこの匂いは慣れないなあと思いながら、体長六メートルを超えるレイジングブルの頭と胴体をアイテムボックスに収納した。そのまま血抜き皮剥ぎ解体のコースを選択する。全自動でやってくれるからとっても楽です。


 地面に降りてきた藤原が一条をねぎらっていた。一撃で巨大な牛の首を落とすのはインパクトあったみたい。俺は我ながら異端すぎるアイディアを藤原に提案した。

「藤原、俺をティム出来るか?」


 藤原は驚いた顔で俺を見た。

「なんで?」

「いや、ティムすると感覚の共有や指示が出来るんだろ。テレパシーの代わりになるんじゃないかと思って」

「人をティムするとか考えたことも無いけど、無理じゃない?」


 確かにティムは人が下位の動物を使役するための魔法だ。同格の存在である人間同士でかかるはずがないのだが・・・。結論を言えば、出来てしまった。ティムがかかると同時に藤原が女神様のように輝いて見えた。


 この人のために尽くしたい、全てを捧げたいと思う主観的な俺と、そう思う俺を面白そうに眺めている客観的な俺という二つの人格が共存する感じ。俺の目は藤原の目となり、俺の目には藤原の声が聞こえた。しかし・・・。


 藤原の見えている物は俺には見えなかった。ティムは基本的に上位下達のシステムみたい。俺はがっかりした。中途半端過ぎるぜ。藤原がティムを解いてから慰めてくれた。


「ティムって、格の差がなくても相互に信頼や好意、愛情があれば成立するみたい。人間同士なのにティム出来るって凄いことだと思うよ」

 藤原の後ろで聞いていた洋子の顔が般若の顔に変わっていくのを俺は見つめることしかできなかったが、ここで一反木綿が声を出してくれた。


「腹減った。なんかくれ」

俺はすかさず問いかけた。

「目玉、食べるか?」


「食べる」

 解体が終わった中から目玉を一つやった。

 まるのみした。


「鼻、食べるか?」

「食べる」

 解体が終わった中から鼻をやった。ガツガツ食べた。鮫みたいな歯が見えた。


「舌、食べるか?」

「要らない。お腹いっぱい」

 どうやら満腹になったようだ。一反木綿は機嫌よく還っていった。ちょっとホラーなお食事タイムのお陰で洋子の怒りはそれたみたい。助かったぜ。


 丁度赤いボールがピコピコなったので、俺達もお昼を食べに馬車に戻ることにした。俺達のパーティが一番最初に戻ったのだけれど、どこで食べようかな?もちろん日陰はあるのだが、木が小さくて馬をつないでおくだけで一杯だ。


 俺はしばらく迷ったがアレを使うことにした。まずは二台の馬車を五メートルほど開けて平行に並べる。注意するのは風が通り抜ける方向をあけること。そして 馬車の屋根と屋根の間に竹を渡し、ずらりと並べてロープで固定した。敷物を広げたら、臨時の休憩所の出来上がりだ。


 準備が出来た頃、残り二つのパーティも戻ってきた。竹張り屋根の休憩所を見てみんな喜んでいる。気持ちの良い風が吹き抜けているので、日陰ならばそれほど暑くなくて快適だった。


 今日のお昼ご飯はローストビーフのサンドイッチだった。ここのところ魚関係のメニューが多かったから、ちょっと嬉しかった。がぶりと噛みしめるとパンの間から肉汁のうま味が溢れてくる。黒胡椒の香りが鼻を抜け、マスタードの絡み&酸味が舌を素激する。これもお供えしようかな。


 デザートはほんのりピンク色をした梅酒のゼリーだった。梅の酸味と香り、そして砂糖の甘さが三位一体となった大人のデザートだった。これもお供え候補に入れよう。今日のお昼も警備の騎士やイリアさん達に大好評だった。


 他の二つのパーティは特に目ぼしい獲物はなかったとのことだが、利根川は薬草の他でだんご虫をはじめとする昆虫採集に励んだそうだ。

 短時間でそれなりの収穫があったそうで、満足そうな顔をしていた。動植物の数が膨大な森林地帯に行ったら大騒ぎするんだろうな。


 みんなの前で洋子と初音が藤原の大活躍を身振り手振りで説明すると、みんな大喝采だった。警備の騎士も感心していた。騎乗して馬を走らせながらさらに動く獲物に弓を当てられるのは、近衛クラスのエリートだそうだ。


 別の意味で食いついたのは平井だった。

「絶対乗りたい!」

 目が爛々(らんらん)と輝いていた。何かいろんな意味でこいつは間違えているような気がする。


「タカシ、私達のパーティも午後から同行するからね」

 いつの間に俺が名前呼びの対象になっている。

 回りのいぶかし気な視線に気が付いた平井はどもりながら言い訳した。

「だ、だって、私だけ名前呼びされるのは、不公平でしょ?」


 そ、そうなのか?確かに片方だけ名前呼びされるのはおかしいような気もするが、その前に肩をぐるぐる回している洋子から逃げ出した方がよさそうだ。

主人公は無事ティムされました。何を考えているのか・・・。

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