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第132話:雑貨ギルドと交渉

 宿舎に戻るとカウンターから呼ばれた。

「雑貨ギルド様がお待ちです」

 思ったより早く来たなあ。念のため羽河を呼ぶようにお願いしてから急いで会議室に向かった。


 部屋に入るとニエットさんと従者の他に中肉中背の初老の男性がいた。輝くような銀髪に深い緑色の目、一分の隙も無い完璧な着こなしがいかにもエリートといった感じ。挨拶のために近寄ると、ニエットさんが紹介してくれた。


「お忙しいところ突然の訪問で申し訳ございません。紹介いたします。我が雑貨ギルドの長であるフライ・ペッパーでございます」

 初老の男性はいかにも上流階級と言った感じの華麗な礼を決めると、にこやかに挨拶した。


「先日から数々の素晴らしい商品のライセンスを頂き、誠にありがとうございます。お陰様でお得意様には大変ご好評をいただいております。本日は納品があるとのことで、無理を言って同行いたしました」


 俺は俺にできる最高の敬意を込めて礼を返した。

「ご丁寧なご挨拶をありがとうございます。こちらこそいつも無理なお願いをかなえて頂き深く感謝しております」


 まずは納品という事で、ラーメン丼・丼・マグカップ・ワインボトルを各五十個預かった。平野と江宮を呼んで、検品して貰う。検品が終わるまでの間、次の商談だ。

 俺はまず、テーブルに光闇・戦陣・大逆転の盤と駒を並べた。


 フライさんは面白そうな顔をしながら聞いた。

「これは新しい遊戯でしょうか?」

「実は娯楽ギルドという新しいギルドを作って、遊戯盤を新規に販売することになりました。この三種類の遊戯の盤と駒を作って頂けませんか?」


 俺は三種類のゲームの概要を説明して、既に原木は木工ギルドに預けていること、光闇の駒のみ白と黒の石で作って欲しいことを頼んだ。

 フライさんは笑顔でこたえた。


「まずは見本をお預かりして検討させて頂きます。木工ギルドとの基本的な分担ですが、原型は木工ギルド、彩色と仕上げは雑貨ギルドということでよろしいでしょうか?」


 俺は詳しく説明した。

「それで結構です。駒は専用の蓋付き箱に入れ、盤と取説と合せて外箱に入れた状態で納品をお願いします。大逆転用の取説は現在作成中ですが、ページ数が少ないので、冊子ではなく広目の紙を折ったものでも結構です」

「かしこまりました。駒箱・取説・外箱も必要ということですな。承ります」


 フライさんは再度聞いてきた。

「戦陣と大逆転の駒は木製なのに、光闇の駒のみ石を使うのはなぜでしょうか?」

「音です」


 俺の返事にフライさんとニエットさんは疑問に思ったようだが、検品が終わったので、一時中断した。

「ラーメン丼・丼・マグカップの検品終わり。問題なし」

「ワインボトルの検品終わり。問題なし」


 平野も江宮も問題なかったので、検収完了とした。平野はそのままラーメン丼・丼・マグカップを自分のアイテムボックスに入れて食堂に引き上げたが、江宮にはそのまま残って貰った。ワインのボトルは俺が預かっておく。

 まずはお礼を言っておく。


「いつも素晴らしい出来上がりで、かつ短い期間で作って頂き、感謝しております」

 フライさんはにこやかにこたえた。

「こちらこそ江宮様に鍛えられたお陰で、工房の質が一段階上がりましたぞ」


 江宮がきまり悪そうな顔をして頭を掻いた。

 ニエットさんが笑いながら、話題を変えてくれた。

「話を戻しますが、先ほどの『音』とはどういうことでしょうか?」


 江宮が俺に代わってこたえてくれた。

「光闇の場合、石を置くのではなく、『打つ』と表現することがあります。そのためには石の方が気持ちの良い音が出るのです」


 江宮が石を右手の人差し指と中指で挟んで盤を叩くように置いた。『パチ!』という大きな音に二人は納得してくれた。

「了解しました。置く、のではなく打つ、のですな。納得です」


 三種類とも見積もりを取って貰うことにした。生活向上委員会と軍で出資して娯楽ギルドを作ること、遊戯盤の製造は娯楽ギルドが行い、販売は商業ギルドにまかせること、初回ロットは千以上であること、遊戯を広めるためにカップ戦を開くことを伝えるとフライさんの顔が引き締まった。


「そこまで話が決まっているのであれば、今から当ギルドが製造以外で介在する余地は無いかと思いますが、今後新しいギルドを検討されることがあれば、是非お声がけをお願いします」


 新しいギルドは即ち新しい利権であり、それに関われるかどうかはたいそう大きな問題なのだそうだ。フライさんのあまりに真剣な目に怖れを感じた俺の回答は一つしかない。

「検討させて頂きます」


 続いて化粧瓶とクリーム瓶の見本を取りだした。蓋はコルク式になっているものだ。

「商業ギルドから女神のシャンプー・女神のリンス・女神の化粧水・ハンドクリーム・日焼け止めクリームを販売することになりました。シャンプー・リンス・化粧水は縦長の瓶を、クリームはこちらの背が低い方を使います。製品の使い分けは表に張るラベルで行います。この瓶を作って貰えませんか?なお、実際の発注は商業ギルドからとなります」


 二人は化粧瓶とクリーム瓶を手に取って眺めて感嘆した。ラベルを見せるとさらに驚いた。

「いつもながらデザインの見事さに驚きます。ラベルもまた美しいですな。まるで芸術品のようです」


「ラベルはそれを複製して使ってください。商業ギルドにはこの瓶を使うように指定しますので、納品価格等については商業ギルドとご相談をお願いします」

「委細承知しました。この瓶のライセンス料は各金貨三十枚でよろしいでしょうか?」


 俺は笑顔で承知すると、続けて蓋がねじ式になった容器を取りだした。

「同じ形に見えますが・・・?」

 蓋を回して外すと、二人は驚愕した。


「こ、これは何ですか?」

「ねじ式の蓋です」

「これを作れと仰るのですか?」


 声が裏返ったニエットさんにこたえた。

「今すぐではありません。どちらかというとこのねじ式の蓋をライセンスしましょうか、というお話です」


 二人に容器を預けると、蓋を開けたり閉めたり、容器と蓋が重なるねじねじの部分を観察した。参考までにと断ってから、水差しの水を入れて蓋を閉め、逆さまにしても水がこぼれない様を見せると大げさに感心していた。


「デルザスカル大陸全土へのサブライセンス権込みで金貨千枚でいかがでしょうか?」

 俺の提案にフライさんは笑顔でこたえた。

「かしこまりました。金貨千枚で承ります。技術指導込みでお願いします」

「技術指導については、出来上がった見本の評価とアドバイスでよろしいでしょうか?」

「それで結構でございます」


 俺とフライさんは立ち上がって握手した。いつの間にかこの風習も広まっているみたい。化粧瓶とクリーム瓶の別紙の雛形、ねじ蓋の契約書の雛形、遊戯盤三点の見積もりは出来次第持ってきてくれることになった。見本を箱に大事そうに納めた雑貨ギルドの二人を見送った後で、江宮に熱吸収の論文の下書きを依頼した。


「論文なんか書いたことないぞ」

「そこまで大げさじゃなくていいんだ。レポートと思って書いてくれ。先生の将来がかかっているんだ」

「分かった。それならいいぞ」


 厨房のリフォームに関しては既に、江宮・利根川・志摩・俺でプロジェクトチームを組んだそうだ。俺、全然聞いてないんだけど・・・。食堂に一番近い会議室を作業場所として使うことも許可が降りたとのこと。なんか話がどんどん大きくなっていくな。


 食堂に行く前に利根川の地下室に寄った。相変わらず、合言葉が必要だった。

「合言葉を言え、機動武闘伝」

「ガンダムファイト」


 ガンダムファイトは、ガンダムシリーズの中ではかなり異色の作品だ。とりあえず扉が開いたので、良しとしよう。利根川はなぜか上機嫌だった。

「ゴムのライセンスが売れたんだって?」

「おう、金貨千枚だ」

「デザインが一点当たり金貨三十枚で買い取りだって?」

「おう、百点売れたら金貨三千枚だ」

「たにやん、よくやった!流石は私が見込んだ男ね」


 これが上機嫌の原因か。それならついでに言っておこう。

「まだあるぞ、今雑貨ギルドとねじ蓋のライセンスが金貨千枚で決まった」

「あんなのでお金になるの?」


 利根川は飛び上がるように立つと嫌がる佐藤を無理やり立たせて踊りだした。多分あれは本当は俺に抱きつきたいのをごまかしているんだと思う。佐藤はそれが分かっているのだ。


 俺は二人をほっておいてさっき受け取ったばかりのワインボトルを五十本出した。

「二十年物用のワインのボトルができたぞ。詰め替えを頼む。ラベルはこの前預けた奴を使ってくれ。三十六本は王女様に贈ってくれ」


 利根川は踊りながら返事をしてくれた。

「やっておくわ。ブーツの消毒薬と水虫の薬はもう少し待ってね」

 俺は手を振って了解の合図を送ると、地下室を後にした。


 今日の晩御飯は魚のフライだった。魚であることは分かるのだが、今まで食べたことの無い味だった。淡白で上品な白身だけどわずかにピンク色がかかっている。タルタルソースとの相性も良かった。テーブルによってきた平野がにこにこ笑いながら説明してくれた。


「それはウオーターシャークのフライだよ。思ったよりいけるでしょ」

「鮫か・・・でも全然臭くない。上品な白身魚そのものだ。言われなきゃ全然分からなかった」

「機会があったらまた釣ってきてね」

「分かった」


 工藤が隣のテーブルにいたので、今日の遠征の様子を聞いた。なんといっても藤原が大活躍したらしい。野生馬をティムし、騎乗して弓で無双したそうだ。灰色狼程度なら一発で仕留めてしまうらしい。


 マジックボックスを持っていくのを忘れたので、牛などの大物は狩らなかったが、投擲型の武器(ブーメランと手裏剣)やスキルを実戦で試すという意味では有意義だったらしい。


 デザートは夏みかんのゼリーだった。レモンとはまた異なる鮮烈な酸味の後に来る佐藤の甘味が爽やかで、今の季節にぴったりのデザートだった。これもお供えしよう。


 部屋に戻って窓を開けボンゴレ・ビアンコと夏みかんのゼリーとレモングラスのお茶をお供えした。目を瞑ると、「美味うまし」の声と共にペタンという音が聞こえた。なんだろう・・・何か寒気がするのだった。

ねじ蓋のライセンスで金貨千枚獲得しました。

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