第128話:商業ギルドと打ち合わせ2
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俺はジョージさんに笑顔で頷いた。今度はこちらからの提案だ。まずはテーブルの上にリバーシの盤と駒を置いてルールを一通り説明した。
「これが遊戯盤の第三弾、大逆転です。ルールが簡単なので、子供でも遊べます。掛率は光闇や戦陣と同じでよろしいですか?」
ジョージさんは面白そうに笑った。
「ルール的には光闇や戦陣よりはるかに簡単ですな。原価的にも安く上がりそうです。誰にでも分かりやすくて良いと思いますぞ」
ジョージさんの反応は悪くなかった。
「遊戯盤の価格はどの位が適切と思いますか?」
「光闇や戦陣の半分から三分の一くらいが適切かと思います」
俺に異論はなかった。
次は江宮の出番だ。まずはテーブル横の床に器械を一個づつ出していく。
「冷蔵庫・冷凍庫・製氷機・加湿器・食器乾燥機です」
驚愕している商業ギルドの皆様に、江宮からそれぞれの器械の目的や特徴を説明して貰った。
「冷蔵庫は、水が凍らない程の温度で食べ物や飲み物を保存できる器械です。肉や魚、野菜や果物、調理済みの料理、飲み物などを一時的に保存するのに適しています。ただし腐敗防止の魔法はかかっていないので、朝作ったご飯を夜食べる位の利用が無難です。一定の温度で保管できるので、飲食品以外には薬草・薬・ポーションの保存にも適していると思います」
「冷凍庫は、肉や魚などを凍らせて保管する器械です。凍らせるので、冷蔵庫よりは長期保存できますが、それでもせいぜい一~ニか月を目安にしてください」
「製氷機は、氷を作る器械です。中は冷凍庫と同じなので、作られた氷はそのまま保存できます。大きな料理屋さんなどに需要があるかと思います」
「加湿器は、冬場乾燥した時期に室内の空気の湿度を保つ器械です。乾燥した空気は肌を痛めるだけでなく、喉も傷つけるので、風邪の予防にも効果があると思います」
「食器乾燥機は、洗い終わった食器を熱風で自動的に乾燥させる器械です。タオルを使ってふき取るよりも、熱風で乾燥させた方が衛生的にも良いと思います」
「いずれもマジックボックスや魔法があれば必要の無い器械ですが、マジックボックスは家一軒買えるほど高いし、誰でも魔法を使えるわけではないので、これらの器械もそれなりに需要はあると思いますが、どうでしょうか?」
江宮はニ刻程、女の子達から質問の雨にあった。へとへとになった江宮を見て、やはり江宮を連れてきて正解だったと俺は胸を撫でおろした。江宮、すまん・・・。なぜか女の子達は加湿器に一番食いついた。
「冬場になると肌や髪が乾燥して大変なんです」
なのだそうだ。最後に面白い質問が来た。
「なぜ、これらの器械の色はみんな白なんですか?」
俺は江宮と羽河と顔を見合わせてから答えた。
「加湿器を除くと、台所に置くことが殆どだからですね。やっぱり色が白いほうが、清潔で新しく見えるからだと思います」
「器械も色が大事なんですね。勉強になります」
ジョージさんは一連のやり取りを黙って聞いていたが、最後にぽつりとつぶやいた。
「いずれの器械もクーラーやドライヤーの原理を応用したものとお見受けします。皆様は魔法の無い世界からお越しなのに、我々よりはるかに魔法を使いこなしておられます。正直申し上げて驚嘆しております。今更ですが、生活を便利にするという視点で魔法を見てこなかったことに気づかされました」
俺はつい言ってしまった。
「それならば、これから魔法科学研究所を作り、魔法学校にも魔法科学部を作って、新しい器械の研究・開発を民と官で進めて行けばよろしいのではないのでしょうか。技術的な面で私たちから直接の支援はできませんが、適任と思われる方を推薦できると思います」
ジョージさんは驚いたような顔で俺を見ると笑い出した。
「そこまでお考えですか・・・。驚いている場合ではございませんな。ドライヤー・ランタン・クーラーと合せると既に八つの商品を確保したわけです。魔法科学ギルドの未来は明るいと考えました。これらは見本としてお預かりしてよろしいですか?また、技術的な指導を頂ける方は厚遇させて頂きます。是非、ご紹介をお願いします」
俺は笑顔でこたえた。
「どうぞ持ち帰ってご検討くださいませ。人材については、時期が来れば紹介できると思います」
ジョージさんは顔を引き締めてこたえた。
「次回訪問時にはゴムの契約書の雛形と五種の器械全ての別紙の雛形をお持ちするかと思います。各器械のライセンス料はこれまでと同じく10%でよろしいですか?」
ジョージさんの申し出を拒む理由はない。ついでにあれを提案しておこう。
「もちろん10%で結構ですが、追加で一つご相談があります。生理ショーツとナプキンを無償にした代わりではないですが、スカート・パンツ・バッグ用に当方で考案した新しい絵柄や模様を今後買い取って頂けませんか?」
ジョージさんはいぶかしげに聞いた。
「先日、白鳥宮で拝見した衣服の柄は素晴らしかったと思いますが、あれ以外にもあるということでしょうか?」
「もちろんです。あわせて先日、白鳥宮でお見せした柄二点は無償で公開するという事でいかがでしょう?」
女の子達が色めき立った。
「素晴らしいです。シャツ、ジャケット、カーテンなどスカートとパンツ以外にもたくさん使えそうです」
「バッグが無地では寂しいと感じておりました。バッグ用の柄をご提供くださいませ」
「季節ごとに新しい柄を出せば、流行になると思います。是非お願いします」
ジョージさんは三人をなんとか抑えると、買取の意味を聞いてきたので回答した。
「デザインの場合は販売数をカウントするのが難しいので、意匠料としてデザイン一点ごとに金貨三十枚で買い取って頂くのはいかがでしょうか?」
ジョージさんは、真剣な顔で聞いた。
「金額的には問題ありません。買い取ったデザインは自由に使えるということでよろしいですか?」
俺が了解すると、女の子達が拍手してくれた。これで利根川に約束させられた穴埋めが出来そうだな。
五台の器械はリタさんのマジックボックスになんとか収まったので、商業ギルド様ご一行様は笑顔で帰っていった。
異世界でも家電の色は白が基本になりそうです。