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第125話:木工ギルドと打ち合わせ

評価とブックマーク、ありがとうございます。

 7月13日、日曜日。昨日と同じく雲一つない空が広がっている。今日も暑くなりそうだ。ランニングが終わって帰ろうとしたら、玄関先に馬車が来た。楽器ギルドがチェンバロの回収に来たので、運び出しを手伝った。アイテムボックスって重たいものを移動させる時にほんと便利だな。


 ラウンジに戻るとカウンターから声がかかった。今日の夕方、商業ギルドが訪問とのこと。予想通りだな。

 朝ごはんを食べに食堂に行くと、平野に呼ばれた。厨房に入ると樽が三つ置いてある。匂いを嗅いで俺は聞いた。

「もうできたのか?」


 平野は笑顔でこたえた。

「まだまだ。塩漬けにしただけだよ。たにやん、熟成してくれない?」

「分かったけど、もしかして三種類?」


 平野は笑顔で頷いた。

「うん、とりあえずアジ・マッドクラブ・ジャイアントロブスターの三種類で作った。うまくいきそうなら、ストーンクラブも試してみたいな」


 それぞれ内臓を除き、きれいに洗ってからたっぷりの塩で漬け、マッドクラブとジャイアントロブスターは殻も砕いて入れたそうだ。少量だが麦で作ったこうじを入れているのだが、この糀の作成に時間がかかったみたい。もちろん、平野でもアイテムボックスで熟成は出来るそうなのだが、容量がすでに限界なのだそうだ。


「熟成期間はどうする」

「とりあえず一年で」

 俺は黙って頷くと、三つともアイテムボックスに収納して熟成を開始した。もちろん定期的に攪拌するようにセットしておく。ついでに、完成品を入れるための小樽を三個預かった。うまくいけば、いよいよあれができるのだ。楽しみだな。

 マッドクラブ(蒸)が無くなったそうなので、五杯渡した。ついでに大鯰の残りの半身も渡してくおく。こいつはフライにするとうまいんだよな。


 今日の朝ごはんは意表をついてちらし寿司だった。メインの具はキングメタルクラブだ。マッドクラブがズワイガニ系の上品な甘みならば、キングメタルクラブの身はタラバガニに似た濃厚な味わいがあった。


 残念ながら御飯がタイ米のような感じでちょっとぱさぱさもさもさするんだけど、ワインビネガーを使った酢がうまくカバーしてくれた。洋風チラシ寿司といった感じ。角切りの厚焼き玉子に各種野菜の細切れと色どりも鮮やかで朝から贅沢な気分になれた。


 添えられていたのはキングメタルクラブの蟹味噌を使ったスープだった。溶き卵とネギみたいなハーブを浮かべただけで、出汁も何も使っていないのに圧倒的に深くて濃い味わいがあった。


 飲み物も日本茶に似たちょっと苦いけれど香りのよいお茶が用意されていた。しみじみ味わいました。これはこの世界に無い味だと思って、平野に頼んで今日のお供え用にちらし寿司&蟹スープと合せて一人分確保したのだった。


 ご飯を食べてラウンジでのんびりしていると、江宮がやってきた。雑貨ギルドに渡すための碁盤&碁石、将棋盤&駒、リバーシ盤&駒の見本ができたそうだ。謹んで預かっておく。冷蔵庫・加湿器・食器乾燥機・冷凍庫・製氷機もほぼできたそうだ。楽しみだな。


 今日のミドガルト語の講義は始まる前に、先生からお話があった。

「昨日の夕食後の朗読会は私にとって至福の時間でした。生徒が己を高めるために自ら創意工夫して取り組むさまを見るのは、教える側にとって最大の喜びです。皆様に出会えたことを心から神に感謝します」


 先生がなぜにそこまで感激しているか分からないが、なんとなく良い雰囲気で授業は終わった。ラウンジに戻ると玄関先が騒がしい、木工ギルドが納品に来たそうだ。とりあえず会議室を抑えてから外に出ると、でかい荷馬車が二台停まっていた。上に乗っているのは先日発注した移動トイレだった。


 馬車の前ではデカルドさんと熊のようにでかい男が待っていた。背の高さは鍛冶ギルドのバーニンさんに負けているけど、体の厚みは倍くらいありそうだった。濃いカーキ色の髪に透き通った青い目。簡単に挨拶を交わした後で紹介してくれたが、なんと木工ギルドのギルド長ということだった。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでごわす。木工ギルド長のスライ・ダックスでごわす。竹の件では多変お世話になりもした」

 西郷隆盛を思わせる口調が新鮮でした。


 まずは移動トイレの中をチェックしてから検収書にサインした。デカルドさんが改まって告げた。

「報告が遅れましたが、先日注文されたお品も明日納品の予定です。検収書は先方に署名して貰いますので、後で発注書だけ署名をお願いしますぞ」

「了解しました」


 移動トイレを二台ともアイテムボックスに収納すると、スライさんは感嘆していた。わざわざギルド長もいらっしゃるので、宿舎にご招待する。


 羽河を呼んでくるようにお願いしてから会議室に入った。何も言わなかったけれど、人数分のお茶がすぐに運ばれてきたのはありがたかった。デカルドさんはいきなりギルド長を連れて来たことを恐縮していたが、あのことを相談するには丁度いいかも。発注書に署名してから話しかけた。


「せっかくなので、仕事のお願いをしてもいいですか?」

「どうぞどうぞ」

 ギルド長のスライさんは満面の笑顔でこたえた。


「まずは酒樽を作ってください。樫の原木を一本お渡ししますので、それで作れるだけお願いします」

「かしこまりました。荷台を連結しますので、本日持って帰ります」

「それとは別に水楢ミズナラの原木も二本預けます。これについてはいずれ雑貨ギルドさんから仕事が入るかと思います」

「あの馬車には重量軽減の魔法をかけております。ご安心くだされ」

 

 デカルドさんはにこにこ笑いながら受けてくれた。お代はこれまで通り、全て王宮に請求するそうだ。丁度羽河も来てくれたので、今後に備えて考えた新しい設備について打ち合わせる。全て俺の要望に合わせて作ってくれるそうだ。


 最後に竹の伐採権について提案した。デカルドさんとギルド長は心底驚いたようだった。

「竹を切り出す権利を無料で譲っていただけるのですか?」

 俺は笑顔で頷いた。

「そうです。ただし、特定の二人だけに限定します。担当者が決まったら連れてきてください。私が女神様に代わって任命します」


 二人はここでまたのけぞった。「女神様に代わって」の所がインパクトがあったみたい。デカルドさんが裏返った変な声でたずねた。

「それはつまり女神様が権能の一部をタニヤマ様にお預けになられたということでしょうか?」


「そこまで大げさじゃないですよ」

 と笑ってごまかしたが、冷や汗が背中を伝うのが分かった。デカルドさんは覚悟を決めた顔で尋ねた。

「入会権を無料で頂ける条件をお伺いします」


 俺は頭を掻きながらこたえた。

「実は近い将来に王都で大きな商売が始まると思うのですが、そのためには安価な竹串が大量に必要なんです。ご協力いただけませんか?」


 デカルドさんは不思議そうな顔で聞いた。

「大きな商売が始まるのであれば、なおさら自分たちで独占した方が利益が大きいのではないですかな?」


 俺は言い訳のようにこたえた。

「あまりこういうことは言いたくないのですが、利益ばかり追いかけるとどこかで足をすくわれますから・・・」


 まだ何か言いたそうなデカルドさんを抑えて、スライさんがまとめてくれた。

「そういうタニヤマ様だからこそ、女神様も任命権をおまかせされたのでしょうぞ。あの竹は家具や食器の材料としてたいそう有望でごわす。このような機会を与えてくださったことに深く感謝するとともに、王都での新しい商売に全面的に協力することを約束しますぞ。今後とも木工ギルドをよろしくお願いしまする」


 俺は立ち上がって礼を言った。担当者が決まったら連れてくるように再度お願いしてから一緒に外に出る。荷台の連結はすぐに終わったので、樫の木を一本と水楢の木を二本、荷台に置いて見送った。お土産(蒸し蟹)を渡しそこなったけど、いいよね。

 材木を運ぶのは慣れているのだろうか、御者は長さ十メートルを超える原木を乗せた荷台を見事に操っていた。トレーラートラックみたい。


 ラウンジに戻ると羽河が待っていた。

「ごめんな。急な話で。それと商業ギルドが今日の夕方来るって」

「商業ギルドは別にして、焼き鳥チェーンも具体化できるんならいいんじゃないの?でも・・・」

「でも、何?」

「前も言ったけど、先走り過ぎよ」

 俺にできることはひたすら謝ることだけだった。

これで焼き鳥ギルドもスタートできそうです。

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