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第123話:女神の森4ー2

 よれよれの状態で馬車に戻った。アイテムボックスに入れていたお茶を飲むと少し落ち着いた。とりあえず冬梅に聞いてみる。

「大丈夫か?」


 動き出した馬車の中、冬梅はあきれた顔でこたえた。

「僕にそれを聞く?たにやん、顔がまだ青いよ」

「す、すまん。心配かけて」

「おっつあん、それは言わない約束よ」

 なぜだか小山が背中をさすってくれた。これは何のコントだ?


 冬梅は自分と相性の悪いのをぶと大事になることは既に小山から聞いたそうだ。まずは一安心。

「おめでとう冬梅、召喚のスキルがレベル8になったんだな」

「ありがとう。全部たにやんのお陰だよ」


 冬梅や小山によると、女神様を見ると体が固まって一言も喋れないそうだ。女神と話すどころかヨイショまでこなす俺は、異次元の存在らしい。そうかな?とりあえず、途中で寄り道する暇はなさそうなので、馬車の中でお昼ご飯を食べた。


 今日のお昼ご飯はベーグルのサンドイッチだった。各種野菜とハム・チーズ・燻製肉を細切りにしてオーロラソースで味付けしていた。ベーグルが大き目で両手で持たなければならないほどのボリュームがあった。デザートは、はちみつのジェラートだった。優しい甘さが心を癒してくれた。


 修道院に着くと、護衛に付いてくれた騎士に全員分(騎士+御者+イリアさん)のお昼ご飯を渡した。恐縮しながらも嬉しそうに受け取ってくれた。教会に向かうと、既に歌の指導は終わったようで、広場で子供たちがキャアキャア言いながら元気に遊んでいる。鬼ごっこしているみたいで、千堂の大きな声が響いた。


 俺は子供たちを見守っているシスターに断ってから本堂のチェンバロを収納し、台所に案内して貰った。

「今日のお土産は焼き菓子の盛り合わせです。皆様で召し上がってください」

 用意して貰った大皿三枚が山盛りの菓子で満ちた。


「これは女神様から先ほど頂いた果物のお裾分けです」

 大皿三枚が十五種類の果物で溢れた。果物は全て大きく色鮮やかでつやつやと光り輝いている。見るからにうまそう。ちなみに西瓜は外してある。どうしてかって?俺の分が減るからだよ。悪いか!なんちゃって。


 最後に、体長二メートルの大鯰を血抜き&頭落とし&内臓を出したものの半身とマッドクラブを一匹出した。アイテムボックスの中で即座に作業できるのが我ながら凄いな。内臓は生ごみフォルダに入れた。頭は「太郎」フォルダに入れたが、髭だけは分けておいた。


 マッドクラブは甲羅の幅が一メートル以上ある特大サイズだ。皿には乗らないので、どっちもテーブルに直接乗せた。汚してごめんなさい。

「西の湖でたくさん獲れたので、お裾分けです。ご遠慮なくどうぞ」


 院長先生はいつも通り目を丸くしてテーブルの上を見つめていた。お菓子、果物、大鯰、巨大蟹・・・。院長先生は大きく首を振った。

「全て貴族様が召し上がるような最上級の食材ばかりです。とても受け取る訳にはまいりません」


 俺は笑顔でこたえた。

「俺の国では子は国の宝、と言われています。国の宝を育てるためにも、是非受け取ってください。それに俺達も子供の時に、たくさんの人のお世話になっています。その御恩返しと考えてください」


 院長先生は雷に打たれたような顔をすると、後ろのシスターと一緒に膝まずいて祈り始めた。院長先生は立ち上がると話しかけた。

「浅野様をはじめとする皆様と出会えた幸運を心から神に感謝しました。またタニヤマ様のご温情に深く感じ入りました。本当にありがとうございます。遠慮なく受け取ります」


 なんかしらんけどいつもの大げさパターンになってしまったが、今日は続きがあった。

「東の教会と西の教会で管理している農場にそれぞれ濾過器を送った所、たいそう喜びました。ぜひお礼をしたいと申しまして、秘蔵のワインを送ってきております。どうか受け取っていただけませんでしょうか?」


 断るのも何なので、倉庫に行ってワインを受け取った。赤ワインが二十樽、白ワインが十樽あった。五年以上リザーブしていたものらしい。香りを嗅いでみると赤の半分はカベルネ・ソービニオン、残り半分はマルベック、白はシャルドネ風だった。


 改めてお礼を言ってから広場に行くと、子供たちは遊び疲れたみたいで、輪になって浅野のお話を聞いている。ごんぎつねでなければ良いのだが・・・。そろそろ良い時間になったので、木田に合図して引き上げることにした。


 子供たちが浅野や千堂にまとわりついて別れを惜しんでいるのを見ていると、イリアさんが寄ってきた。

「今日の歌の中で気になる歌がありました」


 俺は竹田の子守歌の出だしを歌った。イリアさんは少しだけ目を見開くと頷いた。

「そう、それです」

「あの歌は労働歌でもありますからね。子守りは子供でもできる最も手ごろな労働ですから」

「優しく明るいのに物悲しくて懐かしくもある不思議な歌でした」

「俺たちの国も昔は差別も階級も身分制度もありました。別の国には奴隷制度もありました。あの歌はその時代からの歌です」


 イリアさんはまた少しだけ目を見開いた。驚いているように見える。

「信じられません。皆様を見ていると、そのようなものとは無縁の明るい天国の様な世界から来られたように見えます」

「確かにそうかもしれませんが、あの時代の記憶は血の中に受け継がれているのではないかと思います」

「流石は浅野様でございます」

 イリアさんがどのように受け取ったのかは知らないが、最後の言葉を聞いてやはりイリアさんらしいと思ってしまった。

またまたワインを貰ってしまいました。酒屋にでもなる?

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