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第121話:ほの暗き地下室で6

 同じく7月11日の深夜、王宮の地下では、とある会合が開かれていた。出席者は、エリザベート・ファー・オードリー王女、レボルバー・ダン・ラスカル侯爵(宰相)、ラルフ・エル・ローエン伯爵(近衛師団長)、イリア・ペンネローブ神官長、メアリー・ナイ・スイープ侍女長の五人。いずれも勇者召喚に深く関わる人間ばかりである。


 今回は王女からの情報開示で始まるようだ。

「皆の者、これを見よ」

 王女が右手を自分の後ろに回すと、背後のディスプレイに「勇者管理システム」が立ち上がった。


「また新しいスキルが付いたのですか?」

 伯爵が尋ねた。

「そうじゃ。ただし前回と違うのは、なんと十七人に新しいスキルが付いておる」


 王女が指先でタップすると、ピンク色の文字が画面の中で輝いた。

「一条英華:斬岩剣、小山あずみ:開錠、鷹町菜花:探査、寺島初音:隠密、野田恵子:結界、藤原優海:弓術、夜神光:風魔法、青井秀二:頑健、伊藤晴:風魔法、江宮次郎:弓術、佐藤解司:結界、尾上六三四:斬岩剣、千堂武:頑健、中原真太:慈愛、野原英雄:咆哮、花山治:咆哮・強力、楽丸幹一:絶影。以上が各人の新スキルじゃ」


 王女以外の四人は言葉も出ないようだった。宰相はいち早く復活した。

「これは一体どういうことなのですかな?」

 王女は嬉しそうに笑った。

「そちがいっておったレベルアップの効果じゃ。伯爵、彼らのレベルを答えよ」

 伯爵はかしこまってこたえた。

「召喚された三十人全員がレベル22となりました」


 続けての衝撃に宰相は再び沈黙しかけたが、なんとか踏みとどまって質問した。

「レベル10に上がれば上出来ではなかったのか?」

 伯爵は笑顔でこたえた。

「今回の主な討伐内容ですが、マッドクラブが約千匹、ストーンクラブが約30匹、ウォーターシャークが一頭、想馬灯が一頭、キングメタルクラブが一頭となっておりまして、予定を遥かに超える経験値が入ったのでございます。それと討伐は叶いませんでしたが、キングスライムを撃退しております」


 イリアが補足した。

「非戦闘員まで含めてクランを結成しているのでレベル22ですが、もし戦闘員だけでクランを形成すればレベル25以上になっていたのではないかと思います」


 宰相は真っ赤な顔で怒鳴った。

「我を馬鹿にしておるのか?マッドクラブが約千匹とはどういうことだ。ストーンクラブとウォーターシャークはCランク、想馬灯はBランク、キングメタルクラブに至ってはAランクの魔物だぞ。ひょっこ共が束になっても、いや護衛の騎士が全員でかかっても到底かなう相手ではないわ」


 イリアが冷静な声で説明した。

「マッドクラブは罠にかけて一網打尽に、ストーンクラブは常に多対一の状況に引きずり込み、ウォーターシャークは陸に釣り上げ、想馬灯は幻影の魔法を打ち破り、キングメタルクラブは神具の力を借りて討伐なさいました」


 伯爵も援護射撃する。

「初見の相手に臆することなく、常に最善手を選んでおりました。多少運に恵まれた所はありますが、全員の力を余すところなく使い切っての成果と思われます」


 ここで王女が口を挟んだ。

「レベルアップしたことは誠に喜ばしいがどうしても気になるところがある。まず、キングメタルクラブを倒した平井様であるが、討伐時に赤化したというのはまことか?」


 伯爵は再びかしこまってこたえた。

「確かに炎髪灼眼と化しました。キングメタルクラブを倒すことができたのは、神具の力というよりは、炎髪灼眼と化すことによって、神具の真の力を引き出すことが出来たからではないかと思われます」


 王女は大きく頷いた。

「今の説明でようやく得心がいったわ。Aランクの魔物の強さは別次元であるからの。それにしても赤化か・・・」


 宰相は勢い込んで発言した。

「何か適当な理由を付けてすぐにでも王都から離れた山奥の古城に幽閉しましょうぞ。魔王の討伐が終わり、帰還の時まで隔離しておくべきです」


 王女は深く頷くと、現場組の顔を見渡した。

「宰相の意見はもっともであるが、まずは常日頃彼らと接しておる伯爵達の意見を聞こうではないか」

 

 伯爵・神官長・侍女長の順にこたえた。

「一時的に炎髪灼眼となりましたが、一切魔の波動を感じませんでした。あれは赤化ではないと考えます」

「同じく、瘴気が発生しませんでした。伯爵の意見に賛同します」

「私は現場にはおりませんでしたが、平井様の常日頃の言動は、一切の邪心なく、まるで幼子のように純粋で善意に満ちております。闇に落ちる気配など皆無です」


 王女は数秒考えてから決断した。

「この件に関しては保留とする。いずれとも決め難い。ただし、もしも魔に落ちる挙動が見られたらすぐに報告せよ」

「御意」

 三人は揃って頭を下げた。


 王女は続けて問いかけた。

「藤原様がブラックスネークを手なづけたというのは本当か?」

「さようでございます」

 伯爵がこたえ、神官長と侍女長も頷いた。


 再び宰相が吠えた。

「なぜだ?なぜ毒蛇をティムするのだ?普通ティムするのは小動物や鳥、せいぜい犬か馬程度であろう。蛇をティムしてどういう利があるのだ?」


 再び伯爵がこたえた。

「宿舎の庭で番犬として飼っております」

 宰相は絶句した。王女様は驚いたがすぐに噴き出した。

「毒蛇を飼いならして警備に使うとは、やはり此度の召喚者はまっこと規格外よのう」


 宰相は立ち上がって抗議した。

「危険です、危険すぎますぞ。一体何を考えているのか分からんが、即刻踏み込んで駆除すべきですぞ」

「慌てるな。まあ、確かに未だかって誰もティムしたことのない魔物ではあるが、彼等なりに安全は確保しているのだろう。仮にもキングメタルクラブと想馬灯とウォーターシャークを倒し、キングスライムを退けているのだぞ。それに比べたら、ブラックスネークなど小物もいいとこだ」


 真っ青になったままの宰相の顔を見て王女の笑みが深くなった。

「冒険者ギルドでも騒動を起こしたそうだな。彼らの評判を正直に話せ」

 伯爵は言いにくそうに話した。

「こう呼ばれております。あいつらは完全にいかれている。絶対に関わるな。特に女ドワーフと蛇女に注意しろ、と」


 王女は笑いながら聞いた。

「神官長、今の言葉を聞いてどう思うか?」

 イリアはいつも通りの平静な顔でこたえた。

「最高の褒め言葉だと思います」


 王女は大きな声で笑うと続けて聞いた。

「それはなぜだ?」

「冒険者の世界は力が全てです。舐められたら終わりです。これで彼らを軽んじる者は二度と出てこないでしょう。この先、他のパーティと共同受注することがあっても、不当な扱いをされる心配はありません」


 王女は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「キングメタルクラブと想馬灯とウォーターシャークで既に金貨千百三十枚を稼いでいるのに、共同受注する必要などないのではないか?」

「金貨千百枚?・・・」

 宰相は毒気を抜かれたように呟いた。


 王女は機能停止した宰相を無視して伯爵に聞いた。

「今後の予定はどうなっている」

 伯爵は淡々と報告した。

「来週一週間は休養を兼ね、練兵場でレベルアップと新規スキルによって得た能力の調整を行いまする。翌週からは南の森に向かう予定ですぞ」


 王女は大きく頷いた。

「レベル上げは順調に進んでいると受け取っておく。最初に戻るが、幾つか見慣れぬスキルがある。説明せよ」


 イリアが説明した。

「過去の資料を基に判断すると、斬岩剣は岩をも断ち切る剣でございます。咆哮は味方の士気を高め、敵を威圧または挑発します。絶影は瞬間的に速度を最高にするスキルだそうです」


 ここで伯爵が手を挙げた。

「平井様でございますが、必ずしも今お使いの神具には満足されていないようです。火の蔵の大剣を今こそ貸与してはいかがでしょうか?」


 宰相は真っ赤になって叫んだ。

「ならぬ!何を考えておるのだ。強盗に剣を預けるようなものだぞ」

 伯爵はひるまなかった。

「あの剣は火の蔵に封印する際に、火の精の清めの炎で封印されております。もしも邪な考えを抱くものが封印を解こうとすると、骨まで焼かれてしまいますぞ」


 王女が面白そうに笑った。

「大剣そのものが正邪の試しになるというのだな。良かろう、早速貸与の手配を取れ」

 宰相が慌てて割り込んだ。

「し、しかし、性急すぎます。もしも何かあれば・・・」


 王女はうるさそうに手を振った。

「教会の清めの儀式を馬鹿にするのか。もしもあれを解けるのであれば、剣など無くとも我々に勝ちはない」

 四人が頭を下げた。

「御意!」


 王女は満足そうに頷くと閉会を宣言した。

炎髪灼眼はまずいみたいです。なぜでしょうか?絶影は曹操の愛馬の名前からとりました。影を置いていくほど速い馬、ということらしいです。

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