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第11話:黄金バット

 俺は南側の壁際に散っている武闘組の様子を見に行くことにした。まず気になったのはヒデだ。レアスキルに手こずっているのではと心配していたが、悪い予感は的中した。ヒデはふてくされたのか、大の字になって抜けるように青い空を見上げていた。

「どうした?」

「タカ、俺はもうだめだ。何も思いつかん・・・」

 何度も試してことごとく失敗したみたいだが、試合の時の強気100%と正反対の弱気の発言に思わず笑ってしまう。

「じゃあ、ダメ元で俺の思い付きを試してみるか?」


 ヒデはガバッと起き上がると真顔で応えた。

「頼む!」

 俺は黄金バットの文字を見た時から連想した「どこ」から始まるワンフレーズをヒデに教えた。ヒデは疑う顔も見せずにすぐさま呪文(?)を唱えた。

「どこ・・どこ・・・・・・・・バ~ット!」


 一瞬、太陽のような黄金の光がヒデの右手からほとばしった。あまりのまぶしさに閉じた瞼を開けると、ヒデは文字通り金色に輝くバットを持って立っていた。本当にこれだったのか!?それにしても二人続けて当たるなんて、俺ってちょっと凄いかも。

 でも黄金バットのバットって、野球のバットではなくて蝙蝠こうもりのバットなんだよね。英語名はどっちもbatだけどさ。おまけに本当に黄金バットなら武器は銀のバトン(バトン競技に使うバトンみたいなの)のはずだが・・・。でもまあ、固いことは言わないでおこう。


「金属バット?」

 いつの間にか寄ってきた小山が聞いた。

「違う、黄金バットだ」

 ヒデはバットを太陽にかざしながらこたえた。確かに見た目は立派な金属バットだ。後でJISマークが入っているか調べてみよう。


「金?金なの?純金?24金?18金?」

 息を切らしながら聞いているのは利根川だ。北側の壁から駆けつけてきたみたい。なんというスピードだ。かねの亡者という噂は本当かもしれない。ヒデはバットを手元でよく見てから応えた。


「あくまで持ってみた感じだが、金ではないな。金にしちゃ軽すぎる」

 利根川はあきらめなかった。

「ちょっと貸して」と言うなり、ヒデの手からバットを奪い取ると、噛りついた。

「うわっ・・・」

 回りに集まった人間がみな驚いたりあきれたりする中で、利根川は泣き声を上げた。

「金じゃなーい」


 どうやら予想よりも硬かったみたいだ。それに例え金だとしても所有者はヒデだ。お前じゃないぞ。がっくり落ち込んだ利根川のフォローは追いかけてきた佐藤に任せるとして、まずは黄金バットがどんな力を持っているか試してみなければ。


 俺もバットを持ってみたが、長さ・太さ・グリップエンドの形状とも普通のバットと同じに感じた。重さも1キロないような感じでこれも同じ。軽く振ってみたが重心も違和感はなかった。残念ながらJISマークは無かったが、代わりにこうもりの形のマークが付いていた。


 俺はヒデといろいろ試してみたが、特に光線・風・炎・水・氷・雷・衝撃波の類は一切出なかった。何か必殺技的な名前を言わないといけないかもしれないのだが、適切なものが思い浮かばなかったのだ(実はこれじゃないか的な候補はあるのだが、恐ろしくて口に出せなかった)。


 その代わりと言ってはなんだがバットとしては優秀で、ヒデは「これがあれば毎試合ホームランを打てそうな気がする」と言っていたし、武器としても真剣と普通に打ち合えたので問題ないかも。ただまあつばが無いので、鍔迫つばぜり合いになったら負け確定だが。


 それ以外の長所としては、各魔法に対する耐性あるいは無効化の魔法がかかっていた。黄金バットを持ったヒデに攻撃魔法をかけても、無条件で無効化されてしまうのだ。これって結構凄いのかもしれない。

 しかし、せっかくのバットなので、鈍器以外に使えないかということから、丸太を野手に見立ててシートノックみたいなことをやってみた。


 まとから十メートルほど離れてホームベースを地面に書き、それに合わせて左バッターボックスの位置にヒデが立つ。俺は三塁方向(ホームベースの左前45度)に数メートル離れて立ち、アイテムボックスから手のひらに一個ずつ石を取り出して次々投げていく。それをヒデが打つだけの簡単なお仕事です。


 数回試したらリズムがあってきて、カン・カン・カンとほぼ二秒間隔で打てるようになった。石の速射砲だ。命中率はなんと100%!距離10メートルで直径約10センチのまとに32個が全部当たったのだ。


 ヒデは公式戦二十試合でホームラン十二本打ったように天性の長距離打者なのだが、同時に打率も三割以上ある。単に長いのが打てるだけじゃなくて、嫌いなコースの球はきっちりファウルできるバットコントロールの持ち主なのだ。


 ヒデは右投げ左打ちだ。右利きなので、小学校までは右打ちだったのだが相手ピッチャーによって打てる打てないのムラがありすぎたので、思い切って中学から左打ちに転向した。転向には当然俺も付き合ったわけで、暇を見つけてはトスバッティングを延々と(一年以上)付き合ったことを思い出した。スポーツやっているやつはみんなそうかもしれないが、ヒデも努力の人なのだ。


 全て打ち終わった後で目で見て手で触って確認したが、バットには傷一つ付いていなかった。俺はヒデと顔を見合わせて笑顔でうなづいた。打球の速度は時速で150キロ位ある。距離十メートルで時速150キロの石ころが当たったらどうなるだろうか?人間ならば大ケガ間違いなし、当たり所が悪ければ死ぬ可能性だってあると思う。大型は分からないけど、小型のモンスター相手ならば使えるかもしれない。


「なんかさあ、今のに技的なカッコイイ名前を付けようぜ」

 唐突にヒデが提案した。冗談だろうと思って応えた。

「それなら、『地獄の千本ノック』はどうだ?」

「いいね、それ。それでいこうぜ!」


 ご機嫌なヒデを前に「冗談だ」とは言えなくなってしまった。とほほのほ。お付きの騎士の一人に棒術(剣術よりはこっちが近いと思う)を習い始めたヒデを置いて、他の連中を見に行った。皆それぞれマンツーマンで武器の基本、その持ち方・構え方に始まり、立ち方・動き方・振り上げ・振り下ろし・防御の仕方を習っている。一通り習い終わると壁沿いに立った丸太相手に打ち込みが始まった。


 剣道組を除けば今日始めたばかりなのにそれなりに様になっているように見えるのは、スキルの恩恵なのだろう。頃合いを見て、ローエン伯爵がまだ基本を習っているヒデを除く武闘組を全員集めた。


「皆様、丸太相手だけでは物足りないと顔に書いてありますぞ。軽く手合わせなどいかがですかな?」

 誰も反対しなかった。案外皆好戦的なのね。回復係としてヒールが使える洋子と浅野と夜神やかみがいるので大丈夫かな。


 さらに参加する全員に肩からお腹まで上半身を守る銀色のアーマーベストが配られた。打撃や刃傷を防ぐだけでなく、打撃を受けると受けた部分の色が変化するのだ。黄色くなれば有効、赤くなれば致命傷扱いになる。伸縮性もあって驚くほど軽い。衝撃緩和と強化さらに軽量化の魔法がかかっているそうだ。花山向けに特大サイズも用意されていたのは流石だ。


 さらに、試合のルールとして首から上と手足への攻撃は禁止となった。プロテクターとルールで安全性に配慮したわけだ。皆ほっとしているように見える。俺も少し安心した。

「人の試合を見るだけでも参考になるので、一試合づつ行いますぞ。組み合わせは私の指名で良いですかな?」


 これにも反対はなかった。ローエン伯爵の指名した組み合わせと順番は、以下の通りだった。

1.平井×工藤

2.小山×江宮

3.寺島×羽河

4.一条×尾上

5.青井×楽丸

6.千堂×花山


 実力的に一歩も二歩も抜けている平井の相手をするのは、なぜか工藤だった。手に持っているのは杖ではなく槍。槍術持ちとはいえ、本業は魔法使いなのにあいつは何をやってるの?胤舜いんしゅんにでもなったつもりか?

「ははは、いいぞ、平井。存分にかかってこい」


 言葉だけ聞くと工藤が指導しているみたいだが、実際は平井が工藤に稽古を付けているのと同じだ。工藤も槍術を持っているが槍を持つのはおそらく今日が初めてなので、剣道一筋十何年の平井には赤ん坊みたいなものだろう。

 その割には工藤がやけに楽しそうなので良しとしよう。ローエン伯爵は体感時間約三分位で試合を止めた。以降も勝ち負けに関係なく三分前後でストップをかけていた。


 小山と江宮の試合は一風変わっていた。無手で無造作に近づく小山に警戒心むき出しで対応する江宮。こらえきれずに突き出した江宮の右の剣をするりとかわした小山の手に握られた暗器が鈍く光る。喉元を掻き切るかに見えた瞬間、江宮が間一髪で後ろに飛ぶ。見た目には江宮が強そうだが、小山には本職の凄みみたいのがあった。


 共に職業クラスが盗賊で共にナイフ使いの初音(寺島初音)と羽河の試合は白熱していた。左にスイッチしたり、逆手で持ったり、素早くかつトリッキーな初音の攻撃を羽河がかわし、すかし、さばいていく。攻めの初音、受けの羽河といった感じで拮抗していた。羽河も受けながら常にカウンターのチャンスを狙っているので、初音もあと一歩踏み込めずに決定打を出せないといった感じだ。


 剣術持ち同士の一条と尾上の試合も迫力があった。剣道の有段者が、刃引きしているとはいえ真剣で打ち合っているのだ。二人の剣が交差するたび、金属音と共に文字通り火花が散っている。身長・リーチ・体重・筋力と、テクニックとスピード以外で全て上回る尾上だが、病み上がりというハンデがあって互角の戦いになっているようだ。

 上段に構えた一条と正眼の構えの尾上。一条のスピード豊かで多彩な攻撃を落ち着いてさばいていく尾上は、頃合いと見たのか構えを上段に戻した。

「燃えよ剣!」


 尾上が裂ぱくの気合をこめて叫ぶと、風がごうごうと尾上の回りで渦巻いた。なんで?

 渦巻く風の中で刃の部分が青みがかかり、ついには透明になった。残っているのは手元のつばつかだけだ。凄いけれど、間抜けにも見えるというシュールな構図。それにしてもお前は土方歳三ひじかたとしぞうか?


「風王結界?」

 後ろで江宮が叫んだ。

「間合いを消した」

 小山がボソッとつぶやいた。仲良く見学かお前ら。


 一条は嬉しそうに笑った。

「やるじゃない。こっちもいくわよ」

 正眼に戻した一条の剣の回りに突然、赤い炎が噴き出した。ただ、噴き出した炎が強すぎたのか、一条はあっさり剣を手放した。

「熱い」


 どうやら一条が気合を入れたら火魔法が自動的にオンになり、制御できなくなったようだ。

「尾上様、見事です。刀身の回りに温度の異なる空気の層を何層にもまとわせることで剣を透明化、いや不可視の剣にかえたのですね。この魔法は一見地味ですが、中級か上級の魔法に当たる高度な技です。日頃の修練の賜物でしょう。一条様も魔力は十分なので、適切な制御を身につければ炎の剣として活用できます。火魔法に適した剣はローエン伯爵様に探して頂きましょう」


 イリアさん、いつも適切なフォローありがとうございます。

 一条と尾上は共に「剣術」持ちだが、魔法使いと剣士という職業クラスの違いが勝敗を分けたのかもしれない。誰が見ても尾上の勝ちなのだが、本人の評価は違ったようだ。尾上はがっくり膝を折ってつぶやいた。

「俺の負けだ」


 一条は理解できないとばかりに叫んだ。

「なんで?」

 尾上は心底悔しそうな顔をしながら説明した。

「俺がイメージしたのは炎だ。燃え盛る炎だ。全てを焼き尽くす地獄の劫火のような炎をイメージしたんだ。なのに出てきたのは風だ。なぜだ?なぜなんだ?どうして俺は風魔法なんだ!」


 最後は叫び声になっていた。「神の見えざる手」のせいだろう、とは言えなかった。「火」をイメージしたのに「風」が出るのはどういう理屈かさっぱり分らないが、とにかくこの場を納めなくては。俺はテンションを上げて叫んだ。


「俺には見えたぞ、お前の心の炎が」

 尾上はパッと顔を上げて俺を見た。真剣すぎて目が怖い。

「そうよ、私にも見えたわ」

 カンの良い一条も乗ってくれた。もう一息だ。

「尾上、出だしでうまくいかなかったからといって悲観するな。精進すれば道は開ける」


 尾上は一瞬あっけにとられたが、大きく深呼吸すると右手で俺の手を、左手で一条の手をガバッとつかんで叫んだ。

「そうだ、そうだよな。ようし、俺はやるぞ」


 どうやら俺は剣道バカに火をつけてしまったらしい。嬉しそうに大笑いしている。バスケット部の熱血キャプテン青井だったら「あきらめたらそこで試合終了だぞ」とハッパをかけていたかもしれないな。どうでもいいけど尾上よ、分かったから手を放してくれ。骨が折れそうだ。一条を見ると顔を赤らめながら嬉しそうに何度も頷いていた。だめだこりゃ。


 青井と楽丸の試合も見ごたえがあった。左構えの槍の三連撃に始まる楽丸の猛攻。左回りに素早く回り込みながら大盾の死角に入り込もうとする。青井は楽丸の動きに合わせて盾を回し、隙を見せない。フェイントを交えて右から回り込もうとした楽丸の鼻先を青井の戦斧バトルアックスがかすめる。楽丸は大きく後ろに飛んで息を整えた。


 楽丸のスピード、青井の読み、どっちも凄い。最後は意表をついて上にジャンプした楽丸が盾の上辺に右足をかけて放った一撃が青井の右肩をかすめた所で終了。両者いくつかかすり傷があったので、洋子と夜神やかみがヒールをかけた。


 はじめて回復魔法を見たが、かすり傷とはいえ、目に見えるスピードで傷が直っていくのにはギャラリー一同驚いた。拍手しているやつもいるほどだ。これもあって試合を組んだのかな?ケガがないと回復魔法使えないからな。夜神やかみが「保健係にクラスチェンジや!」とおどけていたが、なんか違うと思う。


 ラストは重戦車の様な花山とローマ時代の拳闘士のような千堂の試合だった。体が十分隠れる巨大な大盾を左手一本で軽々と持ち、右手には一撃で岩をも粉砕しそうな戦槌ウオーハンマーをただの棒きれのように持っている花山。対する千堂は両手の籠手以外はほとんど裸同然だ。怖くないのか?


 こっちもスピードに勝る千堂が花山を一方的に攻める構図だが、花山は時々盾を前に突き出して防具としてだけではなく武器としても使っていた。そのたびに千堂は左右か後ろに下がるのだが、左(花山の右手側)に飛んだタイミングに合わせて花山の戦槌ウオーハンマーが風を切り裂いて襲ってきた。


 着地に合わせた絶妙のタイミングに千堂は避けることができない。絶体絶命と思ったが、千堂は馬鹿正直に腕でブロックした。あかんやろ、それは。

 ドーンという地響きが練兵場に響き渡った。ガードごとぶっ飛ばされたかと思いきや、千堂は二本の足で大地にしっかり立っていた。クロスさせた左右の腕で戦槌ウオーハンマーを抑えている。「やるじゃないか」と言わんばかりに花山がにやりと笑った。


「石より硬い十文字固め」

 小山が感心したようにつぶやいた。

「なんでさ?クロスアームブロックだろ、ボクシングなんだから」

 江宮がすかさず突っ込みを入れた。なにげに君たち仲が良いのね。

「素晴らしい。千堂様はあの籠手を完全に使いこなしているようですな」

 ローエン伯爵が目を見開いて感心していた。


「あの籠手、何か秘密があるんですか?」

 俺は思わず伯爵に聞いた。

「秘密というほどではありませんが、あの籠手はワイバーンの背中の皮の上にミスリルとオリハルコンの薄板を鱗状にしたものを何重にも貼り付け、さらに衝撃を軽減する魔法と当たった瞬間に全身を防御する魔法を組み込んでおります。硬くて軽くて丈夫な一級品の防具ですぞ。その上、両手を重ねることで、その効果は倍の倍になりまする」


 緩衝かんしょうとシールドの魔法付きの籠手か。己が身一つで戦う拳闘士にピッタリの防具だな。

 その時、練兵場の中心付近で騒ぎが起こった。

思ったより長引くのでさらに分けます。

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