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第104話:サードアタック3

 その後もAチームとBチームは交代しながら各四匹づつ仕留めた。盾役も仕留め役も遊撃もそれぞれの役割を十分果たしたのだが、特に凄いと思ったのは江宮と千堂だ。


 江宮の持つ赤い槍は「突き穿つ死翔の槍」のデッドコピーで、放てば必ず相手の心臓に命中するという必殺の呪いがかかっているそうだ。確かに、蟹の真下に向かって投げているのに、ぐにゃんと軌道がくの字形に曲がって甲羅のお腹側、真ん中あたりを射抜いているんだもの。「水辺だから使った。敵の幸運が低くて助かった」と江宮は言ったが、どういう意味なんだろうか?


 千堂はさらに武具の使い方に習熟したようで、人間離れした活躍を見せた。だって重い爪の一撃を左右のフックで軌道を変えて、簡単に弾いてしまうのだ。

 それだけではない。左右の爪を弾いて万歳状態のストーンクラブの正面に立つと右のアッパーカット一発でひっくり返してしまった。

「見え見えのロシアンフックのカウンターを取るなんざ朝飯前や」と言っているが、やはり人間とは思えない。


「あれはペガサス流星拳?」

「いや、廬山昇龍覇では?」

「ボクシングならジェットアッパーだろ?」

 討伐の後でいろいろ意見が出たが、最終的に千堂の一言で収まった。

「あれはただのアッパーやで」


 付け加えると地味だが楽丸の攻撃も威力を増していた。槍を長く重くしただけなのだが、突くのではなく体全体を使い大きく振ることによる遠心力で対抗していた。

 隙あれば槍を持ち変えて突くのだが、角度があえば硬い甲羅を一撃で貫いていた。うまく急所に当たれば、一撃で戦闘不能に追い込む威力があった。


 なお、壁の防御班は羽河の活躍が目立った。五メートルという鞭の長さが圧倒的で、マッドクラブをまったく寄せ付けなかった。戦う委員長か、なんか良いじゃないの。


 皆まだまだ元気そうだが、目標以上の成果を達成したので、もういいだろう。

「目標達成、撤収!」

 十二匹目を打ち取ったことを確認して大声を上げると、ありがたいことに全員素直に戻ってきた。右の手首がポッキリ折れた千堂と右肩が外れた楽丸を除いて、大きな怪我人はいなかった。


 遠くに飛んでいった爪四個を除き、ストーンクラブは十二匹とも回収することができた。半分は甲羅が割れているが、急所を直撃してほぼ無傷のものが六匹あるには素晴らしいと思う。マジックポーションも含めたポーション類の消費は壁の防御班も含めて全部でニ十本だった。短時間で終わったので、こんなもんかな。


 草地に戻ると、皆レベルアップの反動に悶えていたので、俺が伯爵に討伐完了を報告した。伯爵は笑顔で今日のミッション終了を宣言してくれた。


 今回はマッドクラブ約千匹とストーンクラブを十二匹倒したので、なんとレベル15に達したそうだ。凄いな。まさか、蟹の蒸し焼きでレベルが上がるとは思わなかった。

 そのうち新しいスキルに目覚める奴も出てくるのではないか。なお、俺のレベルはすがすがしくも1のままだ。宿舎に戻ったら水野達に聞いてみよう。


 今更悩んでも仕方ないので、お昼ご飯を準備した。護衛の騎士や教会組にも人数分配布する。皆恐縮しながらも嬉しそうに受け取ってくれた。

 今日のご飯はホットドッグだった。特製のソーセージを粒入りのマスタードを塗ったバケットに挟んだだけ、好みによってケチャップをかけるだけなのだが、添えてあるフライドポテト&コールスローサラダと一緒に美味しく頂きました。


 デザートはサクランボのジェラートだった。熱い紅茶を飲みながら冷たいジェラートを堪能していると、イリアさんがやってきた。


「谷山様、いつも美味な昼食を用意して頂き深く感謝致します」

「いえいえ、喜んでいただければ何よりです。皆さんが後ろに控えているお陰で、皆全力で戦うことができます」

「そう言って頂けると、ただ飯食いの罪悪感が少しは薄れます。それにしてもお見事でした」


 イリアさんの言葉に俺は首を左右に振った。

「俺は何もしていませんよ」

「何を仰いますか。交代のタイミングや撤収を指示して、ポーションを配っていたではないですか」

「まあ、マネージャーみたいなもんですから」


 自嘲の籠った言葉にイリアさんは眉をひそめながらこたえた。

「クランの集団戦闘の肝は適切な組分けと前衛の入れ替えのタイミング、そしてポーションの補給や回復魔法によって戦力を維持することです。ほぼ初めての集団戦闘に関わらず、大きな怪我人もでず、短時間で目標を達成しました。谷山様はもっと誇るべきです」


 なんか知らないけど過分な評価を頂いたようです。俺は笑顔で礼を言った。礼と言えば、千堂と花山が小山に真面目に感謝していたのが面白かった。ストーンクラブの爪の攻撃に耐えられたのは、あの水面渡りの練習のお陰らしい。


 平井がなぜか一人で空を見上げていたので、話しかけた。

「どうした?調子悪いのか?」

 平井は戦神の斧を俺に渡しながらこたえた。

「こいつのせいよ」


 俺は斧を受け取りながら素直に聞いた。

「何か問題でも?」

 平井は唇をゆがめながらこたえた。

「こいつ、魔力を馬鹿食いするのよ。普通のマジックポーションでは回復が全く間に合わない」

 人並外れた魔力量を持つ平井でも四回が限界らしい。


 俺はしばらく考えてからこたえた。

「好調な時ほど用心しろと言うからな。明日は何かあるまではこいつは温存しといてくれるか」

「いいの?」


「平井こそ、それでいいのか?」

「まあ私はもともと剣士だからね。斧に未練はないわ」

 明日は久々に剣を振れるという事で、平井は逆に喜んでいた。優秀なポイントゲッターが減るのは痛いが、まあなんとかなるだろ。


 討伐が順調で時間的に余裕があったので、半時間の自由時間にした。ブラックスネークに注意しながら、茂みの中を探していると、こぶりの茄子のような野菜を発見した。


 紫ではなく緑色をしているのが少し不気味だが、一個収穫してアイテムボックスに入れて調べる。「浜茄子はまなす:食用になる。美味」と表示されたので、志摩の金の鍬を借りて根っ子から掘って何本か収納した。菜園用に持って帰るのだ。


 それ以外にも黄色い実をつけているブルーベリーぽい果物(言葉が矛盾していることは自覚している)と小粒だが強烈に甘い苺を発見した。同じく、「イエローベリー:食用になる。美味」と「蛇苺へびいちご:食用になる。極甘。蛇は食べない」と表示されたので、これも持って帰ることにした。


 それ以外では「猛毒。食べたら重度の酩酊状態になる」というピンク色の果実や「毒。全身が痺れる」という黒に緑の斑点がある果実を見つけたので、利根川に教えると喜んで採取していた。


 利根川はそれ以外にも、思わず眼をそむけたくなるような毒々しい木の実と芋虫みたいな形をしたヘンテコな木の根っこを収穫していた。何に使うのかまったく分からないが、とりあえず知らないふりをしとこう(小心)。


 アイテムボックスの「マッドクラブ」フォルダと「ストーンクラブ」フォルダに「清掃」をかけたら、「砂」フォルダが別に出来ていた。何かに使えるかも?早速、浅野と遊んでいたロボにマッドクラブを一匹やると、喜んでガツガツ食べている。


 代わりに浅野が礼を言ったが、後方組を護衛していたと考えたらご褒美みたいなもんだ。河童が涎をたらしていたので、同じくマッドクラブを一匹やると、礼も言わずに食いついた。冬梅が恐縮していたが、今日は特別だ。


 馬車に戻る頃には日は西に傾いていた。俺たちは西日を背にして王都に戻っている。目標を達成したという満足感と心地よい疲労感、いつもはうるさい馬車のロードノイズと振動もこんな時は子守歌代わりになる。


 宿舎に着いたときにはすっかり寝込んでいた。洋子に起こされた俺は寝ぼけ眼のままで教会組と護衛の騎士たちに「お裾分けです」と言って、マッドクラブを一匹ずつ渡した。大きさによっては金貨一枚するそうで、皆たいそう喜んでくれた。

 

 ラウンジに入ると見かけない人がいた。横に野田と伊藤がいたので思い出した。楽器ギルド長のナルエイさんだ。今日の夕方に約束していたっけ。すっかり忘れていた。俺は慌てて駆け寄って挨拶した。


「お待たせして申し訳ありません」

 ナルエイさんは立ち上がりながらこたえた。相変わらず電信柱のように細くて背の高い人だった。

「こちらこそ約束の時間よりだいぶ早く押し掛けてご迷惑をおかけしました。年甲斐もなく気がたかぶっているようです」


 怒ってないみたいだ。良かった。現物を見ながらの方が話が早いので、そのまま四人で食堂に移動した。平野に断ってからチェンバロに近いテーブルを借り、ついでに紅茶も頼んだ。さてどうなることやら。

とりあえず今日も課題は達成。レベルも7から15へ倍増でございます。良かったね。

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