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第103話:サードアタック2

 昨日と同じく三本目の川(水路)はなかった。そのまま進んで、砂浜との境界線から少し草地側に戻ったところの大小の岩を収納し、灌木の類を刈ってから、志摩に頼んで金の鍬で整地してもらう。トイレを二か所に設置すると、皆ほっとした顔をしているのはなぜだろうか?


 本日の課題は、ストーンクラブ十体の討伐なので、マッドクラブに用はない。昨日志摩が作った壁が残っているので、それを使って砂浜に侵攻し、ストーンクラブが出てくるのを待とうと思うのだが・・・。


 砂浜には無数のマッドクラブが潜んでいるのが丸わかりだった。昨日志摩が作った時には二本の壁と壁の間は一メート位、えぐれて低くなっていたのが、きれいに壁外の砂浜と同じ高さになっていた。ということは・・・。


 そのまま壁の間に入ろうとしたヒデの肩を掴んで止めて、利根川・佐藤・洋子・志摩を呼んだ。不満そうなヒデにとりあえず言い聞かせる。

「蟹は生より蒸した方がうまいらしいぞ」


 志摩と佐藤はそれだけで分かってくれた。壁の前後を土魔法で閉じて、上は一番手前だけ少し隙間を空けて、結界で塞いでしまう。ここまでくれば利根川と洋子も分かってくれたようだ。一人取り残されたヒデを置いて、隙間からそれぞれ魔法をかける。利根川はファイヤーボール、洋子はウオーターだ。


 ファイヤーボールで熱された壁に水がかかると、高温の水蒸気が発生する。壁の中は巨大な蒸し器になった。無数のマッドクラブが砂の中から飛び出してきて、断末魔のような軋み声を上げながら、砂煙と高温水蒸気の中を上下左右に激しく走り回った。しかしどこにも逃げ場はない。


 一刻程で動くものはいなくなった。マッドクラブの色もきれいな赤に変わっている。無事に茹で上がったみたいだ。結界を解いて、草地側の壁を外すと、蟹を蒸した匂いが浜辺にあふれた。酢醤油が欲しいぜ。


 俺は工藤から借りた槍で生き残りがいないか確認しながら、蒸した蟹を片っ端から収納していった。途中から数えるのを止めたが、千匹位いたのではなかろうか。大漁だな。志摩に頼んで出口側の壁を壊して階段を作って貰った。ここからは前衛組の出番だ。昨日の実績+アルファで以下のフォーメーションで行くことにした。


 前衛Aチーム:平井、ヒデ、花山、楽丸

 前衛Bチーム:一条、尾上、青井、江宮、千堂

 後衛:谷山、志摩、工藤、小山

 壁の防御:鷹町、初音、利根川、羽河、木田、洋子


 疲労を考慮してストーンクラブを二体倒したら、前衛のAとBは交代。苦戦するときは壁の突出口を守っている後衛が適宜、ヘルプすることにした。壁の防御組は長丁場になることを考えて、羽河以外は物理的な武器として予備の武装から槍を持って貰った。

 それ以外の冬梅・夜神・佐藤・藤原・三平と浅野&ロボは後方で待機して貰うが、長引きそうなときは、夜神と浅野は回復にきてくれるように頼んだ。


 前衛をもっと細かく言うと、Aチームは花山が盾となって平井とヒデが戦い、楽丸は遊撃。Bチームは青井が盾役で一条と尾上が戦い、江宮と千堂が遊撃という役割みたいだ。護衛の騎士が四人後衛の所にいて、いざとなったら後衛が四人とも出られるので、大丈夫だろう。多分・・・。


 Aチームが出たのに続いて俺たち後衛も階段を駆け上がって左右に分かれた。俺たちの役目は壁の中にマッドクラブの侵入を防ぐことだ。護衛の騎士たちも階段の左右に一人づつと同じく左右の壁の上に一人づつの計四人で警戒&監視。Bチームは階段の下で待機だ。

 

 Aチームが出ると同時に砂浜一面に砂が吹き上がった。砂の下から無数のマッドクラブが飛び出してくる。お馴染みのギチギチという金属的な音を立てながら、一直線に押し寄せてきた。


 花山も盾を下ろして鞭を縦横無尽に振るい、ヒデはバットをゴルフクラブのように振り、平井と楽丸もそれぞれの得物でそつなくさばいているが、手が足りないようなので、工藤がヘルプに入った。


 楽丸が左、工藤が右に入ることで「花山←平井・ヒデ←楽丸・工藤」という三段の陣形が出来上がり、安定した。やはり楽丸は左サイドバックで決まりだな。チームとしてのまとまりが出来た所でBチームと交代する。


 Bチームの先頭で活躍したのは意外なことに千堂だった。当たるを幸い、両足で踏みつけたり蹴っ飛ばしたりで、マッドクラブを片っ端から始末していった。ボクシングで倒れている相手を踏みつけたら反則だが、ここはリングではない。

 両足が使えるから、槍が二本あるのと一緒ということなのだろうか。様子を見てAチームと交代させる。


 休憩して少し余裕が出来たAチームがじりじり前進しながらマッドクラブを蹴散らしていると、ついに真打の登場だ。海から白いストーンクラブが上陸してきた。マッドクラブは悲鳴のような音を上げながら左右に分かれた。逃げ遅れたやつは可哀そうに無残に踏みつぶされている。


 軽乗用車並みの巨体に似合わない軽快な動きで進んできたストーンクラブの先頭が、花山にぶつかった。突進の勢いが乗った爪の一撃が大盾に激突する。鉄に岩をぶつけたように盛大な火花が飛び散った。体重差がいくらあるのか分からないが、一撃で花山は一メートルほど後ろに下げられた。おまけに踵まで砂に埋まっている。


 が、逆に言うとそれで収まっている。花山はなんと左手一本で盾を抱えているのだ。昨日は両手を使い、後ろから千堂に支えられてやっとだったのに、どこが違うのか。もちろんレベルアップによって膂力や耐久力が上がったこともあるが、それ以上に盾の使い方が劇的にうまくなっていた。


 つまり、相手の力を真正面から受け止めるのではなく、斜めに当てることで力を分散して受け流しているのだ。柔よく剛を制すということなのだろうか?体力的にも有利だと思うのだが、それだけではない。


 花山は空いた右手で緑色の鞭をふるった。ワイバーンに騎乗する際に使う巨大で重い鞭だ。ブンという低いうなりを上げた鞭はバシッという重い音と共に、ストーンクラブの体に真上から叩きつけられた。


 盾役が片手に持つ武器は剣か槍、あるいは戦斧が一般的だが、それが鞭になったという訳だ。なんせ相手がでかいので、真上からふれば百パーセントヒットするという所が素晴らしい。


 花山の鞭はそれなりのダメージがあるようで、徐々に相手の勢いが減じてきた。チャンス!と思ったのだろう。平井が声を上げた。

「行くわよ!」

 この掛け声を聞いて昭和のバレーボールのスポコンドラマを思い出したのは古すぎるだろうか?


 平井はそのままヒデの背中と花山の頭を踏みつけると華麗に宙に舞った。全身のばねを使って戦神の斧を甲羅に一気に叩き込む。ドカン!という音と共に岩が、いや岩蟹が真っ二つになった。


 きれいに二つに割れた先頭の蟹を左右に吹き飛ばして現れた二匹目も同じパターンでヒデが仕留めた。ヒデは流石に頭ではなく、花山の肩を蹴っていた。どちらにしろ防御と足場の役目を完遂した花山の手柄は大きいだろう。


 二匹仕留めたので、前衛はBチームに交代だ。戻ってきたAチームのメンバーにポーションを渡してから前線に戻ると、青井が奮闘していた。やはり左手に持った盾でストーンクラブの攻撃をいなし、隙を見ては右手の斧を正面から叩き込んでいく。


 ただ斧をふるうのではなく、触手や目を狙っているようで、明らかにストーンクラブは青井の斧を嫌がっている。攻撃が雑になってきた隙を一条がついた。右手の振り上げに合わせて迷いなく飛び込んだ刀の先で爪が宙を舞った。爪から二番目の関節の所できれいに断ち切っている。


 重心の変化による態勢の崩れをなんとか耐えたストーンクラブが、大きく左手を振り上げたタイミングで尾上が踏み込んだ。あっけなく左手の爪が宙に飛ぶと、ストーンクラブの動きが止まった。そのまま青井が盾でかちあげると、あっけなくひっくりかえる。すぐさま江宮が急所のふんどしを真っ赤な槍で一突きして勝負はついた。ほぼきれいな状態で仕留めたのは凄いな。

 

 今の戦いに納得いかない人間が一人いた。千堂だ。二匹目が来ると同時に青井の横に並んだ。無茶だろこいつ。ストーンクラブの右手の一撃を正面から受け止めたのだ。誰もが吹っ飛ばされるかと思ったのに、千堂は一歩も動かず十字型に組んだ二本の腕で爪を完全に抑えていた。魔法による防御力アップのお陰なんだろうけど、物理の法則を完全に無視している。横で小山がつぶやいた。


「岩より硬い十文字固め」

「クロスアームブロックだろ、ボクシングなんだから」

 江宮に代わって指摘しました。

ストーンクラブを四匹仕留めました。

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