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第101話:ランタンといろいろ

体調を崩して更新が遅れました。これから少しでも進めようと思います。

 7月9日、風曜日。朝方に雨が降ったみたいで、石畳はまだ黒く濡れていた。空はまだ曇っているが西の方角は晴れているので、今日も暑くなりそうだ。朝のランニングで羽河と会った。契約書の雛形は問題なかったそうだ。囲碁・将棋ギルドの件があるので、今日の朝ご飯の後に委員会の打ち合わせを行うことにした。


 朝ごはんまでには時間があるので、ラウンジでぼんやりしようと考えていたら、江宮に呼ばれた。ランタンの見本が出来たらしい。早速、工房にお邪魔する。ランタンは、部屋の中心の床に無造作に置かれていた。


 高さは五十センチ位・縦横共に三十センチ位の縦長の立方体。細い茶色の枠で仕切られた側面の四方にガラスが入っているが、上は開いている。台座には手で持ち歩くためのフライパンの柄のような取っ手が付いている。


 俺は驚いた。ガラスが透明ではなく、りガラスになっていたのだ。確かに炎は直視すると結構眩しいので、摺りガラスは有難いし、和紙を使った行灯のイメージにも合う。でもどうやって作ったんだ?


 江宮が言うには、細くて濃い茶色の枠と台座は投影で、ガラスは溶かしたガラスに薬品(利根川製)を加えて再結晶させて作ったらしい。でも、俺が驚いたのはそこじゃない。


 江宮の顔をじっと見ると、笑顔で説明してくれた。

「摺りガラスのことか?柔らかガラスの品質を一定にするためにいろいろ試していたら、偶然摺りガラスが出来たんだ」

「柔らかガラス=摺りガラスなのか?」

「いや、正確に言うと、柔らかガラスでなおかつ摺りガラスだ。当然、透明な柔らかガラスもできる」

「これで完成か?」


 江宮が笑顔で頷いたので、試しに火が付いたまま倒したが、ちゃんと火が消えた。ガラスも割れていない。油もほとんど漏れていないので、安全面も問題なし。流石は江宮、要求仕様を完全に満たしている。


 江宮は発明家の才能があるかもしれない。しかし、その後の江宮の言葉を聞いて、その才能が俺の予想を超えていることを実感した。

「これはちょっと仕掛けがあってな、普通は摺りガラスなんだけど、内側から魔力を通すと、通している間だけ透明になるんだ」


 江宮がランタンの内側に手を入れ、呪文を唱えると、手を当てた所からガラスは透明になっていった。真冬に温度差で曇ったガラスに息を吹きかけたように、一定の範囲まで透明になっているが、手を外すと遠いところから順に摺りガラスに戻っていく。江宮凄いよ!俺は心底驚いた。


 透明になる仕掛けも凄いが、内側からの魔力しか反応しないという細かな気配りが本当に凄いと思う。これはきっと柔らかガラスを馬車や家の窓に提案するときの大きなアドバンテージになるだろう。

「次はこれを見てくれ。先生に頼んでいたクーラー用の魔法陣が出来たんだ」


 江宮はランタンをどけると、ファンヒーターみたいな箱型の機械を持ってきた。上の部分が開口部になっている。水の魔石と風の魔石を使用し、裏側から空気を吸入して、上から冷気を出すようになっているそうだ。スイッチを入れると機械音と共に、冷たい空気が上から噴き出してきた。


「本当はほぼ無音なんだけど、それだと器械が動いているかどうか分からないから、わざと機械音を出すようにしてる」

 江宮の気配りは俺の想像をはるかに超えているようだ。しかし、これで話は終わらなかった。


「他にもいろいろ考えているんだ」

 え?携行型クーラーだけじゃないの?

 俺はかすれた声で問いかけた。


「他にもあるのか?」

 江宮はにこりと笑うと机の上を指さした。作りかけの機械が数台置いてある。

「冷蔵庫・加湿器・食器乾燥機を試作している。それができたら次は冷凍庫と製氷機だな」


 俺は唖然として江宮を見た。冷蔵庫と加湿器と食器乾燥機は今の技術の応用としてありうるが・・・。

「冷凍庫と製氷機はどうやって作るんだ?」


 江宮は得意げな顔をしてこたえた。

「火魔法だ」

 俺は思わず反論した。

「逆だろ?火魔法じゃ冷たくならないぞ」


 しかし江宮じゃ余裕の笑みを浮かべた。

「俺が思うに火魔法は熱をコントロールする魔法だ。熱を発生させたり放出するのが、現象として火に見えるだけなんだ。お前が言った通りだよ。ベクトルを反対にすればいいんだ。熱を奪ったり、吸収することが出来れば冷凍庫も製氷機もできる」

 俺は江宮を過小評価していたようだ。魔術師ってすごいな。


 ランタンもクーラーも見本として渡せるレベルだが、クーラーについては先に三年三組の馬車用に四個作って欲しいと頼んだら、火と風と水の魔石を十個ずつ欲しいと言われた。後で羽河と相談しよう。


 とりあえずランタンだけアイテムボックスに収納した。商業ギルドに見本として渡す予定。お返しに(?)昨日浅野から預かったロゴを渡して十枚ほど複製するように頼んだ。


 今日の朝ごはんは、アメリケーヌソースのパスタだった。昨日エビフライを作った時に残った頭部や殻を使ったんだろうな。エビのうま味を凝縮したアメリケーヌソースがうまかった。身もちゃんと入っていたので、エビを二日続けて堪能した。

 今日もカットフルーツとミックスジュースで美味しく頂きました。


 食後、先生の所に行って魔法陣作成のお礼を言うと、ご褒美的なものを暗に要求されたので、白樺の十年物でも進呈しよう。その後羽河のテーブルに集まって生活向上委員会の会議を開き、現状を報告した。


・シャンプーとリンスが最初に商品化されそう。その次はドライヤーの予定。

・「囲碁&将棋ギルド」は軍がギルド設立の初期費用の三割を拠出予定。初期費用は金貨百五十枚の予定。

・その代わりギルド長のポストと、カップ戦一つのタイトル名を軍にちなんだものにする。

・ギルド長の給金は月金貨一枚の予定。

・「囲碁&将棋ギルド」のギルド名は「娯楽ギルド」になる予定。


・囲碁や将棋以外のゲームを製品化する場合も、このギルドで取り扱うようにする。

・ギルドの立ち上げに必要な手続き等は全て商業ギルドに任せる。

・スリットスカート/ワイドパンツ/トートバッグ/ブラジャーについては商業ギルドの返事待ち。

・ランタンと携行型クーラーの見本が完成した。ランタンは商業ギルドに見本として渡す。


・携行型クーラーについては三年三組用に追加で四台を作成中。出来上がり次第配布する。

・ロゴが完成した。現在複製中。

・商業ギルドとの契約は順調に進行中。

・化粧水とハンドクリームについては伊藤&利根川のコンビで進める。


 防弾ガラス・ビデオ・冷蔵庫・加湿器・食器乾燥機・冷凍庫・製氷機については、まだ伏せておくことにした。現物が出来てからにしよう。日焼け止めクリームについては、伊藤が思いついたことにしてくれるだろう。

 

 志摩が感慨深げに言った。

「娯楽ギルドとは大きく出たな。トランプ・麻雀・各種ボードゲームやギャンブル、歌や芝居にミューカル、なんでもできるぞ」

 工藤が続いた。

「手数料がどれだけかかるか分からんが、ギルド設立の諸々の手続きから事務所や人の手配まで全部やって貰えるのは助かるな」


 手数料については初期費用の金貨百五十枚の中で賄うとこたえると、皆感心していた。他に意見はなかったので、これで終わりかと思ったら、利根川が手を上げた。


「ランタンだけどさ、やっぱちょっと暗いと思うのよね」

 仰る通りでございます。明るさはせいぜい蝋燭ろうそくの半分以下、なんというか豆球レベル(5ワット位)なんだよな。

「もう少し明るくできないかと考えて添加剤を作りましたー」


 利根川は「じゃじゃーん」と楽しそうに言いながら懐から小瓶を取りだした。えらく機嫌がいいなこいつ。仕方ないので、俺もアイテムボックスからランタンを取りだした。皆、驚いている。黒に近い濃い茶色の枠に摺りガラスが四面入っている。台座には軽くカーブがかかった短い脚が四本ついていた。


「デザインが渋いな」

 志摩が感心したように呟いた。

「昭和じゃないな。明治でもない。大正だな。成熟したモダニズムを感じるぞ」

 工藤が続いた。

「摺りガラスがまた良いな。光を分散させるから目に優しそうだ」

 水野も褒めてくれた。


 利根川も嬉しそうに微笑んだ。

「良いじゃない。これなら売れるかもかーも?」

 そのまま台座の油壷の蓋を外すと、中の油に小瓶の中の液体を垂らした。一瞬、紫の火花が飛び散った様な気がしたのは気のせいか?

 利根川が火をつけると(人間ライター?)、明るい光が皆の顔を照らした。60ワットの白熱球位の明るさがある。八畳一間程度なら、これ一つで夜も大丈夫そうだ。


「驚いた。凄いな、その液体は何なんだ?」

 利根川は嬉しそうに笑ってこたえた。

「秘密!でも、これも売り物になるよね」

「もちろん!ランタンとセットで売ろう。燃費はどうなんだ?」

「良くもならないけど悪くもならないわ。その代わり、熱がほとんど出ないというか、全然暖かくならないの。火も付かないし、すすもほとんど出ない」


 明るくなって煤が減るのならば言う事なしだな。おまけに火事の心配も無いとすれば、価格次第では大ヒットするのではなかろうか。皆拍手で利根川をたたえて会議は終了なのだが、一言断っておこう。


「実はクーラーを作るために先生に魔法陣の作成をお願いしてお疲れみたいなんだ。ボーナス代わりにウイスキーを一本献上してもいいかな?」

 反対する奴が誰もいなかったので、利根川に手配をお願いして今度こそ会議は終わったのだった。そのままラウンジに行くと、野田が待っていた。


「どうした?」

 野田は笑顔でこたえた。

「楽譜が出来た」

 俺は喜んで答えた。

「それじゃあ楽器ギルドを呼ぼう。いつがいい?」

「いつでもいい」


 カウンターに行って、楽器ギルド長のナルエイさん宛てに「打ち合わせの準備が出来ました」という手紙(FAX)を送って貰うように頼んだ。カウンターから戻ると、隅のテーブルで伊藤と利根川が打ち合わせているのが目に付いた。


 利根川に声をかけながら伊藤の背中で「日焼け止めクリーム」と呟いた。伊藤は振り返ることなくハンドサインでOKしてくれた。回りには聞こえなかったようなので、俺は胸を撫でおろした。ミッション成功だ。これが羽河が言う所の注意ということなのだろうか。良く分からん。


 今日のミドガルト語の講義は、朗読だった。子供向けの絵本みたいなのを一文ずつ読んでいくんだけど、三か所間違えた。まあそれはいいとして、先生がお疲れ気味に見えた。取説の翻訳・契約書の確認・江宮が頼んだ魔法陣の作成と、仕事が重なったのだろう。

 

 講義が終わってから先生の所に行ってねぎらいの言葉をかけると共に、江宮から頼まれた魔石のことを確認した。

「現在開発中の新しい魔法具のために火と風と水の魔石が各十個必要なんですが、商業ギルドに発注してもいいでしょうか?」


 先生はしばらく考えてから返事した。

「多少はここにも魔石の在庫はあるのですが、その数であれば注文した方がよろしいでしょう。代金は王家で支払うと伝えてください」

「良いんですか?」

「もちろんです」 


 先生が笑顔で頷いたので、礼を言って食堂にお弁当を取りに行った。厨房では助手A・B・Cが調理台の上のマッドクラブと格闘していた。今日の晩御飯が楽しみだ。ラウンジに戻って羽河に一言断ってから、カウンターで商業ギルドに魔石を発注するよう頼んだ。

新製品の開発は順調なようです。

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