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第100話:娯楽ギルド

「いいね」頂きました。ブックマークもありがとうございます。

 ラウンジに戻ると羽河と商業ギルドご一行が待っていた。昨日の四人(ジョージ、リタ、シュアー、パーナナ)だけではない。重鎮のエントランスさんまでいる。何しに来たの?ジョージさんが恐縮しながら説明してくれた。


「昨日お約束しました契約書の雛形を持ってきたのですが、お伺いすることを聞いた御大が自分も同行すると言い張りましてですね・・・」

 困ったお爺ちゃんを見るような目でエントランスさんを見ている。


 俺は囲碁と将棋のセットを出すと、恭しく差し出した。エントランスさんはニコニコ笑いながら受け取ってくれた。丁度工藤が通りかかったので、事情を説明した所、快くエントランスさんのエスコートを引き受けてくれた。


 隣のテーブルで囲碁と将棋のルールの勉強会を始めた二人を横目で見ながら、俺たちは会議室に移動した。まずはドライヤーのサンプルを渡して、使い方と魔石の交換方法を伝授する。


 次にシャンプーとリンスの契約書の雛形を受け取った。依頼した通り、本契約書と別紙という形になっているようだ。許諾した商品ごとに対価の金額と支払い方法を別紙で規定するのだ。

 内容を確認して、明日以降返事することにした。ウイスキーの契約書の時にこの方法を取っておけばよかったと思ったが、仕方ない。


 今度は俺からの報告だ。囲碁・将棋ギルドの設立について、伯爵から受けた提案(設立資金の三割を拠出する代わりに、ギルド長の椅子とタイトル戦の名前を一つ配慮して欲しい)について説明した。


 ジョージさんによると、そこそこの場所でギルドの本部を構えるとなると、設立費用を含めて一年間で金貨百五十枚ほど必要になるらしい。家賃・人件費なども馬鹿にならないからな。その三割を拠出してくれるのであれば問題ないのでは?ということだった。俺は気になっていることを聞いた。


「いくらお飾りとはいえ、無給と言う訳にはいかないと思うのです。ギルド長の給金は幾らぐらい必要でしょうか?」

 ジョージさんは笑いながらこたえた。

「名誉職という事であれば、月に金貨一枚で十分と思いますぞ」


 胸を撫でおろした俺にジョージさんが提案した。

「本部の場所、改装、看板、家具・備品・消耗品、番頭・経理・事務員三名、定款、役所での各種手続きまで含め設立については全て我が商業ギルドが承ります。どうぞ大船に乗ったつもりでいてくださいませ」


 羽河が俺を見て微笑んだ。俺は覚悟を決めた。

「よろしくお願いします。うちは出資者という形で参加し、顧問を一人出させて頂くだけで良いでしょうか?」

 ジョージさんは笑顔で頷いた。

「それで結構です」


 念のため、これも聞いておこう。

「設立をお任せするにあたって、その手数料はお幾らでしょうか?」

 ジョージさんの笑顔は止まらなかった。


「全て無料です、という訳にはいきませんで、金貨百五十枚のうちの十五枚は我がギルドの手数料となります。通常の約半額なので、何卒ご容赦くださいませ」

 俺は安堵の息を吐いた。無料で全部やりますとか言われたらどうしようかと思っていたのだ。


「ご納得頂けたようですな。ありがとうございます。これで大枠は決まりましたな。定款で規定するギルドの目的は囲碁・将棋の普及と育成、そのために用具の製造と販売およびカップ戦を開催する、ということでよろしいでしょうか?」

「それで結構ですが、将来的には囲碁・将棋以外の遊戯も考えているのです。ギルド名はもっと包括的な名前にした方が良いですか?」


 ジョージさんが叫んだ。

「なんですとー!」

 だって、リバーシ以外にもトランプや麻雀、人生ゲームなどいろいろあるんだもん。


「そういう話はもっと前に聞いておきたかったですな」

 と言いたそうな目で見られてしまった。ごめんね。

「すみませんね。囲碁と将棋は正式名称もまだ決まっていないので、あまり先走ったことは言いたくなかったんです」


 ジョージさんは落ち着いたようだ。

「ギルド名については今の話も含めてよく考えてみましょう。良い案があれば是非お願いします」

 俺は何の気なしにこたえた。

「それならいっそ『娯楽ギルド』でいいかもしれませんね」


 ジョージさんの目が光った。

「素晴らしい。それでいきましょう」

 なぜ?


「え?いいんですか?」

「この分野であれば、娯楽より幅広い言葉はございませんからな。この名前であれば、出資者を募るのもたやすいでしょう。私は特定分野の専門的なギルドを想定していたのですが、一流の大ギルドに育つ未来が見えてきましたぞ」


 ジョージさんは静かに燃えているようだった。どうしよう。俺はまた余計なことを言ったのかもしれない。羽河を見ると、あきれたような顔で俺を見てため息をついた。すまん・・。


 ここでやっと三人娘の番になった。スリットスカート・ワイドパンツ・トートバッグ・ブラジャーについては、見本を元に製造を委託するであろう服飾ギルドと打ち合わせているそうだ。もう少し時間を下さいとのこと。もちろん俺に異論はない。


 一通り終わったので、羽河は契約書の雛形を持って先生の部屋に行った。ドライヤーを従者に持たせたジョージさん達とラウンジに戻ると、工藤とエントランスさんの話も一段落ついていた。将棋で取った駒を手駒として再利用することについて、もう確認したそうだ。


 エントランスさんによると、「確かに取った敵方の駒を自分の手駒として使うことに違和感はございます。しかし、それが逆に異国で生まれた遊戯盤としての新しさを感じさせますぞ。このままでよろしいのでは」ということらしい。工藤がなぜか感動していた。ユニックさんが何というか楽しみだな。


 今日の晩御飯は、エビフライだった。正確に言うと、ザリガニフライかもしれないが、濃厚なうま味はエビそのものだった。もちろん一匹がでかいので、身をぶつ切りしてパン粉を付けて揚げているのだが、タルタルソースとの相性も最適化されていた。付け合わせは山盛りの千切りキャベツとポテトサラダ。次は天ぷらだな。


 デザートは大福だった。アズキの餡子の甘味がガツンと来て、疲れた体を癒してくれた。緑茶代わりにハーブティーでしみじみしていたら、浅野がやってきた。ブランドのロゴが出来たのだ。既に他のメンバーには確認済みとのこと。ワインのラベルも明日には仕上がるそうだ。


 浅野がロゴを書いた紙を渡した時に、俺は最近浅野に感じていた違和感の正体に気が付いた。それは胸だった。召喚された時にはぺったんこだったのが、今は女性のシンボルと言うべき二つの豊かな膨らみが確かに存在していた。


 俺の視線に気が付いたのか、浅野は顔を少し赤くしながら戻っていった。俺は呆然としながらロゴに目を落とした。ミドガルト語の「Slits」に相当する文字の右横に裂け目のマークが入っている。


 横から覗き込んだ洋子が叫んだ。

「いいじゃないの!」

 お陰様で(何の?)、好評みたいです。いずれ関係するギルドに配らないといけないので、後で江宮に複製して貰おう。浅野の胸でショックを受けたせいか、俺は何の考えも無くポロリと言ってしまった。


「あとは化粧水にハンドクリームかな」

 突然、回りから音が消えた。女の子達が無言で俺を見つめている。食堂中が静かになった。やばい、これはトートバッグの時と同じだ・・・。誰かが話し始めた。


「それそれそれそれ」

「そうよ、何かが足りないと思っていたのよ」

「何で今まで気が付かなかったんだろう」

「たにやん、どうしてあんたが気が付くのよ」

「そうよ、おかしいわよ」

「さっさと白状しなさい」

 どういう訳か、また吊るし上げられそうになった。どうして?


 女の子達の剣幕に一言も反論できなかった俺を助けてくれたのは、やっぱり羽河だった。

「まあまあ、みんな抑えて抑えて。たにやんも偶然思いついただけみたいよ」

「本当かしら?」

「羽河さん、かばっているんじゃないの?」


 羽河は笑顔でフォローしてくれた。

「違う違う、たにやんがそんな悪い事考える訳ないでしょ」

 疑わしげな雰囲気・・・。助けてくれたのは意外な人物だった。


「俺がやるよ」

 おずおずと手を上げたのは伊藤だった。利根川も続けてくれた。

「私がサポートする」

 羽河が拍手した。

「シャンプーとリンスを作った二人なら安心ね。みんな、これでいい?」


 皆、不承不承と言った感じで納得してくれた。とりあえず助かったぜ。胸を撫でおろした俺に羽河が注意した。

「さっきもそうだったけど、たにやんはもう少し注意した方がいいわ」

 俺は黙って頷いたが、何をどう注意したら良いのかさっぱり分からない。


 とりあえず伊藤と利根川に礼を言った。伊藤からは「お前も大変だな」と慰めの言葉を貰った。人の情けが目に染みるぜ。利根川からは「貸しにしとくからね」とドライに言われた。なんかしらんけど理不尽すぎる。


 平野から大福を三個貰って部屋に戻り、いつも通りお供えした。明日どうなるかさっぱり分からないが、どうにかなりそうな気がしないことも無いことはないのだった。

化粧水とハンドクリームが新商品に加わりそうです。

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