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第1話:異世界に召喚されました

 谷山隆たにやまたかしがクラスに駆け込んだのは朝礼のぎりぎり一分前だった。野球部の朝練の片づけが思ったより長引いたのが原因だが、いつものことなので誰も気にしない。


 朝礼が終わり一時限目が始まる前の隙間のような時間帯にそれは起こった。期末テストも無事(?)終わり、明後日から高校最後の夏休みという気持ちの緩みが原因だった、なんてことないよね。

「ほへ?」なんて誰かの間抜けな声と共に、三年三組の三十人が仲良く異世界に旅立ったのは7月19日の朝だった。


 絶対的な時間でいえば一瞬なのかもしれない。しかし、体感的には椅子に座ったままで上下前後左右のあるゆる方向に裏返しになりながら猛スピードで突っ走るジェットコースターに30分以上乗せられた気分。


 追い打ちをかけたのは頭の中、フルボリュームで鳴り響く甲高い子供の笑い声と、脳の中に指を突っ込んでぐちゃぐちゃにかき回されるような形容しがたい不快感。

 おまけに吐きそうなのに吐けないという二重三重の苦しさに耐えた末にたどり着いたのは巨大なホールの中だった。


 呆然と座り込む三十人の下には直径15メートルほどの円形の魔法陣が白い大理石のような床に鮮血のような赤で書き込まれていた。

 目線を上げて周りを見渡すと、天井までの高さ十メートル以上、縦五十メートル・横三十メートルはある、古代ギリシアの神殿のような石造りの部屋だった。ちょっとした体育館なみの広さがある。


 四隅には天井を支える直径3メートルほどの円柱が聳え立ち、四方の壁と天井には神話とおぼしき荘厳なレリーフが全面に刻まれている。壁の最上部と天井との間にかすかに隙間が見えるのは明り取りだろうか。

 長方形の部屋の短い辺の片方には、壁際の中心に高さ5メートルほどのアポロ像に似た青銅色の彫像が台座の上で冷たい微笑を浮かべて立っていた。


 四隅の円柱それぞれの両脇に置かれた身の丈をはるかに超える大きな松明の灯りで暗くはないが、ぱちぱち火の粉が弾ける音以外には何も聞こえない。あたりに漂うのは松の木を燃やしたような独特の匂い。

 のっぺりした蛍光灯の明かりとは異なり、動物のように自在に揺らめく炎によってレリーフの影は不規則に伸び縮みし、無数の影がまるで生きているかのように見えてくる。


「なんだよ、これ・・・」

 誰かのつぶやきと共に皆が一斉に叫びだした。

「ここはどこ?」

「誰がこんなことしたの?」

「ドッキリか?ドッキリなのか?」

「ケータイが使えないんだけど」

「早く帰して!」

「責任者出てこい!」


 最後の言葉が聞こえた訳ではないのだろうが、彫像と反対側の壁側からバン!と大きな音が聞こえた。隆があわてて振り返ると、中央で幅3メートル位の両開きの扉が全開になっていた。扉から入ってきたのは2メートルほどの槍を右手に持ちピカピカに磨かれた銀色の全身鎧フルプレートを着た中世の騎士のような男が六人。


 ガチャガチャ音を立てながら二メートルほどの間隔で一列に並んで歩いてくる。一人と兜越しに一瞬目が合ったが、氷のような殺気を感じたのは気のせいだろうか。


 一呼吸開けて入ってきたのは純白のマントをまとい、腰まで届きそうな金髪にサファイアのような青い眼をした16~17才くらいの美少女だった。身長は170センチ位だろうか、前をきっちり閉じたマントが邪魔でスリーサイズは見当もつかないが、頭の小ささから八頭身のモデル体型だろうなと思う。色とりどりの宝石で飾られた額のティアラを見て欧州の王室を連想したのは俺だけじゃないはずだ。


 雪のように白い肌、フランス人形のように整った顔、まじまじと彼女を見て美しいとか綺麗とかそんな言葉では表現できない次元の魅力があることを初めて知った。

「尊い」・・・誰かがつぶやいた言葉に100%同意しました。右手に持った短い銀の杖の頭に埋め込まれたダイヤのような宝石の輝きがまぶしかった。


 続けて入ってきたのは背が高くメガネをかけ針金のように痩せた黒いスーツ姿の男。なぜか教頭先生を連想してしまった。そのあとには銀のオールバックに派手な勲章付きの黒のタキシードを着こんだナイスミドル(死語)と、髪を結いあげいかにも女官長然とした初老の女性、濃い緑色のフード付きローブで頭まですっぽり覆った男女不明が二人、最後に金糸や銀糸の飾りが縫いとられた濃紺の上下に腰にサーベルを巻いた騎士とメイドさんがそれぞれ10人ほど。残念ながらメイドさんのスカートは足首まであった。もう少しサービスしてもいいんじゃない?


 俺達から五メートルほど離れた所で六人の騎士は横一列に広がり床に片膝をついた。槍を床に置き、穂先を俺たちに向けず横にしているのは俺たちが敵とは見なされていないと考えて良いんだよね?

 少女は騎士たちから二メートルほど下がった位置で立ち止まった。左膝を軽く曲げ優雅に会釈すると、顔を上げ柔らかく微笑んだ。


「皆様、ようこそ我がミドガルト王国へお越しくださいました。私はこの国の王女、エリザベート・ファー・オードリーと申します」

ミドガルト王国?そんな国あったっけ?俺の疑問を置いてけぼりにして彼女の言葉は続く。


「我々の国は今存亡の危機にあります。魔王が復活したのです。復活した魔王は軍備を着々と整え、人の国への侵略を企てております。

 既に国境を超えた威力偵察が始まっており、準備が整い次第一気に攻め込んでくるでしょう。その時期は早ければ二年後、遅くても三年以内と予想されます」


 彼女が右手の杖を掲げ宝石が一瞬光ると、頭上に幅五メートル、高さ三メートルほどの半透明のスクリーンが開いた。古文書や絵画などから撮影したと思われる過去の戦争の歴史がスライドショー形式で再生される。


 グロテスクで残虐な魔族、惨たらしく殺されていく民衆、焼け落ちる都市、荒れ果てた大地・・・。

 迫力満点のプレゼンありがとうございます。しかし、この辺から俺の乏しいラノベ知識では頭がついていかなくなった。


「魔王が古文書に記載の通りの存在であれば、彼が望んでいるのは単にこの国を攻め滅ぼすことだけではありません。彼の願いは人間そのものの抹殺です。

 負けたら我々人間は皆殺しにされるのです。私の後ろにいるミドガルト王国の国民一千万人、そしてさらにその後方にいる他の国々のためにも皆様のお力を貸していただけませんでしょうか」

せ、戦争ですか?日本はすでに憲法によって永久に放棄しているのですが。


「魔王の復活を知った我々は一縷の望みを託して二百年ぶりに勇者召喚の儀式を行いました。王家に伝わる秘伝書を元に召喚の間を用意し、魔法陣を画き、魔力を蓄え、最適な日を選び五年がかりで召喚の儀式を行いました。我らの懇願に応え、世界を渡って来られた皆様に心から感謝致します」

 召喚?拉致・誘拐の間違いでは?


「皆様は世渡りの際に、代償として渡し守から三つの祝福ギフトを受け取っておられます。一つ目は言霊ことだまです。今こうして私たちが会話できるのは皆様に与えられた言霊ことだまのおかげです」

 まだ俺たちは一言もあなたに話しかけていませんが。


「二つ目の祝福ギフト健康ヘルスです。もし、召喚の前に病気や怪我をしていたら、完治した状態で召喚されているはずです」

 これは正しいかもしれない。俺は知らぬ間に外した眼鏡を握りしめながら考えた。視力0.1の俺が裸眼で十メートル以上離れた彼女の顔がはっきり見えている。瞳の色まで分かるのだ。


「三つ目の祝福ギフト職業クラスとスキルです。皆様はすでに魔族と対等に戦える潜在能力を持っておられます」

 あくまで戦うことが前提なのだろうか?それにしてもあの召喚中、頭の中に手を突っ込まれたような時に祝福ギフトをうけとっていたのかね。となるとあの子供のような声で笑っていたのが渡し守?


「はい」と工藤康くどうひろしが座ったままで手を挙げた。ここは学校か?

 工藤は黒縁眼鏡を外すと疲れきったような低い声を出した。

「そんなこと俺には関係ない。さっさ元の世界に戻してくれ」


 そういえばこいつ、夏前の模試で志望校の難関大学のA判定が出ていたっけ。実家は江戸時代から続く名刹(興福寺につながるらしい)で、父親はそこの住職だ。中学までは従順に?代目として英才教育を受けていたらしいが、高校に入ったら突然ぐれて(?)仏教系ではない大学を目指すと言い出したらしい。

「残念ながら今すぐは無理です。帰還のゲートが開くのは魔王を倒してからとなります」


 工藤は激昂したのか、立ち上げると手を振り上げ大きな声で叫んだ。

「卑怯だぞ。魔王を倒さないと帰さないと言うんだな」

 身長は175センチ程で俺より少し高いくらいだが、薄い眉毛に坊主頭のせいか、こいつが怒るとなんか迫力あるんだよな。


 王女は一瞬困ったような顔をするが、銀の杖を胸の前で両手で握りしめ、覚悟を決めたように言い返した。

「申し訳ないのですが、魔法陣の詳細な知識は失われており、今すぐ帰還の陣を用意することは困難です。我々はあなた方がどの世界から来られたかもわからないのです。お願いです、ご納得いただけた方だけでもご協力いただけませんでしょうか?」


「いいぜ!」

 工藤の後ろで尾上六三四おがみむさしが立ち上がり、声を上げたのでクラス全員が驚いた。普段おとなしい尾上が声を上げたからじゃない。

 尾上は半年ほど前に大きな交通事故にあい、先月退院したばかりなのだ。今月からようやく通学を開始したものの、いまだ車いす生活を送っていた。尾上は屈伸しながら続けて言った。


「一生自分の足で立つことはできないと言われていたのに、事故前よりも調子がいい位なんだ。俺にできることならなんでもするぜ」

 それにしてもあいつ、こんなに背が高かったっけ?工藤と同じくらいなので、175センチくらいありそうだ。肩の下位まで伸ばした髪を後ろになでつけながら言い切った。


「ふざけるな!」

俺の横で叫んだのはヒデこと野原英雄のはらひでおだ。立ち上がると、180センチと尾上よりもさらに背が高い。こいつは俺と同じ野球部だ。名前は教科書にも載っている医学関係の偉人と似ているが、頭の出来は今一歩、いや二歩。しかし、運動神経は抜群で、甲子園の常連校が集める全国屈指の激戦区でわが校が公立でありながら昨年ベスト8まで進んだのは、全てこのエースで四番の活躍のおかげだ。


 ヒデはスポーツ刈りの頭をガリガリ掻きむしりながら少女を睨みつけた。そうとう苛ついているみたい。そういえば、こいつもすでに東京の有名私大へのスポーツ推薦が決まっていたはずだ。


職業クラスとスキルってなんなの?」

 続けて後ろで叫んだのは菅原洋子すがわらようこ、俺の彼女だ。広い額に大きな目。すっきりした鼻筋に大きな口としっかりした顎。髪は肩より上のショートカット。好奇心旺盛で何でも首を突っ込むのが彼女の弱点だ。王女は洋子を見て微笑んだ。


「皆様のご判断の参考にしていただくために、職業クラスとスキルについて宰相さいしょうのレボルバー・ダン・ラスカル侯爵から説明させていただきます」

 王女の横に立った黒いスーツ姿の男が陰気そうなルックスに似つかわしくない明るい声を張り上げた。


「宰相のレボルバー・ダン・ラスカルでございます。職業クラスとスキルについて簡単にご説明します。まず、職業クラスは神様が皆様に対して託されたこの世界での役割とお考え下さい。剣士には剣士の、魔法使いには魔法使いの生き方や適性のようなものがございます]

 つまり職業クラスは、ロール・プレイング・ゲーム(RPG)におけるロール(役割)のようなものだろうか?


「そして、スキルはその役割を果たすために与えられた能力でございます。職業クラスは皆様の努力と実績に応じて進化し、進化に応じてスキルも増えていくのです。細かいことは、個別にご説明致します」


 宰相様が後ろを向いて合図すると、扉から小さな黒板みたいのを手に持った緑色の修道服姿の男女がなだれ込んできた。女の子なんかまさしくシスターといった感じ。 男には可愛い女の子が、女には長身の美男子イケメンが一人一人張り付いてマンツーマンで対応する。俺の前にも軽くウェーブが入った金髪でショートカット、パッチリした緑色の瞳が可愛い小柄な女の子がやってきた。


 なんとなく大きな航空事故後の遺族に対する対応を思い出してしまった。こういうやり方も秘伝書に書いてあったのかな?ちなみに二人ほど「チエンジ!」と叫んで、担当を交換していた(ここはデリヘルか?)のは見なかったことにしよう。


 女の子は部屋の隅のほうに俺を引っ張っていくと、軽く右膝を曲げて礼を取った。

「はじめまして、セリア・アーチェと申します。神殿付きの巫女です。よろしくお願いします」

「は、はじめまして。た、たにやま、た、たかしです。野球部です。よろしくお願いします」


 優しく微笑む彼女に動揺してどもった上に「野球部」なんて関係ないことを言ってしまったのは、意外な胸の大きさにクラッと来たからではない。多分だが。ちらりと後ろの方を見ると、クラスの皆がホール内に分散した中で、頬を染めて金髪碧眼の美男子の説明にうなづいている洋子がいた。おかげで少し頭が冷えた。


「それでは谷山様、職業クラスとスキルについて説明します」

「その前にここがどこなのか教えてよ」

 セリアはふわりと笑うと左手に持った黒板を俺の前に差し出し、呪文を唱える。

地図ワールド


 黒板は一瞬光ると、島のような地図を表示した。すげー!空中投影型のディスプレイの次は音声認識のタブレットかよ。やるじゃん、異世界!やるじゃん、魔法!思わず黒板を手に取って注視する。画面に表示されていたのは、オーストラリアをもうちょい東西に伸ばしたような島だった。


 回りが水色なのは海に囲まれているということなのか。 第一印象としては右半分が山あり川あり緑ありでメリハリのある地形なのに、左半分は手抜きというか、端っこ数か所を除き全面ほぼ黄色で塗りつぶされているだけ。


「ここはミドガルト王国の王都グラスウールにあるジャスフェル神殿です。この世界で唯一の神であるミトカ神をまつっております。そしてこれはミドガルド王国が存在するこの世界唯一の大陸、デルザスカルの地図です。

 古文書によると大陸の東と西の海にもそれぞれここより大きな別の大陸があると言われていますが、長時間空を飛ぶことも海を渡ることもかなわず、その目で新大陸を確認したものはまだおりません」


 彼女は大陸の中央部、大陸を上から下まで東西に二分割する濃い茶色のほぼまっすぐな線を、右手に持った白いチョークのようなものでなぞった。

 茶色の線の東側には細い水色の線が見え隠れし、さらにその東側はやや幅広の濃い緑色になっている。残念ながら、この世界に飛行機が無いことは確定か。


「これがこの大陸を東西に分けている大地溝帯です。長さは二千キロメートル以上、幅は最大で五十キロメートル、狭いところでも一キロメートルあり、深さは平均して数百メートルもあるそうです。

 底からは有毒ガスが噴き出しており、いかなる生物も生存できません。大地溝帯の西が魔族、東が人間とエルフの領域となります」

 地図の色からして山脈かと思っていたら溝だったのね。


「大陸の東半分の約三分の一にあたる東の端はエルフの国です。鬱蒼とした森が茂る大森林地帯となっており、入らずの森とか帰らずの森と呼ばれております。

 王宮からの使者や特別な約定を結んだ冒険者・商人以外の者が迷い込むと、方向感覚を狂わされ森から出られなくなります。森の中にはそうやって朽ち果てた者の白骨が数知れず眠っているそうです」

 素直に怖い。富士の樹海かよ。


「なお、入らずの森の中央には世界樹の木がそびえ立っているそうです。エルフはその守護者を自任しており、うかつに近寄るものを決して許しません」

そんな怖い場所には絶対に行かないから大丈夫です。これって、フラグにならないよね?


「エルフの国と大地溝帯の間には東西に走る山脈が南北に二本並行しており、それが国境となって三つの国に分かれております。北がハイランド王国、南がネーデルティア共和国、そして真ん中がこのミドガルト王国です。

 南北とも国境沿いに幾つかの小国、ドワーフや獣人の国、その他の公国などがありますが、主な国はこの三つです」

 彼女は南北の二つの山脈に挟まれたエリアの真ん中よりやや西寄りに×をつけた。


「ここがミドガルト王国の王都、グラスウールです」

 おおまかなこっちの地理は分かったが、魔族の国はどうなっているのだろうか?

「相手さんはどうなの?」

「魔族の国ですか?」


 セリアさんは一瞬考えこんでから答えた。

「実は魔族の国についてはほとんど何も分かっていないのです。分かっているのは、全土がほぼ砂漠と荒れ地で耕作できないこと、緑が多い西と北の海辺のわずかな土地にほとんどの人口が集中していること、人口が百万足らずということです」

 敵ながら同情してしまいそうな環境だ。


「何でそんなに情報が少ないの?」

「魔族の国に入るには大地溝帯以外にも幾つか障害があります。まずは大地溝帯の手前の魔の森です。狭いところでも幅が百キロメートル以上あります。通常の森と異なり、Aランクの冒険者でも手こずる凶悪な魔物がうようよいます。

 森を何とか抜けても、森と大地溝帯の間には幅が百メートルを超える大河、オノロフ川が流れています。もちろん水生の魔物が待ち構えていますので、渡るだけでも大変です。渡り切ったら大地溝帯、それを超えても再度、魔族側の魔の森が広がっていると言われています」


 一息つくと彼女は短く言い切った。

「今までのところ、魔族の国に行って戻ってきた人間はおりません」

 大地溝帯と大河を魔の森がサンドイッチしている訳ね。そりゃー大変だ(他人事?)。


「海から行くのはどう?」

 多分ダメなんだろうなと思いながら一応聞いてみる。

「南回りは海流の関係で、北回りは海生の魔物の関係で海から行くのは困難です」

 彼女は北側の海に複数の×点を、南側の海に西から東に向かう矢印を数本書いた。

 となると逆に疑問がわいてくる。

「それならどうして奴らが攻めてくるとわかったの?」


 セリアは少し考えこむとゆっくり話し始めた。

「魔王が復活したと神殿でお告げがあったのが、ちょうど十年前でした。我々はハイランド王国およびネーデルティア共和国と協力し、S級冒険者に依頼をかけて、オノロフ川の手前から定期的に大地溝帯全域の偵察を行いました。

 お告げが正しかったことが分かったのは、五年後です。魔族は大地溝帯のちょうど中間地点あたりで、オロノフ川の東岸に前線基地を作り始めたのです。

 決死隊を募り、大地溝帯まで偵察を出したところ、一年のうちに三日だけ毒ガスの噴出が止まる日があることがわかりました。前線基地のある所は大地溝帯が最も狭く浅くなっており、そこに足場を作り安全な日を選んで物資を人力で運んでいたのです」


 セリアは大地溝帯の真ん中あたりに第二の×点を付けた。東にまっすぐ行けばグラスウールに突き当たるという絶好の位置。人族の一番バッターは確定ですね。それにしても連中は長さ一キロに渡ってバケツリレーをやった上に渡河してきたのか?


「物資を格納する倉庫の大きさと数、および増加のペースから兵站部が計算した所、早くて二年後には戦争の準備が終わるのではないとのことです」

 俺は頭をかきながら言った。

「俺たちに何をやれと?」

セリアは俺の目を見て明言した。


「別に魔王を倒す必要はありません。前線基地をつぶし、物資を焼き、足場と土台を崩してくだされば結構です」

「え?魔王を倒さなくてもいいの?」

「もちろん倒せればそれが最善ですが、魔族の侵略の意思と可能性をつぶせばそれでよいのです」

 セリアさんて頭良いかも。これなら作戦と運用次第で勝機あるんじゃない?


「しかし・・・」

「まだ何かあるの?」

「今の作戦で魔王軍の組織的な侵攻は阻止できると思いますが、その場合最終手段として魔王が一騎当千の側近を引き連れて単独で攻めてくる可能性があります。この国の心臓たる王都を墜とされたら、あるいは王族を殺されたら我らの負けです」


 戦略で負けたら個人技を生かしたパワープレイで攻めてくるわけね。魔王と戦わなくても良いかも、なんて一瞬でも考えた俺が馬鹿あまちゃんでした。

「あのさあ、エルフと共闘するのはダメかなあ?」

 魔法が使えて弓が得意なエルフは大きな戦力になると思うんだよね。

 セリアは俯き加減で答えた。


「エルフは誇り高い部族です。彼らから見たら人間も魔族も同列です。エルフは戦闘能力は高いのですが、元々人数が少なく非好戦的な種族なので、魔族がミドガルト王国に攻め込んでも、森への進軍を行わないと誓約したら、中立を守る可能性が高いと言われています」

 あーあ、やるしかないみたい。


「大地溝帯を国境線と考えた場合、我が国はすでに侵略され、敵の前線基地が完成まじかの状態です。今年に入ってから、時折魔の森沿いの集落が魔族と思しき集団に襲われています。自警団では歯が立たず、国境騎士団では手が回らない状態です。このままではいつか第二の前線基地が魔の森沿いにできてしまうでしょう。そうなればこの国は終わりです。何卒この国を、そして人間をお助けくださいませ」

 必死の祈りのような言葉が俺の胸に突き刺さるが、まず聞いておかなければいけないことがある。


「仮に魔王を倒したとしよう。俺たちはどうやって帰れるの?」

 セリアはまっすぐに俺を見ながら答えた。

「魔王が滅すると、この召喚の陣は自動的に帰還の陣に書き換わります。皆様がこの陣に乗ってから、ここの真下にある祭儀場で帰還の儀式を行うと、帰還の門が開くのです」

 どういう仕組みかわからないが、魔王の死が帰還のトリガーになっているようだ。

「大体状況は分かったよ。職業クラスとスキルについて教えて」

説明回です。レボルバーは顕微鏡の部品、グラスウールは建築用の資材からとりました。週一回位のペースで更新する予定です。

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