字幕
いつかの風景を思うと、
その前に文字が
並んでゆく。
ゆらりとした文字。
イメージの中の映像は、
字幕映画のように、
文字は素朴で平凡な言葉に
変わってゆく。
ぼくは玄関の廊下で
寝転んで、
頭に溜まった字幕を
書いてゆく。
寒いけれど、
廊下でしか書けなくて、
そんな映画の時間を
かき集めてゆく。
映像を浮かべて、
思い出を重ねて、
なるべく続けて書く。
風が見えるように書く。
思いつくままで
いいわけじゃなく、
何かしら、一つでも、
風を残そうとする。
無理に書かなくてもと
言われて、
その通りにしたなら、
たぶん、元には戻れない。
たぶん、戻れないだろう。
錆び付いてゆくだけだと思う。
風景を見て、思って、
たくさんの字幕映画が欲しい。
いつかは、字幕映画の字が、
途切れ途切れになるだろう。
心の視力が落ちていく前に、
できるだけ書き写す。
書き方を教えてと聞かれて、
そんな話をしたけれど、
あれから、何か書いているのか。
先週は曇り、この週末は雨……