4 誤解って言うか
「あのさあ、榊……何でおまえが、ここにいるんだよ?」
俺が素直な疑問を口にすると――
「何でって言われても……私、このマンションに住んでるから」
俺は質問したことを、一瞬で瞬間に後悔する……何故ならば、藤崎ミサトが全部聞いていたからだ。
「ああ、そう……そういうことなんだ? だから、榊さんは……泣いてたんだね!」
「おい……」
いきなり走り去るミサトに――俺はほとんど、何も言えなかった。
そんなことよりも……榊エリカが同じマンションに住んでいることに、動揺していた。
「へえー……そうなんだ? まあ、こんな偶然ってあるんだな。それじゃ……」
横をすり抜けようとしたとき――エリカは両手を広げて、俺の前に立ち塞がる。
「そうね、偶然かも知れないけど……私はエイジ君の同じマンションとか、ちょっと嬉しいかも!」
おまえさ……ナニ、訳のか解らない事言ってるんだよ?
そんな文句の言葉を飲み込んで、エリカの腕の下をくぐる。
こんな面倒臭そうな奴の相手をするのは、本当に御免だった。
しかし――
「え……どうして……どうしてよ? なんでエイジ君は、私を避けるの?」
突然蹲り、泣き崩れるエリカに――俺は呆然とするしかななくて。
「あ、あのさ……榊エリカさん? どうして、君は……泣いているのかな?」
こんな白々しい台詞を――言わなければ良かったと。後々、俺は後悔することになる訳だが――
「だって……エイジ君が……私を避けるから……」
涙声のエリカの言葉を、俺は心底面倒臭いと思っていた。
「いや、だって……ちょっと、待てよ? 俺と榊さんは……昨日初めて会っただけで、赤の他人だろう?」
状況を整理するために、俺は客観的に言ったつもりだが……エリカはどういう訳か、悲しそうな顔をする。
「私は……エイジ君が助けてくれたことに、物凄く感謝してるよ。でも……それがエイジ君には迷惑だったら……」
想像して欲しい――自宅のマンションの前で、女子高生……て言うか。それなりに有名なアイドルに泣かれるって――俺はどうすれば良い?
「ハハハ……マジで、もう何でも良いから。兎に角、榊……もう、泣き止もうか?」
「う……うん、わかった。ごめんね、エイジ君……」
上目遣いに見つめられて――俺は一瞬、エリカに見惚れるが。すぐに思い直す。
「ああ、もう良いよ。だけど面倒臭いのは嫌だからさ。もう二度と、俺に話し掛けないで……」
そこまで言って――俺は人生最大の過ちを犯した事を悟る。
「や、やっぱり……私は……エイジ君にとって、迷惑なんだあ……」
人目をは憚らず、泣き崩れるエリカに――もう俺は、こう言うしか無かった。
「嫌だな、榊さん……勘違いするなよ? ところでさ……今、暇だよね? だったら、俺と……飯でも食べに行こうか!」
気がつくと俺は――榊エリカの腕を掴んで、駅前のファミレスに駆け込んでいた。