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3 例外と意外


 午後の授業も全部終わったから、俺は家に帰ることにした。

 昨日は結局、徹夜だったけど――まあ、睡眠時間は十分取れたかな?


「さてと……夕飯は何にするかな?」


 学校からの帰り道を、今日も一人で歩く。自宅までの二十分ほどの距離を、俺は徒歩で通学していた。


 周りには同じ制服を着ている奴らが結構いて、連るんでいる連中も多いけど。俺は一人でいることが、全然気にならなかった。

 高校には義理で通っている訳で、友達を作りたいとか別に思わないから。誰かと連るむ気なんてサラサラない。


 三年間、日本の高校に通う――それが約束だから、俺は仕方なく通っているだけだ。


「あ……朱鷺枝じゃない。ホント、偶然ね!」


 いきなり角から現れた女が、声を掛けてくる。

 黒髪のポニーテールに、切れ長の目。色白の肌に、口元のホクロが印象的な彼女は、藤崎ミサト――隣のクラスの女子だ。


「あ、そうだな。じゃあ……」


「ねえ、ちょっと! 無視しないでよ!」


「無視なんてしてないだろ。挨拶したし」


 俺はそのまま通り過ぎようとするが――ミサトに袖を掴まれる。


「あのさあ……ミサト。なんで、いちいち俺に絡んで来るんだよ?」


 そう、藤崎ミサトは……ボッチの俺に声を掛けて来る例外の一人だ。


 ちなみに俺が下の名前で、こいつを呼んでいるのは。深い意味がある訳ではなくて。向こう(・・・)では当たり前だから、習慣で呼んでいるに過ぎない。


「何よ、絡むとか……嫌な言い方ね! そんなことより……この前の中間、また一位だったじゃない。でも……良い気にならないでよね!」


「ああ、また順位の話か……おまえさ、人の成績なんて。どうでも良いとか思わないのか?」


 ミサトがボッチの俺に声を掛けてくる理由は――成績に関する対抗心からだ。


 こいつも成績が良くて、常に学年で十位以内に入っている……いや、こいつに興味があるから知ってるとかじゃなくて。五十位以内は廊下に張り出されるから、憶えているだけだけど。


「どうでも良くなんて無いわよ! だって、指定校推薦が掛かってるんだから!」


 うちの高校は、所謂いわゆる進学校だから。それなりの有名大学に、推薦枠があるらしい――俺は大学に行く気は無いから、全然興味ないけどね。


「あ、そう……せいぜい頑張れよ。じゃあな……」


 そろそろ面倒臭くなって来たので。放置して立ち去ろうとするが――ミサトはまだ俺の袖を掴んでいた。


「……何なんだよ? まだ俺に用があるのか?」


「えっと……用があるとか、そんなんじゃないけど……」


 このとき――ミサトは何故か、ほんのりと頬を赤く染める。


「あのさあ……今日、学食で……榊さんと何かあったみたいだけど?」


 そういう事か――ミサトは、榊エリカが号泣した場面を見ていたか、誰かに聞いたのだろう。まあ、あれだけ派手にやらかしたら、噂になるよな。


「ああ……俺が榊エリカを泣かせたことか?」


「な……人がせっかく、オブラートに包んで言ったのに!」


「いや、どうせみんな知ってるんだろう? 事実だけど……それがどうかしたのか?」


 今さら言い訳したところで意味はないし。そもそも何で泣かれたのか、俺自身が一番解っていない。


「あ、あのさ……榊さんと朱鷺枝って……どういう関係?」


 そう来るか――女子って、ホントこういう話が好きだよな。


「何だよ、ミサトでも興味あるんだ? だけと、残念だったな……俺と榊エリカは無関係の赤の他人だ」


 昨日の助けたのは、ヴァルハラ機関の仕事バイトだからで。個人的に全く関わりは無い。面倒臭そうな奴だから、関わりたいとも思わない。


「無関係……そんな筈ないでしょ? 女の子を泣かせて……」


 そこまで言い掛けて、ミサトは言葉を途切れさせる。不意に俺が立ち止まったからだ。


「ど、どうしたの……もしかして、怒った?」


「いや、そうじゃなくて……」


 俺は左側の建物を指さす。


「ここ……俺の家だから。まさか部屋まで、付いて来る気じゃないだろうな?」


 ミサトと話している間に、自宅があるマンションに着いた。


「そ、そんなこと……それより朱鷺枝って、結構いいとこに住んでるのね?」


 駅前にある二十階建ての新築マンション――一応、オートロック付きだ。

 ミサトは俺に話し掛けてくる例外だけど、こんなに長い時間話したのは初めてだし。もちろん、自宅の場所を教えた記憶はない。


「じゃあな、ミサト……あとは一人で、勝手に妄想してくれ」


 そう言って俺は、ミサトの手を振り解くとマンションの入口に向かって歩き出すが――


「……えええ!!!」


 ミサトの素っ頓狂な大声に、思わず振り返る。


「おまえなあ……何騒いでんだよ? 近所迷惑だから、他でやってくれ」


 呆れた顔で言うが――何故か、ミサトに睨まれた。


「と、朱鷺枝……あんたねえ! これって……どういうことよ!!!」


「……うん? おい、ミサト……何言ってんだよ?」


「……エイジ君!!!」


 背中から響く聞き覚えのある声に、俺が悪い予感……というか、悪夢の状況を確信して振り返ると――


 俺のマンションの前に、榊エリカが立っていた。



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