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決断の時


 なんの変哲もない日常を彩るには刺激が必要だ


 それは小説の英雄譚だったり、恋人との逢瀬だったり人それぞれの価値観がある

 俺、長門ながとほむらは王族しか通えない学校に平民でありながら通う権利を得ていた

 2510年、人体から魔法という未知の物質が新たに見つかり、それに伴い魔法文化が栄えた

 火、水、雷、土の4大元素は理解することができれば誰でも扱えるようになり、世界は変わった

 ガソリンを使わず、雷魔法で走る車。ガス不要の火魔法。水魔法と土魔法は大地に恵みをもたらした

 そして……いいことばかりでもなかった

 魔法という新たな力の影響を受け、世界中至る所で未知の生物……魔物が現れた

 各国に甚大なる被害を与えた魔物は魔界という異世界から侵略しに世界はあと一歩で滅ぶところまで被害を受けた

 滅ばなかったのは王と呼ばれる精霊に選ばれし勇者が食い止め和平を結んだ

 その結果。その血を引くもの王族が生まれ、一般人と区別された


「王族は勇者である……はぁ、くだらない」


 この学校に入学して早3日。それだけで嫌がらせの数は数え切れないほどだ

 靴や教科書は隠されるのは当たり前。果てには寮の私物までも壊される始末

 昔、憧れた勇者様のような人はこの学校にいないことが痛いほどわかってしまう

 平民の中では多少、成績が良かった俺では学力では渡り合えるが男として悔しく思う

 そもそも、生まれながらにして魔法を使う王族と本を理解して魔法使う俺たち平民とでは力の差が歴然だ

 ただ、その血を引いているがゆえに優遇されている。ふざけた世界だ


 何度も頭によぎることだ。今から魔法を記された本を読めば取得することができるだろう

 だが、それが何になる? 一つの魔法を覚えた程度じゃ王族には勝てない

 それに、王族が何人いると思っているんだ。90人はいるんだぞ……俺一人で勝てるわけがない


「だけど、男のプライドが……いや、やる気の問題だな」


 男には絶対に譲れないしょうもないプライドがある

 男にとって妥協できず、一生引きずり込むような間抜けな自尊心がある

 ぶっちゃけ、今の俺はそれに苦しんでいるし、情けないとすら思っている

 変わらなければいけないのに変わりたくない……そんな安定感を求める心が俺を傷つける


 そして、人生の分かれ道とも呼べる出会いがあった


「……きれいだ」


 にぎやかな街並み。心のどこかで似合わないと思いながらも人混みが気になりかき分け進めた先には同年代と思える女性がいた

 その姿は小さいころから知っている。何度もテレビで見かけたお姫様

 王間おうま佐奈さな。この国の王様の愛娘だ

 テレビで見るよりも何十倍にもきれいなその姿に見惚れ、惚れた


「おい、この先は……」

「あ、すみません」


 警備の兵に止められる

 いつの間にか最前列まで移動した俺は無意識に歩いていたみたいだ

 声かけられて自覚すると周りの視線が俺に向いていることに気付く


「おい、あれ」

「平民じゃないか」

「汚らわしい……どうしてこんなところに」


 俺の制服を見て平民だと判断された

 このままだとまずいと逃げ出そうとしたその時


「貴様……特待生だな。こんなところで何をしている」


 兵士の一人が俺に話しかけてきた


「ここにいたらまずい理由があるのかよ」

「ああ、お前みたいな下賤な者が姫様の目に入ることすら煩わしい」


 テレビでは平等だと訴えているが現状がこのありさまだ

 これを変えたいだなんて思わない。だが……


「うるせえよ。人の自由にケチをつけるな」

「なんだと? その口を利き方は」


 往来だし、手荒な真似はできないと判断した俺は思うがままに続ける


「文句あるのかよ。姫様の下僕風情が、どうせお前も」

「……はっ、ちょうどいい」


 兵士は突然、殴り掛かってきた

 予想だにしない出来事にまともに殴られらた俺は地面に転がる


「な、なにすんだ!」

「けっ、見せしめだよ」

「なんだと」

「平民風情が王都に入っているのも煩わしい……てめぇは俺らと同じ人間であること自体、腹が立つんだよ」


 衣を着せない言葉を発しながら往来で俺は何度も殴られる

 反撃しようにも兵士の背後には武器を持った仲間たちが見え、戦意をくじかれた


「へっ、もう一発!!」

「そこまでだ!!」


 兵士がとどめの一撃をやる前に制止の声が響いた

 涙でかすむ目で見るとパレードの中心から俺と同年代の男がマントを翻し歩いてくる


「あ、あなたは!?」

「そこまでにしろ。貴様、自分が何をやっているのかわかっているのか」

「王子! そのものを庇うのですか!?」

「ああ、一部始終を見ていたぞ。そこの平民は何も悪いことをしていない。見ていただけじゃないか。それなのに」


「ですが、平民です。この王都にふさわしくは」

「ふさわしくないのはどっちだ!!」


 王子と呼ばれた男の声がどんどん近くになってくる。

 その声に不覚にも安心を覚えた


みやびどうしました?」

佐奈さな。いや、なんでもないよ」

「そうなの。そこの人は?」

「そうだった。佐奈。魔法で癒してやってくれ」

「わかったわ」


 魔法で傷がいえていくのがわかる。

 そして、近くにあの少女がいる。

 だけど、俺の心は何一つ癒されることない。むしろ、惨めになっていくだけだった


「これで大丈夫よ」

「あ、ありがとう」


 起き上がらない。泣いた顔を見られたくない。ただ、地面から離れたくなかった

 腕を引っ張られる感触はした。それでも意地を張って、俺は振りほどいた


「それじゃ、戻ろうか」

「ええ」


 足音が遠ざかっていくのがわかる。

 やがて、パレードが終わり。一人残された俺はどうやって帰ったかもわからず、寝転んだ

 その日、俺はベッドで大声で泣いた

 枕を顔面に押し付けて、声が漏れないようにするのが大変だった

 完敗だった。男して、人として負けた

 ミヤビ……調べると俺が恋した佐奈の婚約者だ

 お似合いの二人だ……悔しい、悔しい!!

 

 自惚れていた……心のどこかでは諦めていた

 それでも、目の前でやられると腹が立つ

 この身を裂くような敗北は忘れられない

 俺はその日……心の底から勝ちたいと思った





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