休息
1回お休み話〜
何も無い話を書くのは死ぬほど難しい……それでも頑張ったので…読んでください!!
トレーニングルームから出た隼人はやることが見つからなかった。
体を動かしたくても体の全てに拒否されてしまう。廊下の壁に背を傾けたままボーッとする時間が、ゆっくりと流れていく。
「そこで何してるんですか?」
隼人は我に返り声のする方向を向く。そこには小柄で、声だけを聞くと少し生意気そうな男子が廊下の中央に立っていた。
「疲れたから休んでただけだ。よくあることだろ?」
「ふーん」
不思議そうな顔で男子は納得するが、隼人の服はボロボロで頬からは血が流れている。『疲れた。』の一言で片付けられるような見た目ではない。
「なんでもいいんですけど、体には気をつけてくださいね。いざって時に死にますよ……?」
無意識かもしれないがこの男子は神経を逆撫でしてくる。隼人はイラッとするもあまり関わらないよう、適当に受け答えする事にした。
「お気遣いどーも、死ぬことはねぇから大丈夫だ」
「そうですか? 死に急いでるように見えますよ。トレーニングルームで怪我を負うなんて……。ホントに気をつけてください。これあげますね」
ポケットから無造作に出された絆創膏を隼人に押し付けるように渡す。無自覚にイラッともするが、根は優しい奴なのかも……と隼人は、思い始めている。貰った絆創膏をどこに付けようか迷いつつ、一番目立っている頬の傷を隠すように貼り付けた。それを男子は見届けるとニコッとしてから立ち去ろうとする。
「あ、僕の名前は三谷 瑠衣って言います。また会えたらお話しましょうね」
そう言ってから瑠衣と名乗る男子は立ち去って行く。向こうのペースに乗せられた隼人だが、人の優しさに心が染みていく。
「いてて……」
絆創膏を貼ってから気づくが身体中がとにかく痛い、保健室らしき所を探しに行くために壁から無理やり背を剥がす。両足で自立するのがこんなにも辛いことを久々に実感する。
重い足取りで廊下を歩き始めると、またも人にすれ違う。
「わわ! だ、だっ……大丈夫ですか!? 今治しますね!」
「治すって言っても……怪我はそんな簡単に治らないよ」
「大丈夫ですちゃんと治しますから!」
消毒液や絆創膏で治るような怪我ではない。何日もかけて治すような怪我なのだが、せわしく動く女の子はおもむろに隼人の両腕を掴むと、なにかオーラを流していく。そのオーラはとても心地よく、隼人は夢の中にいるような感覚に錯覚する。数秒間に渡り流され続け、それが終わると体が軽くなったように感じる。
「ほら! 治りました! えへへ」
「ありがと! すげぇ! それなんて能力?」
「秘密ですよー! 能力名には言霊が宿るんです……あまり無闇に言ったらいけないんです! だから秘密です!」
四字熟語には言霊が宿る。これは、能力者に能力を与える為だけではない。霊そのものが言葉となって現れているのだ。能力者の第二の命と言っても過言ではない。
それは曖昧で、しっかり分かっていることではなく、能力者に伝わる都市伝説的な……でも妙に説得力のある言い伝えである。
それを隼人は、バカのひとつ覚えみたいに能力名を自慢し続けていたのだ……。
「そうなのか……知らなかった。教えてくれてありがと…助けてくれたし、いい奴だな」
「ありがとうございます! ちなみに私も今期から兵士になったので、任務であったらよろしくお願いします!」
名前も名乗らないまま、足早にどこかへ行ってしまう。嵐のような女の子だったなぁと思いながら、隼人は廊下を歩きだす。
体も良くなり、歩きながらさっき貰ったばかりの絆創膏を剥がす。傷もない、綺麗な頬を触ると満足げにスキップを始める。
何か面白い部屋はないのかと右と左を見渡しながら進み続けると、資料室と書かれた部屋を見つける。
「なんだこの部屋」
鍵は閉まってなく、そのまま扉を開ける。図書室に似たようなその部屋は、全体が本で包まれている。その内のひとつを手に取ってパラパラとめくり始め、
その内気になるページが見える。
そこには膨大な量の戦闘データが刻まれている。戦術……地形……能力……ひとつの戦闘だけで数多くの情報がある。隼人は感心しながらも適当に読み進めていく。
「君も勤勉家なんだね」
夢中になって読み続けていると不意に後ろから話しかけられる。
呼ばれた方に顔を向けると、眼鏡を掛けているエリートそうな同年代の男性が立っていた。
「いや、俺はなんとなく見てただけで……」
「……そうだったのか、でもこの部屋は面白いよね。不思議な魅力がある」
そう言って男性は本を戻す。隼人もそれにつられて本を戻すと、気まずさから隼人は部屋を出ようとする。
「君はまだ本を読んでいればいいのに、俺はこれから行く場所があるから仕舞っただけで」
「俺も、もういいかなぁって思ったから適当にふらつく事に……」
「そうか、じゃあまた」
そう言われると、隼人は軽く会釈してから部屋を出る。この施設にも色々な人がいるんだと実感する。とうとうやることも無くなり、初めの教室に戻る。
入学式の時のように思い切りドアを開けると、既に裕太と花梨が部屋でくつろいでいた。
「おかえり、隼人」
「私たちもやる事無くなったからさっき戻ってきたの。この部屋色々できるみたいだよ」
「へぇー、すげぇな! 俺にも教えてくれよ!」
そう言って隼人は、二人の元へ走って行く。ここが、これから三人の居場所だと三人全員が実感していた。
四字熟語能力者はごまんといるが、同時代に同名の能力は存在しないと考えられている。