三人一組
前回の話の続きとなってます!
能力って強ければ強いほどかっこいいですよね〜
「以心伝心……?」
隼人は不思議そうに聞き返す。能力名を聞いても内容が想像できないのが隼人という男だ。
「この能力はね、触れた相手と五感を共有することができるの」
「僕の能力は『一石二鳥』一度触れた人の能力をコピーして使うことができる。だから僕は『疾風迅雷』も『以心伝心』も使える。」
2人の説明を聞いても頭がこんがらがってきている隼人のために、ゆっくり、もう一度同じ説明を繰り返す。
しばらくしてから、やっと隼人は裕太の能力を理解する。理解力の低さに二人は疲れきっている様子だ。
「……え!? じゃあ裕太最強ってこと……?」
「まぁ、制限とかはあるだろうけど……気にする程ではないと思う。自分の能力の事よく分かってないからさ」
本当に分かってないのか、適当に流しているのか分からないテンションで返される。隼人はもちろんそのままの意味で解釈をするが、花梨は裕太の謎のテンションに対して違和感をを覚えはじめる。
花梨は軽く咳払いをして注意をこちらに向けさせると、また話を続ける。
「話を戻すとね、私と裕太が能力を使って、私たち三人の五感を共有するの。そうすれば先生の攻撃にも全対処できる。互いが監視カメラみたいなものだからね〜」
三人が互いに見張っておけば、敵の接近に気づく事ができて攻撃を躱せるという作戦だ。
「隼人、裕太、この作戦でいいよね? 時間もないからトレーニングルームに向かお!」
時計を見ると、いつの間にか集合時間の10分前になっている。さすがに初めての任務から遅刻というのでは話にならない。龍にどれだけ怒られるか想像もつかない……乱雑にしたままの教室を急いで出てトレーニングルームを探しに行く。
あまりにも広い施設は、地図を見ても尚迷子になりそうな程だ。施設の色々な部屋を確認し、やっとの思いでトレーニングルームに着く。
教室の扉とは違う、鉄製のドアを開けるとすぐ目の前に龍が立っている。
「お前らギリギリだ。もっと余裕をもって来い。そんなんじゃ戦闘時に体力を消耗してから来ることになるぞ」
息の上がった三人の耳にはろくに届いていない様子だったが、龍はお構いなしに準備を始める。
壁際のスイッチを龍は押すと、無機質で殺風景な広い部屋は景色を変えていく。たちまち周りはビル街になり、少し歩けばビルですぐ死角になってしまう。
「ここでお前らは俺と戦闘してもらう。いいか? これは実戦だ、お前らは生徒じゃない、兵士だ。死ぬ気で戦え、死ぬ気がないなら帰ってもらって構わない。今なら別の所にの異動も可能だしな」
一時間前の戦意に満ちた目とは違い、隼人は、少し怯えた目をする。横目で隣を見ると花梨も同じような目をしていた。裕太だけはなにを思っているか全く読めなかったが……。
しかし、それだけで引き下がるという事はない。隼人にとって引き下がるという行為は自分のプライドが許すはずもないのだ。
「逃げるわけないだろ。その言葉の通りなら、先生も死ぬ気があるって事だよな?」
隼人は負けじと挑発を返そうとする。しかし、気迫のない挑発にはなんの意味も持たない。
「ほう……? 威勢がいいな。万が一殺れるなら歓迎だ、弱い兵士なんてここにいる意味ないからな」
龍は、自分が負けたことがないからここにいる。と主張しているのである。数々の戦場で生き残ったから言えるセリフである。さすがにその意味はわかった隼人は唾をゴクリと大きな音を立てて飲み込む。
「……ルールを説明する。俺のことを1時間ずっとこのトレーニングルームから逃がさなければお前らの勝ちだ。簡単だろ?」
「先生質問です。後ろの扉から抜けたらもう僕達の負けですか?」
裕太はいつものテンションでさっき入ってきたばかりの扉を指さし、純粋に疑問を投げかける。
龍は首を横に振って別の出入り口がある事を伝え、その出入り口は自分自身も把握していないと伝える。龍が言うにはこのビル街は毎回ランダムに生成され、出入り口も複数のパターンからひとつ選ばれるらしい。
「出オチは回避できるわけですね。なら僕達は負けないと思いますよ。逃げられなければいいわけですから」
裕太と花梨には『以心伝心』がある。相手に触れる事さえできれば視界を奪うことができる。そうなれば龍は逃げられないという考えだ。
「大した自身だ。だが、さっきの死ぬ気ってヤツは挑発じゃない本気だ……では始めるぞ」
龍の合図と同時にビル街の入口で戦闘が開始される。街頭モニターや電子掲示板に模した液晶画面には、戦闘終了までの時間のカウントダウンを始める。
三人は手筈通りに手を触れ合い五感の全てを共有する。花梨が言うには持続時間は持って10分程度らしい。その都度触れ合わなくてはならないが、それ以外に隙は生まれないと考えていた。
しかしその考えは甘く、疾風と化した隼人よりも速い速度で接近してくる。
あまりの一瞬の出来事に隼人は対応出来ずに目の前まで接近を許してしまう。そのまま龍は殴るモーションに入る。
隼人は顔を守る動作だけをかろうじてするが、踏ん張りのない守りは龍にとっては無防備同然に殴り飛ばす。
ついさっきまで三人の中央に隼人が居た場所には既に龍がいる。その体格差と存在感に圧倒され花梨は立ちすくむ。
裕太は気を引き締めなおし、左脚に雷を溜め込む。オリジナルに比べると一回り小さい雷だが、龍に驚かせるには充分である。
実際、龍は『疾風迅雷』は隼人の能力だと思い込んでいた。だから、脅威になりうる隼人に攻撃を仕掛けたのである。しかし、裕太も『疾風迅雷』を持っている。
それも事実だと受け止め戦闘態勢に戻る。その考えは一瞬であった。
だが裕太はその一瞬を見逃さなかった。身体を思い切り捻り、全体重とスピードを乗せ、龍の胴の部分に蹴りをいれる。電気が流れた龍の体は一瞬麻痺し動きが完全に止まる。
「花梨!! 能力を先生に移してからこの場から1回離れろ! 今しかチャンスはない!」
裕太は必死に叫び、動かない花梨を無理やり動かす。なんとか動いた花梨は龍に触れるとその場から逃げる。
逃げたのを確認してから裕太は隼人の元に行くと、頭を軽く小突きながら起こそうとする。早くしなければ龍の麻痺が解けてしまう。
「隼人……寝てないで起きるんだ、兵士になれなくなるよ」
「……っ……てぇ……」
お腹をさすると隼人は苦悶の顔を浮かべながら立ちあがる。さっきの一撃で心が壊れかけている隼人に、裕太は声をかける。
「隼人、ここで負けたらこの先闘えなくなる。身体が動かなくなるわけじゃない。隼人の芯がダメになる。君は負けず嫌いだろ……ならそんな顔してちゃダメだ」
「分かってるよ、そんくらい……さっき負けたのはたまたまだ! ノーカンだからな!」
「頼もしいね……。いいか隼人、頃合いを見て花梨をここに戻す。それまでは二人で時間を稼ぐんだ、本気でやれよ」
「時間稼ぎじゃなくてぶっ倒す。これで俺らの勝ちだ」
痺れの解けて動き出す龍を目の前に、二人は力を溜め込んでいる。
「「疾風迅雷……!」」
一石二鳥:
【意】ひとつの行為からふたつの利益を得ること。
【技】触れた相手の能力をコピーして使うことができる。制限は使い手によって変わる。