絶望の始まり
ある晴れた日の昼下がり、土曜なのに…と嘆きつつも半日の授業を終え帰宅する高校生がまばらだが周囲に見える。
駅へと向かう人通りの多い道から1本外れ、自宅へと向かう。いつも通りだ。
さて、唐突になってしまうが、いつも通り、といえば、から始めようかと思う。
思春期真っ盛りの青少年ならば誰しもが1度は思うのではなかろうか。『何も無い退屈な日々が今日、突然変わればいいのに』と。
まぁそう願って夢の世界へ旅立ったところで、いつものように耳元でうるさいほどに鳴り響く目覚まし時計という悪魔によって、またいつも通りの日々に引きずり出される訳だが………。
これはそんな平々凡々可もなく不可もないしがない男子高校生である私、大友 凛の数奇な人生を綴った物語である。
あっ、前置きしておくがね!私は生を受けてから義務教育下での作文等で受賞した、なんてことはまっっったくない!むしろ書いてすらいないと言っていいだろう。
見苦しい所や、おめェ何言ってんだと思うことも多々あるだろう。しかし、私と同じ運命を辿り、この世界へと堕ちて来るかもしれない未来の同胞達のためにも、この本を捨てたりはしないでくれるとありがたい………………いやまぁ、そんなことにならないのが1番なのだけれども。
さて、前書きはこのくらいにしておこう。大して面白くもないかもしれないが、破らず燃やさず捨てずに、最後まで耐え抜いてくれることをこの世界のどこかで願っている。
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「あるー晴れーた日ーのことーっ♪」
「唐突にどうしたんだ凛?ついに頭がいかれたか??それともこの暑さで脳みそ溶けちまったか???ん???」
そこまで言わなくてもいいじゃないか、と拗ねてみる。我ながら気持ち悪いな。
さて、この友達を友達とも思ってないような野郎は神谷 勇哉。身長182.3cmで剣道部。そしてイケメンだ。死ねばいいのに。
「おいおめェ!今絶対失礼なこと思ったろ!!!おま、ちょっ、おれのアイスを盗るな!!!振りかぶるな!!!」
はぁ………いーですよーだ!私なんて女っぽい名前に華奢な体つきですよーだ!お前みたいなムキムキ高身長のイケメン野郎には敵いませんよーだ!!
「うるせぇよ!もー!じゃあな!」
そう言って勇哉から盗った食べかけのカリカリくんを1口に食べ、家への帰路を駆ける。
「なっっ!?おめェ今度アイス奢れよ!!!絶対だかんなー!!!!」
そんな声を背に、小走りで家に向かう。季節は初夏、梅雨が明けセミがこれから鳴くぜェ!と準備運動を始めている。背中は既に汗ばんで、早くシャワーに入らねばと謎の使命感に駆られる。
「たっだいまー!だ!っっっつい!シャワー入るから昼飯ラップかけといてー!」
と勢いよく帰宅の挨拶を告げる。
「はーい、おかえんなさい凛。ご飯ちゃんととっておくからゆっくり入ってきなさい!」
と母親がリビングから廊下に顔を出して言ってくる。
シャワーに入り、休日を満喫している父と雑談しながらお昼ご飯を腹に入れ、姉と悪態をつきあう。
……………………いつもだったらそうなるはずだった。そう、いつも通りなら、だ。
…なにかがおかしい。家の中に人がいる気配はする。靴も全て揃っている。父と、母、そして姉の分。
いや、なにかの勘違いか。きっと声が聞こえなかったか昼寝でもしているんだろう。
耳を澄ますとかすかに硬いものに金属が当たる音がする。なんだ、ちゃんと人がいるじゃないか。きっとイヤホンでもつけながら料理しているんだろう。
「たっだいまぁー!いやぁー!暑かった!シャワー入るから昼飯にラップかけとい、、て?」
先程言った言葉をもう一度いいながら、いや、言いかけながらが正しいか。まぁともかくリビングへ繋がる扉を開ける。
ムワッとした熱気とともに生臭さが鼻をつく。最初は魚でもさばいているのかと思った。いや、そうであればどれだけ良かっただろう。
扉を開けたリビングの壁際には
上半身を赤く染め、同じく紅く染まった包丁を握り、驚き、歪んだ顔をしてこちらを見て嗤っている父親がいた。
「ははっ、何やってんだよ父さん。ハロウィンにはまだ気が早いよ??」
なんて言えたらどんなに良かっただろう。言葉が出ない。なぜかって?なぜって………
父の後ろに首から下が紅に染まっている母と姉の姿があったからだ。
明らかに事切れているだろうということを頭では理解してしまった。首はありえない方向、それも縦方向を向いているし、姉に関してはあるべき体がない。
しかし、ココロがリカイしなかった。
何故?なんで?ナンデ?なんで父さんが母さんと姉ちゃんを?いや、きっとドッキリなんだ。すぐにみんな起き上がってドッキリ大成功!なんてプラ板が出てくるはずなんだ。うん、きっとそうだ。だから、だからさ、、、
「父さん、包丁を置いて………?」
「お、まえらの、、、お前らさえいなければァァァァァ!!!」
考えてみてもほしい。大の大人が本気で、それも唐突に突っ込んできたとする。反応なんて、できるわけが無い。でも、体は動いてくれる。結果としてそれが、意味をなしていなくても。腕を突き出し、恐怖から遠ざかろうとした。
ブスリ、とお腹のあたりに突き刺さったソレは、とてもアツかった。
「ああああああぁあぁぁぁ!?」
予想の遥か上を行く程に痛く、そしてその熱に耐えられずがむしゃらに腕を振るう。そして、ぐにゃっ、とした感触が右手に伝わる。
固く閉じていた目を開ける。すると、そこには、
本来左目があるはずのところから鈍く光るフォークの柄が生えている父の顔があった。
ソレを自分がしてしまったことはすぐに理解出来た。なぜかって?そりゃあ、私が未だに、いつの間にか右手に握っていたフォークの柄を離していなかったからだ。
「あ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!」
恐怖、そして愛する人たちを愛する人に殺され、愛する人から殺されかけ、そしてみずから愛すべきひとをコロしたことを理解してしまった私の意識は、紫色の光に包まれながら暗転した。
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ラムシアナ王国の王城に勤務するメイドのひとり。それが私だ。まぁメイトと言ってもそんじょそこらのメイドとは少し違う。とはいえ、ラムシオン王国第2王女様のお付きであるだけなのだが。
さて、今日は王国にとって重要な日だ。何をする日かって?ふふん、いいでしょう!そこまで聞かれてしまっては王女様お付きのメイドたる私の名が廃っ、て………そ、そこまで聞いてない??いやいやまあまあ聞くだけ損はしないって!
ゴホン…さて、今日は異世界から勇者様をお喚びになるらしいのよ!
で?で?ですって???いやまあ特に何も無いんですけど……………あっほら!召喚が始まるみたいよ!!!異世界の勇者様は特殊なスキルをもっていたり美男美女が多かったりするらしいから!ピシッとして少しでも印象に残らなきゃ!!
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ラムシオン王国、王謁見の間に溢れんばかりに輝いていた光が収まると、魔法陣の中央には小柄な少年が倒れていた。
王の許可を得て近くに寄った神官が間違いなく異世界の御方です、と周囲に告げると緊張していた空気が少しだけ緩む。過去に他の国が召喚した際異世界人ではなく高位の悪魔族が召喚されてしまったことがあった。それを危惧していたのだろう。
ただ寝ているだけかと思った。しかしよく見てみると彼の者が着ている衣服のその腹の部分が血に染まっている。いち早くその事実に気づいた者が王にそのことを伝える。
我が王国の王はけして馬鹿ではない。莫大な予算を積み上げようやく実現した勇者召喚、それが『召喚された勇者はその後すぐに死亡してしまいました。』では民たちに顔向けできない。すぐさま治癒魔法使いを向かわせる。
しかし、治癒魔法使いが彼に触れた瞬間、勇者から闇が噴き出した。
「何事だ!!!!」
王が神官に尋ねる。
「分かりません!!!こんなこと前例が…………しかし!勇者様の傷は浅くはありませんでした!!!一刻を争う程ではありませんが、治癒しなければいずれ死に至ります!」
しかし、だ。この闇の中を誰が進むというのだ離れていても伝わってくる闇の魔力。幼い子供が魔法の練習中に魔力を暴走させた時に酷似しているが、その日ではない。既に何人かの光属性持ちが倒れてしまっている。
「くっ!1度全員この部屋から出るのだ!この部屋には結界が張ってある!中からも外からも魔力を逃がさんし、入れさせん!このままでは死者が出るぞ!!」
冒険者ギルドの王都支部長であろう人が声を張り上げる。たしかにこの場には結界が張ってあるが、それもいつまで持つかわからない。早急な対策が求められることとなり、緊急会議が開かれた。
ーーーーーラムシオン王国執事長の手記より抜粋
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暗い、暗い闇の中をずっとさまよっている気がする。徐々に手足の感覚が痺れ冷たくなってゆく。死ぬとはこういうことなのだろうか。
不思議と怖くはない、むしろ、辛い現実から守ってくれてさえいるようだ。ならばもう、目を閉じてしまおう………………。
さぁ始まりました!いつ終わるかわかりませんがのんびりゆっくりマイペースにやっていこうと思います。暖かい目で!!!どうか暖かい目を!!!お慈悲を!!!