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魔法司書さん的童話考察  作者: セルバ
5/11

シンデレラIII

「んで、彼女が残してったのはそのハンカチだけだと?」


「そうだよ」


友人の言葉に煽られてビールを飲み干した。



コーヒーをぶっかけられてから2ヶ月が経つ。未だに忘れられない。


「女には困らないお前が珍しいな。少し気味が悪い」

「俺もそう思う」


今までの俺なら考えられないことだ。一度見ただけの女を忘れられなくなるとか。

自分でも気味が悪いんだ。


「だったらさー、もう一度会って気持ちにケリをつけてこいよ」

「それができないから困ってんの」

「ハンカチに名前とか書いてないよな」

「まさか。小学生じゃあるまいし」

「書いてた」

「は?」


タグに油性インクで本当に書いていた。


“灰野レイ”

って。


「あ、俺コイツ知ってる」

「は?」


おいおいおい、さっきから話が上手く進みすぎだろう。


「高校が同じだわー。まだ連絡先持ってるからあげようか?」


わかった。


本当に気味が悪いのはこの流れだ。


俺たちの意思に関わらず物事が進んでいく。

誰かに運命を操られているみたいに。


「連絡先、貰っていい?」


それでも聞いてしまう俺は馬鹿だ。





やばいやばい、どうしよう。


コーヒーをかけてしまったのは本当に町田さんで、それで連絡まで来てしまった。


スマホの画面を凝視しながら顔を真っ赤にさせていると、隣に座る須原さんが話しかけてきた。



「あ、それ町田さんから?灰野さんに気があるんじゃない?」


「はは、まさか…」


「いやいや、もしそうだとしたらラッキーだよ!」


「え?」


「将来が約束されてる彼と結ばれたら玉の輿!プチシンデレラストーリーじゃん」



シンデレラストーリー…。



大したもんだよ。

じゃがいも畑で産まれた私がそこまで成り上がるんだから。

凄いじゃん。


ほんとに、


凄い…。





「さっきら無口だけど、口に合わなかったかな?」


「いえいえ、とっても美味しいです!」


おしゃれなイタリアンレストラン。薄暗い照明が雰囲気を演出する。



それから何回か連絡をやりとりして、一緒に食事に行くところまで進展した。


軽く映画を観に行ったり、少しだけ遠出したり…。


一緒にいてつくづく思うことは、

“この人は完璧だ”

ということ。


もう、芋女の私にはもったいないくらい。

こんな人と結ばれたら本当に幸運だ。

必ず幸せになれる。


新居はきっと都心の高級タワーマンション。

進行旅行はハワイとか…。


きっと、そういうことが簡単にできてしまう人なんだ。


彼の愛を受ける人は誰なんだろう。


目に見えない“誰か”なのか。


それとも…



「あの、さ」


彼が急にナイフとフォークを置いた。


「はい」


私もつられるように置いた。

真剣な瞳の彼と目が合う。


「ここ暫く君と一緒にいて、とても落ち着くし…なにより、楽しいんだ。もう少し、いや、これからもそばにいてほしい」


その時



レストランの音が消えた気がした。



BGMも、人々の騒めきも遠くて、



無声映画の世界に迷い込んだようだった。


唯、自分が息を呑んだ声が聞こえるだけ。

ヒュッ、という情けない音がした。




「だから、さ。僕と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか」





次で、本当に終わります(予定



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