シンデレラ〜グリム童話〜 (case1 灰野レイ)
第一のお話
「シンデレラ」
*
「灰野さ〜ん。ここ、ミスしてるよ?」
「ふぇっ、あっ…。すいません」
私のデスクにまた書類が増えた。
「もうさ、入社してからそれなりに経つんだよ?だんだんミスは減らしてこうか」
怠そうに茶髪の髪を弄りながら上司は去って行った。
母さん、やはり都会は甘くないです。
…
「私は東京に出る」
「は?」
実家でそんな話をしたのはいつだったか。
私の地元には畑しかない。
泥だらけになっている両親を見て、どうしてもソレを将来の自分に重ねることができなかった。
突然田舎から出て来た人間が東京でいい仕事につくのは難しいと分かっていたので、ちゃんと勉強もした。
難関と呼ばれる私立大学も出た。
それで就職したのがこの会社。
甘味系からスナックまで幅広く販売する大手製菓メーカーだ。
採用されるとは思わなかったから嬉しかった。嬉しかった…なぁ。
きっと、“トウキョウ”って、キラキラしていて、楽しくって…。
その“キラキラ”の裏で働く人のことをそこまで考えられなかった私は、所詮田舎者だったのだろうか。
ーでも今更戻るのもなぁ…。
考え込んでいると上司達の会話が耳に入った。
「来週うちの部署から本社に何人かいくんでしょー?」
「ああ、それ私」
さっき私に注意した茶髪の上司が得意げに言った。
「それって灰野が行くって話になってなかったっけ?」
「べつの仕事が入ったらしいから私が行くことになったのよ」
ちょっ、そんな話最初から聞いてないんですけど。
「今本社に行ったらさ、かっこいいって評判の町田さんに会えるかもね」
「将来有望よねー。羨ましい」
町田さんか…。
うわさでは聞いたことがある。高学歴で若手ながら本社に努めるエリートなんだって。
私とは、違う世界の人間なんだな。
*
「いい?私が本社に行ってる間に書類全部片付けておくのよ?」
はいはいわかりましたよ、お姉さまっと。
なんて私は言わないけどね。
いつも通りに、「はい、了解しました」なんて可愛い後輩になりきる。
私の返事に満足したようで、彼女は高いヒールを鳴らしながらオフィスを出た。
暫くして、うちのボスの高田さんが帰ってくる。
「お疲れ様ー、灰野さん。あれ?今日君は本社に行くんじゃなかった?」
「私は別の仕事をしなければならないのでキャンセルになったとか…」
私が言うと高田さんは困ったようにため息をついた。
「はぁーっ。どうせあいつだな。そんなことを言ったのは。お前、今からでも行ってこい」
「は…?なんで…」
「君は、いずれあそこに行く気がするから」
高田さんは真顔で私を見つめた。
葛藤を抱えていた私を、その言葉は確かに支えてくれた。
もうちょっとだけ踏ん張るか…
「ほら、行くの?行かないの?」
「い、行きますっ!」
「その言葉を待ってた」
私は鞄を抱えてオフィスを飛び出した。
本社に行くために。
その後の、シンデレラさながらな展開を、私はまだ知らない。
一応短編のノリで行こうと思っています。
ただ、その為いろんなジャンルをやりたいです。ホラーもやりたいと思っているので苦手な人はごめんなさい。
シンデレラはあと2話くらいで完結します。