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第8話 話題の召喚士ユウ

召喚士ユウに救いはありません。

※誤用の修正を行いました。

教えて頂きありがとうございます。

 1つ考えが思い浮かぶ。始まりの街の冒険者ギルドとコーディーが現在いる第2の街【ツヴァイト】の冒険者ギルドは、建物が多少なり変わってはいるが、実は双方共に同じ空間が建物内に展開されている。

 リアリティがあり過ぎてゲームである事を忘れそうだが、【ミリアド・ワールド・オンライン】はゲームだ。

 だから、普通の考えを捨てて推測すると最初ほど混乱はしない。


 コーディーは自分の推測を確かめる為、カウンターへと向かう。

 もちろん、プレイヤーの列は出来ているので少し待つと、彼の順番が回ってきた。

 そして、コーディーは今感じている疑問を受付嬢へ問うた所、推測通り街にあるギルドは全てが繋がっていると教えてもらった。


 頭部側面の赤髪を耳の後ろへ掛ける、という少し色っぽい動作をした目の前にいる赤髪の女性。彼女は始まりの街にも居た受付嬢のNPCだ。

 引き続き彼女が説明をしてくれる。


「ギルドで働いている職員は、特殊なアイテムを用いて様々な街へ行く事ができるんですよ」


「転移が出来るという事ですか。ところで、そんな大事な事を教えてもらっても大丈夫なのでしょうか?」


 コーディーの問いに受付嬢は笑顔で答えてくれる。


「大丈夫です! 実はこの事を聞いた人が乱暴を働いて来るという事がありましたが、どうやら私が持っている特殊なアイテムは持ち主を守ってくれる効果も、持ち合わせているようなんですよ」


 だから平気ですと付け加え、両手の拳を握るポーズを取った赤髪の受付嬢。

 歳の程は20代行っているか分からないくらい、若そうに見える。しかし、既に相手を魅了する色気を漂わせている様に感じ、コーディーは前にも思ったが本当にサキュバスのようだと感想を抱いた。

 まあ、見た目からして明らかに人間なのだが。


(乱暴を働いたのはプレイヤーかもしれませんね……。転移アイテムは現状存在しないので、気持ちは分からないでもありませんが)


 この後も話を続け、働きたいと言ってくる人が最近多いと言う事も教えてもらった。そしてそういう人には、職員の数は十分足りているからと断っているそうだ。

 働きたいと申し出たのは十中八九プレイヤーだろう。


 何気に始まりの街でも、冒険者ギルドへ赴くとコーディーは赤髪の受付嬢と会話をしていたりする。

 だが、未だにコーディーが彼女の名前を知る事はない。そもそも、コーディーが聞かない所為というのもあるだろうが。

 受付嬢にとっては会話、コーディーにとっては情報収集を終えて、彼は始まりの街を出る時に受けていたクエストを報告する。

 すると、今回で晴れてコーディーは冒険者ランクがEとなった。


「おめでとうございます、コーディーさん! これで貴方は2階への入場許可を得ました!」


 受付嬢として対応中は笑顔をずっと浮かべていなければいけないのか、それとも彼女が素晴らしい人だからなのか分からないが、コーディーとの会話中も、今もずっとニコニコと笑顔を浮かべている。

 コーディーはチラリと隣の受付へ視線を向けてみた。すると、そちらの受付嬢は無表情だった。よく見ると更に隣の受付嬢は、癒し系のお姉さんだ。

 色んなニーズに応えるのが冒険者ギルドなのだろうか。そんな事を考え、彼は視線を戻す。


「2階へ上がっても良いんですね?」


「もちろんです! これからさらなるご活躍を期待していますね!」


 コーディーの質問に受付嬢は答え、それを聞いた彼は早速、建物左側にある階段へ向かい2階へと上がっていった。

 すると、コーディーは不思議な感覚に包まれる。


「ほう……これはすごいですね」


 2階へ上がりきった時、視界が一瞬で切り替わったかと思うと次の瞬間には、広い円形の空間が目の前に存在していた。

 後ろを振り返ると、そこには確かに1階への階段がある。

 下からでは普通の2階に見えていたが、それはまやかしだったようだ。


 驚きもほどほどに、コーディーは歩き始めた。

 ここは、1階と人数が全く異なっている。更に様々な種族で、多種多様な装備品を纏っている多くのプレイヤー。

 見ていてもそう簡単には飽きないだろう、と思わせる空間が広がっていた。


 しかしコーディーは時折、他プレイヤーを見る事はあるが立ち止まらず、まっすぐに錬金術師ギルドの受付へと向かっている。

 いや、正確には少し違い、ある一部だけ一切目を向けず、尚且つその所為でここから早く去りたいとまで考えていた。

 コーディーが目を向けなかった方向から、彼の耳に楽しそうな声が入る。


「ユウ、こっちのクエスト一緒に受けない?」


「ユウ君、今日こそ私とパーティー組んでくれるわよね?」


「なんで僕にだけ声が掛かるんだろ……?」


 可愛らしいフリフリの服装をした女性と、大人の色気が出そうな露出が少し多い服装の女性プレイヤー2人が、今話題の召喚士"ユウ"と言う名の男性プレイヤーに声を掛けていた。

 ユウはユウで鈍感系主人公の様な振る舞いをしており、コーディーを含む周囲の男性プレイヤーから好意ではない熱視線を向けられている。


「くっそぉぉぉ! 俺らのアイドルと仲がいいなんてムカつくにも程があんぞ!」


 と、嫉妬から少し日本語がおかしくなるくらい、周囲の男性プレイヤー達は怒り狂っている。

 対してコーディーは至って冷静だが、内心では色々と考えを巡らせていた。

 彼はユウの隣りにいる女性プレイヤーの事を知らないし、興味もない。もちろん、女性に興味を持っていない訳ではない。


 ただ、召喚士であるユウに生理的嫌悪感を抱いているだけだ。ハーレムに鈍感、一人称が"僕"である事や強い召喚獣に頼り切って、一切努力をしないし物事がご都合主義のように進んでいく。

 掲示板を少しでも見れば彼に関してこれだけ分かる。コーディー含め、多くのプレイヤーは未だにストーリーの欠片すら分かっていない状況で、ヘタレのようなユウがトッププレイヤーを差し置いて、一番ストーリーに関わっているとまで言われているのだ。

 運も実力の内ではあるが、不人気職の召喚士を選び、初めから強い召喚獣を引当て、適当に行動しているだけなのに女性人気もあり、尚且つかなり強いという……。


 コーディーだけではなく、他の男性プレイヤーに嫌われている理由も分かるだろう。

 コーディーも相性スキルを手に入れる事は出来たがそれは、ただ自作のポーションを投げる事が可能なだけであり、そのポーションを作ろうにも質を上げる為に地味な作業を繰り返し、失敗数は数え切れない。

 ユウとのプレイ時間の差は数日程度、ゲーム内時間で約1週間程なのだが、ユウはトッププレイヤーの仲間入りだ。


(確かMPKは可能なはず……)


 自然とこのような考えをしてしまうのは、仕方ないのかもしれない。

 MPKとはモンスタープレイヤーキラーの略称で、プレイヤーがプレイヤーを襲う事が出来ないゲームで、モンスターを利用しプレイヤーを襲う行為の事だ。

 このゲームは子供も出来るのだから、プレイヤーキラーの略称――PKは表向き出来ないようになっている。


 しかし、モンスターは存在するので大量のモンスターを上手く利用すれば、プレイヤーを襲う事は可能となる訳だ。

 MPKは故意かどうかの状況判断も難しいので、運営に報告しても対処されない場合もある。


(やらずに後悔より、やって後悔。赤信号みんなで渡れば怖くない……いい言葉ですね)


 コーディーは最低だった。頭の中で策を考え自身の利益もそこへ組み込み、足りない物があると、それらを脳内でピックアップする。

 そうして少し立ち止まって顎に手を当て考え事をした後、小さく含み笑いをした。


 木を隠すなら森、プレイヤーが隠れるならプレイヤーの中。嫉妬する男性プレイヤーと召喚士の女顔男性プレイヤーへ周囲の視線が向いていれば、白髪で白衣というあまり珍しくない見た目のコーディーが、悪い事を考えていようとも、まず気づかれない。

 止めていた足を動かし、上がってきた階段から中央に進み右手側の錬金術師ギルドの受付へたどり着いた。

 見た目は露店のようにも見えなくはない。六畳くらいの小部屋が壁に埋め込まれている見た目だ。


「すみません。依頼を受けたいのですが」


 コーディーは受付の男性へ声を掛けた。しかし、反応はない。人形ではなく頭上には緑色の点が浮かんでおり、NPCである事を示している。

 もう一度声を掛けてみようとした所、隣から話しかけられた。


「お前ここは初めてか? 力抜けよ」


 視線を向けると肌が少し程度ではないほど黒く、坊主頭で顎全体に髭のある男性プレイヤーがいた。

 そして、本能から関わってはいけない種類のプレイヤーだと理解したコーディーは、少し離れると無視をしてメニューからヘルプを選択し、冒険者ギルドである2階のシステムについて検索する。

 どうやら、ここはプレイヤー以外来ない場所なので、受付のNPCには人工知能を搭載していないのだと分かった。


「クエストを表示」


「畏まりました。現在のランクはFです」


 コーディーは受付のNPCに設定されている言葉を告げ、受付の男性は機械的に抑揚のない声で答えた。


「ああ、そう言えば、ユウという召喚士が肌が黒いプレイヤーを探していましたよ。なんだが、聞きたい事があるとか」


 コーディーは視線をクエストの表示されたウィンドウに向けたまま、まだ隣にいる男性プレイヤーへ言葉を放った。

 それを聞いた男性プレイヤーは、目をこれでもかと言うほど見開き、大きな声で聞いてくる。

 もちろん、これは嘘である。


「それは本当か!?」


「ええ、もう解決しているかもしれませんが、言ってたはずです。聞き間違いだったらすみません」


「いや、十分だ! 情報ありがとな!」


「いえいえ、お気になさらず。秘密な事かもしれませんので言っていない、ととぼける場合もあるかも知れません」


 男性プレイヤーは満面の笑みでユウの元へ行き、去り際に再度お礼を言ってきた。

 それを無視して、採取クエストを選ぶコーディー。

 街に入る時にも通った【ツヴァイト】の南門から出て、右手側に存在する森での採取クエストを受注した後、階段へ向かった。


 チラリとユウの居る方向へ視線を向けると、彼は大層嬉しそうな表情を浮かべて、先程の男性プレイヤーと話をしているのが確認できる。

 意識を向けて話を聞くとユウが「今度一緒にパーティーを組みましょう!」と言っているのが聞こえた。

 思わず吹き出しそうになったコーディーだが、努めて冷静な振りをする。

 更に周囲では「嫉妬していていたはずが、可哀想に思えてきた」とか、大層嬉しそうにガッツポーズをしている者達がいた。


(やっぱり、そういう人でしたか)


 ユウは男性から嫉妬をされている為、知り合いのプレイヤーは大半が女性だ。

 故に男性プレイヤーの知り合いが少なかった。だから、仲良くしてくれる男性プレイヤーは嬉しいのだろう。

 数人のプレイヤーがコーディーにサムズアップを向けており、彼らは男性プレイヤーを差し向けたのがコーディーだと分かったようだ。

 本来は無視する所だが後の布石にと、コーディーは彼らへ軽く手を振って階段を降りると、冒険者ギルドを後にした。


 そしてコーディーは、街を出て採取クエストの目的地である森へと向かった。

 まだ、時間的に余裕があるので採取なら早くやってしまおうと考えたのだ。

 メニューから検索機能を使って掲示板に行き、これから向かう森の情報を集める。

 少し太陽は傾いてきているが、完全に日が落ちるまでには終わらせられると考えて、彼は歩みを進めたのだった。

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