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第6話 それは玩具へ……

掲示板の話を書くために、淫夢語録を調べるのはおかしくないと思う。

※誤字の修正を行いました。報告ありがとうございます。

 いつもの様に世界を眩しく照らす太陽が、始まりの街を明るく彩っている。

 この日、高笑いで昨今掲示板に話題を提供した研究者ロールをしているプレイヤー――コーディーはクールで格好いい笑みを自然と浮かべ、白衣を翻すと始まりの街を出た。

 このような笑みを浮かべているのはかなり珍しいのだが、如何せん脳内は覗きたくないと思わせる事を考えている。


 それで、他人を魅了できそうな笑みを浮かべているのだから、恐ろしい事この上ない。

 そんな事はつゆ知らず、彼は最終確認とばかりにストレージを覗き、改めて所持品の個数をきちんと把握する。


 脳内で簡単に戦闘のシミュレーションをしているが、物事に完璧は無いと考え、コーディーは敢えて大まかな作戦だけを練りながら平原を歩く。

 ゲームをプレイした初日に出会った、始まりの街付近の平原でボスのようだ、とまで言われているモンスター。

 その正体は、黒の体色に全長は2メートルあろう大きな蛇――ブラックヴァイパーだ。


 コーディーにとって初の敗北を味わされた相手であり、そして――便利な素材でもある。

 ブラックヴァイパーは毒を使い、数々のプレイヤーを苦しめて来たという凶悪なモンスターだ。

 本来この平原にはボスモンスター的存在は居ないが、実質ブラックヴァイパーがボスモンスターとまで言われる程に、その力を数多くのプレイヤーから認められている。


 嘗ては敗北を喫した相手だが今は力を得て戦闘を何度も行い、プレイヤーとしての能力も上がっている。

 自身の力がどれほど通用するのか。コーディーは闘いを楽しむ者のような思考をしていた。


(着きましたか……)


 どうやらブラックヴァイパーが存在する場所は決まって居るようで、その場へとコーディーは到着した。

 そこは、彼が初のクエストを受けて採取を行っていた場所であり、初戦闘と共に初めてブラックヴァイパーと出会った場所だった。


 1本だけそびえ立っている木の近くに、1メートル程の円を描いて草が生えている地帯。そこまで歩いて行く。

 コーディーはこの日の為に情報を色々と手に入れていたが、ここは前と同じように行動をした。

 敢えて前と同じように振るまい、油断でも誘おうと考えているのか。それは、ブラックヴァイパーをデータではない、本当に生きているモンスターとして認識しているからこその物だろう。

 膝程の高さまで伸びている草を抜き、薬草を手に入れていると足音が耳に入って来る。


 採取を中断して振り返ると、そこにはゴブリンが2体、醜い笑みを浮かべコーディーを見ていた。

 昼間に流れる気持ちのよい風がコーディーの心を落ち着かせ、ストレージから石を手へ出現させると、膝を付いた体勢のまま投擲しその後、瞬時に立ち上がると自慢の素早さを駆使してゴブリンへ接近する。

 投擲のパッシブアーツ《投擲力上昇》により、速度が上がっている石に追走するコーディーはゴブリンの近くへ辿り着くと、右側の石を手に取り逆手に持ったナイフを突き立てるが如く顔面へと石による殴打を繰り出した。


 コーディーの動きに翻弄されたゴブリンはこれを避ける事が出来ず、片方は投擲された石が顔面へ、もう片方は石の殴打により無様に地面を転がる。

 殴打された方へ追撃とばかりに踏みつけ――スタンピングをして、ゴブリンの頭上に浮かぶHPゲージを消滅させると、消えたゴブリンはアイテムへと変わり、コーディーの所持品に加わった。


 そして、もう1体のゴブリンへ視線を向ける。

 彼の視線の先にいるゴブリンは立ち上がると、怒り心頭と言った様子でコーディーへと飛びかかってきた。


 1対1であればゴブリンがコーディーへ攻撃を当てる事は絶対に叶わない。

 彼は振り下ろされる棍棒を半身にずらす事で躱し、素手で滞空しているゴブリンの腹部へと拳を振り抜いた。


「ふっ!」


 コーディーの白衣が風で揺らめき、まるで戦闘の勢いを演出しているようだ。

 腹部へと直撃した拳による攻撃は、体術に関するスキルを取得していないので素のSTRだけの威力となる。

 ゴブリンは体をくの字に曲げて吹き飛び、地を転がった。

 そして、何かが這うような音が耳に入る。


(やはり、突然現れた様に出てきましたね……)


 コーディーは即座にストレージから"ポーション"を取り出すと、瀕死のゴブリンへと投擲した。

 投げられた小瓶はまっすぐにゴブリンへと迫り、突如として現れた闇を思わせる体色をした巨大な蛇は、ゴブリンを丸呑みにせんと口を開ける。

 そして、ゴブリンが飲み込まれる直前、飛んできた小瓶が緑色をした身体へと打つかり高い音を立てて割れた。

 刹那、一瞬の時間差でゴブリンは蛇の口内へと消えていく。


「ふふふ……自慢のパラライズポーションのお味はいかがですか? ブラックヴァイパー」


 投擲された小瓶は全部で3つ。その全てがゴブリンへ当たると小瓶が砕け、破片によりゴブリンは死亡。ブラックヴァイパーの口内へ残るは、麻痺の効果を与える黄色の液体のみとなっていた。

 幾度となく改良を重ね、麻痺になる確率を上げたパラライズポーションを3つも飲み、凶悪なはずのモンスターは身体を細かく震わせる。

 見事麻痺に掛かり、見る者に恐怖を与えるような笑みを浮かべたコーディーは、悠然とした足取りでブラックヴァイパーの元へと歩いていく。


 睨み殺すような視線をコーディーに向けるブラックヴァイパーの眼前に膝を突き、ストレージから1つポーションを取り出す。

 中に入っているのは漆黒のように黒く、闇を思わせるポーション。素材に夜闇草よやみそうを使用した物だ。

 フラスコを軽く揺らし、改良後は初使用である"ブラインドポーション"という名の付いた液体をブラックヴァイパーによく見せる。


 そして、口を無理やり開けさせてフラスコごと口内へ放り投げた。

 入れ物を小瓶ではなく、フラスコにした理由は中の液体をブラックヴァイパーへしっかり見せつける為。

 だから今投げた1本だけは、フラスコタイプにしてあった。そして、 口内からガラスの割れた音が聞こえてくる。


「フラスコタイプでも、簡単に割れるんですね」


 ブラックヴァイパーに《鑑定眼》を行使して状態を確認する。

 どうやら、盲目の状態異常は掛からなかったようで、コーディーは小瓶に入ったブラインドポーションとパラライズポーションをブラックヴァイパーの鼻から注ぎ、粘膜から吸収させ始めた。

 すると、今度は盲目と表示されたのを確認し、口を開く。


「他のモンスターでも試しましたが、ブラックヴァイパーにも通用するんですね……」


 興味深そうに頷くコーディー。彼はまだ、ブラックヴァイパーを殺さない。

 次はポイズンポーションを取り出した。いつもは小さな衝撃で容易に割れる小瓶を投げつけるという使用方法だったが、このような実験中に、そのような事はしない。

 彼は小瓶のフタを開けると、中の液体を鼻から注いだ。


 そして《鑑定眼》を使用して状態を確認する。このブラックヴァイパーは毒耐性を所持している事は、《鑑定眼》により分かっていた。

 コーディーのレベルが上ったお陰なのか、《鑑定眼》のスキルレベルが上がったお陰なのか。まだ正確な事は分かっていないが、相手のスキルを知る事が出来るのは非常に助かる事だ。


「にしても、まさかブラックヴァイパーが木の上に潜んでいるとは思わなかったですね~」


 更に追加で鼻からポイズンポーションを注ぎながら、コーディーは呟いた。先程までは戦闘中だったはずだが、今は間延びした言葉を呟くほど余裕がある事に驚きだ。

 ブラックヴァイパーの生息地は掲示板で知ったのだが、ブラックヴァイパーに死に戻りさせられた時、もしかして? とは思っていた。しかし、ブラックヴァイパーはここでしか存在を確認されておらず、序に襲われているのは生産職が大半を占めている。

 故に検証を行っているプレイヤーは居なかった。だが、ブラックヴァイパーの存在を知った戦闘職の人が強敵という事で戦いを挑む、と言う事はあったという。

 検証はされていないが、木の上に潜んでいるという事で間違いはないという結論に至り、詳しく調べられてはない。


 しかし、掲示板で色々意見を交換した結果、とある事が判明している。

 それは、冒険者ギルドでコーディーも受けた薬草採取クエストを受注した者は全員ブラックヴァイパーに襲われている事と、決まって初めはゴブリンに襲われ、その次にブラックヴァイパーが何処からともなく姿を現すという事。

 その事からこれは、運営が仕組んだ生産職を狙った初見殺しなのではないかという考えが浮上した。


 一定時間ブラックヴァイパーが潜んでいる木の近く、または採取ポイント辺りに居るとゴブリンがいつの間にか現れ、ゴブリンを倒そうとしても一度だけ瀕死で生き残り、それをブラックヴァイパーが食べる。

 そして捕食中は明らかな隙きが生じ、ゴブリンを圧倒したプレイヤーは戦闘をした事で多少なり気分が高揚し、戦いを挑むと遥かに強いブラックヴァイパーに返り討ちに合う。

 まるでコンボのような流れに、仕組まれているとしか思えないとブラックヴァイパーと戦った者は考えた。

 実はこの考え、見事に的中している。ちょっとした悪戯で運営が仕組んだ物なのだが、運営側はまんまとハマるプレイヤーを見て、子供のように楽しんでいたとか。


 そんな裏話もあったこの、ブラックヴァイパー出現の流れ。

 強敵設定なはずの猛毒を持つ蛇は現在、鼻、口、短剣で切った傷口、とあらゆる箇所からポーションを注がれ、掛けられている。

 その光景を作り出しているコーディーを見たら、実験を繰り返す科学者のようだと思われるだろう。


「なるほど、なるほど……」


 凶悪であり、運営の悪戯心が込められたブラックヴァイパーがもし言葉を発する事ができれば、仮想現実が実現した今でも有名な女騎士のセリフ「くっ、殺せ!」を言っていたに違いない。

 まあ、パラライズポーションで随時麻痺に陥っているので、言葉を発する事はかなり難しいと思うが。


「もう、良いでしょう」


 おもちゃに飽きた子供の様に、ブラックヴァイパーから視線を外したコーディー。

 そして、ブラックヴァイパーの視界から見えなくなり、草を踏みしめる音が遠ざかる。

 最後は殺されるであろうと絶望していたブラックヴァイパーだったが、神は彼? 彼女? を見捨てていなかった。


 暗い絶望に満たされていたブラックヴァイパーの心へ後光が差した様に、心中を希望という光が占めていた。

 そして……ブラックヴァイパーの意識はそこで途切れる。直後、ブラックヴァイパーの心中を占めていた光が漏れ出たのか、漆黒の毒蛇は丸い光へと変わった。

 その光が距離の離れているコーディーへ向かうと、彼のストレージへと消えていく。


「毒耐性を持っていても、許容量を超えれば毒状態になるとはね……所詮は耐性か」


 不気味な笑みを浮かべているコーディーは、実験の成功に薄気味悪く「フフフッ……」と笑い、始まりの街ではなく、第2の街【ツヴァイト】へ向かっていった。

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