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第5話 恐怖を与える者

※アーツはアクティブアーツとノンアクティブアーツの2種類と書いていたのですが、ノンアクティブ部分をパッシブへと変更しました。

 ポーションの投擲。特定のアイテムを投げる事が出来るという《投擲》スキルでは、体力を回復できる低級ポーションと石ぐらいしか、所持品の中では投げる事ができなかった。

 NPCの店で投げナイフは売っていたもののそれは、金銭を多く持っていないコーディーにとって、決して大量に購入して使い捨てできるほどの物ではない。

 だから、採取できる石くらいしか投擲できなかったのだが、隠し要素である相性スキルという物を見つけ、それにより"自作アイテム"の投擲が可能となった今、コーディーは考えを変えて回避は程々に、状態異常ポーションの投擲でモンスターを倒すという戦闘スタイルを選んだ。


 そして彼は今、現実リアルの休日を利用して、大量のポーションを製作している。それはまるで、悪霊にでも取り憑かれた者のように、一心不乱に調合を繰り返す。

 《調合》スキルが上達した事により、アーツ――スキルレベルにより習得できる必殺技のような物――を手に入れ、《大量生産》というアクティブアーツを使用し、ポーションの所持数を増やしに増やしていた。


 アーツにはアクティブとパッシブという2種類が存在し、アクティブアーツは能動的、自身が発動するタイプの物で、パッシブアーツは受動的、自動で発動するタイプの物だ。

 例を挙げると、《調合》スキルの《大量生産》というアーツが、使用すると決めて使うアクティブで、《投擲》スキルの《複数投擲》と《投擲力上昇》のアーツがパッシブとなる。

 そして、特定のアクティブアーツにはMPを消費する。MPは魔法を使用すると消費するが、職業が"剣士"の者が使う《片手剣術》の《双月そうげつ》というアクティブアーツが魔法使いで言うところの魔法で、この場合もMPを消費する。

 コーディーの《大量生産》はアクティブアーツだが、これにはMPを消費しない類のアーツとなっている。


「フゥゥ……」


 コーディーは疲れを溜息として表現する様に吐き、作業場には椅子が存在しないので、代わりに作業机に背を預け部屋を見渡す。

 初めて作業場に来た頃より、少しだけ人数が減っている。そして錬金術師は今の時間、コーディただ一人となっていた。

 作業に没頭し続けていてかなりの時間が過ぎただろう。


 作業場に入った時は彼以外にも一人だけ錬金術師が居た。だが、人数が少ないのに変わりはない。

 そして、最近は徐々にだが、召喚士が増えてきているような感じがする。そんな感想をコーディーは、街を歩いていた時に抱いた。

 錬金術師が職業人気で最下位になるのも時間の問題かもしれない。


 掲示板で"ユウ"という男性プレイヤーが召喚士の人気を、爆上げしていると話題になっている。

 その召喚士は初めての召喚術で、空を駆ける事ができるモコモコの羊を召喚したと言う事から始まり、β(べーた)テスターである事やハーレムの様になっている事から、一部プレイヤーの嫉妬も買っている事で嫌な人気も上がった。

 そんな彼を語る掲示板では、醜い嫉妬が飛び交っている。コーディーがそんな事を思い出していると、彼の口が勝手に動き言葉を呟く。


「爆発して欲しいですね……」


 自然と言葉が出ていた事に、自分でも驚いてしまい咄嗟に右手で口を覆う。

 だが、そこでとある事を思い付く。


(爆発を願うのではなく、私が爆発物を投擲すれば良いのでは……?)


 現在、召喚獣の羊と戯れていた召喚士"ユウ"は悪寒を感じたとか、感じてないとか。


 危険物を生産したいと考えてしまったコーディーは、その欲求が心の奥底から湧き上がるのを感じた。

 頭を働かせレシピがない現在、どうすれば作る事が出来るのかを懸命に考える。

 今存在するレシピは低級ポーションや、試してみたら作成できたポイズンポーションとパラライズポーション、他には兵糧丸ひょうろうがんという小さな丸薬。これは、満腹度が一粒の服用で30%も回復する携帯保存食。味はお察しな食べ物だ。

 他には新たな状態異常ポーションや光る小石など。


 案外適当に作成しても、質は悪いがアイテムは出来上がるらしい。そして、アイテムが出来上がれば改良をして質を上げればよい。

 レシピは《調合》のスキルレベルが上がっても一気に増えたりという事はないが、生産職として開発のしがいがあると言うものだ。

 だが、手持ちのアイテムではどうも爆発物が出来るとは考えられない。


 諦めずにしばし熟考をして、ある事を思い出した。それは始まりの街から少し離れた第2の【ツヴァイト】という街の存在。

 【ツヴァイト】の街で既に活動しているプレイヤー達が、掲示板で話していた情報には『鉱山が存在する』と言う事が書かれていた。

 するとどうだろう。新たな素材が手に入る予感がひしひしと感じられる。

 作業机に置いたままのアイテム、フラスコに入った夜闇のように黒い液体を揺らし、コーディーは笑みを浮かべた……。




 始まりの街付近の平原を、月明かりが照らしている。

 夜間はモンスターの凶暴化により、力のないプレイヤーは街から出ずに宿屋で時間を潰したり、街の中で出来るクエストを受けたりと決して夜間は暇になるという訳でもない。

 特に、街で受ける事が出来るクエストというのは、戦闘が得意ではないプレイヤーからしては非常に助かるし、街の地図を作成したりNPCによる依頼をこなしたりと他のプレイヤーにもNPCにも助けとなる。


 冒険者ギルドの隣りにあるNPCが店主の道具屋でマップは売っているのだが、使用者と共にマップも動くので確認出来る範囲は広くない。

 それ故、街全体を正確に把握する為に新たなマップの作成は、重要なクエストだったりする。このクエストはとあるクランが依頼を頼んだとか。

 クランと言うのは、同じ目的や思想、仲の良い者達で作る集団のようなものだ。

 冒険者ギルドで特別なクエストを熟した後、購入できるクランハウスというのが、クランと言う集団がつどう建物である。

 まあ、クランと言うのは冒険者ギルドに近しい物だと理解してくれれば良いだろう。


 コーディーはクランに未所属なので関係はないが……いや、最近では他のプレイヤー達に恐怖を与えているという事に感しては、関係あるだろう。

 他プレイヤー達やクランの間で話題という、小さな灯火を作った行為――辺りに響く高笑い――をコーディーは現在上げている。

 そして、足元には倒れ伏しているゴブリンや枝分かれしている角の代わりに、ドリルのように渦巻状の角を生やしている鹿のモンスター――ドリルディアーが苦しみにより藻掻いている。


 瀕死に陥っている数多のモンスター達の中央には1人の男が、白髪はくはつと白衣を風に靡かせ静寂だった平原に、人型のボスモンスターと間違うような笑い声を空に届けていた。

 少し前に作成した新作ポーションの実験と怪しい研究者のロール――演技をしているだけなのだが、熱が入ってしまい何かのイベントが始まるのでは? と始まりの街で笑い声が聞こえたプレイヤーに思わせていた。

 昼間とは打って変わって、多くの音が静まる夜間は音が遠くへ届きやすい。


 なまじ平原という、音を遮る物が少ないフィールドではコーディーの高笑いを聞こえやすくする。

 しかし、声の原因を調べようとする者は居ない。その理由として現在始まりの街には、夜間の戦闘フィールドを余裕を持って移動できるプレイヤーが全く居ない。

 第2の街【ツヴァイト】にプレイヤーが集まっているのだが、そこまでは距離が開いている為、笑い声は届かない。


 もちろん、1人2人は力を持つ者が居るかもしれないが、死に戻りを恐れて迂闊に行動をできない。

 なので、出来る事と言えば掲示板で騒ぐ程度だ。誰か調査に行ってくれと言う者や、怖いので無理です、とホラー耐性のない者達が只々人頼みをしている。

 コーディーは戦闘をしているモンスター以外にも恐怖を与え、それを知ってか知らずか、時折モンスターの苦しみの声も耳にすると言うプレイヤーまで現れる始末。


 そして、死んで言ったモンスター達を従えて、何者かが街を襲撃しに来るというイベントだったり、とまで話が進んでいるのだが推測の域を出ない。

 そもそも、街へモンスターが侵入する方法は、まず無い。街には特殊なゲーム的バリアが張られているようで、赤点を頭上に浮かべるモンスターは街へ入れない事を確認されている。


 NPCを示す緑色の点を頭上に浮かべる使役モンスターは、街へ入る事が出来る。街は戦闘行為禁止エリアなので、使役モンスターが他プレイヤーへ襲いかかる事もなく、街では武器を振るっても誰かに当たると透明なバリアに防がれるので、街は安全な場所となっているのだが掲示板は盛り上がる。


「投擲にクールタイムが存在しないのは、本当に助かりますね……」


 夜風で体を冷やされ、興奮も収まってきたコーディーはモンスターを始末しながら呟いた。

 HPを回復する低級ポーションには、クールタイム――再使用が可能な時間――があるのだが、ポイズンポーションなどを投げてもクールタイムの兆候は無かった。

 それ故、襲い来る凶暴化したモンスターを相手に、コーディーは無傷で戦えている。


 最早、回避は慣れたものである。状態異常ポーションのお陰でただ回避を繰り返すのと比べ、数段と楽になっていた。

 偶然発芽した職業とスキルの相性による特殊な能力。

 これは掲示板で"相性スキル"と呼称されており、剣士と《片手剣術》で剣を使用した時に与ダメージが3%上がるという相性スキルが現在確認されている。

 コーディーは自身が手にした相性スキルを明かさないと決めており、コーディー以外にも相性スキルを秘匿しているプレイヤーも居る事だろう。


 運営も何も明かしていないので、これは隠し要素だと多くのプレイヤーに火を点けた。

 周りに倒れ伏していたモンスターを全て始末し終わり、最終段階とばかりにコーディーは街へ戻ると作業場へ向かった。


 作業机に器具を置いて、夜の時間限定で手に入る植物を乳鉢に入れて磨り潰す。

 この植物の名前は"夜闇草よやみそう"と言って、色は黒くそのせいで見つけづらい。

 月明かりで照らされているこの植物を見つける事が出来たのは、運が良かっただろう。一度存在を知れば、後は注意深く探すのみ。


 そうして集めた夜闇草を磨り潰し終えるとフラスコに移し、そこへ低級ポーションを加える。

 入れる時はまず少量加え、アルコールランプで熱する。そして、徐々に徐々に低級ポーションを入れていき、1本きちんと加え終わると同時に熱していたフラスコを火から離す。

 中の液体は黒く染まっていくのを注意深く観察しつつ、コーディーはフラスコをゆっくりと揺らした。調合前に調合アーツ《大量生産》を使用しているので、失敗をする訳にはいかない。


 このアーツは作成本数を決めて使用する。そして、1つだけで良いので作成すると、その出来上がった物と全く同じ効果の物が決めた数完成する。

 なので、磨り潰した夜闇草の黒色が液体へ浸透するように、フラスコに入っている液体を揺らす。

 そうして、自然と冷やされ夜闇草の成分が染み渡ったとコーディーが確信した時、中の液体が消えてウィンドウが現れた。

 そこには、出来上がったポーションの効果が表示され、満足行く出来にコーディーは口角を上げる。


「さて、待っていてくださいね。ブラックヴァイパー……」


 誰に言うでもなく周りに聞こえないほど小さな声で呟き、コーディーは作業場を出て現実世界へした。

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