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第36話 第4の街【クアルト】の街並み

 触れるべからず。

 そういう印象をコーディーへと抱いているプレイヤー達は、彼が何をしていようが視線を向けるだけでちょっかいを出すようなことはしない。

 なので、リアル世界の丸1日。


 【ミリアド・ワールド・オンライン】の世界で2日を使い、モンスターの素材や鉱石などを集めたコーディーは消費されてきたアイテムを補充すると、早々に第4の街【クアルト】へと旅立った。

 ある程度は《採掘》スキルのレベ上げを兼ねて素材の収集を行っていたものの、より時間を使った事でまたイベントが起きても大丈夫なくらいは素材の収集が出来た。


 ソロプレイが板に付いてきた彼は第3の街【ドリット】から出て、道なりに足を動かす。

 道中には【クアルト】へと向かうプレイヤー達が多く存在しているので、モンスターが集中的に襲い掛かってくるような事はなく、比較的安全に歩を進めることが出来ている。


 コーディーは試験的に運用を始めた依存型ゴーレムに命令を下し、ゴーレム1体だけで現在襲い来るモンスターを倒している。

 今はまだ1体しか所持していないのだが、ゆくゆくは複数のゴーレムを用いて如何なるモンスターでもねじ伏せてみせようと、未来へ思いを馳せつつ彼は口を開く。


「地面に拳を叩き落とし、後方に下がって抜けてくるモンスターへ攻撃」


 ゴーレムはゴツいその腕を地面に叩きつけて、砂煙を巻き上げるとモンスターの視界を塞いだ。

 どうにか視界を確保しようとするモンスター達だが、ゴーレムは視界を頼りにして動いているわけではなく、目の前で砂煙が巻き上がっていたとしても飛び出そうとしてくるモンスターへと確実に拳を叩きつけていた。

 たとえ姿が見えずとも命令に従い、このような事が可能にしているゴーレムは命令を下す側としてこの上なく助かる。


 実際に戦闘を行っているのはゴーレム1体だけなのだが、人型をしている水色の半透明なモンスター4体を相手に、追い込まれる事無く逆に圧倒していた。

 時折、コーディーは状態異常の麻痺を与えるパラライズポーションと、動きを遅くするスロウポーションを投擲して支援を行っているが、攻撃と防御は全てゴーレムに任せている。


 巻き起こる砂煙へ投擲されたポーションは水色の粘体型モンスターに効き目が良いらしく、高確率で妨害を行えていた。

 視界を塞ぐ物が大岩か、まばらに生えいる木々しか無いので周囲のプレイヤーは物珍しいゴーレムを使うコーディーへと視線を向けている。


 《鑑定眼》を持っていなければゴーレムの素材となる"劣化版賢者の石"の説明に記載されている最後の『ゴーレムやキマイラの核とする事が可能』という文に気が付けない。

 更には劣化版賢者の石を作るのに一定レベルのボスモンスターの血液が必要であり、それを手に入れるには《採取》スキルが必要不可欠。


 モンスターから血液を手に入れるには《採取》スキルがそれなりのレベルであることに加え、選択している職業が生産を可能としていなければならない。

 その上で、相性スキルが発現する条件がボスモンスターとの戦闘の勝利だ。


 パーティーを組んで活躍している生産職であれば可能だが、戦闘を行わない生産職では手に入れる事が難しい相性スキルだろう。

 ゴーレムの作成に成功しているプレイヤーが一体何人居るだろうか。

 そして、その中で積極的にゴーレムを運用している者達はどれほどか。


 そういう事からゴーレムを扱っているコーディーは、彼について語る掲示板で新たなる話題を与える事になった。

 良くも悪くも話題に事欠かないプレイヤーである。

 そして、掲示板で盛り上がるという事は彼の扱うゴーレムの特徴が広まるということであり、灰色がかった依存型ゴーレムはと通常のモンスターであるゴーレムとの色の違いは当然伝わる。


 その後もこのゴーレムを使い続ければ、コーディーの使うゴーレムは灰色のゴーレムだという印象が植え付けられ、即ち彼が通常のゴーレムと色が同じであるゴーレムを使って問題を起こしたとしても、コーディーが犯人だと断定が出来ないだろう。

 一応使役モンスターと同じ位置に彼のゴーレムは属しているので、頭上に緑色のNPCの証である点が浮かんでいる。

 それに気が付かなければ、気が付かないように仕向けれれば問題を起こしたとて、運営による罰は与えられない。


 既にこの時点からコーディーは布石を打っていた。

 これからも問題起こす気満々である。


「腕を横薙ぎで払い砂煙を散らすと同時に前方へ突進」


 彼の言葉に従い、灰色の巨体は前方の砂煙を腕を振るう事で生まれる風圧で散らし、右腕が伸び切ったまま地面を揺らす勢いで足を動かし、動きが止まっているモンスターたちへ突っ込んでいく。


 周囲の視線なんてなんのその。寧ろもっとゴーレムに注目して欲しいとばかりに、コーディーは戦闘をゴーレムだけに任せた。

 安全を期す為にコーディーはモンスターたちと距離を取っており、その御蔭で戦況をしっかりと確認できている。


 命令を下しているだけだが、現状はまるで彼がこの世界に訪れる前に好んでいたコントローラーを操作してキャラクターを動かすレトロゲームに似通っていた。

 マイクに言葉を放ってプレイするゲームはあったのだが、気分はそれに等しい。

 それとも行動を選択するシミュレーションゲームか、ロールプレイングゲームだろうか。


「状態異常に掛かっていない個体を優先的に攻撃、モンスターを1箇所に集めなさい」


 モンスターも考えて行動をしており、それ故に1箇所に集まらず等間隔で散っている。

 だが、今はコーディーの投擲したポーションにより4体中3体が動きを止めていた。

 そして、動揺により身体が固まっていた1体へとゴーレムはその巨腕を振い、その隙に他の個体へと攻撃を仕掛ける。


 ゴーレムは動きこそ早くないが、その巨体から放たれる攻撃は並の戦闘職の威力より遥かに高い。

 相手取っている4体のモンスターは粘体型故か、物理の攻撃に対し効き目が薄い印象を受けるが、それでも着実にモンスターのHPを減らしていっている。


 周りで戦闘を行っているプレイヤー達は粘体の人型モンスターを相手に魔法を主体として戦っているか、剣に魔法を纏わせて戦っている。

 その様子を一瞥したコーディーは、そう言えば魔法剣士を実現できる相性スキルがあったなと思い出した。


 自身が手に入れられる事に関しては積極的に調べる事をしないコーディーだが、魔法を剣に纏わせられる相性スキルに関しては手に入れる事が叶わない情報なので、躊躇ためらいなく情報を手に入れた。

 メジャーな相性スキルのようで少し調べれば直ぐに情報知ることが出来る。


 やはり、戦闘職に関する情報は生産職より多い。当然といえば当然だろう。

 戦闘職は戦うことがメインなので、その過程で手に入った相性スキルは他のプレイヤーだって多く所持している。


 対して生産職の情報は普通に生産職として活動する者が多いので、メジャーな情報は知られているがコーディーが持っているような相性スキルについては広まっていない。

 それは所持者が少ないからだろう。

 情報は金にもなるので、情報屋を営んでいるプレイヤーやクランが存在する。


 彼らへ自身の持つ情報を売ることもできるので、ただ情報を広める事に楽しみを持つ人以外はマイナーな情報はフレンドや掲示板などに流さない。


(どうにかして他職業の情報を手に出来ないものか……)


 売る用の広まっていない情報を手に入れる事ができないか、とコーディーは内心で呟いた。

 徐々にコーディーというキャラクターの立ち位置が定まりつつある。


 何者にも縛られること無く、自身のやりたい様に行動を行う。

 自己主義な錬金術師。自分の欲望の為に人生を謳歌する、欲望の塊である人間らしさはとても美しい。


 嘗て存在していたとされる錬金術師達も永遠の生命を追い求め、おのが為に賢者の石を探求しただろう。

 彼らに習い、自分も己の為に世界を楽しまなくては、とコーディーは演技ロール熱を燃やす。

 過去に思いを馳せる事により、彼はやる気に火を放った。


「1箇所に集めたモンスターへと腕の振り下ろし。その姿が消えるまで延々と攻撃」


 1対4にも関わらずゴーレムは終始モンスターを圧倒し、遂に4体のモンスターを倒した。

 召喚獣や使役モンスターを扱うのと同様に、アイテムも経験値も共に主であるコーディーへと入る。

 これに気を良くした彼は引き続き、襲い掛かってくるモンスターを相手にゴーレムの扱いを練習していった。




 道中は特に問題と言った問題は起きること無く、ゴーレムを可能な限り目立たせて【クアルト】の街に到着した。

 始まりの街と【ツヴァイト】と【ドリット】の3つの街のように、街の歴史を感じさせるように徐々に現代に近づいていく街並みかと思っていたのだが、どうやらその考えは払われた。


 突然テコ入れでもされたかの様に、第4の街【クアルト】はファンタジー的だった。

 まず、街を囲む外壁から今までの街とは違っている。

 淡い青色の光を帯びている堅牢な外壁は遠くからでも目立っていた。


 門扉もんぴは開かれているものの、街をより一回り大きく半透明な膜に覆われており、他の街よりもモンスターが近づく事が出来なくなっている。

 そこを抜けると建物が他の街とは段違いに建ち並んでいて、僅かばかり圧迫感すら感じてしまう。


 建物が建物の上にまで建てられているので、それに合わせて階段を至る所で見かける。

 地面は建材で埋め尽くされており、場所によっては自動で動く階段まで存在していた。


(今までの美しい街並みが。何故……)


 興奮して声を上げている他のプレイヤーとは違って、コーディーは失望のような感情が内に浮かんだ。

 衝撃のあまり言葉が出ない。別にファンタジーチックな街が嫌いというわけではないのだが、唐突な変化に驚きは隠し得ない。


(これはこれで美しく幻想的なのですが……駄目ですね。冷静でいる事が難しいです)


 頭痛を抑えるように頭に手を当てて、彼は息を吐いた。

 そうして気を落ち着かせると、このような街に変わった理由が気になる。

 これはイベントに関わる何かか、ストーリーに関わることかもしれないと思考を切り替えて、コーディーは沈む気持ちを立て直した。


「まずは、情報収集を行うとしましょう」


 口にする事でやる気を出した彼は、隣について歩かせていたゴーレムをストレージに仕舞うと足を動かした。

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