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第35話 アップデートと修正点

前回のあらすじ:謎解いたらつるはし手に入った。


明日も投稿します。

 新たに手に入れた《採掘》スキルのレベル上げを素材集めがてら行って数日の時が過ぎ、アップデートが行われた【ミリアド・ワールド・オンライン】の世界に新たな街が追加された。

 アップデートで変化したのはそれだけではなく、色々と修正が行われたようだ。

 ゲームにログインをしたコーディーは自身のアトリエに設置されている椅子に足を組みながら座り、表示されたウィンドウへ視線を滑らせる。


 一応公式サイトにも修正点と追加された事は記されているのだが、彼はそれを確認していない。

 既にリアル世界より、MWO世界の住人の様である。


 新たに追加されたのは、第4の街【クアルト】という街。

 コーディーは前に冒険者ギルドでカミラというNPCから、【クアルト】の街についてある程度情報を得ていた。

 NPCのカミラとは赤いセミロング髪の受付嬢の事だ。


 PKの噂が広まった事により、プレイヤーからは不信感を覚えられているコーディーだが、そうではないNPCが相手であれば変な感情を抱かれていない。

 中には噂を伝えられているNPCも居るかもしれないが、現在はまだ確認を取れていない。


 とまあ、アップデートが行われた現在でも、コーディーの悪い噂は収まってはいない訳だが、彼にとってそのような事を気にするよりも最優先で気にするべき事がウィンドウに記されていた。


「ポーションの瓶の破片から攻撃判定が取り除かれましたか……参りましたね、瓶も作成しなくてはいけませんか」


 修正点の1つに彼が今口にした事――ポーションの瓶から攻撃判定が除かれたという事が記されていた。

 正確には、ポーションの作成時に自動で生成されるポーションの容器から攻撃判定が無くなった。

 つまり、前のように瓶の破片で僅かなダメージを与えるには、瓶を作成しなければならない。


 だがしかし、マイナスな事だけではなかった。

 瓶を作成するのであればその瓶に何か細工を施せるのではないのか? という疑問がコーディーの頭の中に浮かび上がったのだ。

 前までは作る必要性をあまり感じなかった。


 精々、お茶の風味がする"アタックポーション"と"ディフェンスポーション"為に湯呑みを作ろうか悩んだ程度。

 だが、湯呑みは既に露店で購入済みである。

 既に購入済みなので湯呑み――ポーションの容器を結局自分で作るには至らなかったのだが、修正により作らなくてはいけなくなった事に加え、追加で何らかの効果を容器に宿せるのであれば今後に大層役立つことだろう。


 その他の変更点はと言うと、アイテムの名前が変更した事くらい。

 先ほど名前が上がったアタックポーションだが、アタックアップ(・・・)ポーションへと変わった。

 もちろん、デフェンスポーションも同じように『アップ』の文字が加えられている。


 その変更点からコーディーの頭には追加で加えられた物がまだあると言葉が浮かんだ。

 ――アップがあるならダウンが付くポーションが加えられましたか。


 錬金術師であるコーディーはポーション類を大量に持っており、一般には出回っていない物だってストレージに入っている。

 その中には使用することで能力が上昇する類のポーションはあっても、下げることが可能な物は存在していなかった。


(相変わらず、運営も面白い事をしますね)


 隠し要素が未だに溢れているMWOの世界。

 ただ、これがあるあれがあると伝えるだけでは面白くない。運営はそう考えているのだろうと、コーディーは考えを察した。

 プレイヤーにゲームを楽しんでも貰う為、至る所にヒントを散りばめてそこから隠されている物へとたどり着けるようしてある。


 街の風景だったり、NPCとの会話の中であったり、はたまたもっと分かりづらい物の中に隠されているだろう。

 その中でアタックアップポーションへと名前が変更されたこのアイテムは、分かりやすい部類だ。

 前に謎を解いた事により手に入れた"高性能つるはし"も、何らかのイベントか隠し要素に繋がっているかもしれない。


(注意深く観察した方が良さそうですね)


 《鑑定眼》を使用する事で場合によっては破壊可能な壁やオブジェクトを見抜ける可能性がある。

 その為のヒントが今後、出てくる事もあるだろうとコーディーは考えた。


「さて、残りの細かい修正点は実際に動いて確認をしてみましょうか」


 彼は椅子から立ち上がり、部屋の奥側にある錬金釜を一瞥した。

 デフォルトでグツグツと謎の不透明な液体が煮立っており、視線を向けた事でコーディーは前に作成したまま放置をしていた"依存型ゴーレム"を思い出した。


 作った事で満足感を得て忘れていた彼だったが、ふと思い出したゴーレムを使ってみようと考え、アトリエから出る前にストレージから前に作成したゴーレムを思い浮かべる。

 そうすることにより、光の球体が彼の身体から外へと排出され目の前に2メートル半程の巨体が現れた。

 灰色がかった岩のゴーレムはその素材故にゴツゴツとした見た目をしており、とても頼もしそうだという印象をコーディーに与える。


 アトリエ内でゴーレムに命令を下し、自分の後ろを付いて歩かせたり、堅牢な盾のように守るような動作をさせたり、攻撃のモーションを見てみたりとゴーレムの性能を確かめていく。

 少しして確認を終えたコーディーは、思いの外使い勝手が良さそうだとゴーレムの有用性を認識する。


「盾に最適ですね」


 脳内でストレージから咄嗟に出して、自身を守るように運用するイメージを思い浮かべる。

 自分の思い通りに動くのであれば、何かの実験を行う上でPKをしなくてはならなくなった時に便利そうだと内心で呟いた。


「命令がなければ動けませんが、壁としては十分。邪魔なモンスターを蹴散らす事にも重宝しそうですね」


 状態異常を与える煙玉を持たせれば、毒や麻痺に掛からないゴーレムはとても使い勝手が良い。

 ゴーレムの灰色をした岩の様な体を軽く叩いて、コーディーは口角を上げた。

 擬音を付けるならば『ニヤリ』だろうか。


 素の笑顔なのだが、相変わらず表情筋の使い方が不器用である。

 何はともあれ、ゴーレムをストレージへ収納したコーディーはアトリエから出ると、多くのプレイヤーとNPCが集まる街へ移動した。


 街に出て見ると前回街に出た時とは違って、プレイヤーの人数が減っているという印象を受ける。

 それは、開放された新たな街へと多くのプレイヤー達が移動したからだ。

 以前と比べて幾分か向けられる視線は少なくなったものの、それでも噂の渦中にいるコーディーをチラリとも見ないというプレイヤーはあまりいない。


 声を掛けられることはないものの、客観的に見て心地が良いとはいえない視線が纏わり付いているのが、存外嬉しい物ではないだろう。

 その様な視線を向けているプレイヤー達から、声をかければ自分が標的にされPKをされると思われているフシがないとは言い切れない。

 故に、コーディーに注意を向けてはいるものの声を掛けないという状況になっている。


 コーディーからすると、ドMという訳ではないのだが現在の視線は心地の良いものだ。

 客観的に心地よくない視線ではあっても、彼の主観で言えば別である。

 疎まれている現状は、問題を起こしても下がりに下がっている評価がこれ以上低下する事がないという証明であり、コーディーの暴走を加速させる要因に成り得る。

 いや、既に彼の頭の中では自由に振舞って、よりMWOの世界を楽しもうという考えが浮かんでいる。


 浮かびすぎて少しばかり歪みが生じているほど。

 彼にフレンドは全くおらず、その歪みを修正できそうな人は当然のように存在しないので、これから彼がどのような行動を起こしていくのか最早誰にも予想はできない。

 暴走は加速を続け、やがて彼は"死を振り撒くマッドサイエンティスト"の称号をプレイヤーから与えられる。


 既に現状で手が付けられなく成りつつあるので、彼の完成形はもうすぐだ。

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