第33話 採掘スキル
山頂付近でドラゴンから逃げ出したコーディーは中腹付近にまで戻ると、暗く外からの明かりだけでは心許ない洞窟内を、暗闇で光を帯びる"影光草"の束を手にして採掘した。
どうやらこの洞窟では【ツヴァイト】の鉱山と違い、つるはしを貰うことが出来ないようだ。
鉱山の方では入ると1日に1本つるはしが配布される。
仕方ないので、コーディーはストレージに閉まってあるつるはしを使って採掘を行ったのだが、短い時間でつるはしの耐久度は無くなり壊れてしまった。
元々2本しか持っておらず、この際だからとそのつるはしも壊れるまで使用して鉄鉱石や銅鉱石の他、"闇鉱石"という物が手に入った。
生産に関することをあまり調べなかったことが、ここに来て影響を及ぼしてしまう。
戦闘もできるが生産がメインなので、手探り状態で色々としたかったコーディーは洞窟の詳細について調べてこなかったのだ。
これは仕方ない事だと割り切って、採掘を終えると下山をした。次訪れる時はしっかりと準備をしてから採掘をしようと、考えつつ帰路を歩く。
ギルドで《採掘》スキルを取得する他、つるはしの準備に明かりの確保を考えつつ、彼は【ドリット】の街まで戻るとログアウトをした。
次の日、ゲーム世界に降り立ったコーディーは街へと繰り出した。
すると、掲示板によって噂は広がっていたのか彼に向けられる視線は、前までのランキング1位プレイヤーというものではなく、腫れ物を見るような視線が多かった。
だが、コーディーは全く気にせず冒険者ギルドへと入り、1階の受付で赤いセミロング髪の受付嬢に声を掛けた。
今日も今日とて他者を魅了するのではないかという、良い香りを纏っている。
対してコーディーはと言えば、危険な雰囲気を纏いつつある。
そう安々と話しかけることが憚られそうな、そういった雰囲気だ。
「いらっしゃい、コーディーさん」
受付嬢のNPCはコーディーの事を覚えているらしく、名前で気軽に挨拶をしてきた。
「ああ、どうも、カミラさん。ギルド内も落ち着いてきましたね」
「漸く落ち着きを取り戻しましたよ。ドリットにモンスターが入ってくるなんて思いもしませんでした」
受付嬢と偶に会話――情報収集――していたコーディーは仲良くなって損はないと思い、名前を知るに至った。
今までもギルドに向かえば会話をしていたものの、名前を聞こうとはしていなかったのだが、NPCも貴重な情報源だ。
そう認識するようになり、それなりに仲良くなっている。
受付に表示されたウィンドウを操作しながらコーディーは受付嬢のカミラと会話をした。
聞き流すことはせず、適度に相槌を打って話を促し些細な情報でも乾いた大地のように吸収する。
「それでですね、最近クアルトの街でもお仕事が増えてまして、私もしょっちゅうギルドから離れるんです」
「クアルトといえば、ドリットから更に進んだ所にある街でしたか」
「はい、そこであってますよ。街から少し離れた所に鎖が繋がっている刺々しい岩があるのですが、これがとても美しいのですよ」
「話を聞くに相当良い街なのでしょうね。近々私もクアルトに行くので、街のことについて教えてもらえませんか? 」
ウィンドウを操作して《採掘》スキルが報酬として手に入る依頼を受けたコーディーは、カミラとの会話でまだ知っている人の少ない第4の街についての情報を聞き出す。
NPCはプレイヤーより先のことを知っているという事を話の流れで理解した彼は、そのまま自然な流れで情報を手に入れた。
【ミリアド・ワールド・オンライン】のストーリーもだが、この世界内の情報もNPCの方が詳しい。
MWOの世界で生きているのがNPCなので、この事に気がついたプレイヤーはNPCと積極に関わっているだろう。
コーディーも会話という情報収集を行い、次のアップデートで解放される第4の街【クアルト】について理解を深める。
(目ぼしいのは鎖にが繋がれた大岩と、忘れ去られたという神殿でしょうか)
鎖に繋がれた刺々しい鱗のようにも見える大岩の周囲にはモンスターが多く、荒れた大地が凄惨な物事を語るように広がっているという。
街から見る分には良いが、近づくのは冒険者のNPCですら危険を伴うという。
プレイヤーより先に存在していた冒険者のNPCは腕が立つものも多く、現在【クアルト】には最先端のプレイヤーより強いと言われている者が多いらしい。
これもカミラから手に入れた情報だ。
プレイヤー達は元々居た冒険者のNPC達からルーキーと呼ばれている。
今まではNPCの冒険者は全く見かけなかったが、その理由として彼らは先へ進んでいるという事が原因だったようだ。
これからNPCに関する問題ごとも多くなりそうだと、コーディーは内心で呟く。
忘れ去られた神殿の方だが、ただの観光スポットになっており街の隅の方でぽつんと建っているようだ。
取り壊されないのは、昔から【クアルト】に住んでいる人々に「あれは悪いものを封じているのだ」と言われているかららしい。
「面白いお話を聞かせてもらい、本当に有難うございます」
「いえ、私も話すのが楽しかったですから気にしないでください」
コーディーはもう良いだろうと考え、花を咲かせていた会話を切り、カミラにお礼を言った。
これ以上話し込んでいると後ろにいるプレイヤー達からも何か言われそうだと思い、この辺りで彼は冒険者ギルドから出ていく。
掲示板で調べるより質の高い情報を得たコーディーは満足気にしながら、街を出て第2の街【ツヴァイト】の方面へと足を進めた。
【ツヴァイト】の街から少し離れた所にある鉱山をコーディーは一人進んでいた。
多くのプレイヤーが第3の街【ドリット】へ向かっており、鉱山内に居る人はそこまで多くない。
《採掘》のスキルを手にする為に受けた依頼の内容は、特定の鉱石の採取。
多少枝分かれしている鉱山内の先に進むと、どうやら今まで行けなかった所へ進める。
その先に広がる空間にある特定の鉱石を全て採掘すると今回の依頼は完了となり、採掘した納品物ではない鉱石はそのまま貰うことができるという。
イベントのせいで素材が減っていたコーディーには、丁度いい依頼と言えるだろう。
時折現れる人骨のモンスター――スケルトンを適当にバラしつつ先へ進んでいると、突如慣れた感覚に襲われた。
「転移ですか」
思わず呟いた言葉通り、通路の先から転移で移動した場所は小型のドーム状をした空間。
壁には薄く輝きを見せる鉱石が既に露出している。
その鉱石の御蔭で薄暗くも視界が頼りないということもなく、それなりに気を抜いて採掘を行える。
通路には松明があったのだが、この広がった円形の空間に松明は存在しない。
そして、採掘しなくてはならない鉱石というのが露出しながらも辺りを優しく照らしている鉱石だ。
輝いている全ての鉱石を取らなくてはならないのだが、そうなると最終的に明かりは無くなる。
辛うじて入ってきて通路から届く松明の頼りない明かりが、入口付近を多少照らしているのだが奥の方は暗闇となってしまう。
奥の方から採掘した方がいいと考えたコーディーは、鉱山に訪れたことで手に入った1つしか持っていないつるはしをストレージから取り出そうとしたが、その手を止めた。
「これは……つるはしですね」
入ってきた通路の壁際につるはしが立て掛けてあったらしく、それをコーディーは手にとって《鑑定眼》を行使する。
すると、そのつるはしが途轍もない耐久度を持っている高性能つるはしだと、詳細に記されているのが確認できた。
そのつるはしが立て掛けてあった壁には石版が埋め込まれており、位置は丁度コーディーの視線の高さと同じだ。
記されている文字をコーディーは口に出して読んでみた。
「真実が見えている物だけとは限らない。どういう意味でしょうね……」
まだ採掘もしていない状況では、石版に記されていることの意味を正確に捉えきることが出来ない。
取り敢えず、コーディーは高性能つるはしを手に採掘を開始した。




