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第29話 次へ

 ピンッ、と持っていた淡い光を帯びているコインを指で弾き、そのコインは空中で突如として姿を消した。

 ストレージにコインは仕舞われたのだ。


「さて、このまま換金しましょうか」


 NPCの少女ユマとのデートを手早く済ませ、彼女の恐怖心を取り除いた事で、コーディーは隠し依頼を見事に達成した。

 その後は早々に切り上げて自身のアトリエに戻り、今に至る。

 ユマに用が無くなれば直ぐに捨てる。そんな屑な男性のようにも見える行為をコーディーは何枚ものオブラートに包んだ言葉で告げる事により、自己保身をしつつアトリエに戻ることが出来た。

 彼のアトリエの外観は見る者に圧迫感を与える程黒色に染まっているが、アトリエ内に設置されている机や椅子は綺麗な白色だ。


 アトリエをコーディーに当てはめると、色的に外面は白色の方で内装が黒色の方が合っていそうだ。外見を取り繕いその腹の中は黒いのがコーディーなのだから。

 【ミリアド・ワールド・オンライン】での初イベントにより彼は、自重というリミッターを解除したようなので、外側も黒色に侵食されていくだろう。

 元々黒色だった外面を白く塗って今だけ誤魔化している、と言った感じなのだろうが。


 椅子に足を組んで腰を掛けているコーディーは片肘をテーブルに付きながら、もう片方の手でウィンドウを操作する。

 2枚持っていたイベント限定換金用アイテムである『願いのメダル』の内、1枚はいくらポイントが入るのか確認する為に換金済みだ。

 そう、イベント終了間近に魔女のロールプレイをしていた女性プレイヤー、ナタリアから奪ったメダルである。


 現在コーディーが所持しているポイントは100。ここへ、つい先程ポイントに変えたメダル分が加わって、500ポイント。

 この結果にコーディーはミスをしてしまったと内心で呟いた。


 彼が犯したミスというのは、今換金した『願いのメダル』を鑑定し忘れた事だ。

 NPCの少女ユマへ歯が浮きそうな言葉を連続的に吐いて口説き落とした結果、イベントがクリアされた事がアナウンスで報告された。

 メダルの方にも明らかな変化――淡い光を帯びているという現象が起きており、これで換金すれば換金時にポイントが増幅されると思わせてくれていた。


 だからだろう。コーディーは気を抜いてメダルの鑑定を行わずに、そのままポイントに変換してしまったのだ。

 まだ何かの変化があるかもしれない、そして本当に換金時のポイントは増えているのかという疑念は払われずに彼の中に留まった。


(換金してしまった事はもう取り返しがつきませんが、明らかに早まった事をしてしまいました……)


 溜息を一つ吐き、後で掲示板でも覗いて情報を集めようと考え、反省を終了する。

 次は同じミスを犯さないよう気をつけようと決め、彼は交換可能なアイテムを吟味した。

 まずPKを可能とさせる"不浄鉱石"は確定だろう。


 このアイテムは1個で100ポイントだ。つまり、魔女のロールプレイをしたナタリアから奪ったメダルと同じ価値がある。

 これを上手く利用できればこれから起きる面倒事を物理的に解決できる他、他者を寄せ付けないようにできる。


 戦える錬金術師という職業柄、素材を自分で集める事も可能だしアイテムも装備も、やろうと思えばコーディーは自分で用意できるのだ。

 彼は当初からソロプレイで行こうと思っていた。

 PKをしてしまえば他のプレイヤーから多少嫌われるだろうが、この先作成したアイテムを大っぴらに使えるのだと考えればそれくらい許容範囲内だ。

 そう彼は考えている。


 なので、運営的にも邪魔にならないギリギリを見極め、他者に迷惑を掛けつつこのゲームをプレイしていこう。

 そんな心情を掲げた。


「BANされなければ全て良し。でしょうかね」


 苦笑いをしつつコーディーは呟いた。

 このゲームから追放されなければ、自重をせず楽しもうという心意気は清々しい。

 元々このゲームを始めた理由は街の雰囲気や、遺跡などの建造物に興味が惹かれたからだ。

 しかし、今ではゲーム自体を心から楽しもうという考えもある。


 それ程までに【ミリアド・ワールド・オンライン】は魅力的なのだ。

 まだ次の街が出てきていないが、それも時間の問題。次のアップデートで新たな街が出てくるだろう。

 それまでに、この街【ドリット】から少し進んだ先にある火山フィールドを攻略したい。


 そう考え自身の強化も図るべくスキルの項目を選択した。

 調合や錬金術が楽しすぎて初期から持っていた《錬金術》《調合》《投擲》《採取》《鑑定眼》の他、第2の街【ツヴァイト】で手に入れた《索敵》以外にはスキルを取得していない。

 スキルは現在持っている6個の他に後4つ、合計で10個のスキルを所持可能だ。


 所持スキルが10個を超えてしまった場合、あぶれたスキルはギルド2階にある自分が所属する受付へ行き引き出したり預けたりと整理ができる。

 尚、スキルの入れ替えはギルドの2階以外でも、自身のアトリエやクランハウスなどを持っていればメニュー欄のステータスから入れ替える事が可能だ

 この説明は公式サイトにしっかり明記されているので、コーディーの頭の中に入っている。


「《採掘》はギルドの依頼報酬で手に入りますし、戦闘系は特に必要ありませんね」


 声に出す事で情報を整理していき、400ポイント以内で良さそうなスキルを探していく。

 そうして選んだのが《器用な手先》という生産向けのスキル。

 このスキルはアイテム作成時に成功率が上がる。《調合》で言うと、元々ある程度適当に作成してもアイテムが作れるのだが、更に適当に作ってもアイテム策定率が上がるというスキルだ。


 未知のアイテムを手探りで作る際には大変助かるスキルだ。

 レベルが上がる程、アイテム生産の助けになる。

 200ポイントで購入が可能だったので、コーディーは早速購入をした。

 残りは200ポイントだ。


 換金用のメダルと換金ウィンドウはゲーム内時間1週間で消えてしまう。

 現実世界の1日がMWOの世界はは2日だ。つまり、3日と半日となる。


 今日だけで決めなくてもいいかと、考えたコーディーは一先ず落ち着く為にウィンドウの右上にあるバツ印をタッチして、ウィンドウを消した。

 作成中のゴーレムは後、数分で完成する。漸く出来上がるゴーレムを待っている間に彼は、使用すると10分間、被ダメージが10%減少するというディフェンスポーションを飲む為にストレージから取り出すと、そのフラスコを温め始めた。

 その間に前もって、露店で購入しておいたシンプルな白色の湯呑みと急須を取り出して、温め終わったディフェンスポーションを急須へ入れると、湯呑みの方へと注ぐ。


 態々急須を経由するという無駄な事をしているが、これはただの様式美である。

 意味など存在しない。そうして温かくなったお茶の飲み、上手く作成できた事に頷いていると、錬金釜から少しだけ眩い光がアトリエ内へと広がる。

 アトリエに入り入り口側のテーブルのある場所から離れ、隅の方に存在する作業スペースの方へとコーディーは向かう。


 怪しげな液体が健在の錬金釜に近づくと、ウィンドウが現れそこには『依存型ゴーレム』の文字と『レシピに登録しておきます』という文字が記されていた。

 その下の方にあるOKの文字にタッチすると、ウィンドウは閉じて錬金釜から1つの光球がコーディーへと入ってきた。

 これが錬金釜でアイテム作成した後の光景である。


「やっと完成したのですが、依存型とは何でしょう?」


 【ツヴァイト】の街付近にある鉱山で手に入った鉱石とこれまた、【ツヴァイト】の街から少し言った所にある森フィールドのボスモンスター、ユニコーンから手に入る血液を使用して作成ができる賢者の石、そしてコーディーのMP100%の全てを使用して作成したゴーレム。

 前にMPを使用せずゴーレムを作成した時は"虚ろなゴーレム"という通常のゴーレムより脆い状態の物が作成できた。

 だが、今回はしっかり全てのMPを使用してゴーレムを作ったにも関わらず、他にも種類がありそうな『依存型』と名の付いたゴーレムが出来上がった。


 調合の時もだったが、錬金術もレシピは存在すれど、そのレシピの数はあまり存在しない。

 つまり、色々作りたければ実験をしろと言うわけだ。それが生産職の楽しみな訳だが、中々に難しい。

 ストレージからそのゴーレムの詳細を調べてみると、どうやら命令されなければ行動を行わないタイプのゴーレムということが判明した。


 という事は、『自立型』のゴーレムも作成が可能という事になる。

 ゴーレムのレシピ通りに作成してこの"依存型ゴーレム"は完成した。


(運営は優しく無いですね)


 コーディーは内心で呟くと、すっかり忘れていたイベント1位の褒賞と記念品がストレージに入っていた事を思い出した。

 褒賞の内訳は大量の金銭と"劣化不浄鉱石れっかふじょうこうせき"という名の素材アイテム、"スキルオーブ《運命の道》"という仄かに輝いている拳ほどの水晶、そしてイベント記念品の1と記されている金色の塔だった。


 調べてみた結果、劣化不浄鉱石は他者に攻撃を与える事が可能となる不浄鉱石の劣化版。

 この劣化版を使用して武器を作成した場合、与ダメージが50%程下がるが、プレイヤーにダメージを与えることが可能となる。

 スキルオーブは《運命の道》というスキルが宿されている物で、使用すると口にすれば宿されているスキルが手に入るようだ。


「スキルオーブ《運命の道》を使用する」


 コーディーは早速、使用すると口にした。

 すると、手にしていたスキルオーブはコーディーの手から離れて光の玉になるとコーディーの体内へと吸い込まれていった。

 そしてメニューのステータスをコーディーは表示する。



 コーディー

 職業 錬金術師

 Lv37

 HP 100/100%

 MP 100/100%


 STR 10

 VIT 10

 AGI 119

 DEX 60

 INT 10


 満腹度 92/100%


 スキル

 《錬金術 Lv26》↑7UP《調合 Lv32》↑2UP《投擲 Lv29》《採取 Lv30》《鑑定眼 Lv28》↑1UP《索敵 Lv22》《器用な手先 LV1》《運命の道 Lv1》



 イベント発生前まで6日間アトリエから出ておらず、《錬金術》のレベル上げとアイテムの作成ばかりしていたので、レベルは上がっていない。

 上がったのはアイテム作成をしていた《錬金術》と《調合》そして、アイテムの鑑定をしていたので《鑑定眼》だけだ。

 新たに手に入った《器用な手先》を一瞥した後《運命の道》の文字にタッチして詳細を調べる。


 すると、《運命の道》というスキルはイベントの発生率を上げる効果があるという事が判明した。

 おそらく表彰台に上がった何名かのプレイヤーも持っている事だろう。

 ゲームをプレイしていく上でかなり便利なスキルだ。


「ほう……」


 コーディーは思わず声を漏らした。

 確認を終えたのでウィンドウを閉じると、最後にイベント記念品の"1位のイベン塔"というアイテムをストレージから取り出す。

 錬金釜の近くに居たコーディーは近く調合時に使用する長方形の机へ、手に持っている"1位のイベン塔"を置いた。

 大きさは縦30cm程ある洋風の塔。それに《鑑定眼》を使用すると、詳細が記されたウィンドウが表示される。


 『1位のイベン塔』

 このアイテムがホ-ムまたはクランハウスなどに飾られるとイベント終了後、毎回200ポイント手に入る。

 ポイントはイベント終了後にゲーム内時間で1週間表示される換金ウィンドウにて使用可能。


「という事は、次回から意味を成す物という事ですか」


 アイテムの詳細を見て、次回のイベント以降に効果が発揮されるのだとコーディーは理解した。

 渡されたのがイベント終了後なので今回は200ポイントが手に入らない。


(おそらく、ホームを持っていない者への救済措置でしょうかね)


 イベン塔を手に入れた上位10名の内、ホームを持っていない物は次回のイベントまでにホームを購入すればイベン塔の恩恵を授かる事が出来る。

 運営の1人であるクアラルーンの様なはっちゃけた者ばかりで、MWOを作っているのではないのだろう。

 イベン塔の詳細を理解したコーディーは、アトリエ入り口の壁際にある棚まで行き、手にした塔を置いた。

 これで、次回以降は効果を発揮してくれる。


 クランハウスや自分のホームを持っている者だけに恩恵を与える置物などが存在する。

 その1つが今回のイベン塔。ホーム内でしかメニューに表示されない項目で『ショッピング』と言う物がある。

 そのショッピングではホームに飾る調度品を購入できたり建物の外観を開けたり出来るのだが、ただの調度品ではなくホームの使用者やクランハウスであれば、そのクランに属している者だけに効果を及ぼすアイテムがあるので、ホームは持っていて損はない。


 維持費なんてものは存在しないし、そもそも空間が違うので街としても場所を取らない。

 その代わりそう簡単に手が届く物ではないのだが。


「さて、色々と準備をしましょうか」


 やる事もだいたい終えたので、素材集めや火山へ向かうべくコーディーは準備を始めた。

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