第28話 NPCの少女ユマ
一度読み専に戻りまして、ようやく作品を書けるようになりました。
投稿が遅れて申し訳ありません。
この場所がおかしいというコメントにつきましては、修正を考えて完成次第前書きや活動報告などでお知らせしようと思います。
あまりに酷い物に関しては、早くに修正を行うと思います。
女性NPC、名前をユマという。
改めて互いの自己紹介をしたコーディーとユマ。
2人は今、この街にあるプレイヤー直営の【夢々】という喫茶店にいた。
まだ【ミリアド・ワールド・オンライン】の天気には晴れ以外に存在しない。
時間的にも昼が過ぎて小腹がすいてきた時間帯だ。
ユマの肩ほどまである茶色の髪に太陽の陽が降り注いで、より綺麗に見える。
喫茶店の外にあるテラス席でコーディーとユマは他愛のない話を繰り広げていた。
「ギルドのお仕事は忙しいのですね」
「そうなんです。お手伝いしてみて初めて分かりましたよ」
コーディーの言葉にユマは返した。
コーディー達プレイヤーにとっては、この街【ドリット】を襲った多くのモンスターはイベントという認識でしか無い。
しかし、この世界"MWO"の住人であるユマ達、ノンプレイヤーキャラクターにとっては死を招くスタンピードに他ならない訳である。
スタンピード――モンスターの群衆事故。運営の手によってNPC達は死ぬことはないのだが、彼らはそんな事を知らない。
故に今回のイベントで起きたスタンピードは恐怖でしか無いだろう。
コーディーが助けたユマも、彼女と一緒に居た者達もモンスターに囲まれ襲われる寸前だった。
結果、既の所でコーディーが助けに入ったのだが、その恐怖は計り知れない。
だが、コーディーの前で柔らかな笑みを浮かべながら一口サイズに切ったホットケーキを食べる彼女の表情からは、その恐怖を感じ取る事をできなかった。
僅かな時間だが、コーディーはその冷たい印象を与える瞳を閉じて過去を思い浮かべてみる。
先程の光景を今の彼女に掘り起こさせてはけ無いだろうという配慮から、違和感を与えない僅かな時間というわけだ。
瞳の裏で冒険者ギルドで仕事の手伝いをしていたNPC達をからを思い返してみても、先程までモンスターに襲われていたという事を通し見ることは出来ない。
彼はテーブルに置いてある自分のカップを手に取り、残っていたコーヒーを飲み干す。
そして、手に持っていた白磁の陶器をお皿に戻し、陶器同士が触れ合って小さな音を立てるとコーディーは口を開いた。
「ユマさん。まだお時間があるのでしたら、私にお時間を頂けませんか?」
「え? それって……」
ホットケーキを食べる手を止めた彼女は、コーディーを読み取って小さく呟いた。
一呼吸置いて彼は言葉を返す。
「はい、私とデートをして頂けないでしょうか?」
そう言って左手で指を鳴らすと、コーディーの着ていた汚れの存在しない真っ白な白衣は、上下の黒のスーツへと変わり、自身のアトリエに篭っていた間必死に練習を重ねてかろうじて形になっている微笑を浮かべた。
NPCが非常に人間味溢れる存在であれば、外面は繕っていて損はないだろうと彼は考えていたのだがその努力が今、実を結んだ。
ユマは彼の早着替え――右手でメニューを操作しただけ――の演出と最近ようやく形になった笑みに、頬を赤くした。
コーディーは物語の主人公がよく持っているという鈍感スキルを所持していない。
なので、目の前の少女が自身の演じているコーディーというキャラクターに惚れている事が容易に読み取れた。
(AIでも所詮は顔ですか……)
内心で呟いて、人工知能も所詮は外面に騙されるという事を認識した。
アトリエに備え付けられている姿見でした笑みの練習は無駄ではなかったのだ。
この結果からアトリエでのさらなる外面強化の予定は決まった。
「ユマさん……? 大丈夫ですか?」
呆けているユマを復活させるべくコーディーは声を掛けた。
「あ、はい! 大丈夫です! デートよろしくお願いします!」
彼の言葉で起動したユマは椅子から立ち上がり、妙に気合の入った語調と姿勢で前に居るコーディーへと言葉を返す。
テラス席なので近くの通りにいた人や周りのお客から視線を浴び、途端に恥ずかしくなった彼女は淡い青色をしたワンピースの裾を掴みおとなしく椅子に座った。
もっと顔を赤くした彼女に周りからは温かい視線を向けられ、コーディーは大きな声を出したユマの代わりに、近くに客へ軽く頭を下げた。
そうして少し経った後、ユマが注文したホットケーキを綺麗に食べ終えたので、2人は喫茶店【夢々】を後にした。
前もってウィンドウを操作し2人分の支払いを済ませていたコーディー。
彼を誘ったのはユマからだったので、少し申し訳ないと思いながらも「女性をエスコートするのは男の努めです」という言葉にすみません、と彼女は謝罪の言葉を述べる。
「この場合はありがとう、が正解ですよ。ユマさん」
優しく告げられたその言葉にユマは先程の謝罪を訂正し「ありがとうございます」と返した。
「どういたしまして、その言葉の方が男としては嬉しいです」
造り上げた笑みを貼り付けて、隣を歩くユマへ微笑みむコーディーは傍から見て紳士然としていた。
内心では早くイベントを終えて直に訪れる事の対策に、自身の強化や新たな素材を集めたり足りない素材を集めたりしたいと考えている。
今のユマは仕事をする事により、心を傷つけている恐怖をごまかしている状態だ。このままだと恐怖に心は侵食されてしまうだろう。
その恐怖を自身の演じているコーディーというキャラクターで打ち消すという事をすればいいのだと、そう今起きているイベントについて推測をした。
ユマの心のケアをどのような形でもいいのですればいい。ユマに誘われて喫茶店に来た事や繰り広げられる会話が他愛もない日常会話という事などから、コーディーはイベント内容を予測したのだ。
彼女からもらった換金アイテム『願いのメダル』以外にも、さらなる報酬を手に入るだろうという打算的な考えから、コーディーはキザなセリフを吐いたり紳士然に振る舞っている。
この後のデートで彼女の心を侵食する恐怖を打ち消せば、イベントはクリアだ。
コーディーはユマをエスコートして、活気が戻ってきた【ドリット】の街を歩いていった。
返信出来なかったコメントどないしよう……。




