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第3話 調合

レビューを貰えたので感動で打ち震えました。

参考になりましたし、なるほど、と自然に口が動いてました。

ありがとうございます。

 気を取り直して冒険者ギルドへ向かうコーディー。

 死に戻りをした際のデスペナルティは、所持金が二割減り、ステータスもゲーム内時間で二時間ほど二割減。そしてストレージ内からランダムでアイテムを1つから3つ落としてしまう。

 その落としたアイテムは他者が拾うことは出来ず、消滅の形を取る。

 所持品の設定でアイテムを10個ほど保護出来る機能が存在し、その保護設定をしたアイテムは死んでも落とす事はない。


 そんなデスペナルティだが、3回だけデスペナルティを受けないという設定があるので、今回は何も問題はなかった。

 だが、貴重な回数を1回減らしてしまったのは勿体無い。もちろん、死んでしまえばその回数は強制的に減るので、いざという時にとって置く、なんて事をしたいのであれば、死なない様に努力しなければならない。


(ブラックヴァイパー……流石に強すぎですね。いや、初期装備且つレベルが1の状態で戦おうというのが、そもそもの間違いですか)


 ブラックヴァイパーに挑んだ事を後悔しつつも、ウエスタンドアを開け冒険者ギルドへ入る。

 そして並んでいる人が多い受付に辟易とするが、仕方がないか、と内心で呟き適当な列へ並んだ。

 順番が回って来るまで時間が掛かる。その間に、掲示板でブラックヴァイパーについて調べる事にした。


(捕食中、一定時間HPを回復する。通りで……)


 掲示板を見ていると、どうやら他のプレイヤーもブラックヴァイパーに苦戦を強いられているという事が分かった。

 先程戦ったブラックヴァイパーは戦闘前に、コーディーが止めを刺しそこねたゴブリンを捕食していた。

 だから、コーディーが何度も攻撃してHPを減らしても次から次へと回復していたのだ。

 他にも色々と情報を集め、次、戦う際の反省箇所を思い返していると、コーディーの順番がやって来る。


 受付のNPCとの会話もほどほどに、表示されるウィンドウを操作してクエストを完了させた。

 あまり見すぎないよう気を付けながらも受付の女性NPCを観察して、改めて人間らしいと感想を抱く。

 ストレージ内から薬草がきちんと減っていたのを確認し次のクエスト、ゴブリンの駆除を受注し、脳内でゴブリンとの戦闘を反芻はんすうした。

 ゴブリンであれば初戦闘で簡単にあしらえたので、戦闘訓練をしつつクエストをこなせばいい。


 ブラックヴァイパー戦では回避を全くしなかった、と言うよりできなかったが、本来の戦闘スタイルは旧来のコントローラーを使用するゲームでよくやっていた回避特化、攻撃を回避しつつ隙をついて攻撃をするスタイルだ。

 VRゲームでは未経験だが、反復練習をすれば直ぐ物に出来るだろう。回避について軽く考えながらコーディーはギルドを出た。

 そして再度平原へ。


 今度はなるべく先へ進まず近場で行動し、所々で採取できる物は採取しながらゴブリンを探す。

 採取物に《鑑定眼》を使用しながらスキルのレベルを上げていると、ゴブリンを2体発見した。

 コーディーは採取を中断して、先程拾った拳ほどの"石"をストレージから取り出し、こちらに背を向け離れている2体のゴブリンに目掛けて投擲した。


 スキル《投擲》のレベルが低い所為か、2つ同時には投げられないので、1つ1つ石を投げなければいけない。

 スキルの恩恵によりゴブリン達の後頭部へ石は直撃し、射殺さんばかりの視線をコーディーへ向けて駆けてくる2体のゴブリン。

 もう一度投擲しても問題ないほど距離は空いているので、コーディーは再度石をストレージから出し投擲する。

 出したいアイテムを脳裏に思い描くだけで取り出せるのは便利だと思いながら、石を投擲した後、腰に下げている短剣を鞘から抜いて構えた。


 正面から投げた石はゴブリンの棍棒で弾かれたが、元より2度目の投擲は当たれば御の字としか考えていなかったので、問題はない。

 コーディーとの距離が縮まった片方のゴブリンは棍棒を両手で力いっぱい握り、そのまま頭部を潰さんとばかりに飛びかかってきて振り下ろしてくる。

 対してコーディーはそれを後方へ飛ぶことで容易に躱した。そしてストレージから石を取り出し、飛んでいるゴブリンへ投擲。

 だが、これは攻撃を仕掛けてこなかった方のゴブリンが棍棒で叩き伏せた。


(やはり、連携はしてきますか)


 たかがモンスターと考えていると煮え湯を飲まされてしまう。

 コーディーはゴブリンから距離を取って、再度石を投擲した。小賢しいとばかりにゴブリンは棍棒で弾くが、棍棒を振り抜いた隙をついて接近していたコーディーは前蹴りを放った。

 ゴブリンとの身長差から、前蹴りはゴブリンの頭部へ直撃し、衝撃で地面を転がり棍棒を手から落としてしまう。

 しかし、蹴られたゴブリンの隣りに居たもう1体は、流石に避ける事は出来ないだろうと力を込めて棍棒をコーディーへ振り払う。


 前蹴りをした事で流石に避ける事は出来ないと思われたが、無理やり地についている左足で地面を蹴る事でその場から離れた。

 回避はできたが無様に地面を転がるコーディー。直ぐに体勢を立て直して、離れ離れになっている間に攻撃を仕掛けてきたゴブリンへ接近し石を投擲。

 石は惜しくも外れたが、これも当たれば御の字、狙いは注意を逸らす事だ。


「ふっ!」


 足払いを仕掛け、倒れたゴブリンの胴体へコーディーは短剣を突き刺した。

 体術に関するスキルがない為、与えたダメージは低いが、それでもゴブリンは短剣を突き刺された事により消滅してアイテムをドロップした。

 ドロップ品が自動的にストレージへ仕舞われるが、まだもう1体ゴブリンは残っているのでアイテムの確認はしない。


「では、始めますか」


 一言呟いたコーディーは既に起き上がって激昂げきこうするゴブリンへ近づくと、繰り出される棍棒をひたすらに回避する。

 薙ぎ払い、袈裟斬り、突進、全てを只々回避し続ける事10分少々。もう十分だと認識した後、肩で息をするゴブリンを始末した。

 仲間を殺された事でゴブリンは逃げると言う選択肢を捨てたのだろう。

 命の危険に晒されれば、生存本能から命を優先するのが当たり前だろうがそんな事より、残っていたゴブリンは仲間の敵討ちを優先した。


 ゴブリンと言えど十人十色――人ではないが――皆が同じではないと認識を得たコーディー。

 その後、採取をしつつ見つけたゴブリンを相手に戦闘を行い、回避の練習を繰り返した。

 ゴブリン2体の攻撃を回避し続け、慣れてきたら数を増やして行き、石を投擲して遠くのゴブリンの気を引いて更に数を増やし、最大で5体のゴブリンを相手に回避の練習をしたりと……頑張っては居たが回避というのはそう簡単ではなく、時折手痛い反撃を喰らったりもしていた。


 その都度、数少ないポーションでHPを回復する。満腹度が減ってくれば、回避をしながらパンを食べると言うおかしな事もした。

 旧来のゲームでは回避が容易だったが、それはコントローラー故。実際に身体を使っての回避は、簡単に考えていたコーディーの認識を改めさせた。それでもまだ諦めはしない。

 そして、持っていた低級ポーション5本全てを使い切った後、彼は戦闘を切り上げ街へ戻った。

 戦っていた場所が街に近かった事もあり、戦闘風景を他のプレイヤーに見られたりもしたが、変な物を見る様な視線はあまり無かった。

 ギルドでクエストの報告をして、報酬金を受け取ったのち、初めての調合をする為ギルドの近くに建っている"作業場"へ入る。


 作業場とは、生産職のプレイヤーが生産をする為の建物だ。

 個室は1時間500シルバー、と現所持金からすると高額なので1時間100シルバーの一般フロアを選び200S(シルバー)支払い部屋の中へ。

 ゲームだからか、外観から判断出来ないほど広く作られており、中には結構な人数のプレイヤーが各々アイテムを生産していた。

 料理人と思しきプレイヤーが居るのは当たり前なのだが、つい視線が向いてしまう。


 いい匂いが作業場全体に漂っているわけではないが、近場によると香ばしい香りを嗅ぐ事が出来る。

 そして匂いで楽しめるのはもちろん、目で見ても楽しめる。凝視はしていないものの、時折チラリと調理風景を見てしまうコーディー。

 だが、それは彼だけではなかった。よく見れば、料理人の近くに他のプレイヤーは集まって居ると分かる。


 そんな光景を目にしながらコーディーは壁際の作業机に座った。そして周りを見回す。

 作業場は作業ごとに場所が決まっており、例えば先程の料理人なら調理器具などが設置してある中央あたりのスペース。鍛冶や木工をする者は、周りにある程度空間が開いている奥の辺り。

 そして錬金術師であるコーディーは部屋に入って手前の辺りに調合の作業をする机が設置してある。


 つまり、どの職業についているプレイヤーが何人この作業場に来ているのか、ざっと見て分かる仕組みになっている。

 そしてコーディーと同じ錬金術師は現在彼を含め4人程。他の職に付いているプレイヤーはそれなりに居るのだが、錬金術師は見たところ人気がないように見える。

 だが、不遇な職業というわけではない。現在はまだ錬金釜を使う事は出来ないのだが、錬金釜を使用できるように成れば、武器や防具、料理にポーションと錬金術師は幅広く活躍できる。

 まあその分、生産が難しかったり、本職と比べランクや作成にかかる時間が長かったりと面倒ではある。

 生産アイテムにもランクは存在しているが、正確には生産した装備品にランクが存在する。なので、コーディーには錬金釜を使用できるまであまり関係ない。


 そして錬金釜を使用可能になるには、冒険者ギルドのランクを1段階、Eランクまで上げて更にギルドの2階にある生産職ギルドのランクも1段階、Eに上げアトリエが購入可能になるクエストをクリアしてアトリエを購入しないと行けない。

 この情報は公式サイトに記載されており、メニューから"ヘルプ"の項目を選択し、知る事も出来る。

 錬金術師のスタートはアトリエを手に入れてからと言っても過言ではない。なので面倒ではあるが、ソロで尚且つ戦う生産職になるというコーディーには向いているだろう。 

 因みに、この【ミリアド・ワールド・オンライン】内で一番人気がないのは魔物使いや召喚士である。


 連れているモンスターと経験値が共有されるのでプレイヤーのレベルが上がりづらく、モンスター1体でパーティー枠を1つ使用するので他のプレイヤーとパーティーを中々組んでもらえない。

 しかし、モフモフなモンスターや格好いい、または可愛いモンスターが好きなプレイヤーは進んで困難な道を歩む。

 既に召喚士で話題になってるプレイヤーがいるので、人気が上がるのも時間の問題だろう。掲示板を見ていたコーディーは、もちろんこの事を知っていた。


 話が脱線したが、錬金術師は不遇なわけではない。コーディーは錬金術師を人気してやる! などとは考えず好きにプレイをする予定なので、人数が少ない事は気にせず調合を始めた。

 作業机にストレージから錬金セットの内、錬金釜以外を出し、採取した薬草等も置いていく。


(始めますか)


 まずはメニューを開いてレシピをタッチし低級ポーションの作り方を見ながら、薬草を乳鉢に入れゴリゴリとすり潰していく。

 薬草は1つが何枚かの纏まりになっているので、きちんとすり潰すのに少し時間が掛かる。

 そして水とすり潰した薬草をフラスコの中へ入れて、火に掛け沸騰させ低級ポーションが完成する。


(ゲームならではですが、まあ面白いのでいいでしょう)


 この時出来上がったポーションはどこから出てきたのか、小瓶に入っていた。

 作成したポーションが入れられている容器は試験管や小瓶、フラスコなどから選べるらしく設定を弄ればよい。

 そして、瓶を1つでも良いので"自作"できれば、選択できる容器に加える事ができるようになる。


(薬草はまだまだありますし、他にも毒草や麻痺草といった物もある。色々と作ってみるとしましょう)


 採取したのは薬草だけではない。レシピには毒草や麻痺草を使用したレシピはまだ無いのだが、コーディーは先程と同じように作るようだ。

 時間いっぱい低級ポーションと毒草を使用したポイズンポーション、麻痺草を使用したパラライズポーションが簡単に出来上がった。

 片や毒草の色から変わりなく毒々しい紫色の液体で、片や麻痺草の緑色から火に掛け沸騰した時、突然と黄色の液体へと変わった。


 『低級ポーション』製作者 コーディー

 使用者の傷を癒やすポーション。飲んでも、身体に掛けても使用可能。

 HPが11%回復する。クールタイムは10秒。


 『ポイズンポーション』製作者 コーディー

 飲むと10%の確率で状態異常"毒"が付与される。

 身体に掛けても使用可能。

 まだ改良の余地がある。


 『パラライズポーション』製作者 コーディー

 飲むと10%の確率で状態異常"麻痺"が付与される。

 身体に掛けても使用可能。

 まだ改良の余地がある。


 出来上がった物に《鑑定眼》を使用した所、このように表示された。

 前にNPCの道具屋で低級ポーションを鑑定した時は製作者は表示されていなかったのだが、プレイヤーが作成した物は表示される仕組みなのだろう。

 そして店売りはHPが10%回復なのに対して、自作した低級ポーションは11%と地味だが上がっていた。


 ポイズンポーション、パラライズポーション、両方共に面白そうな事が書かれており、コーディーはニヤリと口角を上げる。

 まだ色々試したい所だがしかし、終了5分前のアラームが耳に届いたので仕方なく片付けをして作業場を後にした。


(思いの外、没頭していたようですね。既に明日が楽しみです)


 今日の所はこれで終わりにし、ステータスの確認をしてログアウトをした。


 コーディー

 職業 錬金術師

 Lv4

 HP 100/100%

 MP 100/100%

 


 STR 10

 VIT 10

 AGI 30

 DEX 15

 INT 10


 ボーナスポイント 12


 満腹度 100/100%


 スキル

 《錬金術 Lv1》《調合 Lv3》↑2UP《投擲 Lv3》↑2UP《採取 Lv3》↑2UP《鑑定眼 Lv2》↑1UP


「次、インした時にボーナスポイントを振らないとですね」


 コーディー、いや、広大こうだいはヘッドギアを外し、ベッドから起き上がると筋肉を解しながら呟いた。

 どうやら研究者ロールの口調が抜けきっていないようだ。

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