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第25話 イベントの終了

「イベント中にPKをしても特別なことはないのでしょうか」


 教会から出てきたコーディーはそんな事を呟いた。

 彼はただPKをしたのではなく、イベント中にPKをした事で何かが起きるかもしれないという考えもあっての事だ。

 後は単純にボスモンスターを横取りする為である。


 教会の奥に根を張ってモンスターを生成していた巨木のモンスターと、正々堂々と戦えば時間がどれだけ掛かったのか。

 横取りしてはいけないというルールは存在しないので、それ即ちしても問題がないという事だ。

 コーディーはそう考えて、先に戦闘を行っていたプレイヤー達を倒した。


(残り時間は、あと20分)


 ボスモンスターを倒したからと言っても、まだ安心はできない。

 ハルとナナミの知り合いであるフレアという女性プレイヤーは、クラン名、流星のリーダーである男性プレイヤーヤクモと並び、二大巨頭と言われる程、有名であり強い。


 コーディーもその事を知っており、そして、このイベントにフレアが参加している。

 上位入賞をしたいが、可能であれば一位になりたい。

 イベントに参加してそう考えるのは普通のことだ。


 途中経過すら発表されないので3万ポイントを超えた自分が現在、何位なのか全く分からない。

 残り時間でポイントをもっと稼ぐ為、モンスター殲滅を行おうとコーディーは走りだした。


 モンスターを生み出していたのが巨大なモンスターであるなら、モンスターの多く存在する辺りにまだボスモンスターが居るだろうと当たりをつける。

 教会付近はモンスターが目に見えて少なくなっており、その残りを素早く倒しながら、彼は北門の方向ではなく西門方向へと向かった。


 北門はフレアが向かっていると聞いたので、既にボスモンスターは倒されていると推測できる。

 【ドリット】の街から少し行った所にある、火山フィールドのボスモンスターを倒すことの出来る実力。


 それを考慮して、比較的モンスターが多いと感じる西門へと向かい、ボスモンスターが居るなら奪ってしまおうとコーディーは考える。

 メニューを開き、現在のポイントが3万3千である事と、残り時間が10分を切った事を確認した。

 メニューを消すと、助けを求めているNPCも一応探しながら、戦闘音の大きな方へと進む。

 その時、コーディーの目の前に何かが一瞬で通り過ぎた。


「……っと、今のは……プレイヤー?」


 足を止めて辺りを警戒しつつ、何かが飛んでいった方へ視線を向ける。

 すると、そこには残りHPが一割もない全身赤タイツのプレイヤーが倒れていた。

 彼の名は赤タイツマンと言い、最近名が売れてきた男性プレイヤーだ。

 そして、若干天狗になりつつある。


 この通りにはモンスターが見当たらない。そして、倒れている赤タイツマンは通路を挟んでいる建物から飛んできたように見えた。


「と、言う事は……ッ!」


 コーディーは右側にある少し大きな民家から飛び出してきた物を避けるように、後方へ飛び退いた。


「モンスターが建物の中に潜んでいたとは」


 彼は瞬時にストレージから爆弾と2種の煙玉を構えた。コーディーの目の前にはこちらへ獰猛な視線を向けているモンスターが居る。

 6つある大きな目玉でぎょろりとコーディーを見る巨大な狼らしき生物。

 骨と皮だけなのではないかとおぼしき、げっそりとやせ細った身体と6つの足で先程の素早い行動を可能としたのだろうか。


 体長4メートルはあろう紫色の身体は、奇妙さを醸し出している。今にも落ちてきそうな程、飛び出ている目玉で油断なくコーディーを睨み、全く隙を見せない。

 その巨体では民家の中に入ることは不可能かと思える。


(これこそ、モンスターと言った見た目ですね……)


 コーディーは鑑定眼を使い、情報を読み取る。


 【ストレンジキマイラ】

 《咆哮》《咆哮》《咆哮》《縮小化》《低位モンスター生成》


 《咆哮》のスキルが3つあるのは、このモンスターが《咆哮》のスキルを持つ3体のモンスターから作られたからなのかとコーディーは推測する。

 そして《縮小化》のスキルにより、民家の中に隠れることが出来たのだろう。

 《低位モンスター生成》というスキルを持っている事と見た目から、ストレンジキマイラが明らかにボスモンスターだと分かる。


 視界の端に倒れている赤タイツマンが、未だに動かないのは《咆哮》の効果なのかもしれないと注意をして、コーディーは動きだした。


 6つも目があるのは伊達じゃないだろう。

 コーディーが動きだしたのを瞬時に認識し、ストレンジキマイラは口を大きく開けた。


「ヴァァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」


 【ドリット】の街、全体にまで届くような耳障りな咆哮を上げたストレンジキマイラ。


「……ッ!?」


 耳障りな咆哮を耳にした直後、コーディーの視界は世界が変わったかのように激しくぶれた。

 体勢を崩してしまった彼は思わず膝を突いてしまい、その隙を狙ってストレンジキマイラが前足を振り下ろしてくる。

 刹那、未だ倒れていた赤タイツマンとコーディーの位置が入れ替わった。


 一言も発せず驚いた表情のまま、光へと変わっていった赤タイツマン。

 前足を振り下ろしたストレンジキマイラは目の前から消えたコーディーを探す為、目玉をギョロリを動かし周りを見る。

 直後、ストレンジキマイラの頭上から雨が降り注いだ。


 そう、状態異常を与えるポーションの雨だ。

 コーディーは元から赤タイツマンと位置を"チェンジマテリア"を使って、交代するつもりでいた。

 ストレンジキマイラの《咆哮》で自分が体勢を崩す事になるのは想定外だったが、それでも虚を突いて赤タイツマンと入れ替わり、背後からいつものコンボを炸裂させる。


 ポーションの雨を降らした後は毒煙玉と麻痺煙玉の2つを素早く投擲。

 麻痺と毒の状態異常を与える投げナイフも投擲して、トドメとばかりに爆弾を投げる。


(使える物はプレイヤーでも使うべきですよね)


 煙の所為でストレンジキマイラの残りHPや現在の状態が把握できない。

 しかし、コーディーはアイテムを惜しげもなく使い、姿が見えるその時まで永遠と攻撃を続ける。

 《索敵》によってストレンジキマイラの位置は把握できるが、それは目に見えているわけじゃない。


 《索敵》を誤魔化す方法やスキルがあってもおかしくないと彼は考えており、傍からおかしな光景だと思われても実際に確認できなければ、コーディーは攻撃の手は休めない。

 少しして体長4メートルはあろう身体を覆い隠している煙が消えていく。そこには、ストレンジキマイラの姿はなかった。


 周りを見回した後、メニューを開き現在のポイントを確認する。

 ポイントがストレンジキマイラを倒した事で4万に届きそうになっており、時間も確認すると残りが5分になっていた。

 残りの時間もポイントを稼ごうと考え、歩き出そうとしたその時、コーディーに声が掛けられる。


「そこの白衣の男性、聞きたい事があるのだが、少し良いか」


 後方から女性の声がコーディーの耳に届いた。

 彼が振り返ると、そこには黒マントと黒帽子に杖を持った魔女と思しき格好のプレイヤーが居た。

 コーディーは、前に【ツヴァイト】の森フィールドで見た事があるのを思い出す。


 彼が実験をしたいが為に適当に考えたハーレムクソ野郎撲滅計画こと、孔雀狩りに来ていたプレイヤーの一人だ。

 そして、ナタリアという名の有名なプレイヤーである。

 名前や有名であることは知らなかったが、コーディーは見知ったプレイヤーに声を掛けられ、何を聞きたいのか疑問に思った。


「私にどのような事をお聞きしたいのですか」


「いやなに、先程の戦闘を見ていて、少し気になったことがあってな」


 ナタリアは帽子のつばを少し上げて、言葉を続ける。


「まどろっこしいのは嫌いでね。単刀直入に聞こう。孔雀狩りという、召喚士ユウの撲滅計画の時、多くのモンスターを森の外へ誘導させたのは君だな?」


 ナタリアはあの計画の時、誰かが何らかの方法でモンスターを誘導したのだと推測し、それがコーディーであると当ててみせた。

 もっとも、何者かの関与があったことは分かっていたが、それがコーディーであると分かったのはつい先程である。

 ポーションの雨と爆弾。これは現状珍しい物だ。それ故、偶然コーディーの先程の戦闘を見て犯人だと確信したのだ。


 ナタリアの言葉を聞いてコーディーは溜息を吐いた後、口を開いた。


「もっと面白い事を聞かれると思ってましたが、そんな事ですか。ええ、私で間違いありませんよ」


 つまらないというようにコーディーは額に手を当て、軽く頭を振った。

 そんな彼を見て、ナタリアは少しだけ目を見開く。


「ほう、これは驚いた。誤魔化すなりすると思ったのだがな」


 コーディーは両手を後ろで組み、言葉を返す。


「MPKについては、もうじき疑惑の目を向けられるでしょうから、隠しても無意味だと思ったまでです。で、ご用件はそれだけですか?」


 彼はナタリアに見えないよう、後ろで組んでいる手に出現させた小瓶の中身を地面に少しずつ零した。


「ああ、時間を取ってすまないな」


 ナタリアは踵を返してこの場を去ろうとする。


「それでしたら、もう少しでイベントも終了ですし、有益な話をして時間を潰しませんか」


 そのコーディーの言葉にナタリアは足を止めた。

 コーディーは空になった小瓶を消し、ストレージから球体を取り出すと、そのアイテムを確かめるように手を動かす。


「有益な話とはなんだ」


 ナタリアがコーディーの言葉に明確な反応を示した。

 そこで、彼はNPCから貰ったメダルについて話し始める。


「ナタリアさんはこのイベント中にNPCを助けましたか?」


「ああ」


 ナタリアはコーディーの問いに返事だけをする。

 メダルの事を言わない事から、用心深そうだという印象をコーディーは受けた。

 馴れ合う気はなさそうだ。


「それなら、メダルを貰いませんでしたか?」


「いや、貰ってないな」


 ナタリアは貰ってないと言ったが、コーディーはNPCを助けたという事を聞けただけで十分だった。

 では、確かめさせてもらおう。

 コーディーは内心でそう呟いた。


 彼の視界に先にPK用爆弾の元――フォレストウルフがナタリアの後方から走ってきているのを確認した。

 コーディーが少し前に地面へ零していた液体は、モンスター誘引ポーションだ。

 フォレストウルフ以外にも寄って来ているのが《索敵》のスキルから分かる。


 もうすぐイベントが終わってしまうので、彼は最後に自身の考えを確かめてみようとある事を企んでいた。


 コーディーは後方へ飛び退くと同時に、麻痺煙玉を複数個投擲する。

 更に追加でもっと麻痺煙玉を周囲へ投げた。それは煙の範囲を広げるようだ。

 辺りは黄色の煙で覆われ、侵入する者へ状態異常の麻痺を与える領域が作られていく。


 現在、麻痺煙玉による状態異常、麻痺になる確率は40%に到達した。

 煙を一度吸い込むと40%の確率で麻痺になる。ステータスのINTを上げれば、状態異常になりにくくなるが、ナタリアは運が悪い事に一発で麻痺になってしまった。


 ナタリアの後方に居たフォレストウルフも麻痺になっており、苦しそうに呻いている。

 モンスター誘引ポーションで引き寄せられた他のモンスター達も、ポーションにより興奮して気付けず煙の中へ突っ込み、動けなくなっている。

 麻痺煙玉は使用者にも影響を及ぼすのだが、コーディーは何事もないようにナタリアの後ろにいるフォレストウルフを捕まえた。


 彼が麻痺にならない理由は"アンチパラライズポーション"というアイテムのお陰だ。

 このポーションは一分間だけ麻痺の耐性を持つことが出来る。

 コーディーは爆弾を動けないフォレストウルフに飲み込ませ、もう一つ爆弾を咥えさせた。


 麻痺で動くことが出来ず、呻き声を上げるナタリアの後方から、コーディーはフォレストウルフを彼女に投擲すると同時に距離を取る。

 咥えている爆弾と体内の爆弾により2連続で爆発が起き、轟音が辺りへ響いた。爆風により爆心地付近の煙は散って、視界は良好だ。


「おや、こんな所に何やらメダルが落ちていますね。これは運がいい」


 態とらしい演技をして、爆心地から一枚のメダルを手に入れたコーディー。

 ナタリアはステータスポイントをINTとDEX以外には全く振っておらず、コーディーと同じで紙装甲だ。

 故に今まで数々のモンスター達を葬ってきた爆弾は、紙装甲である彼女を容易く消し去った。


「運営はPKの味方ですね。クックックッ……」


 イベントで手に入ったアイテムは、死に戻りした時にドロップ――その場に落としてしまう。

 彼は不敵な笑みを浮かべ、自分の考えが当たっていた事に含み笑いをした。


 そんな彼の耳に一際大きなファンファーレが届く。

 イベントの終了を祝うかのような盛大な音楽を聞き、彼はメニューを開きイベントの残り時間を確認する。

 時間は残り3分ちょっとで停止していた。


『皆様、初イベントお疲れ様です! ボスモンスターが全て倒された事により、当ゲーム、ミリアド・ワールド・オンラインの初めてのイベントはたった今、終了しました!』


 MWOの運営であろう若い男性の声が街中に響く。

 残り時間が停止している事で、今の今まで引っかかっていた事をコーディーは理解した。

 彼の考えを読んでいるかのように、運営は残り時間の謎を明かす。


『実は今回のイベント、残り時間が過ぎるとこの街がモンスターだらけの街に変わってしまうという裏話がありました。そして、このイベント考えたの私です! 意見出した時、NPCに関して仲間に凄い怒られたり――』


 街中に響く楽しそうに話す運営の声。

 色々と裏話や愚痴が語られる。


 例えば今回のイベントが突如開催した理由について。

 プロモーションビデオにプレイヤーが活躍している所を入れたいが為、この街に運営達で話し合って決めた特定のプレイヤーが集まるのを待っていたらしい。

 そこに、実はコーディーが入っていた。


 そして彼が街に出てきた時に、丁度話し合いで決めていた他のプレイヤーも街に居たので突如イベント開催したという訳だ。

 本来なら『もうすぐイベントが始まる!』的な雰囲気を出したかったと運営の男は愚痴った。


『ゲームの中でも引きこもってんじゃねーよ!』


 運営の男は面白いという感情が混じった声で言った。


『まあ、色々とありましたが、イベントは無事成功しました。これもプレイヤーの皆様のお陰です。さて、それでは皆さんお待ちかねのランキングを発表したいと思います!』

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